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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第四章 エルファス
159/219

159 迷いの森


「見えてきました。あの小川の橋を越えると迷いの森になります」


 テルメドが手で指し示した。

 裕二たちにはその橋が見えている。おそらくエルフが作ったのだろう。木製の小さな橋だ。

 そこへ向かって歩くと、やがて小川の水面が見えてくるはず、なのだが、それが見えてこない。


「随分干上がってますね」


 裕二が小川を覗き込むと、水位はかなり低い。しかし、これについて裕二は予測していた。エルファスに至るまでにあった大河の様子を考えれば、おかしな事ではない。


「おかしいですね……ここの水は今まで枯れた事などないのに」


 テルメドはそう言いながら視線を水面から裕二に移す。だが、それ以上何も言う事はなく再び歩き始めた。

 ここから先は迷いの森になる。裕二たちの戦力とカラソッソの実があれば、特に問題はないはずだ。


 実際に森へ入ってみると普通の森と変わりない。


「カラソッソの実を持っていても油断はしないで下さい。はぐれると面倒です」


 テルメドは説明しながら歩く。


「あそこにある大きな赤い花。あれはフランジュと言う人食い花です。カラソッソの実があれば寄ってきません」


 道から外れた森の奥に微かに見える大きな赤い花。カラソッソの実がなければ、あれが移動してこちらへ攻撃してくると言う。

 裕二たちなら襲われても問題はなさそうだが、極力戦闘は避けた方が良い。

 テルメドは他にも様々な森の危険を説明した。どうやらここは植物、虫系統のモンスターが多いようだ。その全てがカラソッソの実を嫌がると言う事だが――


「個別のモンスターが皆同じ物を嫌がるってのも変じゃないですか?」

「ここのモンスターは森の外ならカラソッソの実を嫌がらないのです。つまり、森がモンスターを操っている。その森がカラソッソを嫌がっているのです」

「なるほど」


 水の精霊とは別の、強力な精霊のような存在がモンスターを含めた森を支配している。そう言った存在は必ずしも意思疎通が出きるわけでもなく、人とは違う理で存在する。森を侵さなければ、それが攻撃してくる事はない。ここは放っとけば魔人の召喚したモンスターが溢れるようなヴィシェルヘイムとは違い、自然の摂理に従った場所となる。それは必ずしも人に優しいわけではない。それが迷いの森なのだろう。

 エルフたちにとっては神聖な森であり、水の精霊や源泉を守る森でもあるのだ。


「ですので、ここに他のモンスターが移り住む事はまずありません。それらも森に排除されます」

「なるほど。良く出来てますね」


 ――て事は魔人もその対象になるのか?


 裕二はそう考えながらも、それは口に出さずにおいた。彼らが魔人と何らかの関わりがあるなら聞くだけ無駄だし、却って警戒心を煽りそうだ。


 テルメドの説明を受けながら一行は森を進む。冒険者として活動していた裕二には、警戒すべき気配もモンスターもいないので楽な行程だ。出来れば白虎に乗ってさっさと目的地に行きたいのだが、そうなるとテルメドたちは追いつけないので、それは使えない。

 と言うより、セバスチャンとテンは人と偽っているので、緊急時でなければそれ以外のタルパを出すのはマズイ。しかし、お互いの疑心暗鬼さえなければ、割りとのんびりした雰囲気だろう。エリネアのスレイプニルなら出しても問題はないかも知れない。


 ――だけど乗れるのはエリネアだけか。従者の俺が乗るワケにもいかないし。エリネアが疲れたら……


 裕二がそう考えていた時、突如変化が起こった。


「!!」


 何かの視線やモンスターの気配ではない。それ以外の何か。裕二はそれを感じとった。

 今までテルメドから聞いた知識を動員するなら、それは森。その存在そのものなのではないか。モンスターとも魔人とも違う。

 それは人と意思疎通などしない。なので人の形になって現れる事もないだろう。しかし、その存在は確かにある。


「テン。気づいてるか」

「うん、何か変わったね。セバスチャンはどう?」


 テンはセバスチャンに確認する。しかし、何故かセバスチャンは答えない。


「セバスチャン?」


 再びテンは問いかけるが、セバスチャンの視線はテンに向いていない。まるでテンがそこにいないかのように振る舞っている。


「テルメドさん」


 それを見て裕二はテルメドに声をかける。しかし、こちらもセバスチャンと同様何も答えない。


「これは……」


 テンがそう言いかけた時。裕二はいきなり剣を出してテルメドに斬りかかった。


「裕二……様?」


 不可解と言わんばかりのテンの声とともに、テルメドが煙のように消えた。

 テルメドだけではない。護衛のエルフもセバスチャンもエリネアもだ。

 この場にいるのは裕二とテンのみ。


「はぐれたか……」

「やられたね」


 とりあえず、残っているタルパを確認する。今ここにいるのは裕二とテン。そして、アリー、チビドラ、リアン、白虎。


「セバスチャンとムサシはエリネアといるな」

「念話も通じないね」


 通常であれば、裕二は会話の出来るタルパとなら念で会話が可能だ。しかし、今はそれも出来ない。森がそれを妨害しているのだろう。


「どうする? 探す?」

「いや、このまま行く。向こうはセバスチャンとムサシがいるから問題ない。探すのも難しくないし。それよりもアレだな」


 裕二が道の先を指差す。そこには体長二センチ位の虫。それが妙な気配を漂わせていた。


「カナブンみたい」

「カナブン情報は聞いてないな」


 裕二はテルメドから様々な森の情報を聞いている。しかし、目の前にいるカナブンについては聞いていない。裕二からすると先程の人食い花、フランジュよりもカナブンの方がヤバそうに思える。


「意図的に黙ってた?」

「かもな。信用させる為に当たり障りのない事だけ、説明したのかも」


 カナブンはジッとこちらの様子を伺っている。ような気がする。

 そうこうする内にカナブンのそばにもう一体のカナブンが飛んできた。そして、更にもう一体。


「数が揃ったら攻撃してくるのか」


 どんどん集まってくるカナブン。裕二はそこへ、異次元ポケットから出した肉を放り投げてみた。するとカナブンは一斉にそこへ群がる。


「うほっ、ピラニアみたいだな。ちょっとキモい」

「普通の人なら食べられちゃうね」


 カナブンは凄い勢いで肉を食い破り、そこをトンネルのように掘り進んでいく。それが無くなったら次は裕二たちの番なのだろう。


「チビドラとリアン向きだな。やってくれ」


 裕二の号令により、チビドラがファイアブレスで飛びながら集まるカナブンを燃やす。裕二はカナブンがこちらへ来ないよう肉をばら撒く。そこに集まったカナブンをリアンがキャタピラで一気に踏み潰す。


「何か……地味な戦い」

「だな。肉がもったいない」

「リアンは戦いと言うより、土木工事してるみたいだね」

「言われてみると重機っぽいな」


 緊張感のない戦いではあるが、カナブンは更に集まり、なかなか全滅させるのは難しい。チビドラとリアンに任せておけば問題はないが、かなり面倒だし足止めも食らうことになる。


「しかし、こうなるって事はカラソッソの実は機能してないのか?」


 裕二はその手に持った赤い実を眺める。それがあればカナブンはこちらへ寄ってこないはずだ。


「それとも最初から偽物なのか……」


 テルメドがこちらを騙したのかそうでないのか。今はわからない。

 騙されているなら、テルメドは裕二とテンを殺す気だという事になる。しかし、疑心暗鬼になっていたとは言え、確かな証拠もなくそんな事をするだろうか。


「情報が足りてないね」

「仕方ない。とりあえずは祠を目指そう。アリーはセバスチャンの所に行って状況を調べてくれ」

「わかったー!」


 こうなる事は前もって考えていた。たとえはぐれたとしてもアリーは一瞬でセバスチャンの所に行けるのだ。


「行ってくるねー」

「実体化はするなよ」

「あいー」


 そして、アリーはその場から消えた。


「亜空間を通れば、迷いの森なんか関係ないよね」


 裕二はこの前日、タルパ全員に亜空間の出入り口を作っておいた。それぞれの存在に出入り口があり、その行き来は自由に出来る。要は既にある亜空島の出入り口を増やしただけだ。それはセバスチャンにもムサシにも繋がっている。どこにはぐれようと亜空島を通れば仲間の元へ行けるのだ。


「まあ、そうだけど……カナブンしつこいな」



「ユージ! ユージとテンがいません! どうなっているのです、セバスチャン」


 わざとヒステリックに叫ぶエリネア。セバスチャンは困った表情でそれに答える。


「はぐれてしまったのでしょうか? これはおかしいですねテルメド様。カラソッソの実があれば問題なかったはずでは?」


 セバスチャンに視線を向けられたテルメド。彼は裕二とテンがいなくなった事に焦る、と言うよりも、セバスチャンの問いにどう答えようか迷っているように見える。


「テルメド様。まさかとは思いますが……」

「い、いえ、違います。決してあなた方を騙そうと思ったのでは……ですが、あのユージと言う男とテンと言う女性は危険です」

「それは……私たちと二人を意図的に引き離した。そう言う事でしょうか」

「あなた方は騙されているのです。私はエリネア様とセバスチャン様の正体も知っております!」

「は?」


 ワケがわからないセバスチャンとエリネア。セバスチャンはともかくエリネアに正体もへったくれもない。正真正銘ペルメニアの王女だ。

 しかし、テルメドはそんな二人を無視して言葉を続ける。


「もちろん、あのユージとテンの正体も知っております」


 ――この人何言ってんの?

 ――ん? アリーですか。向こうは問題ありませんか?

 ――大丈夫だよー。カナブンはリアンがフミフミしてるし。

 ――カナブン?


「エリネア様、セバスチャン様。もう良いのです。そのような演技をなさらなくても」

「ちょっと……良くわからないのですが」



「つーかテン。カナブンいなくならないぞ」

「うー、どんどん増えてるね。僕もキモくなってきた」


 カナブンは簡単に倒せるのだが、倒せば倒すほど数が増えているような気もする。カラソッソの実がなければこうなるのだろう。おそらくここには魔人も簡単には入れないはずだ。もちろんそれは魔人がカラソッソの実を持っていなければ、の話だが。


「広範囲にダイヤモンドダストバースト仕掛けるか」

「カナブンには過分な魔法だね」

「お前それ……カナブンとカブンをかけてるのか!」

「うっ、それは……」

「さすが凄いちびっ子ニャ」

「裕二様、似てないよ」


 テンが意図していなかった親父ギャグを指摘され頬を赤らめた時、裕二たちの周りを飛び回っていたカナブンが急に遠ざかり出した。途端に緩んだ空気も変わる。


「あれ? カナブンいなくなった」

「いや……何かくる! 警戒しろ」


 裕二の感知能力が何かを捉えた。それはこちらへかなりの速さで向かってくる。


「あ、あれは……」


 そこに現れたのは……


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