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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第四章 エルファス
168/219

168 ヒュドラ


 体長はおよそ二十メートル。胴の直径は一メートルはあり、体表には不気味な斑紋がヌメるように光っている。そして、首の数は十。そのそれぞれが鎌首をもたげている。

 そこに現れたのは多頭蛇、ヒュドラ。それがエリネア、セバスチャン、ムサシの前に迫りくる。そして、そこには裕二の置いていったゴーレムが、ヒュドラの前に壁のように立ちはだかる。


「エリネア様。まずはゴーレムで様子を見ましょう」

「そうね。ゴーレム! ヒュドラに攻撃を」


 ゴーレムとヒュドラ。お互いの攻撃が届く範囲に来ると、まずヒュドラがその太い首を振り回し、ゴーレムをなぎ倒そうとする。同時に別の首からは紫色のブレスが放たれた。


「毒ガス系のブレスのようですね。ゴーレムには通じないようです。物理攻撃も何とか耐えているのですぐには突破出来ないでしょう」


 ゴーレムも負けじと岩の塊のような大きな拳を振り上げ、ヒュドラの頭を殴りつける。

 地に叩きつけられたヒュドラの頭。ゴーレムはそれを足で踏み潰した。同時にヒュドラの別の首がゴーレムの頭部に直撃し、砕け散る。しかし、ゴーレムはその魔力が続く限り再生が可能だ。頭部は即座に盛り上がり、みるみる修復されて行く。


 しかし――


「ヒュドラも再生されてますね」


 踏み潰されたヒュドラも、ゴーレムと同じように再生を始めた。しかもかなり早い。


「となると、再生出来る魔力の多い方が勝つのかしら」

「だとするとヒュドラに再生させまくれば、いずれ力尽きるかと。このままゴーレムを的にさせ、ムサシが背後から攻撃。エリネア様は魔法で遠隔攻撃。ブレスの範囲には入らないで下さい。私は風魔法でこちらへ来るブレスを散らします」

「わかったわ!」


 エリネアが返事をすると同時に、ムサシが消えた。そして、一瞬でヒュドラの背後に回り、その首を根本から一撃で叩き斬る。

 すると斬られた首はのたうち回りながらブレスを撒き散らす。それはゴーレムを的にしていないので、こちらにも届いてしまいそうだ。首が完全に死ぬまでそれは続き、斬られた場所から新たな首が再生してくる。


「ふむ、厄介ですね」

「私がやってみる」


 エリネアは短杖を取り出し、ヒュドラに狙いを定める。それを真横に振ると、十本の炎に包まれた槍が作られた。


「エクスプロードファイアーランス!」


 そう唱えると同時に、炎の槍はヒュドラ目掛けて飛んでいく。それが全て、喉の辺りに突き刺さる。そして、ヒュドラが悲鳴をあげる間もなく、全ての首の喉から下顎にかけて爆発し砕け散った。


「ほう、ブレスは止まりましたね」


 その辺りにブレスを吐く器官があるのだろう。これでムサシがどう斬っても、ブレスを撒き散らす事はない。再びムサシが攻撃を始めた。


「これでヒュドラの攻撃はほぼ封じる事が出来ますが……」

「再生が随分早いわ」


 このパターンで攻撃を仕掛ければ、ヒュドラの攻撃はない。しかし、それではいつまで経っても戦闘は終わらない。ヒュドラの再生速度は早いので、うっかり攻撃を受けてしまう可能性もある。


「やはり元から断ちたいわね」

「ヒュドラも再生する以上はゴーレムと作りが似てるのかも知れません。その根本を探りましょう」


 ゴーレムは体内の魔石により動いている。それが壊されたらもう動かない。ヒュドラにも、そのような部分があるのではないか、とセバスチャンは推測する。


「おそらく首の別れる根本の奥。そこをムサシに集中的に攻撃させますか」

「そうね……いえ、ちょっと待って」


 エリネアもその推測は正しく、試す価値は充分にあると思っている。しかしそれとは別に、何か引っ掛かる部分も感じていた。


「ねえセバスチャン。ヒュドラが現れた時、変な感じがしなかった?」

「変な感じ、ですか……言われてみれば」


 目の前にいる怪物ヒュドラ。それを出現させたのは既に殺された魔人。

 このクラスのモンスターなら、今まで森に隠しておいたのではなく、ケツァルコアトルのように亜空間に格納していたはずだ。こんなのが今までずっと森にいて、エルフが気づかないワケがない。

 その出現の瞬間は裕二以下全員が気配を感じ取っていた。もちろんエリネアもセバスチャンもだ。


「ヒュドラの気配は段階的に大きくなる感じじゃなかった?」

「そうですね。亜空間から出現した雰囲気ではなかった」

「そこは知っておいた方が良いと思うの。ムサシなら倒せるのでしょうけど、そこを壊してしまっては……」

「なるほど、確かに」


 亜空間から出現したのなら、段階的に気配が大きくなる、と言うよりいきなり完成された気配が現れる感じだろう。そこに何か違いがあるのだ。それは知っておいた方が良いのではないか。

 とりあえずは、このまま戦闘を継続しながら策を練る。


「私は手が離せないから、セバスチャンが魔力視でヒュドラを見てもらえないかしら」

「畏まりました」


 エリネア、ムサシ、ゴーレムが今までのパターンを繰り返しながら、セバスチャンはヒュドラの魔力を探る。

 体の外側に出る魔力を視認するのは、それほど難しくなく、ここにいる全員が造作もなく可能だろう。しかし、体の内側となると、難易度は一気にあがり、時間をかけ、高い集中力を要する。

 セバスチャンはジッとヒュドラの内側を探る。


「やはり、首の根本の奥に、何かありますね。そこが魔力の中心です」

「やっぱり魔石なのかしら」

「……いえ、違うようです」


 構造的にはゴーレムと似ているようだ。しかし、その基礎には魔石とは違う物がある。


「何か見える?」

「あれは……何でしょうね。形で言うと剣にも思えますが」

「剣?」

「いや、違うかも知れません。かなり凝った形ではあります」


 それがエリネアに違和感を感じさせた正体なのだろう。出来ればそれを無傷で取り出したい。


「ではセバスチャン。作戦を変えましょう。頭は殺さず無力化します。ムサシはヒュドラの体を切り離さず中身を取ってもらいます」


 ムサシはヒュドラの後方で待機。ゴーレムはヒュドラを破壊させないように戦わせる。その状態でエリネアが魔法を使う。


「ダイヤモンドダストクリスタライズ!」


 それは、ダイヤモンドダストバーストの派生魔法。

 エリネアの作り出した冷気は瞬く間にヒュドラの頭を中心に覆う。そこにキラキラと美しく輝く細かな塵が体表に付着すると、そこからジワジワと白くなり始める。


「動きが鈍り始めましたね」


 エリネアはそのまま魔法を継続。ヒュドラはその巨体を凍らし始めた。それに伴い首の動きも遅くなる。やがて一本の首がドサリと地面に落ちると、他の首も既に攻撃が出来ない状態にされており、後は完全な無力化を待つだけだ。


「ムサシ。今です!」


 セバスチャンの声でムサシはヒュドラの尻尾に乗り、首の別れる中心点にロングダガーをゆっくりと刺し込んだ。


「そこにある物を取り出して下さい」


 ムサシは長方形に切れ目を入れると、そこへズボッと手を突っ込む。そして、そこで何かを掴むと一気にそれを持ち上げる。

 その手には何かが持たれているが、ヒュドラの血と肉がこびりつき、ハッキリとはわからない。


「何かしら」

「ヒュドラの体は崩壊を始めてますね。やはりあれが本体」


 凍りついたヒュドラはゆっくりと崩れていく。しかし、それとは反対にムサシの持つ何かは、徐々に大きくなってくる。そこから復活しようとしているのだ。

 だが、ムサシはそれをスパスパと削りながらこちらへ歩いてくる。


「焼いた方が良さそうですね」

「わかったわ。ムサシ、それを地面に置いてちょうだい」


 ムサシが出来るだけ削ったそれを地面に置くと、エリネアが即座に火魔法で復活しようとする肉を焼き払う。すると、徐々にその全容が見えてきた。


「何なのこれ?」

「ふむ、見た事ありません……しかし、やはり剣でしょうか。柄と刀身があります」

「柄に何か光ってるわね。ムサシ、そこだけ破壊して」


 一応剣のようではあるが、その形の異様さからセバスチャンもエリネアも困惑気味だ。しかし、それでも何となくわかるのは、その柄らしき部分に嵌め込まれた青く光る魔石のような物。それが魔力の根源だと言う事。

 ムサシがそこに刃を突き立てると、それはあっさり割れ、光も失われた。


「復活は止まりましたね」

「ええ……」


 残った肉片は刀身の大部分を覆う。それを魔法で少しづつ焼き払うと、やがてそれは完全な姿を現した。


「これって、もしかして……」


 エリネアは呟き、そのまま言葉を失う。



 裕二とテン。そして、白虎はエルファスの南側に向かう。ウォルターから借りた図盤を見ると、光はそこら辺に集中しているからだ。そこに魔人がいるはず。


「全部で四体か」

「裕二様。一体だけ後方にいるね。連絡係だと面倒だからそいつを先に殺ろう」

「わかった。テン行け!」


 こちらは正面からの戦いではなく、隠密行動。出来るだけ魔人にバレないよう接近し、一瞬で倒す。

 図盤からおおよその位置を把握し、そこを挟むように裕二とテンが別れる。

 テンは霊体化で魔人の正確な位置を探り、それを裕二に伝える。

 裕二は気配を消してそこへ背後から近づく。その気配断ちに優れているのが白虎だ。攻撃力はムサシに及ばないが、速さは負けていない。そして自身の気配を断ち、敵の気配や匂いを探るのに、白虎は適している。

 裕二が白虎を憑依させれば、音もなく軽々と木に登り、敵に気づかれる事なく、その背後に立てるだろう。


 ――いたよ裕二様。あの一番高い木のてっぺん付近。枝に乗ってエルファス方面を向いてる。

 ――姿を隠してるが……確かにいるな。


 その姿は見えておらず、魔法により隠されているのだろう。しかし、瘴気は感じる。

 閉じられた扉からでも、その前を通れば僅かな匂いが漂うような、そんな独特な雰囲気。そこを開けたらゴミ屋敷になっているのではないか。それと同質のものを感じさせる気配。


 そこにシュッと、刃が空気を斬る音だけが響く。直後に地面からドサッと何かが落ちる音が聞こえる。


「まずは一体だな」


 そこには魔法が解かれ、姿を晒す魔人の首と胴体が離れて落ちていた。


「残り三体は固まってるね。一体ずつだと気づかれるかも」

「そうだな……」


 今のところ大きな気配の変化はない。エルファスにはまだ、何も起きていないだろう。


「その前に速攻で殺る!」


 しかし、その直後に空気が変わる。何か大きな気配の変化があるようだ。


「マズイ! 間に合わせるぞ」


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