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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
150/219

150 そして、エルファスへ


「最後にグラスコード家の事だ」


 グラスコード。裕二はその名を聞いた途端、神妙な表情に変わる。

 自分がクリシュナードだと知った裕二。その身分も意図していなかったにせよ、理解はしている。

 客観的に見ても、ペルメニアの最上位にいる人物に対し、グロッグやシェリルの行った事を考えれば、どうなるのかは容易に想像がつく。


「詳しく話してくれ」


 テリーは裕二が学院を離れた直後の事から話しだす。

 裕二自身の書いた手紙。それをジェントラー家が調べ、全て事実だと保証した。その内容は宮廷諜報団により更に詳しく調べられ、グロッグ、シェリルも全てを認めた。

 彼らのした事は、皇王陛下を殺害しようとまでしていたのだから、ペルメニアに対する反逆に等しい。


「中心となる関係者は全員幽閉されている。グラスコード家は爵位と領地を失い、表向きはそのままだが、実質的には解体されている」

「…………」

「そして、シャストニア・グラスコードとマレット・パーキンスはお前の恩人と言う事にして罪人ではあるが、丁重な扱いを受けている」

「そうか……」


 裕二はそこまで望んでいた訳ではない。グロッグとシェリルが悪ささえしなければそれで良かったのだ。


「最終的にその処分を決めるのはお前だ」

「そうだな……」


 裕二の恩人と裕二を殺そうとした者が同時に存在するグラスコード家。元いた世界なら罪人のみを裁くのだろうが、ここではそうはいかない。禍根を残さない為に、一族全てが処刑されてもおかしくはない。

 裕二としても、たった今その話しを聞いて、処分を即決する事は出来ないだろう。


「一応、俺の指示で奴らはその後も監視している」

「そうなのか?」


 テリーによると、幽閉されている関係者は二十四時間監視され、今現在も様々な方法で調べられている。その主なやり方は取調べと称し、その内心を探るのだが、彼らは元とは言え侯爵家。つまりほとんどが程度の差はあれ、魔法が使える。その中で一番の実力者はシェリルだ。


「実は魔法が使えるように、隙を作ってある」


 本来ならそれも出来ないようにするのだが、グロッグとシェリルに関しては、工夫をすればメッセージのやり取りが出来るようにしてある。

 彼らは別々の建物に幽閉されているが、その建物の窓から、ギリギリお互いが見えるように部屋の配置をされている。


「シェリルはすぐ、それに気づいた。そして、小さな紙片と風魔法を使い、メッセージのやり取りを始めた」


 紙片を丸めて窓から外に投げる。地面に落ちた紙片は風魔法により動かされ、グロッグの部屋に届く。グロッグはその紙片の裏に返信を書くが、そこまで魔法は使えないので、それも同じようにシェリルが運ぶ。そして、読み終わったら、証拠隠滅の為に、火魔法で燃やされる。

 だが、そうなる事は予め予想されており、部屋には監視の為の魔石が巧妙に設置されている。書いてる時点でメッセージの内容は全て見られているのだ。


「グロッグについてはユージを恐れ、シェリルを諌めるような内容を書いている。だが、シェリルは全く反省していない」


 二人は父親から直接、裕二の事を、グロッグとシェリルの首を持って、父親である侯爵自身が跪かなければならない相手だと聞いている。そこまでしなければならない人物などほとんどいない。

 自分たちより上位の者となると、使徒の家系最上位の七家。そこに含まれる教会上層部や王族となる。だが、考える時間だけはたっぷりある二人。その答えを導きだしてもおかしくはない。


「グロッグは半信半疑だが、ユージがクリシュナードではないかと思っている。それをシェリルにも伝えているが、シェリルは信じようとはしない。そうであっても関係ないだろうな」


 グロッグも反省している訳ではなく、裕二に対する不条理な感情より、恐れが上回っているだけだ。今後、裕二に対して何をする事もないし何もしようがないが、本質は変わっていない。


「今は処分を決めかねるな。処刑したいとは思っていないが……」

「それもお前が顕現したと知れ渡るまでだ。そうなればグラスコードの件は隠しきれない」


 裕二がクリシュナードだとわかってしまえば、グロッグとシェリルが何故チェスカーバレン学院からいなくなったのか、元クラスメイトの口から多くの貴族にも知れ渡る。裕二の同級生は、グロッグとシェリルが何をしたのか、全てではないが知っているのだ。

 裕二は彼らが、殺される程の罪だとは思っていない。しかし、ペルメニアの立場ではそうならないのもわかっている。

 グロッグとシェリルのした事が広まれば、彼らはペルメニアの敵となり、裕二が許したところで別の形で殺されるだろう。


「後々グラスコード家を生かしたいのなら、グロッグとシェリル、それに加担したメアリーは切る必要があるぞ」


 つまりその三人は処刑してグラスコードとは切り離す、と言う事だ。その上で彼らの功績面を強調すれば、国外追放くらいには出来る。グラスコードは名を変えて開拓民のような生活にはなるが、そうでなければ周りも納得はしない。


「今は厳重に幽閉しとくしかないか」

「わかった。だが、ユージ。奴らは何も出来ないとは言え、今でも敵である事を忘れるな」


 テリーはそう言って話しを締めくくった。裕二にとっては頭の痛い問題だ。恩人であるグラスコード侯爵とマレットは何とかしたいが、グロッグとシェリルをどう扱うかで、そちらも影響してくる。

 裕二が皇王として強引に決めてしまう事も無理ではないのだろうが、それは別の形でグラスコード家を苦しめるだろう。

 実質的には、彼ら全員を生涯幽閉しておくか、もしくはテリーの言うやり方しか選択肢はない。裕二がペルメニアに戻るまでに、どうするか決めておかねばならないだろう。


「嫌な話しになったが、とりあえず帰るか」

「そうだな」



 裕二たちは二日ほどゆっくり過ごし、その後、裕二とエリネアは北へ。テリー、バン、セーラ、バチル、メリルはペルメニアへ戻る事となった。

 その前にやっておく事が、バンとセーラを正式にクリシュナードの騎士、巫女、とする事。とは言ってもそれほど仰々しいもなではなく簡単なものだ。

 宮殿内の小部屋でエリネアとテリーの立ち会いのもと、裕二がそれを認めれば良い。

 そして、皇王である裕二の前にバンとセーラが跪く。


「お二人ともそれで良いですか」

「もちろんです。身に余る光栄、お受け致します」

「わ、私がクリシュナード様の騎士に……なんとありがたき幸せ」


 そうする事で二人はクリシュナード正教会最上位の騎士、そして巫女となる。

 二人にもちろん異論はない。そして、跪く二人の前に裕二がアリーとムサシを呼び出した。


「やれそうか。アリー、ムサシ」

「うーん。たぶん」

「うむ」


 ただ、王族とジェントラー家がその証人とはなるが、それだけでは不足だ。バンとセーラが口でそう言ったところで誰も信用しない。そこには証が必要になる。それをするのがアリーとムサシだ。

 ムサシは跪くバンの前に立ち、両の拳を突き出す。その親指と親指を合わせるように二つの拳をつけた。するとその間から強い光が漏れてくる。


「むう!」


 そして、その拳がゆっくり引き離されると、その中から光に包まれた剣が現れる。


「こ、これは……」

「鬼神メトロハイドの剣。ハイドラだ。受け取れ」


 ――鬼神メトロハイド。それがムサシ殿のかつての名……そして、この剣がクリシュナード様の騎士である証。


 テリーの説明を受けてからムサシに剣を渡されるバン。鞘と柄に見事な彫刻の施された片刃の剣。


「抜いてみろ」


 テリーにそう言われ剣を抜く。すると、それは緑色の光を放っている。ライトブレードと同じ輝きだが、バンはそれほど魔力を込めている意識はない。


「現在、それと同じ物は使徒の家系、七家に門外不出の宝物として一本ずつあるはずだ。単なるライトブレードではない。恐ろしく魔力消費の少ない魔剣になる。ドワーフの名工でも作れん」

「そ、そんな凄い剣を……」


 バンがその刀身をジッと眺めていると、ムサシが拳を開いて差し出す。貸してみろ、と言う事らしい。バンはそれに応じる。そして、ムサシがその柄を握る。


「むっ!」


 ムサシが魔力を込めると、その刀身が赤、紫、青と変化を繰り返す。


「プラズマブレードだな。そこまで使いこなすのはさすがに難しい。そうなれるよう、精進しろって意味だろ」


 魔剣ハイドラは、ライトブレードからプラズマブレードへ変化する、とテリーは説明する。ムサシはあっさりやっているように見えるが、そうなるには血のにじむような修行を要する。

 ムサシの元で短い期間だが修行をしたバン。それは師匠からの課題でもあるのだろう。


「ムサシ殿……必ずや、この剣に恥じぬよう、精進を重ねてまいります」

「うむ」


 そして、アリーの前ではセーラが跪く。だが、こちらはどうすれば良いのか、セーラは戸惑う。


「セーラは銅鏡を出すんだよ」


 アリーの隣にいきなり現れたテンが、そう説明する。それを聞いたセーラは祈りを捧げながら自分の目の前に銅鏡をイメージする。

 それが見えるのはセーラと裕二、裕二のタルパだけだ。他の者にはそれが見えない。

 

「はい、見えてきました」


 セーラがそう言うと、アリーが銅鏡に触れる。するとそこから凄まじい勢いで精霊が溢れだし、銅鏡を完全に覆う。


「こ、これは」


 その様子を精霊視で見ていたエリネアは言葉を失う。たくさんの精霊が現れそれがひとかたまりになり、その後に精霊は光を失い取り払われる。そして、そこに現れたのは、完全に具現化され宙に浮いたままの銅鏡。それはセーラや裕二だけでなく誰の目にもハッキリと見える。


「それが浄化の鏡のオリジナルだ。残っているなら教会にひとつだけあるはずだな。今までセーラや他の巫女が使っていたのは全てレプリカだ。本物は祭壇など必要ない。それがクリシュナードの巫女。その証となる」


 セーラだけがそれを扱える。もし教会の高位聖職者がこれを見たら、クリシュナードから直接賜ったものだと気づくだろう。そうならなければ、それは教会の側に問題があるのだ。


 クリシュナード本人により、その直属となる騎士と巫女が決められた。本来、教会はこれを覆す事が出来ない。しかし、今現在はどうなのだろう。


「まあ、これで役者はそろった。ユージ。こちらは任せておけ」

「ああ、頼んだぞ」



 これでこの地でやる事は全て終わった。裕二はエリネアを引き連れて皆とはここで別れる事になる。表に出ると村の者も見送りに出てきた。


「エルクシャ。引き続き村を頼むぞ」

「お任せ下さい。再びのお帰りをお待ちしております」


 そして、バンとセーラに目を向ける。


「バンさんはセーラさんをよろしくお願いします」

「はっ、私の命と引き換えにしても、セーラ様はお守り致します」

「セーラさんもお元気で」

「はい……また、ペルメニアで会える事を心待ちにしております」


 必死で笑顔を取り繕うセーラ。裕二はそれを見て、セーラの肩に手を置く。


「また必ず会えますよ。それまで無茶だけはしないように」

「はい!」


 裕二はバンとセーラに握手を求めてから、今度はバチルとメリルの前に立つ。


「お前には本当に世話になったなあ」


 裕二はこれまでのバチルとの旅を思い出す。タルソットでバチルがいなければどうなっていたか。無実の村人に危害を加えていたかも知れない。谷でもバチルがいたからこそ、あそこまで戦えたのだ。何だかんだとメチャクチャな奴ではあったが、かなり助けられたし、バチルとの旅は楽しかった。

 裕二はそんな事を思い出しながらバチルに手を差し出す。すると――


「隙ありニャ!」

「いてっ!」


 いきなりバチルにぶん殴られ、吹き飛ばされた。渾身の一撃だ。裕二は困惑した表情で顔を押さえる。


「ニャッハッハッハ! これで一勝一敗一引き分けニャッ」

「お、お前! 陛下になんて事するですニャ!」


 ――まったくコイツは……


「いや、いいんだメリルさん」


 バチルに殴られた裕二に周りは唖然とする。メリルは即座にバチルを捕まえようとするが、それを裕二が止めた。

 バチルとは学院時代に武闘大会で裕二が一勝。タルソットでも戦ったが、これは有耶無耶になったので引き分け。そして、今の一撃がバチルの一勝と言う事らしい。


「今度はペルメニアで戦うのニャ!」

「よしわかった。負けた方が――」

「バターソテーニャ!」

「だな。つーかお前バターソテー作れんのかよ」

「ニャッハッハッハ、作るのはユージニャ!」


 相変わらずのバチル。裕二がクリシュナードだとわかっているのか。そもそもクリシュナードが何なのか知っているのかすら疑問だ。そして、最後にテリーと言葉を交わす。


「後は頼む。なるべく早く戻るつもりだ」

「ああ、そうしてくれ。おそらく魔人が動き出す日は近いからな」

「その鍵は教会か……」

「そう言う事だ」


 裕二とテリーは再会を約束して強く握手をする。

 ここから北へいくには、通常なら元来た道をヴィシェルヘイムまで戻り、そこから北へ向かう。何故ならここは半島。真北には海がある。しかし、その海を越えればかなり近道にはなる。

 裕二が記憶を取り戻した今、海を越える方法もない訳ではない。


「チビドラ。ワイバーン呼んでくれ」

「ミャアアア!」


 半島の周りに棲息するワイバーン。それに乗れば、対岸までは行けるだろう。ただ、それを人に見られたり、ワイバーンが遠くまで飛びすぎて元の場所に帰れなくなるのも困るので、そこからは普通に移動する。

 やがてチビドラが大きめのワイバーンを一体連れてくる。


「ゆっくり飛んでもらうか。エリネア、乗ってくれ」

「はい!」


 裕二とエリネアが乗り込むと、ワイバーンは大きな風音をたてて羽ばたき、ゆっくりと上昇していく。


「じゃあな。みんなも無事にペルメニアへ戻れよ! そっちで会うからな」


 裕二とエリネアは手を振りながら、飛び立つ。ワイバーンは高空へゆっくり登ると一気に海の彼方へと消えていった。

 残された者たちはそれが見えなくなるまで手を振る。


「さて、俺たちも行くか」


 テリーがそう言って振り返る。

 バン、セーラ、バチル、メリルは力強く頷く。裕二の記憶が戻り、自分たちのしなければならない事もハッキリしている。今は別れを惜しむよりもそれを片付け、裕二たちと再開する事が目標だ。


「テリオス様、ユージ様は無事、戻られるでしょうか……」


 不安そうな顔のセーラがテリーに訊ねる。


「当然だろ。アイツは全ての魔人を倒す為に帰ってきたんだ。その方法を持ってペルメニアに戻るさ」

「はい……」


 しかし、その答えではセーラの顔は晴れないようだ。そこへバンが微笑しながは口を挟む。


「テリオス殿。セーラ様はユージ殿が旅立たれてお寂しいのですよ」

「何だ? エリネアにユージを取られると思ってるのか?」

「い、い、いえ! そう言う訳ではなく!」

「心配するな。それはユージに言っておいてやったぞ」

「な、何を言ったのです!」


 セーラは顔を真っ赤にしてテリーに抗議する。それを見たバンも笑っている。


「クルートート卿!」

「いや、申し訳……」

「それだけ元気なら大丈夫だろ。ペルメニアへ帰るぞ。メリルはバチルが逃げないようにしとけ」

「わかったですニャ」

「うニャー。ハラ減ったニャ」


 そして、彼らもペルメニアに向けて旅立つ。


 魔人との戦争はまだ終わってはいない。むしろこれからだ。彼らはその最後の一体まで倒さなければならない。それをする事でこの世界は本来の形に戻る。しかし、それをするのは簡単ではない。かつての大魔術師、ユージーン・クリシュナードさえ出来なかった事。裕二はその力を取り戻し、新たな仲間とともにそれを成し遂げる。

 それをするにはまだ多くの困難を乗り越える必要があるのだろう。

 しかし今、何をすべきかは見えてきた。


「エリネア! 落ちるなよ」

「た、手綱はないの!」

「付けときゃ良かったな。失敗した」


 それぞれがそれぞれの道を進み、やがて彼らは再び相まみえるのだろう。その時、何が起こるのか。それはまだ、誰にもわからない。


三章はこれで終了です。長かった……

三十話くらいで終わると思ってましたが、五十話越えてしまいました。

次回から四章ですが、話しはまとまってないので再開には時間がかかります。

どれくらいの期間かはわかりませんが、予めご了承下さい。

なるべく早くに再開したいとは思っておりますが、こればかりはアイデアがまとまらないとどうにもなりません。

いつも書き始めは思うのですが、これどうやってまとめんだよ? って段階ですかね。

まあ、なんとか頑張ってみます。

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