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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
146/219

146 アトラーティカの村


 裕二たちが雪原に生える一本の木を、テリーの指示に従い越えると、そこには美しく草花の咲き乱れる野原があり、その先には遺跡のような物が見える。


「ふおおおお! テリー、ここ何なんだ? スゲー綺麗だぞ」

「暖かいニャ!」

「全部後でわかるから心配するな」


 裕二たちの一行は徒歩に切り替え遺跡に足を踏み入れた。

 そこには神話に出てきそうな太い柱の神殿のような建物がいくつもあり、地面は石畳で覆われ、清らかで透明な水の流れる水路が縦横無尽に走っている。

 朽ちかけた建物も多いが、誰かが管理しているのか、砂に埋もれていたり汚れていたりする様子はない。

 所々に草花が生い茂り、遺跡と絶妙に調和しており、どこを切り取っても絵になる風景だ。


「なんて美しい場所……」

「これは見事ですなあ、セーラ様」

「安らげる風景ですニャ」

「水が美味いニャ!」


 セーラ、バン、メリル、バチル。それぞれが思い思いの感想をこぼす。バチルは喉が乾いているのか、水路の水をガッポリ飲んでいる。

 エリネアもその風景に見とれながらもテリーに視線を向けた。


「ここがテリオス。あなたの……」

「そうだ。ここが俺の生まれ育った場所。アトラーティカの村だ。まあ実際の村はもう少し向こうだがな」

「テリーの……故郷なのか? アトラーティカの村?」


 裕二が連れて来られたのはテリーの故郷。アトラーティカの村と呼ばれる場所だった。その説明によると、この遺跡地帯を抜けると、人の住む村があるらしい。テリーは相変わらず細かい説明はせず、ドンドン先へと進む。

 遺跡は思いの外広いが、少しづつ様子も変わってくる。そして、中央広場のような場所へ差し掛かった時。


「ん? 何だここ」

「どうしたユージ」

「何かここ……見覚えあるような」

「そうか……まあ、それも後でわかるのかもな」


 裕二はその返事に少し違和感を覚える。テリーは今まで様々な事を、後でわかると断言していたが、ここだけは『わかるのかも』と曖昧な言い方をしている。


「この遺跡については俺でさえわからない事がある。だから今は深く考えるな。先を急ぐ」


 やがて大きめの水路が見えてきた。その向こう側には、防風林のように木々が立ち並ぶ。その隙間にも遺跡らしきものが見え隠れしている。

 だが、そちらは割りとしっかり作られた印象だ。と言うより新しいと言うべきか。


「人がいるニャ」

「あそこが村だ」


 どうやら、遺跡と居住区が水路によって隔てられているらしい。村というにはあまりに立派な作りで、遺跡の一部を居住区にしている、と言う感じだ。

 裕二たちは水路に掛かる橋を越え、村に足を踏み入れた。それに気づいた数人の村人が足を止め、大きく目を見開く。


「テリオス! お連れになったのか!」

「ああ、そうだ。あんまり騒ぐなよ」

「そ、そうだな」


 声をかけてきたのは三十代くらいに見える男。白い布を巻きつけた独特の衣装を着ており、何となくテリーと似たような感じもする。


「ユージ。コイツはエルクシャ。村の顔役で俺の親戚みたいなもんだ」

「あ、よ、よろしくお願いします」


 裕二がそう挨拶をすると、エルクシャと呼ばれた男は、目を赤く染めながら祈るように手を合わせ、震える声で応える。


「よ、よくぞおいで下さいましたユージ様」


 そして、その場に跪こうとする。だが、それはテリーに止められた。


「おい、まだだ。ユージが混乱するからやめろ」

「そ、そうだったな……ユージ様。そして、皆様。長旅でお疲れでしょう。是非、ごゆっくりお休み下さい。どうぞこちらへ」


 エルクシャの先導で村の中を進む。大小様々な石造りの建物が立ち並ぶ先には、先ほどの遺跡と似たような作りの、小さめの宮殿のような建物がある。

 そこへ至るまでに、話しを聞きつけたらしき村人が、周りの建物からぞろぞろと顔を出してきた。その全ての人たちが裕二を凝視し、エルクシャのように手を合わせる者も少なくない。


「悪いなユージ。見せ物みたいになっているが少し我慢してくれ。皆お前に会えて喜んでいるんだ」

「お、おう……喜んでるのか?」


 バンやセーラには何故こうなるのか、ある程度察しはついている。ここにいる者たちは裕二の正体を知っているのだろう。しかし、それを村単位で知っているとなると、彼らが何者なのか疑問にも思う。

 ペルメニアで現在それを知るのは、一握りの者だけだ。しかしここには、それを知る者が大勢いる。


 ――彼らがお父様の言っていた『第八の使徒』その系譜の者たち。過去の記録を消された種族、アトラーティカ。


 エリネアだけは、そう考えていた。


 ――お父様は魔人を呼び覚まし者たちの末裔と言っていたけど……敵対してはならないとも……その真相がこれからわかるはず。


 エリネアは父親であるペルメニアの王、ダムロード・トラヴィスからそう聞いていた。

 そして、クリシュナードから一番近いのもアトラーティカなのだと。

 エリネアの果たすべき役割はクリシュナードの最側近として、そこにガッチリと食いこむ事。王女として、この危険な旅が許されたのには、そう言った理由がある。

 だが、エリネアは彼らの表情を見て、安心もしていた。それはおそらく、ペルメニアの民と何ら変わる事のない反応。

 裕二の姿を見て、涙を堪えてる者さえいる。彼らにとってもクリシュナードはそう言う存在なのだ。決して敵対するものではない。それが今、ハッキリとわかった。


 エルクシャに案内され宮殿に到着する。その内部は質素ではあるが、柱や壁などは見事な彫刻の施された立派なものだ。

 裕二たちは、ひとりひとりに個室が充てがわれ、それぞれが荷物を置くと大広間へ案内された。そこには既に、歓待の準備が整っており、たくさんの料理が用意されていた。


「皆様、ようこそおいで下さいました。おそらく、まだ良くわからない部分もあるのでしょうが、細かい事は明日にして、今はゆっくりと旅の疲れを落として下さい」


 エルクシャがそう説明し、料理を勧める。


「明日、全てわかる。と言う事ですかな?」


 バンがエルクシャにそう訊ねた。しかし、それに答えたのはテリーだ。


「全てではないがな。ある程度の事はわかるさ。ひとつ知れば、またそれに対しての疑問が湧く。そうなれば俺たちの知らない事も出てくる。まあ、今知るべき事はわかるはずだ」


 ここがどう言う場所なのか。彼らが何者なのか。何のためにここへ来たのか。疑問は色々あるが、その大部分はおそらく明日、わかるのだろう。

 魔の森、ヴィシェルヘイムの先にあり、人も魔人も寄せ付けない。そこは巨大なドラゴンに守られており、それだけではなくガーゴイルやワイバーン、そして、秘密の通路や結界まである。それだけ重要な場所なのだ。


「とりあえずハラ減ったニャ!」

「湯浴みの用意もされてますので、後ほどご案内いたします」


 エルクシャはそう言ってから席を外した。全員とりあえず、わからない事は置いといて今はゆっくり休む事に努める。そして、それぞれが用意された個室で休んだり、湯浴みをしたりと過ごした。

 裕二も個室で休んでいると、そこへバンとセーラがやってきた。


「ユージ様。まだ外は明るいので散歩でもしませんか?」

「そうですね。今行きます」

「ユージ殿。私はムサシ殿をお借りしたい」

「ああ、稽古ですか。ムサシ、行ってくれ」

「うむ」


 バンはムサシと稽古。裕二はセーラと遺跡へ散歩しに行った。

 村を抜ける間、多くの者が裕二に頭を下げる。そこを愛想笑いで何とか通り抜け、遺跡へと辿り着いた。


「ここの人たちは、みんな礼儀正しいですね」

「ふふ、そうですね。歓迎されているので良いじゃないですか」


 二人はそんな他愛のない話しをしながら遺跡を歩く。


「何か、セーラさんとバンさんも巻き込んじゃったみたいで……」

「いえ、ユージ様とバチル様が助けに来てくれなければ、私もクルートート卿もどうなっていたか……本当にありがとうございました」


 今思えば裕二に誘導瘴気の相談をしたのは、セーラにとって数奇な運命の始まりだったのかも知れない。そんなに古い話しではないが、遠い昔のようにも感じる。

 結果的に誘導瘴気を操るヴィシェルヘイムの魔人は倒し、キマイラを始め多くのモンスターも一気に倒した。


「今後、シェルラックに派遣される巫女は、今までより安全になるでしょうね。そうすればあのような事は……」


 セーラは魔人の作ったケツァルコアトルを召喚した場所を思い出す。その召喚の犠牲になった歴代の巫女の亡骸。裕二がいなければ、自分もそうなっていたのかも知れない。


「後でテリーに頼んで、この地に骨を埋めましょうか。ここなら瘴気とかなさそうだし」

「そうですね。そうしましょう」


 セーラは微笑みながらそう答える。しかし、すぐに表情を変え俯いてしまった。


「ユージ様は、これからどこへ行かれるのでしょう」

「…………」


 それは裕二自身にもわからない。おそらくこの後、何かを知ってからそれが決められるのだ。何となくだが、裕二はそう理解している。しかしその時、裕二の隣にセーラはいないのだろう。テリーの口ぶりからそれは感じ取れる。

 裕二はそれに何も答えられず戸惑う。


「私は……いつまでも、ユージ様をお待ち申し上げております」


 セーラはそう告げると、裕二に背を向け走り去って行った。



「くはっ!」


 ムサシから厳しい稽古を受けるバン。それは旅の間、毎日続き、その体には生傷が絶えない。裕二がテンに治させると言っているのだが、バンは頑なにそれを固辞してきた。だからと言ってムサシの稽古が優しくなる訳でもない。


「はあ、はあ、そろそろこの旅も終わりそうですな。ムサシ殿」

「うむ」


 地面に膝をつきながらそう話すバン。


「ですが、私はギリギリまでムサシ殿の指導を受けたい。お付き合い下さるか」

「うむ」


 息もたえだえのバンと、イエスかノーの意思表示しかしないムサシ。こちらはいつの間にか師弟関係のようになっていた。だが、バンには未だムサシに触れる事さえ出来ない。おそらくそれは最後まで無理だろう。しかし、それでもバンはムサシに剣を向ける為に立ち上がる。


「もう一本、お願いします!」


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