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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第四章 エルファス
165/219

165 意外な人物


 アリーから動きがあったと告げられメフィ、エリネア、テンは亜空島へ入る。

 そこには既に裕二とセバスチャンがいた。


「どうなっておる」

「松明を持って一人でエルファスを出ました。今はチビドラがつけてます。アリーはチビドラと合流してくれ」

「わかったー!」


 亜空島のペンション風建物。その部屋から見える大きな窓からは出入り口の外の様子が見える。

 今見えているのはチビドラに付随する出入り口の外側。チビドラが動けばその景色も変わる。


「暗くてわかりにくいわね」

「松明だけだからな」


 そこに映し出されたのは、松明を持って暗闇を進むテルメドの後ろ姿。

 セバスチャンが迷いの森からエルファスに戻った時点で、テルメドにはアリーとチビドラの監視がつけられていたのだ。


「こんな夜中に動くって事は、やっぱり協力者がいて会いに行くって事よね」

「おそらく、そうじゃな」

「テルメドはどこに向かってるかわかりますか?」


 アリーによると、テルメドはエルファスを出て東に向かっている。しかし、今は夜中。暗闇に松明しかなく、画面となっている窓ガラス越しには少しわかりにくい。


「東か……そちらにはエルフの聖山、聖域と呼ばれる場所がいくつかある。風の精霊シルフ、地の精霊ノームを祀る場所、墓地とそれとは別に歴代王墓、迷いの森のような場所もあるな。どこも普段出入りする場所ではない」

「なら、しばらく様子を見るしかないわね」


 エルフに由来する場所はエルファスを中心に広範囲に広がっている。

 テルメドは尾行を考慮して遠回りしている可能性もあるので、今の段階ではどこへ向かっているのかわからない。

 しかし、テルメドに情報を与えた存在がその先にいる事は容易に想像出来る。

 王候補であり若いエルフのリーダー的存在のテルメド。だが、今まで見てきた彼の様子は、柔軟性に欠けなかなか他者を信用しない。その反面思い込むと一途なところもあり、その行動原理にはエルファスを守りたいという想いも見え隠れする。

 その彼が、強く信じている情報源。それがわからない。魔人の策略でこうも見事に騙せるものなのだろうか。


「でも、魔人はユージでさえ騙すって、テンも言ってたわ」

「うっ……」

「シェルラックで買わされた指輪じゃな。セーラに下心でもあったのか?」

「そうなの? ユージ」

「そうなのか? ユージ」


 二人は同時に問いただす。


「いや……何でそこだけ二人して息ピッタリなんだよ」

「それは乙女の秘密じゃ」

「ふふ、そうね」


 少しメフィとエリネアの雰囲気が変わったようだと、裕二は感じた。しかし、自分をダシにそうなってくれるなら、それはそれほど悪いことではないだろう。


「エリネアよ。セーラも嫁候補になるのか?」

「ええ。後ペルメニアにもう一人いるの」

「何の話だよ!」

「案ずるなユージ。子種の管理は妾とエリネアに任せよ。それも従者の努めじゃ」

「はあ?」


 そんな話をしていると、窓に映るテルメドの動きに微妙な変化があった。


「坂道みたいね」

「となると……聖山キコリノか」


 松明の薄灯りに照らされたテルメドは前傾姿勢になり坂道を登る。メフィはその様子からエルフの聖山、キコリノと言う山を登っていると推測する。


「キコリノの中腹にはエルフの墓地がある」

「そんな場所で誰かと待ち合わせか?」

「もし、それが魔人なら即殺す。テルメドが巻き込まれても構うな。それ以外なら様子見じゃな」


 この時間の墓地なら、人に知られず待ち合わせるには恰好の場所になる。

 緩やかな坂道を登るテルメド。辺りは藪から徐々に開けていく。やがてそこには墓石らしきものがいくつか見えてきた。やはり墓地で間違いないようだ。


「墓地を汚す愚か者めが」

「メフィ落ち着いて」

「そ、そうじゃな」


 今の今までメフィとテルメドは直接対面していない。もし、対面していたら、メフィはテルメドを叩きのめしていただろう。しかし、それをやるとテルメドの先にいる何者かを見失う可能性が高い。


「亜空島は便利じゃな。このような場所があって良かった。直接会わずに様子がわかるのじゃからな」


 テルメドはそのまま墓地の一角に向かい、そこで立ち止まる。誰かを待っているようだ。


「いよいよ来るな」

「誰なのかしら」

「セバスチャン。念の為出入り口の準備を」

「畏まりました」


 辺りを見回すテルメド。やがてその視線は一点に留まる。そちらから誰かが来る。


「あれは……まさか! 何故じゃ」


 薄暗いなかハッキリしないが、テルメドは誰かを笑顔で迎えている。

 裕二とエリネアにはそれが誰なのかはわからない。しかし、メフィはそうではないようだ。つまりそこにいるのはエルフ。その特徴的な耳が、辛うじて裕二とエリネアにもわかった。


「奴は……コルトレク。テルメドの弟のコルトレクじゃ」

「なっ! その人は亡くなったのではないの」

「パットンもそう言ってたよな」


 テルメドは死んだはずの弟、コルトレクと会っていた。呆然とする三人はそのまま映像を食い入るように見つめる。


 しかし、変化はそれだけではなかった。


「待って。もう一人誰かくるわ」


 コルトレクの背後からゆっくり迫るもうひとつの影。それが鮮明になると、今度は裕二とエリネアが激しく驚いた。


「う、嘘だろ……なんで」

「どう言う事……」


 メフィが自分の知っている人物であるコルトレクを発見し、驚いたように、今度は裕二とエリネアが同じように驚く。

 そこにいたのは二人が知る人物だったのだ。


「あれは……ウォルターなのか」

「私にもそう見えるわ」


 テルメドが会っていた人物。それは死んだはずの弟、コルトレク。そして、裕二とエリネアがエルファスに来る前、西の森で出会ったアンデッド。リッチのウォルターだった。



 夜の闇から空が白み始める頃、テルメドはエルフの墓地でコルトレクとウォルターに会っていた。


「兄さん!」

「コルトレク!」


 二人は歩み寄り抱擁を交わす。それを見ているウォルターが口を開く。


「本日はどうされました。緊急の用件でしょうか」

「はい。今お話しします」


 テルメドはこれまでの事をウォルターに説明する。その話の要点は、魔人と思しき人物、裕二とテンを見つけた。それを排除する為、迷いの森で殺すつもりだったが失敗した事だ。


「だから言ったじゃないか、兄さん。ウォルター様は優れた予言者でもあるんだ。ちゃんと言う事を聞かないと」

「済まん、コルトレク。しかし、ウォルター様が彼らを倒したなら、その存在がエルファスに知られてしまう。お前の事まで知られたらどうする。いくらコルトレクでもアンデッドでは……」


 どうやらアンデッドであるウォルターが、死んだはずのコルトレクを蘇らせたようだ。だが、それは本当に蘇ったのではなくアンデッドとしてだ。

 弟を溺愛するテルメドはそれでも嬉しかった。死んだはずの弟とまた再会し、話す事も出来る。

 テルメドにとって弟のコルトレクは、一番信頼出来る存在なのだろう。そのコルトレクの蘇らせ、弟の信頼を勝ち取るウォルターも、テルメドにとっては信用出来る存在なのだ。


「やはり魔人は現れましたね」

「はい。しかしセーラ様とバン様が同一人物なのかが今ひとつ……ですがユージは間違いありません」

「それだけわかれば良いですよ。後は私がやりましょう。コルトレクも私が守ります」


 裕二たちの古い情報をテルメドに伝えていたのはウォルターだった。



「信じられない……何でウォルターが」

「あのアンデッドを知っておるのか」

「やはりあの時、倒すべきだったのかしら」


 メフィの同胞コルトレクと裕二の知り合いウォルター。彼らは裕二を魔人とし、倒そうとしている。

 テルメドは弟の身を案じ、最初はひとりでそれを行なおうとして失敗した。その段階ではウォルターに裕二の事は伝えていなかったのだ。

 だが今、ウォルターはそれを知り、裕二を倒すと言っている。


「でもそれって変よね。ウォルターは私たちがエルファスに行くのを知ってたでしょ?」

「そういやそうだ……」

「その時はまだ、情報や確信が足りてなかったのではないか?」

「言われてみれば……セバスチャンとテンは出してなかったし」


 何故こうなっているのか、ワケがわからないが、とりあえずこの三人は捕えなければならない。その中で最も要注意なのはリッチであるウォルターだ。


「良し行こう。タルパは全員霊体化で囲んでくれ。奴らを逃がすな。出来れば生け捕りにしたい」



「お気をつけ下さいウォルター様。奴はカラソッソの実なしに、迷いの森を突破出来る程の力があります」

「だから言ったではないですか。奴らを見つけたら私に任せなさいと」

「兄さんは僕の言う事をもっと信用してくれなきゃ」

「そうだな……済ま――」


 テルメドがそう言いかけた時。その場に亜空間が開き、メフィ、裕二、エリネアが現れた。


「メフィ様! な、何故――貴様!」


 それに気づくテルメド。


「これはどう言う事じゃテルメド!」

「ほう、そちらはお仲間ですかな」


 いきり立つメフィとは対照的なウォルター。随分と落ち着き払っている。

 しかし――


 ――何だ……様子がおかしい。


 裕二は現場に到着し、その場の空気がおかしい事にすぐ気づいた。そして、その隣で声を上げようとするエリネアを手で制す。


「変だ。ウォルターとコルトレクをよく見ろ」


 小声でそう告げる裕二。エリネアも言われてそれに気づく。


「確かに……でも、何かしら」


 何か違和感を感じるが、その正体はわからない。裕二はとりあえず、この場をメフィに任せる。


「説明せい! テルメド」

「聞きたいのなら聞かせてあげれば良いでしょう。真実を知れば、彼女も我らの味方になってくれるかも知れません」

「そ、そうですね」


 テルメドは裕二をキッと睨みつけてから話し始めた。


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