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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第四章 エルファス
152/219

152 敵対する村


「とりあえず亜空島と名前つけとくか」


 裕二はセバスチャンが作った亜空間の島に亜空島と名付けた。基本的には寝泊まりする場所だが、何かから隠れたい場合も使える。

 エリネアはその場所がとても気に入ったようで、見慣れない施設に関してもすぐに慣れたようだ。

 これからは特殊な場合を除き、亜空島を利用する事になるだろう。


「じゃあ行くか」


 白虎に乗り込む裕二とエリネア。森の様子も広く探りたいので、上空にはアリーとチビドラコンビを飛ばしながら進む。今日も移動以外は大してする事はないだろう。裕二たちの目指すエルファスはまだまだ先だ。


「ところでユージ。アドレイ・シェルブリットってどんな人だったのかしら」


 クリシュナードの使徒。その代表格のひとり、アドレイ・シェルブリット。

 テリーの話しではクリシュナードに傾倒するあまり、テリーに敵意を向け、アトラーティカをペルメニアから追い出した張本人。彼に教会を任せた事で、現在の状況を生み出した側面もありそうだ。


「うーん。その辺の記憶は薄いな。ただ信用はしていたように思う。悪い奴ではなかったかな。それより、テリーだ。アイツは当時から誰彼関係なくケンカしてたような……」

「あの人は昔からなのね……」

「それでも随分丸くなったんじゃないか?」

「あ、あれで?」


 いずれにしても、その辺の記憶は曖昧なようではあるが、取り立ててアドレイ・シェルブリットに問題があった雰囲気はない。誰にでも欠点はある。その程度の事なのだろうか。


「教会がおかしくなったのは最近の事みたいだからな。アドレイとは関係ないかも」

「でも、アトラーティカの歴史を削ったのは許される事じゃないわ」

「まあ、確かに。それによる不都合はあったかもな。現段階では俺よりテリーの方が詳しいから、何とも言えないな」


 教会についてはわからない事も多く、テリーに任せるしかない。裕二はまだ全ての力を取り戻した訳ではないので、そちらを優先させなければならない。


「そんな事よりも、亜空島は気に入ったか?」

「ええ、素敵な場所ね。テリオスの家も悪くはなかったけど、あそことは比べられないわ。王宮より快適よ」


 そんな話しをしながら先へと進む。


「ミャ!」

「なんだあれ? 村かなあ」

「ミャアアア」

「裕二に教えよー!」


 上空を飛んでいたアリーとチビドラ。その進行方向とはやや逸れた場所に村らしきものを発見する。二人はそれを教える為、裕二の所へ急降下してきた。


「どうした?」

「アッチにむらー!」

「ミャアアア!」


 アリーが村の方向を指差す。

 村がある、となると人が近辺にいるかもしれない。とりあえず裕二は白虎からスレイプニルに乗り換えた。


「スレイプニルなら怖がられないだろうけど、八本足の馬は怪しいかな?」

「そうね。直前で歩きに切り替えましょう。上手く村と交流出来たら、この辺りの情報も欲しいわね」


 二人は人の気配を探りながら村へ向かった。しばらくすると、それらしき場所が見えてきた。

 あまり役には立たなさそうなモンスター避けの柵。あとは貧相な家がいくつかあるだけだ。農地のような場所は見当たらないので、狩猟を主とした村だろう。


「あそこね」


 二人が村人の入り口まで来ると、二〜三人の子供が遊んでいるのが見えた。しかし、彼らはこちらに気づくと大急ぎで家の中へと入っていった。直後に村から強い気配を感じる。


「殺気だ。くるから気をつけろ」

「ええ。わかったわ」


 エリネアが返事をした途端、その足元に矢が突き刺さる。何の変哲もない普通の矢だ。もちろん、こんな攻撃は裕二とエリネアには全く通用しない。威嚇である事も既にわかっている。


「歓迎はされてないな」

「みたいね。引き返す?」

「それもダメらしい」


 数人の村人が弓や鉈を構えながら、こちらへ走ってくる。村の外側からも数人がこちらへ回っており、裕二とエリネアを囲む気らしい。しかし、二人からすると話しにならないくらい遅い。戦闘訓練などした事のない、狩人なのだろう。


「お、お前たち! ここへ何しにきた。人間か。それともモンスターか!」

「モンスター?」

「私たちは人間よ。モンスターではないわ」


 どうやら彼らが警戒しているのはモンスターらしい。しかし、人間とモンスターの区別がつけられないのは何故だろうか。


「な、なら。何か証拠を見せろ。でないと攻撃するぞ!」

「証拠って。何を見せれば?」

「うっ、それは……」


 落ち着いた裕二の問いかけに村人は言葉を詰まらせる。どうやら彼らも何が証拠になるのかわかっていないようで、黙り込んでしまった。そこへ戸惑いながら別の村人が割り込む。


「でも、あの二人アンデッドには見えねえぞ」

「だ、騙されるな。幻術かもしれん」


 彼らが警戒しているのはアンデッドらしい。それもおそらく人に近い形、或いは幻術を使う。しかし、アンデッドではない証明など、どうすれば良いのか。


「私に任せて、ユージ」

「わかった」


 そして、エリネアが一歩前に出た。


「私たちがアンデッドなら治癒魔法でダメージを受けるはずよ。試してご覧なさい」


 それを聞き顔を見合わせますます戸惑う村人たち。エリネアはそれを見て、呆れた表情で言葉を繋ぐ。


「まさか、それさえ出来ずに私たちに証明を迫るつもり? 人と会話出来る程度のアンデッドなら、それでは太刀打ち出来ないわよ」


 エリネアの言葉に顔を強張らせる村人。おそらく、この中に魔術師はひとりもいない。しかし、彼らは戸惑いながらも弓をおろそうとはしない。どのように証明すれば納得するのか。それには答えられず、武器も下ろさないのではお手上げだ。


「仕方ない。武器を取り上げるわ」

「うっ!」


 そう言った途端、村人たちが地面に膝を突き武器を落とす。エリネアがソニックディストーションを使った。そして、間髪入れず素早く短杖を振ると、瞬く間に武器がその足元に集まる。それに唖然とする村人たち。驚きすぎて危機感すらないようだ。


「私たちが敵なら、全員死んでるわね」


 そう言いながらエリネアがもう一度短杖を振ると、武器の中から一本の鉈が飛び上がり、近くの木に凄まじい勢いで突き刺さる。


「ひぃ!」

「次に攻撃したら殺します。行きましょうユージ。ここに寄る必要はないわ」


 エリネアは少し怒っていた。皇王陛下である裕二に、武器を向けるなど言語道断。ここがペルメニアなら全員重罪だ。しかし、それをこんな所で言う訳にもいかない。その歯がゆさがエリネアを苛立たせる。

 そして、エリネアが裕二の背を軽く押しながら立ち去ろうとした時――


「ま、待ってくれ。済まなかった」


 ひとりの村人が声をかけた。裕二がそちらをチラ見すると、まだソニックディストーションの影響から立ち直れていないが、必死に懇願しているように見てとれる。


「頼む。どうか、話しだけでも」

「エリネア。話しだけでも聞いてやろう」

「……そうね。ユージがそう言うなら」


 本来なら、いきなり武器を向けてくる者の話しなど聞く必要はないが、彼らには、そうしなければならない事情がありそうだ。

 裕二たちが聞く態勢をとると、村人が話しを始めた。


「本当に申し訳ねえ。俺たちではモンスターと人間の区別がつかねえ。だからこの辺りで見慣れない者は警戒しなきゃならねえんだ」

「それはわかったわ。話しを続けてちょうだい」

「実は……」


 彼らの話しによると、この辺りで十年ほど前から、そのアンデッドらしきモンスターの目撃があると言う。

 遠くから見ると人間の老人に見えるのだが、近くで見ると皮膚は乾燥し、骨に張り付いているだけで、とても生きてる人間には見えないそうだ。


「そんな老人ひとりが、こんな場所で生きていけるはずがねえ。ありゃモンスターだ」

「……でも、何でそれがアンデッドだと?」

「それは……」


 この森にはここ以外にいくつかの村がある。どこも数十人程度の小規模な村だが、その中に数人、祈祷師や占い師がいる。


「彼らが口を揃えてアンデッドだと言うんだ。そして、その力は恐ろしく、幻術なんかで人を騙して食っちまうそうだ」


 この辺りには普通のモンスターも出るが、彼らにとってはそれ以上の脅威になっているとの事だ。他のモンスターはなんとかなるが、そのアンデッドは十年前から倒されておらず、この森に棲み着いている。


「なんでも、他の村じゃ迷子の子どもを攫って食ったとか」

「俺が聞いたのは、女に化けて若い男を攫ったって話しだ」


 村人は口々に証言する。内容についてはどれも似たりよったりだ。エリネアはそれを遮り言葉を発する。


「それで、そのアンデッドを退治してほしいと?」

「はい。あなた様のような魔術師様なら、きっとアンデッドも倒せるのではないかと」

「ユージ、どうします?」

「うーん。見つけられれば対応しても良いけどなあ」


 裕二たちも目的のある旅なので、ここに留まって、と言う訳にもいかない。倒すのは難しくないかも知れないが、この広大な森からアンデッド一体を探すのはかなりの手間だ。


「そのアンデッドの目撃場所は?」

「はい、ここから北東にある沼の近くです。魚を取りに行くと良く遭遇します」

「北東なら行くから、少し探して見ますよ。でもあんまり長々とは探せないので、見つけられなかったら諦めて下さい」

「そ、そうですか。では是非それでお願い致します」


 村人は二人に頭を下げる。裕二たちはそこまで話しを聞くと、村には留まらず、そこから立ち去った。そして、しばらく移動して、村からかなり離れてから、亜空島で休む事にした。


「どう思う、エリネア」

「話しがめちゃくちゃね。彼らの言う内容では、かなり高位のアンデッド。それが迷子を攫うとか女性に化けるとか。本当ならとっくに村ごと殺されるかゾンビにされてるわよ」

「だよな。全部うわさ話だったし」


 村人の話しでは、アンデッドは人と見た目が近く言葉も話す。ならばヴァンパイアのような高位のアンデッドだ。低位のアンデッドなら、ゾンビやグールなど人とは間違えにくく言葉も話さない。

 しかし、聞いた限りでは村に被害はなく、話しは全てうわさ話。迷子はいたかも知れないが、その迷子がモンスターに襲われそうになった。とかの話しが、いくつかの村を渡り、迷子がアンデッドに攫われた。となってもおかしくはない。村に目撃者はいるようだが、何度も目撃しながら明確な被害はない。他の村では、から始まるうわさ話しかないのだ。

 正直、あまり信憑性がなく、村に被害もないなら、いちいち探して討伐する必要性は感じない。


「普通にただの老人じゃないのか?」

「かも知れないわね」

「まあ、一応通り道だし、軽く探してみるか」


 北東にある沼。その近辺でアンデッドの目撃が多い。地図には載っていないので小さな沼なのだろう。裕二たちは一休みしてから、そちらへと向かった。一応引き受けたので探してはみるつもりだ。とは言え、村人の証言もあまり信用出来ないので、緊張感は全くない。


「そういや、さっきのエリネアの魔法は見事だったな」


 村人から一瞬にして武器を奪い去ったエリネア。裕二からするとサイコキネシスなのだろうが、この世界では感覚魔法の部類に入るのだろう。


「ええ、テリオスに散々鍛えられたの。あの程度は出来ないと話しにならないって」

「なるほどな。アイツかなり厳しそうだな」

「ええ、嫌になるくらい厳しいわよ。でも感謝はしてるわ。テリオスに厳しく教えられるのは価値のある事よ。嫌にはなるけど」

「うん。何となくわかる」


 バチルと比べると剣や格闘では劣るだろうが、魔法は確実に上回っているだろう。それ自体は大した魔法でなくとも、スムーズに素早く使いこなす。それを見れば技量もある程度推測出来る。

 おそらく、かなりの魔法を身につけているはずだ。もし、アンデッドが現れたら、エリネアに任せてみるのも良いかも知れない。


 地上を白虎で走る裕二とエリネア。その上空から沼を探して、アリーとチビドラが飛ぶ。


「あれかなー?」

「ミャアアア?」


 それらしき場所は割りとすぐに見つかった。アリーはそれを裕二に伝える。

 いく筋かの小川が流れこむ沼。近くには小山があり、民家らしきものは見当たらない。おそらく村人の言った沼はここだろう。


「ゆっくり行ってくれ、白虎」


 速度を落とし、辺りを感知能力で探りながら白虎を走らせる。


「ユージ。アンデッドは気配が薄いの。匂いで探る方が良いわ」

「匂いか。なら引き続き白虎だな。頼むぞ」


 裕二の命令で、匂いを嗅ぎながら進む白虎。既に何かを捉えているのか、ゆっくりだが迷いなく進む。やがて白虎が立ち止まり、ひとつの方向に顔を向ける。そちらに何かがいるのだろう。


「確かに気配は薄いが……何かいるな」


 そこからは白虎を降り、臨戦態勢で進む。そして、しばらく行くと村人の言う、老人らしき影が見えてきた。裕二とエリネアは慎重に近づく。それから発する気配はかなり薄いが、人とは違うものだ。見た目からも、アンデッドで間違いないだろう。そしてそれは既に、こちらの存在に気づいている。気づいているのに何故か動く気配は全くない。


「こっち見てるな」

「あれは……リッチかしら」


 リッチだとしたら高位のアンデッドだ。村人の言うとおり言葉も話すだろう。その魔法はかなり強力。何故ならリッチは元々人間。しかも高位の魔術師だった者がそう呼ばれる。自我と魔法を保ったままアンデッドとなり、更なる力を手に入れた強力なアンデッドなのだ。


「強いぞ。油断するな」

「ええ」


 そして、エリネアが短杖を構えた瞬間、それは動き出す。


「こんにちは、旅の方々。迷われたのですか」


 リッチと思わしきアンデッド。彼は胸に手を当て、腰を丁寧に折り曲げ、優雅に挨拶をしてきた。見た目はかなり乾燥してミイラのようだが、身にまとうものは高級感のある緑色のローブだ。発する言葉も高い知性を感じさせる。


「私に攻撃の意思はありません。あなた方には絶対勝てませんから。特にそちらの男性」


 そう言いながらアンデッドは裕二に指を差す。こちらの力を正確に見抜いているのだろうか。ちょっと意外だ。

 その裕二は警戒しながらも臨戦態勢のエリネアを手で制しながら口を開く。言葉の上では敵意はないと表明しているのなら、こちらも言葉で対応する必要はあるだろう。


「あんた何者だ。ここで何をしている」


 その問いにアンデッドは静かに答えた。


「私はリッチ。名をウォルターと申します」


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