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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第四章 エルファス
174/219

174 更に続く洞窟


 セバスチャンに先導され裕二は洞窟を進む。最初の洞窟とあまり違いはない。ここは別々に作られた場所を繋ぐ為に作られた通路なのだろう。

 ウォルターが書斎は知っていたが、洞窟を知らなかったのは、それが後から作られたからだ。


「こちらは領域としては少し弱いですね」

「大丈夫なのか? 落ちたくないぞ」

「私がいる限り大丈夫です。もしそうなっても、落ちる直前に亜空島に送りますので」

「ああ、そっか。各タルパが出入り口だもんな」


 変化のない洞窟をひたすら進む。同じ景色が感覚を狂わせるような錯覚に陥る。しかし、それもしばらくすると終わる。次第にその壁がレンガのような壁に変わってきた。心なしか明るくなってきたような気もする。そして、その先にがっしりとした扉が見えてくる。


「あの先か」

「おそらく」


 裕二が扉に手をかけ、手前に引く。すると、扉はギィーっと音をたてながら開いた。それは古くからここにあるような雰囲気を醸し出している。そこへ裕二は足を踏み込む。


「なるほど。これか」

「石碑ですね」


 そこは岩山をくり抜いたような円形の空間。出入り口は裕二たちが入ってきた場所のみ。照明らしきものはなく、壁には灯り取りの為か丸い小窓があり、太い鉄格子が嵌められている。


「どこだろう?」


 裕二はその窓から外を眺めてみる。

 どこかの山のようだ。眼下には霧に包まれた森があり、何かあるようにも見えるがその全体像はハッキリしない。


「ここは亜空間ではありませんね」

「そうなのか?」

「はい。何も作れません」


 扉がその境目だったのか。亜空間なら念じれば何でも作れてしまうが、今はそれが出来ない。つまり、ここは現実にあるどこかの山なのだろう。


「石碑を亜空間に置きたくなかったのではないですか?」

「ああ、かもな。さっさとやるか」


 裕二は小窓から離れると、深呼吸をしてから石碑に触れる。


「グッ!」


 すると、以前と同じように暗闇に入り、目の前には壊れた石碑、その中に小さな鍵がある。それを持ち上げると砂のように崩れさった。

 途端に裕二の体に強い衝撃が走る。


「またこれか、よ!」


 しかし、それも一度経験しており予想もしていた。前回よりは衝撃もマシに感じる。裕二は痛みに耐えながらも思考を保つ事が出来た。


「そろそろ来るか」


 その直後。裕二の体に巨大な魔力が。頭には過去の記憶が入ってくる。

 内臓も血液も強烈に揺さぶらされてるような感覚。それに抗わずに全てを受け入れる。すると、痛みは幾分マシになってきた。


「くっ……なるほどな。この魔力でもギリギリくらいか……」


 どれくらいの時間が経ったのだろう。裕二はその場にへたり込んでいた。その傍らにはセバスチャンが立つ。

 裕二はそれをゆっくりと見上げた。


「アトラーティカの村の遺跡はメルポリスと対になるのですね」

「みたいだな。しかし、メルポリス側についてはハッキリわかってないのか」


 取り戻した記憶。その中にはアトラーティカの村にあった遺跡に関する記憶があった。それはメルポリスと対になるもの。しかし、わからない部分もある。それは記憶が戻らないのではなく、最初から知らない事なのだ。

 だが、その知らない事も推測は出来る。

 裕二は初めてアトラーティカの村を訪れた時、既にその推測をしていた。

 それを含めた多くの記憶が裕二に取り戻された。


「とりあえず戻るか。みんな心配してるだろう」

「そうですね。少し休まれた方がよろしいかと」


 裕二とセバスチャンは再び扉をくぐり、洞窟の通路に出て歩き出す。

 そして、ふと後ろを振り返ると。


「あれ、通路消えてくぞ」

「もう必要ないのでしょう」


 どこかの現実にある山と繋いでいた通路。それがゆっくりと消えていく。


「なあ、セバスチャン」

「何でしょうか」

「あそこって……もしかしたら、テリーの言ってた浮遊島じゃないか?」

「……かも知れませんが、もう確かめられません」

「失敗した。小窓からアリーに見にいかせりゃ良かった」



「ユージ!」

「おお、帰ったか!」

「結構かかりましたね」


 エリネア、メフィ、ウォルターが裕二を出迎える。どうやらこちらが思っていたよりも時間がかかったようだ。


「ユージ様。お疲れになったでしょう。とりあえずお座り下さい」


 裕二は書斎にあるソファーに腰を落ち着けた。そして、裕二がいない間の様子を訊ねる。


「こっちはどうだった? 何かあったか」


 その問にエリネアが答える。


「魔石や杖なんかの珍しい物は沢山あったけど、役に立つかはわからないわ。それは後で調べて、ここは資料室として活用する方が良いと思うの」

「そうだな。何だか本がいっぱいあるし、部屋自体は消えなさそうだから後でも来れるだろ」


 書斎には特に目立つ物はない。かと思いきや。メフィが壁際の箱から何かを取り出しこちらへ持ってきた。


「これが何だかわからん。ユージわかるか?」

「これは……」


 それは赤い金属製で筒のような、と言うより一メートル弱のミサイルのような形をしている。それが三本くっついた物が二つ。計六本。


「リアンのホーミングレーザーパックだな。使えるのか?」

「ホーミングレーザー?」

「強力な光線だよ。テリーの使うパーティクルテンペストの更に凄いやつだ。リアン出てくれ」


 裕二が呼び出すと、リアンがその場に現れる。部屋は何とかリアンがギリギリ立てるが、かなり狭くなった。だが、リアンにそんな事を気にする様子はない。例え気にしていたとしても誰もわからないだろう。裕二はリアンに促す。


「つけてみな。ここで使うなよ」


 リアンがそれを手に取ると、背中にガシャッと嵌め込んだ。それは最初からリアンの鎧に装着する為に出来ていたようだ。サイズも色もピッタリ揃っている。


「うおー、似合ってるな。かなりロボット臭もしてきたけど。後で試してみよう」

「しかし、これ以上強くなって勝てる者がおるのか」

「正面から戦ったら誰も勝てないわね」


 そして、リアンは用が済むとさっさと消えた。相変わらず素っ気ない。しかし、それによりリアンの攻撃力は大幅にアップしただろう。更なる広範囲攻撃が可能になるはずだ。


「ユージ様の方はどうでしたか。おそらく記憶を戻したのではないかと……」

「ある程度だな。一応説明しておく」



 ペルメニアの南方を馬に乗って旅する二人の男女。一見すると旅装束にマントを羽織る旅人だ。しかし、その内側にはチェーンメイルを装着し、男は背中に立派な剣を。メガネをかけた女は懐に短杖を隠し持っている。

 この二人の力ならば旅人を襲う盗賊など、あっという間にやっつけるだろう。


「私は戦う必要ありませんでしたね。バイツさんだけで充分でした」

「いや、油断してはならん。強力な魔術師でもいたら、君の力が必要だぞ。リサ」


 男性の名はバイツ・ハリスター。以前の名はバイツ・エストローグだ。チェスカーバレン学院騎士科でナンバーワンと言われる男。

 女性の名はリサ・スクワイア。同じ学院の魔法科で、その実力をメキメキと上げている。馬に乗り旅をするのはその二人となる。

 バイツもリサも一年の時に行われた武闘大会の入賞者だ。しかし、二年になって行われた武闘大会には、一年の時の入賞者はほとんど参加せず、その年の優勝はバイツとバチルの友人、騎士科ナンバースリーのドルビー・コールゲンとなった。

 そこには、チェスカーバレン学院が、彼らの力はなるべく隠したい、と言う思惑あっての事だ。

 その二人は今、目的のある旅をしている。


「その魔術師も簡単に倒していたではないですか」

「あんなの魔術師とは言わん。院長先生が苦戦するクラスでなければ、私は認めん。そもそも魔術師と言うのは四属性が使える程度では素人と同じ。この私でさえ使えるが、誰も私程度を魔術師とは言わない。それはかつて武闘大会で見た、絞り出すような魔力と魔力の壮絶な戦いの中にあり、そこを乗り越えた一部の者がそう呼ぶに相応しい。それを奴らは何だ! 盗賊とは言え、あの程度で――」

「ま、まあまあ」


 そこに至るまでに物騒な出来事でもあったようだ。しかし、二人にそのような事があった形跡は皆無。傷も汚れも着衣の乱れも全くない。

 一応、護身のために剣を持っているだけの旅人。二人はそんな風に見えるだろう。

 そこへ盗賊などがちょっかいをかけても、即座に倒される。その主戦力となっているのはバイツだ。リサはそれを手伝おうと思ってもすぐに終わってしまうので、実際はほとんど戦っていない。

 そのバイツに土を付けられる者など、まずいないだろう。それを成し遂げるには、最低でもチェスカーバレン学院の学院長、リシュテイン・チェスカーバレン程度の力がなければならない。


「しかし、地道な調査ですね。教会がこんなにあるとは思いませんでした」

「我々だけでは間に合わん。宮廷諜報団も駆り出されているようだぞ。このままでは厳しいだろう」


 そんな話をしながら馬を走らせる二人。そこへ緑色の鳥が飛んできてバイツの肩に留まる。


「連絡用パローか」


 バイツはその足に括り付けられた手紙を読んだ。


「テリオスが戻ったな」

「そうなんですか。ユージは?」

「一緒ではないようだ。ふむ、こちらの調査は終わりか」

「終わり? まだ途中なのでは」

「ああ、教会の人間がいるらしい」

「教会?」

「シェルラックの教会だな。中央とはほとんど関係ないのだろう。おそらく、こちらに引き入れるなら、ユージの正体を知り、忠誠を誓ったのだろうな。当然の事だ。本来であれば、教会はかのお方に仕える為にある。それを今の教会は大きく歪め、すぐそばの異変にさえ気づかずのほほんとしており、あまつさえ――」

「ま、まあまあ」


 バイツはその手紙をリサに渡す。そして、リサがそれを読み終えると、その手紙はリサの魔法によって燃え上がり、跡形もなく消え去る。


「ひとりは女性ですね」

「巫女だな。気になるのか」

「い、いえ、そ、そうではなく。それよりバチルさんも帰るみたいですよ」

「そうだな。人の岩塩を勝手に盗みおって、あのバカ女。他の物ならともかく、アレはユージから下賜された物だぞ。その価値は通常の岩塩と同等ではなく、かのお方から賜りし宝玉と呼ぶべき――」

「ま、まあまあ」


 二人はそんな話をしながら元来た道を引き返し、学院のあるチェスカーバレン領スペンドラへと帰っていった。


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