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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
15/219

15 図書館


 裕二は放課後、ひとりで図書館に来ていた。とは言っても、それは他から見たらという事だ。霊体化したセバスチャンが傍らにおり、そしていつも通りチビドラに乗ったアリーもいる。


 ――本いっぱいあるよー。

 ――ミャアアア。


 図書館では多くの生徒が勉強しているが、その中で一際目立つ少女がいる。


 ――エリネアだな。


 いつも数人の取り巻きがいるエリネアだが、今日はひとりのようだ。おそらく真面目なエリネアの事なので、ひとりで集中する為ついてこない様に言ったのだろう。


 裕二としては余り近寄りたくない。近寄ったとしても話す事はない。エリネアもこちらに気づいていないので、とりあえず無視する。


 ――良し、全員で良さげな本を探そう!

 ――わかったー!

 ――ミャアアア!

 ――畏まりました。


 と、全員で本を探し始めると、早速アリーが何か見つけた。


 ――あったー!

 ――どれどれ。『ドラゴンとクマさん』か。ある日クマさんはお弁当を持ってピクニックに行きました。って童話じゃねーかよ!

 ――ピクニック行きたい!

 ――ミャアアア!


 というミニアクシデントも乗り越え、裕二が見つけたのは『高等魔法スペルブック』そしてセバスチャンが『精霊魔法の初歩』そしてチビドラが『儀式によるドラゴンの具現化』という本だ。ちなみにアリーは『ドラゴンとクマさん』の前でフワフワ飛んでいる。


 ――セバスチャンのは良さげだな。チビドラのは難しくないか?

 ――ミャアアア。

 ――まあ、後で一応読んでみるよ。


 全ての本をじっくり読んでたら大変なので、セバスチャンに手伝ってもらう。その方法は、セバスチャンが外に出て実体化する。図書館は学生以外も入れるし、セバスチャンは人間にしか見えないので、裕二とは別行動で『高等魔法スペルブック』に書かれた術式の中から良さそうなものを選びだし、ノートに書く。という方法だ。

 ちなみにアリーも羽を消して人間サイズで実体化、『ドラゴンとクマさん』を読むためだ。

 チビドラは霊体化のまま裕二の頭の上で寝ている。


 ――アリーはちょっと目立ってるな、まあいいか。


 アリーは元々妖精の美少女だ。裕二がアリーを作る時、インターネットで様々な妖精の絵を参考にし、他のタルパより時間をかけて作られている。裕二は見慣れているが、その美少女っぷりはエリネアにも劣らない。その上、この世界では見慣れないドレスを着ているので結構目立つのだ。男子生徒がチラチラとアリーを見ている。


 とりあえず裕二は『精霊魔法の初歩』を読み始めた。授業ではまだ習わない精霊魔法だが、学校で習うような魔法なら、裕二が使えても問題ない。

 精霊魔法とは、通常魔法が自分の魔力だけを使うのに対し、精霊を通じて自然界の魔力を得て更に大きな効果を出す魔法だ。使える魔力が大きい事と、精霊を通して簡略化出来る部分も増えるのでそのバリエーションは通常魔法よりも広がる。大雑把に言うと通常魔法をパワーアップさせるものと思えば良い。


 ――なるほどな。しかし精霊って事は、もしかしてタルパとして作れちゃったりするのかな? 他のタルパみたいな固定化されたものより、使い捨てみたいのが良いな。


 と、考えながら裕二はイメージする。それは様々なエレメントの光。それが裕二の周りをユラユラと漂う。裕二の魔力がそこを通り自然とリンクする。


「!!」


 ――なによあれは! あそこにいるのは……ユージ。


 驚いているのはエリネアだった。彼女は精霊魔法は使えないが勉強はもちろんしている。その前段階として、精霊を視認する為の精霊視という魔法を身につけているのだ。


 ――あんな数の精霊が……城で見た召喚魔法でもあれほどの精霊はいなかったはず。


 そして裕二の方は頭の上で寝ていたチビドラが、急に起き上がった。


 ――どうしたチビドラ?

 ――ミャアアア。

 ――裕二変なの作ってたよー。

 ――ですが、すぐ消えましたね。

 ――そうなのか?


 裕二とタルパ達はそれぞれの場所から念で会話をしている。


 エリネアは精霊視が使える様になって、様々な場所でその練習をしていた。精霊が集まる場所というのは街中より自然のある場所の方が多い。場所により効果が変わるというのが精霊魔法の欠点でもある。それを差し引いても通常魔法よりは威力は高いし、そういう場所で精霊を集める為の香もある。エリネアは精霊の集まりにくい閉ざされた図書館の様な場所で、あれだけの精霊を集めていた事に驚いたのだ。


 ――消えた? でも今のは確かに精霊。それも若草に集まる様な生まれたての……


 その時、裕二は物凄い視線を感じていた。先程エリネアがいた場所からだ。


 ――裕二、エリネアすっごい見てるよ。

 ――ミャアアア。

 ――わかってる、言うな。つーかお前もエリネアを見るな! 実体化してるんだぞ。


 少しづつエリネアからの視線も治り、裕二はチビドラの選んだ『儀式によるドラゴンの具現化』を読む。


 ――ミャアアア。


 おそらくチビドラはタイトルのドラゴンという部分だけで選んだのだろう。内容はかなり難しく、チビドラが内容で選んだとは到底思えない。儀式に使う物が多く複数の術者の役割など覚えきれない。辛うじてドラゴンを具現化して召喚する魔法という事が理解出来る程度だ。個人でやるのは完全に不可能だろう。


 ――やめた。チビドラいるしな。

 ――ミャアアア。

 ――お前を成長させた方が早そうだし。

 ――ミャアアア!


 チビドラはその言葉が嬉しいのか、裕二の体にグイグイ頭を擦り付けてくる。はっきり言ってドラゴンというよりネコだ。


 一通り読み終えるとセバスチャンの方もだいたい終了し、寮に帰る事にする。



「おそらくエリネア様は裕二様が作ったものを見たのでしょう。タイミング的にそうなります」

「あの時は精霊作ったのかなあ。俺には見えてなかったけど」

「私も見えませんでしたが、裕二様が何かを作った、と感じる事は出来ました」

「ミャアアア」

「私も見えなかったけど、チビドラは見えたってさー」

「つまり霊体化なら見えるという事でしょう。実体化による余計なフィルターのかからない状態なのかも知れません」

「なるほど。でもまさかチビドラを見てたとかじゃないよな」

「それならもっと早い段階で似たようなリアクションがあるはずです」

「それもそうか。アリーとチビドラは霊体化でエリネアの周りを飛んでる時もあるしな。すると何らかの方法で精霊を見る事が出来る事になるな」


 その件は後で考えるとして、もうひとつの成果、セバスチャンのノートを見る。

 その内容は予想以上にぎっしり書き込まれていた。しかも裕二より字が綺麗だ。


「スゲーな、おい」

「たくさんありますので少しづつやりましょう。私のオススメはジャミングです」


 ジャミングは低位の魔法で使われる術式に共通するワードを破壊し、魔法を発動させない魔法だ。高位魔法になると長い術式の一部を破壊しても、他のワードで補完されたりして効果は期待出来ない。


「それ良さげだな」

「説明によると術式そのものより、魔力の操作が重要なようで、それが高難易度となります。ですが感覚で超能力を操る、すなわち魔力を操る裕二様にはうってつけとなります。武闘大会では魔法科の生徒に有効でしょう」

「騎士科の身体強化にも効くのかな?」

「そのへんも後で調べて見ましょう。他にもオススメは沢山ありますので」



 夜になり裕二は窓からそっと寮を抜け出す。とは言っても寮には門限などはなく、玄関から出ても問題はない。ただ目立つのが嫌なだけだ。

 そして寮から抜け出す場合、白虎を憑依させる。ムサシでも良いのだが、移動が速く気配を消すという点で白虎は優れている。特に気配を消す能力は、ネコ科の狩りをする習性なのかかなり高い。ちなみに憑依の場合は四足でも二足でも走れる。

 そして向かった先は森の演習場だ。暗闇なのでテンに辺りを薄く照らしてもらう。


「それでは私が火魔法を使いますので、裕二様はジャミングでそれを阻止して下さい」

「わかった……って、セバスチャン魔法使えるのか?」

「ずっとお側で拝見しておりましたので使えると思います。高位魔法となるとわかりませんが、低位魔法ならアリーも使えるでしょう」

「そうなのか……良し、わかった」


 セバスチャンは真剣な表情になると、いきなり詠唱もなしに火球を放つ。


「うおっ!」

「裕二様、ジャミングをしなければ」

「いや、本当にセバスチャンが魔法を使えるのかなと思って」

「もちろんです」


 そういうとセバスチャンは簡単そうに手の平を上に向け、そこに火球を作り上げる。


「何か様になってるな」

「ありがとうございます。ではもう一度いきます」


 そう言って、セバスチャンは再び火球を放とうとした。しかし――


「む? 発動しませんね。成功でしょうか」

「っぽいな。でも色んなパターンでやった方が良さそうだ。詠唱時や他属性でもやってみよう」

「畏まりました」


 そんな感じでしばらく練習をしていると、何者かの気配を感じる。同時にアリーが「おじいさんがきたよー」と伝えてくる。


「おじいさん?」

「こんな時間に誰かと思ったら裕二ではないか」

「学院長!」

「おじいさんでも構わんぞ」

「し、失礼致しました」


 相手がリシュテインなので、一度見られてるタルパ達は実体化を解かずに挨拶をする。


「リシュテイン学院長、お久しぶりでございます」

「こんばんはー!」

「ミャアアア!」

「おう、お主らも久しぶりじゃの。こんな時間まで訓練か?」

「まずいですか?」

「いや構わん。裕二の能力は昼間に堂々と練習出来るものではないしな。何をしておった?」

「ジャミングの練習ですね」

「ほう、もうそこまで行きおったか。どれ、ワシにやってみよ」

「え?」

「裕二様。せっかくの機会ですから」

「そうだな」


 リシュテインは裕二に配慮してなのか、詠唱を入れて火球を放とうとする。裕二はすかさずジャミングで対応するが……火球はそのまま放たれる。


「あ、あれ?」

「今のはジャミングを防御する結界を使ったのじゃよ」

「結界!」

「まあ一年生では使える者はおらんじゃろが、四年生あたりならいるかもしれん。ジャミングは使用がバレれば対策されやすいという事も覚えおけ。防ぎ方は他にもあるのでな。裕二はおそらく『高等魔法スペルブック』を見たのではないか?」

「はい、そうです」

「やはりな、あれは沢山術式が載ってるが細かい事は書いとらんからな。まあ色々試してみよ」

「はい、わかりました」


 裕二はリシュテインの言葉に素直に答える。さすがは学院長なのか、短いアドバイスでも非常に為になると感じていた。しかし一年生で使える者がいないというのは違和感を感じる。何故ならその時、裕二の頭の中にはテリーの姿があったからだ。この程度ではテリーに通じないかも、と考えた。


「ところで今日はリアンはおらんのか?」

「いますよ、リアン」


 裕二が呼ぶと暗闇の中から重武装のスケルトンエイリアンが現れる。知らない者が見たら卒倒するかもしれない。


「おお、やはり良いのう。こんな精霊はありえん。だが、そこが良い」

「は、はあ」


 リシュテインはリアンを気に入っているようだ。しかしリアンはリシュテインに全く見向きもしない。


「だが、そこが良い」

「はあ……」


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