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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第四章 エルファス
172/219

172 領域の穴


「ですが……私はここへ来た時から、何か違和感を感じているのです」

「違和感? メフィも何か秘密がありそうって言ってたな」

「はい。それを調べてもよろしいでしょうか」


 ウォルターは現在、裕二たちと亜空島の家におり、そこでこれまでの話をしていた。それもある程度終わると、この場所に何らかの違和感があると言い出す。それについてはメフィも似たような事を言っていた。しかし、そのどちらも根拠らしきものはなく、勘と言えば勘。そんな感じだ。


「セバスチャン。何か心当たりはあるのか?」

「いえ、特に」


 その空間を作り上げたセバスチャンにも、特に心当たりはないようだ。しかし現在、裕二の記憶は完璧ではない。それはセバスチャンも同じ。

 もしかしたら、過去に裕二がした事とこの場所には何らかの因果関係があるのかも知れない。

 ウォルターは五百年前にも裕二とともにおり、その時に作り上げた同じ用途の亜空間を見ているはずだ。


「とりあえず、外に出てみても良いでしょうか」

「そうだな。散歩がてら皆で行くか」


 ペンション風の建物を出ると、そこには綺麗な花の咲く並木道。そこを進むと海だ。並木道の右手には池があり、その向こうには岩山がある。建物の裏は森になっており、その一部は戦闘訓練も可能な広場がある。その全体は島となっており、周りは全て海。歩いても一時間弱で島を一周出来そうだ。


「なるほど……山や森の大雑把な配置は……もしかしたらですが、浮遊島と似てるのかも知れません」

「浮遊島!?」


 それは五百年以上前、裕二がクリシュナードだった頃。そして、魔人との戦争が始まる前に作られた空を浮遊する島。

 かつてテリーとそこへ行く事を約束した島だ。


「私は少しだけ、その島の様子を聞いた事があります。とは言え、森や山の配置程度ですが。セバスチャン様にもその記憶があり、無意識に似たような配置にされたのではないでしょうか」


 つまり亜空間の島は、裕二がかつて作った浮遊島をモデルにしている。セバスチャンの意識下にその記憶があり、似たような配置になった。


「それは、あるかも知れません。確か以前はこうしたので今回は……とは思っていたので。ですが詳細となるとわかりませんが」

「他に何か聞いてるか、ウォルター」

「いえ、何も」


 そのまま道を辿ると海に出る。が、そこは海に見えるだけで本物の海ではない。


「魚はおるのか? セバスチャン」

「いえ、生物は何もいません」

「ここに魚を放しとけばバチルが喜びそうよね」

「そんな事したらアイツに取り尽くされる。そして、俺かセバスチャンがバターソテーを作らされる」


 ウォルターは周りを注意深く見て回るが、メフィとエリネアは綺麗な砂浜に少しはしゃぎ気味だ。バチルがいたら間違いなく魚を探すだろう。

 そして、砂浜は少しづつ様子を変え、やがて岩場になってくる。そこは家から見える岩山の裏辺りになる。


「こうなっておるのか」


 岩山とは言っても剥き出しの岩ではなく、所々に草木の群生した調和のとれた景色となっている。

 ウォルター以外は既に違和感の事は忘れ、その景色を楽しんでいた。

 しかし、その岩場も中間付近を過ぎた辺りで、ウォルターの足がピタリと止まる。


「あれは何でしょう」


 そう言いながらウォルターは海を指差す。いや、海の向こうだ。そこは空間を構成する領域の限界地点。見た目には海が広がっているが、そこから先には行けない場所。言うなら亜空間の壁だ。


「魔力……いや、穴?」


 普通に見ても何もわからない。ウォルター以外の三人は、即座に魔力を感じようと集中する。


「妾では見えぬな。魔力の塊か?」

「何かあるわね。でも良くわからないわ」

「縦線のような……あれは何だウォルター」

「私にもわかりません。あそこは行けますか」


 全員がセバスチャンを見る。


「行くのは可能です。桟橋を作りましょう」


 そして、セバスチャンが先頭に立つと、その足元から桟橋が作られて行く。ちょうど四人が横並びに歩けるくらいの広さだ。それが領域の限界まで続く。

 そこを歩き、ウォルターが指差した場所へと向かった。


「これ以上は押し戻されるのね」


 エリネアがそう言いながら限界地点をゆっくりと押してみる。そのすぐそばに、ウォルターの言う穴らしき物があるようだ。


「やっぱり何かあるな。薄っすらとだが、細長い穴があるぞ」


 そこだけが何か違う。良く見ると、空中に十センチ程度の空間の切れ目が縦に開いている。


「セバスチャン。これ何だ?」

「私にも良くわかりませんが……この大きさと形を見ると、何かを差し込む場所のようにも見えます」


 何かを差し込む場所。もちろんセバスチャンにこんなものを作った記憶はない。にも関わらず穴は存在している。かなり不可解ではあるが、これを放置と言うワケにもいかなくなった。何故なら、この場所はセバスチャンが作った場所。それすなわち、セバスチャンの主である裕二の支配空間だからだ。そこに、セバスチャンも裕二も説明出来ないものがあるのはおかしな事だ。何かしらの危険も考慮しなければならない。


「でも、これって……あ! もしかしたら」


 エリネアがハッとした表情でポンと手を叩く。


「ここに霊剣エンブリオバーニングを刺すんじゃない? カフィス様は鍵って言ってたでしょ。これは鍵穴じゃないかしら」

「おお、それはありそうじゃな。ユージ。とりあえず剣を出してみよ」


 裕二は剣を出し、早速穴と剣を見比べてみる。すると、穴の大きさと形は霊剣エンブリオバーニングの刃の幅とピッタリ一致していた。


「おお、ビンゴっぽい」

「ビンゴ?」

「何じゃそれは」

「い、いや。何でもない」


 裕二は剣の先を慎重に穴へ差し込んでみた。しかし――


「あれ?」


 剣はいくらも刺さらずに途中で止まってしまった。


「違うのか? 大きさは合ってるんだけどな」


 剣先は穴に入るが、途中何かに引っかかり止まってしまう。これが正解なのかそうでないのか、判断は微妙だ。


「おそらくエリネア様の言う、鍵穴が正解でしょう。その鍵が霊剣エンブリオバーニングの可能性は高い。何故なら穴は完全にユージ様の支配空間にあり、霊剣もユージ様のもの。それが同時期に現れるには意味があると思われます」


 ウォルターはそう説明する。穴については裕二もセバスチャンも記憶がない。しかし、その記憶も完全ではない以上、鍵穴の可能性は否定出来ない。

 記憶にないものがある、と言う事は、五百年前に何かしている、と言う事になるのだろうか。それが、現代に作られた亜空間に出現する。そう言う意味では霊剣も同じだ。この二つが何らかの形で関連している可能性はあるだろう。

 その関連を知る必要がある。


「まだ何かが足りない。それは別のアイテムなのか行動なのかはわかりませんが

、おそらくは現在のユージ様に可能な事柄でしょう」

「今出来る事か……」

「はい。今のユージ様に出来る事を思い返してみて下さい」


 今の裕二に出来る事。もしくは今現在持っているアイテムを使うのかも知れない。

 裕二の能力は完全でないとは言え、やれる事は多い。そこへタルパのやれる事も含めると絞るのはなかなか難しそうだ。


「全員出てくれ」


 とりあえず裕二は全てのタルパを呼び出してみた。先に出現していたセバスチャンの隣に、リアン、ムサシ、アリー、チビドラ、白虎、テンが並ぶ。


「この剣について知ってる者はいるか?」


 全員、表情に変化はない。とは言っても表情がわからない者もいるが。その中で最初に動いたのは意外なタルパだった。


「えっ? そうなの」


 驚く裕二の前に右手が差し出される。それはリアンのものだ。


「リアンなのかよ」

「だったら聞かれないと答えなさそうよね」


 エリネアも納得の表情を浮かべる。

 喋るどころかほとんど意思表示さえした事のないリアン。それが手を差し出すのは珍しい光景だ。

 それでも、まず喋らないだろうリアンに、裕二は霊剣エンブリオバーニングを預けてみる。もちろん説明などは期待していない。


「お、お前何やってんの」


 リアンは霊剣を手に持つと、顔を上にあげ口を大きく開いた。そこへ霊剣をゆっくり差し込む。

 それが鍔まで差し込まれると、そこでガキッと音をたてて口を閉じる。そして、そのままバキバキと音を鳴らしながら剣が引き抜かれていく。


「おお……おお! そう言う事か」


 霊剣の刃は所々削られ、鍵山と溝が作られていた。霊剣エンブリオバーニングはそのまま使うのではなく、鍵に加工する必要があったのだ。


「これが噂のキーブレイドか」

「キーブレイド?」

「何じゃそれは」

「い、いや。何でもない」


 リアンはそれを裕二に手渡す。すると、持った瞬間から刃は淡い光に包まれる。


「その状態にしなければならなかったのですね。手が込んでらっしゃる」

「わかりにくすぎだろ」

「それだけ重要なものが隠されているのでしょう。ユージ様がそうお考えになられたのです」

「まあ、そうだけど……」


 裕二は霊剣を再び鍵穴に差し込んでみた。今度はスムーズに剣が入っていく。どうやらこれで間違いないようだ。

 そのまま鍔まで差し込むと、鍵穴からはカシャンと嵌まるような手応えを感じた。


「良し! 正解だ」


 そして次の瞬間、鍵と鍵穴は砂のように崩れ消滅した。同時にその場所には、木製の扉が現れる。ちょうどセバスチャンの作った桟橋の先端ギリギリだ。


「開けるぞ」


 その扉を手前に引いて開ける。その奥には一見すると暗闇が広がっている。だが、すぐに暗闇の両脇にあったランプに火が灯された。そして、更にその奥もランプが灯される。それが順に奥へと続く。


「洞窟だな」


 壁にランプが灯されているが、そこは岩の剥き出しになった洞窟だ。それが十メートル程先の、蛇行を始める部分まで見えている。


「行ってみよう。モンスターはいないと思うけど、一応気をつけてくれ」


 おそらくこの洞窟がどこかに繋がっているのだろう。四人は慎重に洞窟へと足を踏み入れた。


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