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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第四章 エルファス
171/219

171 調査報告


「ユージ様。私は……」


 ウォルターは目の前に座る裕二に、セバスチャンへ話した内容を繰り返した。


「そうか……ならそれはテリーに謝った方がいいな。テリーと言うかアトラーティカだ。俺は別に気にしてないし、託した仕事もこちらが頼んでしてもらう事で、それをやらなかったのは咎める理由にならない。気の迷いくらい誰でもあるだろ? まあ、お前の場合は周囲を巻き込みすぎだけど、それでも苦しんだだろ。百年の飢えと乾きなんて普通は耐えられないぞ」

「しかし……」

「罰は充分受けてる。後はテリーに謝ってぶっ飛ばされてこい。それで終わりだ」

「はい……」


 ウォルターは裕二に許された。しかし、それで納得しているようには見えない。自分の罪の重さはその程度で解消されるとは考えていないのだろう。

 しかし、今までそれを聞いていたメフィとエリネアも口を挟む。


「ウォルターよ。ユージが許すと言っておるのだ。貴様がそれでも足りぬと言うのなら、今後の働きで示せば良かろう」

「そうね。ユージもテリオスもそんなに器の小さな人ではないわ。あなたもそれは知っているんでしょ? 私だって以前はユージにとても酷い事を言った。でもユージは笑って許してくれたわ。許されたのなら何をすべきか。私たちにはあなたの知識が必要なの」


 それを聞き頭をもたげるウォルター。エリネアの間違いと自分の間違いとでは、規模が全く違うだろうが、それでも、その先に何をすべきか。エリネアもメフィもそれを示してくれている。

 それを語るのはかつての戦友、カフィスとエスカー・トラヴィスの子孫。大昔にもこんな場面があったような気がする。それは五百年の時を越えた友たちの言葉。

 ウォルターにはそう思えた。


「後はその先に歩き出すかどうか、決めるだけじゃ。お前は先へ行かずに後退するのか」

「はい……メフィ様。エリネア様……確かにその通りですね」


 そして、ウォルターは意を決して裕二に向き直る。


「ユージ様。私のような者でも、御身に私の残りの命、全てを捧げる事をお許し下さいますか」

「いっ!? 残りの命って」


 さすがにそんな事をいきなり言われると裕二も驚く。しかし、良く考えてみると、裕二はメフィにも似たような事を言われている。半ば強引ではあったが。


「構わんじゃろ、ユージ。ウォルターはその為にアンデッドになりながらも生きてきたのじゃ」

「そうね。それが償いの総仕上げになるのよ。それに頼んだ仕事もまだ結果を聞いてないでしょ?」

「うーまあ、そうだけど。命を捧げなくても……あーいや、わかった。聞かなきゃならない事も多いしな」

「それでは……」

「アドレイ・シェルブリット改めウォルター。今後も俺に付き従ってくれるか」

「はい! 必ずやユージ様のお力になれるよう、心がけて参ります」


 と、そんな感じで何とか上手く納まった。メフィに続き、今後はウォルターも裕二に付き従う。

 見た目がアンデッドと言う問題もあるので、今後も必要なければエルファスには現れず、名前もアドレイ・シェルブリットではなく、ウォルターで通す。

 一般的には生きているはずのない使徒のひとり。その名前をそのまま使うのはマズい。


「しかし、生真面目なアンデッドじゃのう。もっと楽にせい」

「は、はい。申し訳ありません。それは過去にユージ様にも言われました」


 そうなるとウォルターから聞きたい事は大雑把に二つ。現在の教会について、それとユージが五百年前に託した事。それを聞かなければならない。

 しかし、その前に聞きたいのは、エリネアが持ってきたオレイカルコスの剣。十支刀の事だ。

 裕二はウォルターならそれに関連する事を調べていたので、何か知っていると考えている。

 エリネアは早速それをウォルターに見せた。


「これは……アトラーティカの守護者の剣ですね。オレイカルコスなので間違いありません。先程のヒュドラはアトラーティカの守護者だったのですね。彼らのかつての首都。メルポリスで作られた物です。柄の部分に魔石がありませんでしたか?」

「ええ、あったけどヒュドラが修復するので壊したの」

「それで正解です。おそらく魔人がメルポリスの遺跡から見つけたのでしょう。それを起動させるとモンスターが作られ、守護者となるのです。これは刃が十なので十首ヒュドラの守護剣となるのでしょう。私も調査時に似たような物を見つけ、回収しております」

「となると、ユージから託されたのはメルポリスの遺跡の調査か」

「左様です」


 ここで重要なのは、魔人がメルポリスの遺跡を調べていた、と言う事。それをしていた証拠が十支刀となる。

 ウォルターはその遺跡自体の調査もあるが、そこに魔人がどう関わっているのかを調べるのが彼に託された仕事だ。


「これを魔人が持っていたのなら、確実にメルポリスの地下遺跡には行ってますね。破壊しておきましたがゴーレムも沢山ありました」


 と言う事は今、裕二の持っているゴーレムもそこにあった物なのかも知れない。魔人は遺跡から様々な物を回収、利用している可能性は高い。問題はそれが今後もあるだろう、と言う事になる。

 それはかつてアトラーティカの開発した高い水準の魔法技術が、人類に向けて使われる事を意味する。


「地下遺跡か……」

「はい。メルポリスのあった場所から地下に広がる遺跡です。現在だとペルメニアの王都近くにあります。この様な宝物があるのは最奥でしょう」


 そこまで魔人が到達していると何があるのか。ウォルターはそれを調べていたのだろう。懐から地図を取り出した。

 その地図は地上のものではなく、地下の地図。遺跡の詳細な場所が書かれている。


「地下遺跡は埋まってしまった部分も多いのですが、それは意図的に埋められた可能性もあります」

「それを隠す為に魔人が埋めた、と言う事よね」

「その通りです。おそらくその先には……」


 ウォルターはその詳細を説明する。裕二はそれを聞き、目を閉じて頷いた。


「なるほどな。となると……」

「しかし、この地図は未だ不十分です。地下と現在の地上を照らし合わせて見る必要があります」

「何でだ?」

「埋められた部分のある程度の位置は地下の方向性から推測出来ます。その重要な場所には地上にも何かあるはずです」


 ウォルターの調べたメルポリス地下遺跡の地図。そこには通路が埋められてその先が調べられない場所もある。しかし、そこに至るまでの通路や地形から、どの様に埋められた先が続くのかある程度推測出来る。

 そして、その地上部分にも何かがある。しかし、ウォルターひとりではそれが限界だったのだろう。それ以上近づくと魔人に感づかれる可能性も高く、調査はほぼ不可能。


「ちょっと待って。それってバイツとリサが調べてる事と組み合わさるかも」

「そうなのか!?」


 エリネアの知るそちらの調査。それはここ二百年程の間に建てられた教会の場所を調べる事。それをテリーの指示でやっていた。

 もちろんそれは教会に直接聞けば早いのだが、その調査自体を教会に知られてはならないので、かなり面倒な調査となっている。


「そうか。教会と地下遺跡が繋がってるなら」

「それが教会のやりたい事に繋がるわね」


 おそらく、ウォルターの作ったこの地図があれば、テリーの方の調査もかなり捗るはずだ。一度テリーと会って地図を照らし合わせる必要がある。


「教会については何か知ってるか?」

「おそらく二百年前から魔人が入ってます。テリオスがそれ以降に建てられた教会を調べているのは、何か情報を掴んだからでしょう」

「その根拠を聞いていいか」

「はい。クリシュナード正教会では年に一度、生誕祭が行われます」


 それはクリシュナードの誕生を祝う祭典。教会の設立当初から行われてきた催しだ。


「教会のトップ、教皇は代々シェルブリットから選ばれます。血筋が重視されているのです。そのシェルブリットの中で選ばれる資格は、我が血族しか召喚出来ない召喚獣、アルゴメドラ召喚が出来る者になります」


 それはクリシュナードから授かった召喚獣。テリーのシャドウと似ているが、当時それを授かったアドレイにはシャドウのようなタルパを操れる力はなかった。

 代わりに授かったのが、シェルブリットの血と契約する小型のドラゴン。アルゴメドラと言う召喚獣だ。

 歴代の教皇はそれを召喚でき、毎年そのお披露目を生誕祭に行ってきた。


「生誕祭では、そのアルゴメドラが毎年お披露目されるのです。しかし、現在それは行われてません」


 生誕祭はあるが、アルゴメドラのお披露目は行われなくなった。そうなったのがおよそ二百年前。

 本来ならそれがシェルブリットの正当な血筋と示す為に行われる。それをしない、と言う事は現在の教皇がシェルブリットの血筋ではない可能性が高い。

 つまりお披露目しない、のではなく出来ないのだ。


「一応、私が初代教皇です。そのお披露目はシェルブリットの血筋を示すとともに、クリシュナード様の偉大さを示すものでもあります。教会の存在意義でもありますから、絶対にしなければならないのです。それを中止に追い込むのなら、シェルブリット上層部は入れ替わっていてもおかしくはない」


 おそらくテリーもそれに気づいている。その為に教会を調査しているのだ。

 クリシュナード正教会には魔人が入り、何かを企んでいる。それはかつての魔法軍事都市メルポリスの力を利用しようとしている。その為の準備を様々な形で行っている。


「エリネアはそれについて、テリーから聞いてるのか?」

「いえ、余計な事は考えなくて良いって、教えてくれないわ」

「うー、あいつらしいけど教えろよ」

「でも、推測はしてるの。一緒にいればなんとなくわかるものよ」

「ほう! それは?」

「ウォルターの言う、シェルブリット上層部の入れ替え。その入れ替えられた人たちはどこに行ったのか。大部分は殺されてるかも知れないけど、残った人は……」

「あーーーー! わかった!」

「でしょ」


 ウォルターの調べてきた事は、これでだいたいわかった。とは言えテリーがしてる事と被る部分も多く、裕二自身が今すぐ対応する事ではない。

 今、最優先でやりたいのは、カフィスに預けた霊剣エンブリオバーニング。それをどう使うのかだ。

 今のところ、カフィスから何かの鍵に使うと聞いているが、それ以上の事はわからない。


「霊剣ですか。見せてもらってよろしいですか?」

「ウォルター何か知ってるのか?」

「いえ、なにも」


 それについて、ウォルターは全く知らないようだ。霊剣の存在さえ聞いてないのだろう。裕二から剣を受け取ると、それをしげしげと眺め始めた。


「ふむ。やはりわかりません」

「そうか……」

「ですが……私はここへ来た時から、何か違和感を感じているのです」

「違和感? メフィも何か秘密がありそうって言ってたな」

「はい。それを調べてもよろしいでしょうか」


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