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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第五章 クラカト
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177 川辺の冒険者


 裕二とエリネアは森を抜け、川を渡り、山を越えて先へと進む。既にかなりの距離を走っただろう。

 なるべく人の通らない場所を白虎で走る事が多いが、クラカトに近づくにつれ、街道も現れてくる。そこを通るのは大概、農民ではあるが、更に近づくとペルメニア方面に伸びる街道もあるだろう。そうなると、商人の馬車も増えるはずだ。


「また街道にでたわね」

「そうだな。しばらくは精霊馬を使うか」


 二人は白虎から精霊馬に乗り換え、街道を進む事にした。たまにすれ違う農民に白虎は見せられない。

 やがて街道と並行して川が現れた。そこには、馬を休ませる旅人のような人も見かける。川で水を飲ませているのだろう。裕二はその様子をジッと見つめる。


「あれは冒険者だな」

「装備からすると、そうみたいね」


 旅をする冒険者。おそらく彼もクラカトに行くのだろう。その途中で休んでいるのだ。


「エリネア。クラカトの街に冒険者ギルドはあるのか?」

「ウォルターの資料には書いてなかったわ。この辺りは割りと平和だし、ないと思うけど」


 そう言った場所なら滅多にギルドへの依頼はなく、あったとしても近隣国の冒険者ギルドへ手紙を出すような形で依頼をする。しかし、兵力もあるようなので、通常はそちらで間に合わせるだろう。

 クラカトの三つの街には、冒険者ギルドの事務所が設立されてる可能性は低そうだ。


「エリネアは冒険者登録してるのか?」

「いえ、してないわ。必要かしら」

「まあ、ないよりは、って程度かな。良い景色だし俺たちも少し休むか」


 裕二たちも河原でひと休みする事にした。遠くには先程の冒険者の馬が水を飲んでいる。その後ろで人が火の前にいるので食事でもしているのだろう。特に気になる光景ではない。

 二人もそちらの様子を窺いながら、その場に座る。すると、向こうの冒険者が何度かこちらを見た後、ゆっくりと立ち上がった。


「あら、アイツこっちへ来るぞ」

「何か用かしら」


 その冒険者がこちらへ歩いてくる。裕二たちは離れて場所を取ったので、用がなければこちらへはこないはずだ。

 裕二も特に気にはならないが、一応感知能力を作動させておく。


 しかし――


「あ、あれ?」

「どうしたの」


 こちらへ向かってくる者の気配。それがどこかおかしい。敵対者ではないのだが、何か変な感覚がある。その者は、何故かニヤニヤしながらこちらへ来る。そして――


「おう! やっぱりユージじゃねえか」

「へ?」


 裕二は一瞬驚くが、その声を発した者の顔を見て思い出す。


「えっ! もしかしてガークックか?」

「そうだよ! 久しぶりだなユージ。急にパーリッドからいなくなるから、どうしたのかと思ってたぜ」


 そこにいたのは裕二がかつて拠点にしていた、アンドラークのパーリッドと言う街、そこで冒険者をやっていたガークックと言う人物だった。

 ジャスパーと言う店で、あのバチル・マクトレヤにちょっかいを出して叩きのめされた男だ。

 冒険者としてはソコソコの実力者。しかし、シェルラックに行ける程ではない。当然バチルにも勝てるはずがない。

 悪い人間ではないが、酒と女が好きで気が短いのが特徴だ。見た目は均整の取れた筋肉質な体に紫の短髪。何故か前歯が欠けている。そして、パーリッドにいたので、その街のギャング、オスロットを壊滅させた裕二の強さは知っている。


「パーチから、ユージは貴族とトラブってシェルラックへ逃がしたって聞いてるぜ。なにやらかしたんだ?」


 ステンドット子爵の事を言ってるのだろう。パーチにはマサラート王子が直接口止めしているので、無難に話が伝わっているようだ。


「あ、ああ。色々とな」

「へへ、まあどうでも良いけど、それよりこんな場所に……」


 と、そこでガークックの視線がエリネアに向く。そしてそのまま視線は固定され、体はガッチリと固まる。


「…………」

「どうしたガークック」

「こ、こんな別嬪がこの世に存在したのか!」

「は?」


 エリネアもガークックが裕二の知り合いとわかりニコリと微笑む。しかし、王女の微笑みは一般人のガークックにとって、凄まじい一撃ともなるだろう。


「う……おぉ。だ、誰なんだユージ! この美少女は!」

「こんにちは、私はエリネア。ユージの婚約者よ」

「な、なにぃぃ!」


 驚きの声を上げるガークック。しかし、いきなり婚約者と言い放つエリネアに裕二も驚く。


 ――な、に、を……

 ――裕二様。エリネア様に余計なちょっかいを出させたくないのなら、ここは乗っておきましょう。彼はバチル様に手を出した前科があります。

 ――あ、ああ。それもそうだな。


 そこへ密かにセバスチャンの助言が入る。エリネアがトラブルを起こさせないよう、念のため機転をきかせたのだろう。裕二もそれに納得し、話を合わせる。


「そ、そう言うワケだから、エリネアにちょっかい出すなよ。ガークック」

「う、うぅ、そうなのか。わかった。ユージに殺されたくはねえからな」

「変な事言ってごめんなさいね。あなたがそんな人とは思わないけど、ユージを怒らせると大変な事になるから」

「そうだな……俺はそれを良く知ってる。ユージを怒らせたオスロットがどんな目にあったのか……しかし羨ましすぎるぜ、ユージ。貴族の姫様並みじゃねえか」


 久しぶりに会ったガークックは、しばらく裕二を羨ましがりつつも話ははずむ。

 裕二たちは二人で冒険者をしながらノンビリと観光も兼ねている。その一環でクラカト湖へ向かっていると説明した。

 それを聞くガークックは特に疑いもせず納得している。

 そしてガークックの方はパーリッドで仕事が減ったので、旅をしながら冒険者の依頼をこなしていると言う。

 その途中でクラカトへの仕事を見つけ、今はエーゼルに向かっているようだ。


「エーゼルに冒険者ギルドがあるのか?」

「いや、ねえよ。けど今回の依頼はけっこう大掛かりらしいぜ。詳しくは知らねえけど近隣の冒険者が集まるらしい。たぶん臨時のギルドが開かれるだろうな」

「へえ、臨時のギルドか」

「ユージも来いよ。お前がいたら楽勝だぜ」

「ま、まあ。考えとくよ。エリネアもいるし」

「それもそうか。クソ羨ましいぜ。俺もエーゼルで女探すか」


 裕二の目的は冒険者の依頼ではない。ガークックと一緒に行くと、エリネアと話したい事も話せなくなるので適当に話を濁す。


 ――しかし、大掛かりな仕事か。


 多少気にはなるが、その依頼を受ける気は今のところない。しかし、エーゼルには行くのでそのうちに依頼内容も知るはずだ。そこで決めても遅くはないだろう。


「じゃあ、俺はそろそろ行くぜ」

「ああ、俺たちはノンビリ行くよ」


 そう言うとガークックは自分の馬のいる方へ歩き出す。しかし、少し歩くと彼は振り返った。そして何か思い出したかのように口を開く。


「そういや、この辺のどっかで魔人を見たとかなんとか、そんな話も聞いたぜ。詳しくは知らねえけどな。まあ、ユージなら大丈夫だろうけど、気をつけろよ」

「!!」


 ――魔人だと……


 裕二はそのままガークックの背中を見送る。そして彼は馬に乗ると手を振りながら去っていった。



 完全なモブキャラと思っていたガークックとの再会は、意外な情報をもたらした。裕二とエリネアはその場を離れ、亜空島へと移動する。


「魔人か……ガークックの情報だからなあ。詳しく知らないって言ってたし、あてには出来ないけど、エルファスの事を考えると、まだ俺を探してる可能性はあるよな」


 おそらく、今の魔人の状態は、裕二がクリシュナードである可能性があるかも知れない。又はユージと言う男が魔人を脅かす力を持つ危険人物、と言う感じだろう。

 どちらにしても、それはシェルラックで行方不明になった冒険者ユージだ。

 しかし、エルファスで魔人を倒したが、その痕跡は残していない。あれはほとんどエルフの戦力。そこに何者かの助太刀はあったが、さっさとどこかに行ってしまった事にしてある。それが裕二となる決め手はないはず。


「それほど心配しなくても良いと思うの。一応ペルメニアでも撹乱はするから」


 その程度の事は最初から考えてある。宮廷諜報団や王家、ジェントラー家と有能な人材もいるのだ。アチコチで上手く情報操作をするはずだ。

 エルファスに張られた魔人の網にはかかってしまったが、彼らが広く探っているのなら、なかなか場所や人物は絞り込めない可能性は高い。


「たぶんテリオスもペルメニアに帰る途中で、俺はユージだあ! とかやってるかも」

「そんな撹乱なのかよ……いや、それでもテリーなら上手くやるか」


 しかし、魔人が現れた。一般の人に見られた。となるとそれは見られた、ではなく、見せられた可能性もあるだろう。つまり誘いだ。

 魔人がいると言う噂を流し、そこに集まる人物を調べる。そこにクリシュナードがいる可能性は高い。魔人はそう考えるはずだ。しかし、それは魔人側にも大きなリスクを伴う。やるならかなり慎重な姿勢は崩さないはず。そう簡単に姿を見せてはくれないだろう。


「今回はなるべく目立たないように行動しよう」

「そうね。ウォルターの護符と書斎にあった気配断ちのマントは常に持っておきましょう」


 クリシュナードの書斎にあった気配を断つマント。それを装着しておけば、街なかを歩いていてもまず、注目はされない。しかし、一度注目されると、その人物に対しての効果はなくなる。


「まあ、エリネアはかわいいから、目立たないようにそれを持っとくのも良いしな。ガークックは知り合いだから良かったけど、そうでなかったら面倒だし」

「え……ユージ」


 エリネアは嬉しそうに頬を赤らめる。その様子に裕二も少し焦る。とは言え、言ってはいけないことではないはずだ。


「い、いや、あの……」

「わかったわ。私……ユージの言うことなら何でも聞く。私の全てはユージのものだから。何でも命令して」

「う、うん」


 裕二としては、これから街へ行けばエリネアの美しさは注目されるだろうと考えての発言だ。出来れば仲間にちょっかい出されたくないのは当然でもある。

 しかし、そのままの意味でも、かわいいと直接言われた事に変わりはない。エリネアとしてはそれが嬉しいのだろう。ちょっとうっとりしている。

 エリネアの反応は、裕二の学院編入時とは全く逆になっている。やはりテリーの言う事は正しかったのか。


 ――ユージ、これはハーレムだー。ハーレム旋風なのだー。

 ――ミャアアア。ミャミャミャアアア。

 ――うっせ。


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