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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第四章 エルファス
169/219

169 跪くウォルター


「何が起きた。ヒュドラが使われたぞ」

「わからん。だが、クリシュナードが現れた可能性を考慮しろ!」

「亜空間を開け! 全てエルファスに放出しろ!」


 誰もいないはずの場所からそんなやり取りが聞こえる。そこは図盤に光となって示された場所。つまり、それを話しているのは魔人だ。


「いたぞ! くそっ、間に合わない」


 裕二は魔人の気配を捉えた。しかし、その遥か前方からは何かが現れる気配も同時に感じ取る。予めその場所は決まっていたのだろう。エルファスのすぐ近くだ。

 裕二は咄嗟にクイックムーブを発動させ、亜空間を通り一気に距離を詰める。


「な、何者――」


 一体の魔人が裕二に気づき、言い終る前に、その首は跳ね飛ばされた。そして、もう一体は裕二の憑依から抜けた白虎が頭を噛み砕き、更にもう一体はテンの操る樹木の枝に貫かれる。


「ガッ……」


 一瞬で三体の魔人を倒したが、その目論見を潰すのはギリギリ間に合わなかった。


「エルファスに急ぐ!」



「何か開きおった……」

「魔人の使う亜空間です。あそこからモンスターが現れます。お気をつけ下さい」


 裕二の亜空島を通り、エルファスの結界前に到着したメフィとウォルター。そこにテルメドも続く。

 先に到着していたリアンとチビドラは、開かれた亜空間を前に臨戦態勢をとる。それはひとつではなく、地上と空に魔法陣となって複数現れた。


「テルメド。エルファスに知らせてこい!」

「は、はい」


 テルメドが後方に走った途端、亜空間からモンスターが溢れ出す。

 地上にはベヒーモスとオルトロスが数十体。そして、空からは――


「なんじゃと! あれは」

「スカルドラゴン二体です。少し厄介ですね。あと、あれは……」


 空には体長十メートル程の空を飛ぶスケルトンタイプのアンデッド。スカルドラゴンが現れた。そして、最後にもう一体。


「レイスですね。あれが一番面倒です」

「レイス?」

「存在としては私と似たようなアンデッドです。しかし、実態を持たないのでほとんどの魔法と物理攻撃が効きません。今回はあれがスカルドラゴンを従えている可能性が高いです」

 

 モンスターの中で一際異様な存在のレイス。その顔はボロボロのフードに隠されているが、そこから垣間見えるのは血肉を失った骸骨。それは存在自体が濃淡を繰り返し、時には見えなくなるほど透けて、時には実在しているかのようにハッキリと見える。


 そして、モンスターが一斉に動き出す。同時にリアンがガトリングガンとグレネードランチャーで一斉掃射を始める。しかし――


「攻撃がすり抜けておるぞ!」

「亜空間の盾です。レイスがやっているのでしょう」


 ベヒーモスとオルトロスの前面に黒く空間が広がる。リアンの攻撃はそこに吸い込まれダメージを与える事が出来ていない。


「マズいですね。先にレイスを倒したいですが、スカルドラゴンが邪魔です」


 スカルドラゴンに守られるように空中を漂うレイス。それがゆっくり手を振り上げると、スカルドラゴンの口に光が集まる。


「ブレスです! 障壁を」

「わかった!」


 メフィが風の障壁。そして、ウォルターは瞬時に巨体なファイアーボールを二つ作り出し、それをスカルドラゴン二体から放たれたブレスに衝突し、破壊された。その余波はメフィの障壁により防がれる。


「やるではないか」

「いえいえ。それよりも――」


 地上から迫りくるベヒーモスとオルトロスは無傷のまま、こちらへ向かってくる。

 だが、その群れの中に突如、リアンの巨体が現れた。リアンはその強力な爪で、ベヒーモスの横腹を下からすくい上げるように真っ二つに切り裂く。亜空間の盾は前面にしかなく、それ以外なら普通に攻撃出来る。位置さえ考えれば、通常攻撃が出来るのだ。

 しかし、それでも――


「何体か抜けますね」

「構わん。それはエルファスの兵にやらせる。チビドラもそちらへ行ってくれ!」

「ミャアアア!」

「我々はここを防衛ラインとして守った方が良さそうです」

「そうじゃな。リアン! スカルドラゴンを倒せぬか。そいつらは放置で良い」


 リアンはメフィの声に反応した様子はないが、言われた直後にそこから消え去る。


「どこへ行きおった」

「上です」


 ウォルターが指を向ける一体のスカルドラゴン。その背中にガシャンと大きな音をたてて、リアンが降り立つ。そして、その首の根本に爪を叩き込んだ。

 スカルドラゴンの首は粉砕され、首と胴体が別れながら地上に落下する。


「むっ! なんじゃ」


 だが、その直後にレイスの目が赤く光る。

 バラバラになったスカルドラゴンは落下途中に浮き上がり、また元の形に戻っていった。


「レイスがスカルドラゴンを修復しています。あれは本物のドラゴンではないので修復は容易いのですよ」


 スカルドラゴンは様々な生物の骨を組み合わせ、そこに魂を吹き込んだ物。本物のドラゴンではないが、形も能力もドラゴンを模しているのでかなり強い部類に入るモンスターだ。その成り立ちは術者により維持されている部分が大きい。それをしているのがレイスになる。


「やはり、レイスを倒さねばならぬか」


 とは言え、その修復から攻撃に移るまで、そこそこのタイムラグはある。

 リアンはそれを利用して、もう一体のスカルドラゴンの背中に移動。同じ攻撃で破壊し、それを繰り返す。


「時間稼ぎは出来るが……」


 強力な攻撃力だけでは倒せない相手。リアンでは相性が悪そうだ。


 一方のエルファスからは、続々と兵士が集まる。結界は未だ維持されており、ベヒーモスとオルトロスはその近辺をウロウロ走り回っている。

 結界の効果により、方向感覚を狂わされており、なかなかそこを越えられない。


「おかしな障壁があるぞ! 横っ腹を狙え!」


 エルフの兵士も亜空間の盾に気づいたようだ。位置を変えて攻撃を仕掛ける。モンスターの方向感覚を狂わせているのが追い風となり、被害は少ない。とは言え、一般兵が相手にするにはベヒーモスもオルトロスも手強い存在だ。

 その背後からチビドラがファイアブレスで攻撃する。


「な、なんだあの鳥は!」

「馬鹿もん! 鳥ではない。あれは味方だ。攻撃するな」


 と、怒鳴っているのはカフィスだ。


「父上も戦っておるのか。王が前線に出てどうするのじゃ、全く」


 その声はメフィにも聞こえていた。


 どちらも戦況は膠着している。何か決定的な打開策が欲しいところだ。その為に一番良いのはレイスを倒す事。


「仕方ありません。私が何とかしましょう。メフィ様は援護をお願いします」

「どうするのじゃ」


 ウォルターはリアンの倒した小さめのベヒーモスに歩み寄る。それは既に真っ二つに引き裂かれたもの。

 その前でウォルターがパシッと手を合わせる。すると、ベヒーモスの引き裂かれた上半身と下半身がズルズルと動き出す。


「こ、これは」


 それがピッタリと組合わさり、その傷も修復されていく。そして、懐から二本の小瓶を出し、その中身をベヒーモスに振りかけていく。それは砕かれた数種の魔石を混合した粉末だ。


「少し危険ですが……レイスは実態がないから倒せないのです。ならば実態を作れば良い」


 そして、ナイフを取り出し、ベヒーモスの体に文字を刻む。

 最後に自分の口にナイフを咥えてから刃に血を付ける。その血が、刃に印を刻む。それをベヒーモスに突き立てた。

 そして再度、強く手を合わせて目を閉じる。すると――


「おお!」


 上空のレイスがこちらに引っ張られ始めた。それは少しづつだが確実にこちらへ動いている。

 それに抵抗するかのように、レイスは目を赤く光らせる。

 ウォルターは更に手を合わせながら念じる。すると、レイスの下半身は先細りながらベヒーモスの体へ吸い寄せられていく。


「もう少しじゃ!」


 やがて、レイスの体はベヒーモスと結合を始めた。そして、ベヒーモスに突き立てられたナイフに引きずり込まれて行き、その姿は完全に消え、ベヒーモスと一体となる。


「これでなんとか……」


 同時に上空からはバラバラになった骨が大量に落ちてくる。レイスがいなくなり修復出来なくなったスカルドラゴンをリアンが倒したのだ。

 リアンは即座にもう一体のスカルドラゴンに移る。


「メフィ様。これは普通のベヒーモスではありませんのでお気をつけ下さい」

「心得た!」


 その直後に、ウォルターは地面に膝をつく。今の術でかなり消耗したのだろう。


「後は休まれよ。ウォルター」


 そこへゆっくりと立ち上がるベヒーモス。目は赤くらんらんと輝き、首はふらふらとあらぬ方向を向く。そして、その筋肉はボコボコと何倍もの大きさに膨れ上がる。


「なるほど。レイスを乗り移らせたベヒーモスか。攻撃は効くが……」


 ベヒーモスは全く違う方向へ顔を向けながら、いきなりメフィに襲いかかってきた。


「エアキャノン!」


 メフィの手が前に倒されると、ベヒーモスは吹き飛ばされ、近くの木に打ち付けられた。その体には太い枝が突き刺さり、血を流す。だが、その程度では大したダメージではないだろう。


 ――おそらく痛みはなく、その力もかなり上がっておる。強化されたキマイラと同じような状態じゃな。


 それを解除する術は当然ない。ベヒーモスは再び立ち上がりこちらへ向かってくる。


 ――マズい。ウォルターが……


 メフィひとりならなんとでも出来るが、そこには力を使い果たしたウォルターがいる。それを守りながら対処するのは難しい。


 しかし――


「リアン!」


 そこへ大量の骨とリアンが同時に落ちてきた。

 そして、片手でベヒーモスの頭を押さえながら、ガトリングガンで攻撃する。

 ベヒーモスは体を小刻みに揺らしながらも、手足をジタバタと動かして抵抗を試みる。


「あれも修復するのか」


 その傷が治り始めている。そして、動きにはあまり衰えを感じない。


「いえ。体の傷は修復してもレイスの霊体にダメージは蓄積されます。このまま攻撃を続ければ……」


 時間はかかるが倒せる。ウォルターはそう言う。

 しかしその時。ベヒーモスに突き刺さっていたナイフが砕け散る。同時にその体はダランと垂れ下がるように動きを止めた。


「ま、マズいですね」


 そこからどす黒い煙が伸び上がり、それは近くにあるダメージの少ないベヒーモスの死体に取り憑いた。

 ウォルターによる強制的な憑依による封印を自主的なものに切り替えたのだ。それによりレイスは本来の力でベヒーモスに憑依する事になる。


「ここまで強力とは……」


 そのベヒーモスが起き上がると、牙、角、爪が急激に太く伸びだす。そして、いきなり突進を始めた。その矛先はリアンではなく、メフィとウォルター。


「マズいぞ。立てるか、ウォルター」

「私は置いて逃げて下さい」

「ふざけるな! そんな真似ができるか」


 メフィはぐったりするウォルターを抱えあげる。


「逃げるぞ!」


 目前に迫るベヒーモス。その前に高速移動したリアンが立ちはだかる。しかし、その直前でベヒーモスは大ジャンプでリアンを飛び越えようとした。

 だが、リアンがギリギリで爪を引っ掛け、そのまま地面に叩きつけるが、ベヒーモスは即座に起き上がる。


「しぶとい奴め!」


 メフィがウォルターを抱え、後ろを振り向きながら走り出した瞬間。上空から何かが降ってくる。


「押さえろリアン!」


 即座にリアンがベヒーモスの頭を押さえる。同時に上から霊剣エンブリオバーニングを持った裕二が、ベヒーモスに着地しながらその剣を背中に突き立てた。


「ブオオオオオ!」


 悲鳴をあげるベヒーモス。しかし、それはベヒーモスではなくレイスの悲鳴だ。霊剣エンブリオバーニングなら、レイスに直接攻撃出来る。しかし、その力は強くない。


「まだ弱い! ムサシ!」


 すると真横からいきなりムサシが現れた。その手には様々に色を変えながら光る剣。魂をも切り裂くと言われる魔剣ハイドラが握れている。


「むっっ!」


 そのまま真横からムサシの剣が突き刺さる。


「バオオオオオ!」


 悲鳴を上げながらベヒーモスは崩れ落ちた。そして、その体から黒い煙が立ち昇る。


「ムサシ! それを斬れ」


 ムサシがシュシュッと音を立てながら、空を斬りその煙を切り刻んだ。


「ア、アアアアァァ……」


 そして、その悲鳴を最後に煙はゆっくりと消滅した。レイスはどうにか倒す事が出来た。


「ふう。変な奴がいると思ったらレイスかよ」

「ユージ!」


 そこへメフィがウォルターを抱えたまま駆け寄る。


「大丈夫かメフィ!」

「妾は大丈夫じゃ」

「レイスを封じたのはウォルターか? かなり消耗しただろ」

「私も大丈夫です。降ろして下さい」


 メフィはウォルターを降ろし、その場によろめきながら何とか裕二の前に立つ。


「こんな厄介なのがいるとは思わんかった。良く倒せたな、ユージ」

「前に戦ってるから何とか……これは魔人の忠実な崇拝者の成れの果てで、その中でも死霊魔術を使える一部の人間しかレイスにはならない。そうそう現れないから知らない人の方が多い。リアンより魔剣を使えるムサシの方が相性は良かったかも」

「なるほど。魔人を越える力を持ちながら魔人に仕える愚かな魂と言うワケか」

「エルファスの方はエリネアとセバスチャンが片付けてるはず。行こう」

「そうじゃな」


 そして、メフィと裕二が歩き出すと、その後ろでウォルターが声をかける。


「ユージ様」


 その声に裕二とメフィが同時に振り返りウォルターを見る。すると、彼はその場に跪いていた。


「メフィ。先に行ってくれ」

「……わかった」


 メフィが去り、その場に残る裕二とウォルター。そのウォルターは跪いたまま頭を下げ、微動だにしない。


「どうした、ウォルター」

「私は……たった今確信致しました。鬼神メトロハイドとそれが持つ魔剣ハイドラ。あれを従える事が出来るのはこの世にただひとり」


 そして、ウォルターは僅かに頭を持ち上げる。


「五百年、待ち続けました。ユージーン・クリシュナード様」


 それを聞いた裕二は、ウォルターの前にゆっくりとしゃがみ、互いの目を合わせた。


「久しぶりだな、ウォルター…………いや、アドレイ」

「クリシュナード様……」


 全ての水分が枯れ果てたかのような体のウォルター。その瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。


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