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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
17/219

17 お礼

 エリネアが目を覚ますと、そこは医務室のベッドの上だった。


「目が覚めましたか?」


 そう声をかけたのは学院の受け付けをやっているファニエだ。医者はエリネアを診てから別件で診療に出掛け、代わりにファニエがエリネアの看病をしている。


「ファニエさん……私は……」

「魔力枯渇で倒れたのです。正確には魔力枯渇ではなく、急激に失われた魔力に体が追いつかなかった為に倒れたんですけどね。完全に枯渇してたらかなり危険でしたよ」

「そうですか……」

「テリーさんとユージさんには感謝した方が良いですね」

「テリオスとユージ?」

「はい、お二人がすぐに適切な処置をして下さいました。二人で交互に四十分程治癒魔法をかけ、テリーさんが魔法を使えなくなったのですが、その後ユージさんが一人で更に三十分以上治癒魔法をかけていたのです。エリネア様は枯渇までは行ってなかったので大事には至りませんでしたが、これ程早く回復されたのはお二人のお陰ですよ」

「ユージ……そんなに長時間……」


 チェスカーバレン学院の生徒の平均なら、治癒魔法を使える者で長時間魔力を放出し続けられるのは、五分か十分くらいだろう。二人の魔力の多さを伺い知る事が出来る。


「エリネア様はまだ完成されていない精霊魔法をお使いになったので、普通よりも急激に魔力が減ったようです」

「そう……ですか」

「焦る必要はありませんよ。それでもエリネア様は一年トップクラスの更にトップスリーには入ると、評価を受けているのですから」

「……はい」



 裕二とテリーは既に授業を終え、寮に帰るところだ。いつもなら裕二は図書館か演習場によるのだが、今日はさすがに疲れたのか真っ直ぐ帰る。というよりテリーがかなり疲れているので部屋まで送るのだ。


「お前の魔力はどうなってんだ?!」

「もしかして魔力量ならテリーに勝ってるのか?」


 裕二はちょっと嬉しそうだ。魔法でテリーに勝てそうな部分はなかった為に、魔力量で勝てたのは思わぬ出来事だった。


「そういや魔力量計るような物はないのか? 魔法石みたいな」

「あるかそんなもん」


 ――おかしい、ラノベと違う!


 裕二はそのままテリーを寮に送る。既に何度か来たこともあるので迷う事は無い。


「茶でも飲んでけ」

「おう」


 テリーの部屋も裕二と全く同じだが、色々な物がゴチャゴチャと置いてある。対する裕二の部屋はほとんど何も置いていない。裕二は全ての荷物をセバスチャンの異次元ポケットに入れているからだ。


「しかし何でエリネアは急に暴走したんだ?」

「さあな、でもユージに対抗心があるのは間違いないな。それが関係してると思うぞ」

「何で俺に対抗心? それならテリーもだろ」

「俺は最初から首席だから、エリネアには越えるべき壁だけど、ユージはそうじゃなかったのに簡単にエリネアを越えて行ったからな。負けず嫌いだから焦ったんじゃないか? 壁を越える前に別の奴に自分が越えられてしまった、ってな」

「なるほどな、さすが女心は良くわかってるテリーだ」

「そんなのに女心もへったくれもあるか!」


 エリネアの方は医者も問題ないと言っており、明日か明後日には授業にも出られるとの事だ。なので二人共それ程心配はしていない。むしろ自分達の疲れを取る方が先決だろう。


「ところでユージ。お前武器はどうするんだ? 武闘大会で使わないのか? まあ剣だと刃引きしなきゃならんから学院から借りる方が手っ取り早いが」

「ああ、そうだな」


 裕二は異次元ポケットにオークから奪った武器が百以上ある事を思い出した。確か宝剣もあったはず。ただ全てボロボロだ。武闘大会に使う使わないに関わらず一本くらいマトモな剣があっても良い。しかしそれにはお金が足りないかもしれない。


「ボロボロの宝剣があるんだけど売れないかな」

「それだけの情報じゃわからないな。部屋にあるのか?」

「今度見せるよ」

「しかしボロボロの、となると学院の武器屋より街の武器屋で売る方が良いな」

「なんでだ?」

「チェスカーバレン学院内の武器屋はほとんど貴族御用達だからな。見た目が悪いとなかなか買ってくれない。街の武器屋ならパーツだけ、例えば宝剣の宝石とかだな、それだけでも買ってくれる」

「街の武器屋か……スペンドラの武器屋って事だよな?」

「そう、学院の外だ。次の休みに行ってみるか?」

「そうだな」


 良く考えてみると、ワイルドウルフやオークの毛皮等もある。それを売れば多少の金にはなるだろう。しかし今回はテリーと一緒に行くので、それも含めると荷物が多くなってしまう。

 裕二ひとりなら店の近くの物陰で異次元ポケットから出せば、わざわざ荷物を増やさなくても済むが、それをテリーに見られるワケにはいかない。


 ――今回は剣だけにしとくか。宝剣が高く売れると良いんだが。



 翌日、裕二が教室に行くとエリネアも来ていた。体調は問題ないのだろう。しかし一瞬裕二と目があったが、すぐに逸らされる。その目つきはいつもの様に睨みつける雰囲気ではなく、どちらかと言うと戸惑った感じだ。昨日の事を考えているのだろう。

 だが、裕二としては礼を言われたくてやった事では無いので特に気にはしない。そして教室の雰囲気は相変わらずで、裕二に挨拶するのはテリーだけだ。そのまま表面上はいつもと変わりなく授業が始まる。


 ――ユージとテリオスにはお礼をしなければ……でも、どうすれば……


 エリネアは人に対してお礼をした事がない訳では無いが、今回の件に関しては礼を尽くさねばならないと考えている。だが、同世代のクラスメイトという、エリネアにとって礼を尽くす対象ではなかった存在に対して、どの様に振る舞えば良いかがわからない。ましてやエリネアの嫌いなテリーと対抗心を燃やしてる裕二だ。決して見下してる訳では無いし、学院内では対等であるべきとも思っているが、王族として育てられたエリネアに今までそれを知る機会はなかった。


 ――とりあえず、彼等がひとりの時、誰もいない時にしたい。


 それは恥ずかしいという事ではないが、大勢人がいる時はやはりやりづらい。エリネアもテリーも裕二も色んな意味で注目の人物だからそう考えるのも頷ける。



 放課後になり、裕二とテリーは揃って教室を出ていく。それを忌々しげに見つめるシェリル。これはいつもの事だ。その少しあと、エリネアもひとりで教室を出ていった。


「なあユージ。騎士科の様子を偵察に行かないか?」

「騎士科かあ、そうだな。どんな事しているか一度見てみたい」

「だろ。俺はちょっと用があるから先に行ってくれ。すぐに追いつく」

「ああ、わかった」


 テリーは来た道を引き返し、曲がり角の手前で立ち止まる。するとその角からエリネアが出てきた。


「あっ!」


 突然現れたテリーにエリネアは小さく声を漏らす。


「どうされました? エリネア姫殿下。僕らに、とは言ってもユージはいませんが、何か御用でしょうか?」


 エリネアとしては御用があってつけてきたのだが、不意に現れたテリーに言葉を失った。


「あ、あの……」


 いつもならテリーに殿下と言われた事を注意するのだが、今のエリネアは頭が真っ白になり、次の言葉が出てこない。


「エリネア姫は昨日の件で僕とユージにお礼を言いに来られたのでしょう? おそらく姫の事だから礼を尽くさねばとお考えでしょう。ですが、僕らは同じクラスメイト。そこまでする必要はありません」

「そ、それでは……」

「感謝の気持ちを伝えたいなら、笑顔でありがとうと一言言えばそれで良いのです」


 エリネアの感謝の気持ち。王女としての礼節。それが、そんな簡単で良いはずがない。しかし、礼を尽くすべき相手がそう言っているなら、まずそれをしなくてはならない。


「あ、ありがとう」


 笑顔ではなかったが、エリネアはテリーに感謝の気持ちを伝えた。そしてその後どうすれば良いのか、とエリネアが考える間もなく、テリーが口を開く。


「笑顔ではないですが、まあ良いでしょう。僕の件はこれで終わりです。ユージはこの先にある騎士科のグランドの隅にでもいるでしょう。頑張って下さい」


 テリーはそう言うと恭しく頭を下げ、エリネアに有無を言わせぬ早さで立ち去った。


「あ……」


 これで良いのか? とエリネアは考えるが、テリーの素早い行動に圧倒されたまま立ち尽くす。だが、これでエリネアの肩の荷が半分下りた気がするのも事実だ。


「騎士科のグランド……」


 エリネアはそのままトボトボと歩き出す。



「テリーおせーな、すぐ来るって言ったのに」


 と、ひとり文句を言う裕二はおもむろに後ろを振り返る。すると、そこに立っていたのはテリーではなくエリネアだった。


「え?!」

「あ、あの、ユージ……」


 テリーの時は上手く誘導され、何とかなったエリネアだが、裕二がそんな気の利いた真似を出来る訳もなく、二人はその場で黙り込む。そもそも話しの主導権はエリネアが握らなければならないのだ。


 ――テリオスはあれで良いと言ったけど、もっとちゃんと……ユージには相応の対価を示せる。


 エリネアが考えていたのは、以前図書館で見た裕二の精霊の事だ。

 おそらく裕二はそれに気づいてない。ならばエリネアとしてはそれを教え精霊視について教える事が出来る。本来なら対抗心のある裕二にそんな事教える義理はないが、それを教えるのは裕二の為になる。エリネアは裕二に対する感謝の気持ちとして、それを考えていた。


 しかし……


「あなたはもっと目を鍛えた方が良いわ」


 先走ったエリネアは礼をいう前にそんなことを口走ってしまった。


 裕二はエリネアが現れ、少し考えると、昨日の礼に来たのだろうと考えた。

 だが、エリネアはいきなり説教じみた事を言い出したのだ。何故、自分がそんな事を言われなければならないのか。裕二はエリネアの態度にカチンと来てしまった。


「昨日の件で何か言いに来たのかと思ったけど。何故そんな事を言われなければならない! またトップクラスに相応しくないとでも言いに来たんですか」

「そ、それは……」


 裕二も普段の授業中に言われたら、これ程怒らなかっただろう。しかし今回、裕二はエリネアが礼を言いに来たと思っていた。もちろん礼を言われたくてやった事ではないが、感謝はされても文句を言われる筋合いはない。この場合エリネアがまず言わなければならないのは感謝の言葉のはずだ。


「用がないならもういいですか」

「…………」


 責めるような裕二の言葉に、エリネアは何も言わず振り返ると走り去って行った。


「なんなんだよ」


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