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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第四章 エルファス
154/219

154 エルフの兵士


「昨晩考えたのだけれど、ペルメニアの王族である私が、エルフの王、カフィス様に親書を携えて遥々やってきた。と言う事にしましょう」


 ウォルターと別れた翌日。エリネアは移動しながら自分の考えた作戦を話す。


「なるほどな。俺は王女の従者か」

「ええ、演技とは言え心苦しいのだけれど……」

「気にするな。そうだ! セバスチャンも従者として出しとくか。テンは侍女だな」

「畏まりました。では参りましょう、エリネア王女殿下」

「姫様よろしくねー」

「うっ……はい」


 エルフの警戒心はウォルターから聞いている。それを考慮して、スムーズにエルファスに入る計画を立てる。

 エルファスは結界に守られているらしいが、その外側では魔人の監視があるかも知れない。そんな所で、もたつきたくはない。その為の作戦だ。

 王に会ってしまえば裕二の正体を言える。しかし、そこに至るまでが問題だ。出来るだけ裕二の正体を知られてはならない。

 もし魔人がエルファスを監視していたら。裕二の正体を知ったエルフがうっかりどこかで秘密を漏らせば。

 そうなれば最悪、エルファスが戦場になる事も考えねばならない。


「あとはメフィさんのイヤリングもあるし、ウォルターの護符もあるからな。何とかなるだろ」

「メフィさんて、ラグドナールと一緒にいたエルフかしら?」

「そうだ。会ったのか?」

「ええ、ヴィシェルヘイムでユージと会う前にね。見ただけで会話はしてないけど、テリオスにかなり警戒してたわ」

「へえ。またテリーが威圧的な空気を放ってたんじゃないのか」


 何となくそうではないかと想像する裕二。そして、その顔を思い出す。ラグドナール、メフィ、ジンジャー、エムオール。彼らはどうしただろうか。あまり良い別れ方ではなかったので、裕二にはそれが心残りだ。行方不明者として扱われている裕二。きっと心配しているだろう。


「ラグドナールはハルフォード家だからユージの正体を知るはずよ。状況を考えると、彼は自分の率いる隊ごと、ペルメニアに戻るかも知れないわね」

「あ、そうか。なるほど」


 ヴィシェルヘイムは裕二とバチル。そして、バンとセーラの奮戦により、大幅にモンスターを減らした。更にそこにいた魔人も撃破している。となれば、そこに巣食うモンスターはかなり減るので、兵の仕事も減る。クリシュナードが既に顕現していると知ったハルフォード家は、ラグドナールをモンスターのいないシェルラックで遊ばせておくはずもない。彼は曲がりなりにもハルフォード家の当主候補なのだ。魔人との本格的な戦争が近づいているなら、本国に戻されるだろう。


「んじゃ、ラグさんも大隊長くらいに昇格してるかもな」

「どうかしら。あの人はお喋りでヘマする事が多いと聞いてるわ。重大な秘密はさすがに話さないとは思うけど」

「それは……ありそうで怖い」

「さすがにユージの事は話さないでしょ」

「そうかなあ。でもあの人お喋り中隊長だぞ」

「なにそれ?」


 とは言え、キマイラをほぼ全滅させた隊の責任者でもあったラグドナール。裕二の予想もあながち間違ってはいないだろう。裕二の力があったにせよ、シェルラックでは誰にも出来ない大偉業を成し遂げたのだ。


「バンさんとセーラさんは具体的に何をするんだ?」

「あの二人はユージから直接、証を賜る人物。教会と直接対峙する時に必要ね。武力で教会を倒すのではなく、歪んだ教会を信じている人々を救うのよ。証を持つ人物と持たない人物。民はどちらを信じるのか、明白でしょ?」


 とは言え、教会の問題はそれだけではない。教会が何をしようとしているのか。それを先に探る必要がある。


「そちらはテリオスが上手くやるとは思うけど、まだ情報が足りていないのも確かね。学院長を中心に、バイツとリサがそれを探っているのよ」

「そうか……」


 それに必要な情報はどこにあるのか。当然教会にあるはずだが、そこを覗き見るのは簡単ではない。或いは、これから取り戻すかも知れない記憶。そこにヒントがあってもおかしくない。裕二は様々な事に考えを巡らせる。


「…………」

「どうしたの、ユージ?」

「いや、昨日会ったウォルター。まだ知っている事たくさんありそうだったよな」

「……そうね。でも、もう会わないと思うわ」


 アンデッドであるウォルターが、例えばエルファスに現れたら。エルフはその話しを素直を聞き入れるか。その前に攻撃される可能性はかなり高い。ペルメニアならどうか。即座に教会へ通報されるだろう。実質的にウォルターは人里から離れて暮らさなければならない。裕二と今後、会う可能性はかなり低いだろう。教会や聖堂騎士団からすれば、ウォルターは禁忌を犯した大罪人であり、モンスターなのだ。


「まずはカフィスに会うか。奴が何か知ってるかも知れないし」

「ええ。でもエルフの前ではカフィス様、と言ってね」

「はい……」


 エルフの里に行くためのパートナーとして、エリネアは最適の存在だろう。これがバチルだったら、エルファスにたどり着く前に、エルフと戦闘になっていたかも知れない。


「頼むぞ。王女殿下」

「ふふ、任せてちょうだい。私が必ずユージを守るわ」


 エリネアそう言いながら裕二に笑顔を向ける。


「うっ……」


 ――慣れてきたけど、やっぱり可愛すぎる。


「どうしたの、ユージ?」

「いや、何でもない」


 二人は話しを終えると、前を向きひたすら白虎を走らせる。

 まだまだ距離はあるが、裕二とエリネアにとってはそれほど困難な行程ではない。途中、大河を越え、針葉樹が増えてくるとその辺りがエルファスだ。ハッキリした境界はないが、結界の近辺にはエルフの兵がいるはずだ。


「あれが大河なのかしら」

「大河……ではあるけど」


 時間をかけ、大河と思わしき場所まで到達した二人。その川幅は大河と言うに相応しい大きさではあるが、そこに流れる水量はかなり少ない。ほとんど川底の剥き出しになった状態で、今にも干上がりそうな小川となっていた。


「水の精霊が弱く、少ないわね」


 精霊視で確認するエリネア。その状態は、自然のバランスが壊れているようにも見える。だが、自然は時として、その様な状態を自ら作り出す場合もある。人にとっての不都合が、自然にとっての不都合とはならないのだ。今の状態を簡単に判断する事は難しい。


「ここの源流ってわかるか?」

「さすがに、そこまでは地図に書いてないわ」

「うーん、なんか嫌な予感するな」

「そうね。急ぎましょう」


 白虎で小川を越え、ひたすら北東へ向かう。やがて、森の木々は針葉樹へと変わってくる。そこまで来ればエルファスはもうすぐだ。


「セバスチャンとテンはもう出といてくれ。エリネアの従者っぽく振る舞うように」

「畏まりました」

「はーい」


 そこからは白虎を降り、慎重に結界を探す。そこがわからなければ、いつの間にか違う方向へ歩かされてしまう場合もある。


「エリネアは精霊視で見てくれ。俺は魔力を探る」


 精霊魔法による結界なら精霊視。通常の魔法や魔石による結界なら魔力を探ると早い。二人は協力して辺りを調べる。

 この辺りに魔人がいて監視をしていたとしても、ウォルターの護符がこちらの存在を誤魔化してくれるはずだ。とは言え、護符には有効期限がある。なるべく早く探してエルファスに入る必要がある。


「あったわ。精霊の踊り場による結界ね」


 エリネアが木の根本に作られた結界を発見する。裕二がそれを見ると、メフィがホローヘイムで作っていた結界と似ている事に気づく。あの時は結界を打ち破る事は難しかったかも知れないが、今の裕二なら、その仕組みも何となくわかる。同種の精霊を結界に混ぜてしまえば良いのだ。


「壊さずにやる。入り口を作るから素早く通り抜けてくれ」

「わかったわ」


 裕二が地面に手をつき一気に精霊を作り出す。そこから大量の光が溢れ出す。


「相変わらず見事ね」


 何度かその光景を見た事のあるエリネア。しかし、その質と量は以前と違い格段に上がっている。まだ半分以下の力しか取り戻していないとは言え、裕二の力は以前とは比べ物にならないのだろう。

 その裕二によって作られた精霊は結界と混ざりあい、自分の意志が反映される場所を作る。それが結界の入り口となるのだ。


「まあ、強引だが壊すより良いだろ」

 

 そして、エリネア、セバスチャン、テンは裕二の作った入り口を通り抜けようとする。そこから先がエルファスだ。しかし――


「何者だ!」


 ――やっぱり来たか。


 そこに現れたのは二人の弓を構えたエルフ。かなり警戒しており、ウォルターから聞いていたとおりの反応だ。すかさずセバスチャンが前に出る。


「私たちはペルメニアからの使者。こちらは王女のエリネア・トラヴィス様です。エルフの王であるカフィス様に宛て、親書を携えてやって参りました。お目通り願いたい」

「親書だと?」


 セバスチャンは打ち合わせ通りのセリフをそのまま口にする。一応それっぽく見えているはずだ。しかし、エルフは弓を下ろさないまま、こちらへと近づく。


「その親書を見せてみろ」


 エルフのひとりが威圧的にそう言った。弓は相変わらず下ろさない。しかし、それは想定済み。ここからはエリネアのターンだ。


「無礼者! ペルメニアの王、ダムロード・トラヴィスがカフィス様個人に宛てた親書。それを何の権利があって覗き見ると言うのか!」

「そ、それは……しかし、あなた方がペルメニアの使いと言う証拠が……」


 エリネアの剣幕に焦るエルフ。そこへ更に畳み掛ける。


「ならば、これを見るが良い!」


 エリネアは手を振り上げた。すると、そこに嵌められた指輪が美しく光る。そして、その場にスレイプニルを召喚した。


「これはクリシュナード様から賜ったスレイプニルの召喚指輪。ペルメニアの王族以外持ち得ぬもの。これを見てなお疑うのであれば、それはペルメニアに対する侮辱。あなた方の態度が如何なる結果を呼び起こすのか、とくと考えられよ。あなた方の王はそれを望まれるのか!」

「うっ……」


 直接スレイプニルに目にして、それを信じない訳にはいかない。仮にこれを盗んだ物ではないか、とでも軽はずみに言ってしまうと、それはペルメニアがクリシュナードから賜った宝物を杜撰に管理している、と言ってるような意味になる。迂闊なことは言えない。


「で、ですが……我が王は今……人とお会いになれない状態でして……」

「なに? どう言う事だ」


 裕二が驚いて聞き返す。しかし、エルフの返事はハッキリしないものだった。


「それは……申し訳ありませんが、外部の方にはお話し出来ないのです。親書はお預かりしますので、どうかお引き取りを」


 人と会わない、ではなく会えない状態だとエルフの兵士は言う。それはエルファス内部で何かが起きてると言う事なのか。

 予想外の展開に裕二とエリネアは言葉失う。さすがにこれをアドリブで切り返すのは無理だ。メフィのイヤリングもあるが、内情がわからないのなら引いた方が良さそうだ。一旦はは諦めるしかない。少し考えてからエリネアが返事をする。


「わかりました。しかし、親書を預ける訳には参りません。これはあくまでもカフィス様個人に宛てたもの。カフィス様より先に、他の誰かが見る可能性は排除しなければなりません」

「そ、そうですか……なら仕方ありません」

「こちらも一度引き返し、どうするか検討してから、再度お伺い致します」


 エリネアの迫真の演技にも関わらず、エルファスには入れなかった。とりあえずこの場所を離れて新たな作戦を考えるしかない。裕二とエリネアは引き返して行った。



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