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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
145/219

145 雪原の先へ


 裕二たちは山の中腹辺りまで来ると、そこから洞窟を通る事になる。

 洞窟は山の向こう側に続いているらしく、山頂を行くよりは楽な行程だ。そのままシャドウ、スレイプニル、白虎、リアンに乗っていけるが、広い通路ではないのであまり速度は出せない。

 洞窟の壁面には、ルビンのドワーフ村と同じく薄暗く光る苔が生えており、一応灯りなしでも進めるが、テリーや裕二がいるので魔法により灯りを作る。更にリアンの目も、暗闇ではサーチライトのように光るので、充分な光量で進む事が出来る。


「中は迷路になっているからはぐれるなよ」


 その迷路の道順を知っているテリーが先頭。裕二が最後尾で先へ進む。

 通路はかなり長い下り坂になっており、途中いくつもの別れ道がある。裕二が以前見たドワーフの村と同じなら、巨大な居住空間があるはずだ。裕二はその事を聞いてみた。


「あるにはあるが、今回はそちらへは行かない。長年誰も使ってないから、モンスターが湧いてる可能性もある」

「こんな所にモンスターなんかいるのか?」

「途中で地底湖がある。水陸どちらでも住めるモンスターもいるからな。なるべく避けて行く」


 地底湖には大きな亀のようなモンスターがいるが、刺激しなければ襲ってはこない。更に、地底湖へ繋がる水路を通り、外からモンスターが入っている可能性もあるらしい。

 ほとんど放置されていた場所なら、そう言うモンスターが繁殖していてもおかしくはない。

 しかし、このような場所を通るなら、やはり案内ナシには行けなかっただろう。テリーはこの先に何があるのか語らないが、間違いなく何があるのかを知っている。

 案内人がいなければ、シェルラックも魔人も、この先には容易に辿りつけないようになっているのかもしれない。

 一行は長く緩い下り坂をひたすら進む。テリーの話しによると、ここを越えれば山脈の向こう側に出るはずだ。それなりの距離はあるのだろう。複雑な迷路を数時間かけて進む。やがて通路と並走するように水路が現れた。


「これが地底湖に流れているのか?」

「そうだ」


 裕二がテリーに訊ねた。テリーと裕二によって作られた魔法の光が水面に反射する。軽く飛び越えられそうな幅しかないが、底がハッキリと見えるほど、透明度が高い。


「お魚さんニャ!」


 そこには七十センチほどのサーモンのような魚が泳いでいる。バチルは即座にリアンから降りて水路に飛び込んでいった。もちろん捕まえて食べる為だ。

 裕二たちには見慣れ光景なので、しばらくはここで強制的に休憩になるのは理解している。


「テリー、ここで休むか。アイツはああなると動かない」

「そうだな。バチルは谷の戦闘での功労者だし……確かアイツはバターがあれば良いんだろ?」


 そう言いながらテリーは、収納魔法からバターを取り出す。


「おお、用意いいな。チビドラも手伝ってやれ」

「ミャアアア」


 バチルとチビドラが魚を捕まえている間、他の者は休憩だ。その間にセバスチャンは料理が出来るように薪や調理道具を出す。魚を捌くのはムサシだ。


「そういやテリー。学院長は元気なのか?」

「あの爺さんは元気だ。お前がいなくなって、しばらくは大変だったみたいだが」

「うっ……やっぱり迷惑かけたのか」

「気にするな。バチルがいなくなった時の方が大変だったようだぞ。それはさすがに、俺でさえ予想しなかったからな。そういやバイツが怒ってたな。バチルに塩を盗まれたとか何とか……お前からもらった岩塩だそうだ」

「ああ、あれか。まだ残ってるから後で渡すよ。バイツにやってくれ。と言うかバイツとリサも来れば良かったのにな」

「あいつらにはやる事があるからな。いずれ会えるさ」



「どうやらハルフォード家とジェントラー家が接触するようじゃな」


 ここはチェスカーバレン学院の学院長室、その奥にある小部屋。かつてグラスコード家の者たちと宮廷諜報団が話しをした部屋だ。外部からの盗聴などから守られ、重要な話しをする場合に使われる。

 リシュテイン学院長は、そこにバイツとリサを呼び出していた。

 ラグドナールはテリーから、詳しい事はジェントラー家に問い合わせろ、と言われたので、それをきっかけにハルフォード家にも情報がもたらされる事になる。


「となると、テリオスがユージを見つけた事になるのですか?」

「その報告はないが、ヴィシェルヘイムには到達しておるはずじゃ」


 バイツの問いに答えるリシュテイン。


「じゃが、それよりも問題なのは、シェルラックにいたはずのシャクソン・マクアルパインが魔人だったらしい、と言う事じゃ」

「なっ! マクアルパイン家から魔人が出たのですか!?」

「ユージは! ユージは大丈夫なんでしょうか」


 それを聞き驚くバイツとリサ。しかし、学院側にも断片的な情報しかもたらされておらず、現地の詳しい事はわからない。


「テリオスを信じるしかあるまい。いずれにしてもマクアルパインはシェルブリット同様、信用出来なくなった。嘆かわしい事じゃ」


 かつてのクリシュナードの使徒。その代表的な七人の子孫で構成される家系の者たち。彼らが今のペルメニアを作り脈々とそれを受け継いできた。故にその力とともに責任も大きく、自らを律し、戒める事を強く求められる。

 たとえ知らなかったとしても、一族の者が魔人に成り代わっていたり取り込まれていたとしたら、それはペルメニアでの信用を大きく失墜させる事にもなる。


「時には身内であろうと断罪せねばならん。マクアルパインはそれを怠った。シャクソンは厄介払いでシェルラックに送られたようじゃ。そこを魔人に利用されたのじゃな。自分でそれを見つけるのと他人にそれを指摘されるのとでは大きく違う」


 使徒の家系の多くは強力な魔術師がおり、魔人の入り込める余地などない。それを調べる手段も様々に有している。マクアルパイン家はそれを怠った。周りがそれを危惧するのも当然だ。


「院長先生。私たちの予想以上に魔人が入り込んでいる事になるのですか」


 リサがそう訊ねる。


「うむ、そうかも知れん。リサよ。いずれお主の力が必要になる」

「はい。心得ております。ですが、全ての魔人を炙り出すには……」

「そうじゃな。全ての魔人を炙り出す。それをするには……クリシュナード様の力が必要なのじゃ」


 この世界に隠れた魔人。それを全て探して倒すのは至難の業。人類最強の大魔術師クリシュナードであっても、それは出来ずに亡くなった。しかし、クリシュナードは五百年の時を越え、再びこの世界に舞い戻る。それは残された仕事を片付ける為、とも言える。


「しかし、どのような方法でそれを……」


 まだまだクリシュナードについてはわからない事が多い。バイツは叔父のヘルツから色々と聞いてはいるが、全てを知るには程遠い状態だ。


「ワシにもわからん。しかし、テリオスはこの五百年と言う時間が重要なのじゃと言っておった」


 魔人は人類との戦いに敗れ、この世界のどこかに隠れた。それは再び現れるはずのクリシュナードを倒す機会を狙っているからだ。そこに五百年もの時間があるなら、様々な用意が出来るはず。

 しかし、それはクリシュナードも同じ事。リシュテインがテリーから聞けたのはそこまでになる。


「ですが、亡くなっていたのに……いったい何が出来たと」


 リサはそう考える。それはバイツもリシュテインも同じだろう。


「ワシらがそれを知ってはならんようじゃの。今はテリオスが戻るまでに目処をつけておきたい」


 いずれ裕二はペルメニアに戻る。しかし、リシュテインを始めそこに残された者たちにもやる事がある。


「倒して済むなら簡単なのですが……」


 バイツが呟くようにそう言った。


「それをすれば手がかりを見失う。一筋縄ではいかんのじゃろうな」



 裕二たちは地底湖を越え、途中一泊し、来た時と同じような上り坂の迷路を進む。割りとのんびりした行程だったが、山頂を目指していたらこうはならなかっただろう。やがて通路が徐々に明るくなってくると、いきなり出口が現れた。日の光がまぶしく感じると同時に強い冷気が肌を突き刺す。


「寒いのニャアアア!」


 そこは辺り一面白銀の世界。美しくも自然の厳しさを感じさせる雄大な景色。まばらに生えた木々や岩の全てが、雪に覆い隠されている。そこから先はどこまでも雪だ。


「雪しかないぞ、テリー」


 見える範囲に目的の場所があるようには思えない。つまり、この見渡す限りの雪原を越えなければならないのだろうか。


「ハハッ、良い景色だろ。寒い奴はコートを着とけ。もうすぐだ」


 とてももうすぐには見えないが、テリーは構わず進む。裕二たちも仕方なくそれに続く。

 雪上に残るのは自分たちの足跡だけ。モンスターや小動物らしき足跡は一切なく、自分たちが動く以外の音も全く聞こえない。

 何の目印もなく方向感覚も狂いそうな大地。一行はそこをひたすら進む。


 しかし、しばらく進むと、いきなりテリーが立ち止まる。同時にほぼ全員が何者かの気配を感じる。バンとセーラも慣れたもので、この場合はモンスターを警戒しているのだと、すぐに気づく。


「モンスターでしょうか、クルートート卿」

「大丈夫ですセーラ様。ここにおられる方々は谷を越えてきたメンバー。何が来ようと案ずる事はありません」


 テリーがシャドウを降りて雪玉を作り、それを遠くへ投げた。すると、雪玉はパサッと小さな音をたてて雪の上に落ちる。そこへいきなり、雪の中からモンスターが飛び出してきた。どうやら、音に反応したようだ。


「スノーウルフだ。十二体いるな。少しここで待て」


 体長二メートル程の白い狼。それが一斉に雪玉の落ちた場所へ突進する。隠れて獲物を待ち伏せていたのだろう。


「ニャッハッハッハ。ぶっ殺すニャ」


 剣を抜きながら雪原に降りるバチル。しかし、テリーはそれを手で制した。


「いや、必要ない」

「ニャ?」


 そう言いながら空を見上げるテリー。他の者もつられて空を見る。すると、雲ひとつない晴天が歪んだかと思うと、そこに巨大な影が現れた。


「な、なんだあれ!?」

「でっかいニャ!」


 驚く裕二とバチル。しかし、他の者はそれを一度見ているので、驚いた様子はない。


「テリー! あれなんだよ。ドラゴンじゃねえのか」

「ドラゴンニャ! 乗りたいのニャ!」

「あれはエレメンタルドラゴン。ヴァリトゥーラ。こちらの様子を見にきただけだ」

「な、なんだそれは? ヴァリトゥーラ?」

「乗りたいのニャ!」


 ヴァリトゥーラは一瞬だけ姿を現すとすぐに消えてしまった。気がつくと、スノーウルフも全ていなくなっていた。足跡だけ残して既に姿は見えない。ヴァリトゥーラを見て一目散に逃げたのだろう。


「スゲー、ドラゴンいたんだ。バンさん。やっぱり噂は本当だったみたいですね。あんなにデカいのか。あれじゃケツァルコアトルと見間違える事はないな」

「う、うむ。そのようですな」

「アレどうやったら乗れるニャ!?」


 興奮する裕二に対し、その辺の事には答えられないバン。苦笑しながら誤魔化すしかない。


「テリー。あのドラゴン、攻撃してこないのか?」

「大丈夫だ。先を急ぐぞ」


 ドラゴンを見て、盛り上がる裕二とバチルを見守りながら先へ進む一行。その進行方向には相変わらず何も見えない。あるのは雪に覆われた木々と岩だけだ。


 しかし、テリーはその中の何の変哲もない一本の木に近づいて行き、その前で止まる。


「ここから先はゆっくり進むから絶対にはぐれるな。必ず俺の背中が見える場所にいろ。特にバチル。いや、バチルにはメリルがついてやれ。はぐれると面倒だ」

「わかったですニャ」

「な、なんニャ?」


 そう言うと、テリーは有無を言わせず進み出す。他の者は困惑しながらも指示に従う。

 そのままテリーは木の周りを一周、二週と周り出した。そして、何周かすると、今度は逆方向に周り出す。


「これは結界……しかもかなりの規模」


 エリネアがそう呟く。と同時に景色が一気に切り替わる。


「ニャアアア! なんニャ?」

「ど、どこだここ?」


 先ほどまで辺り一面の雪原だったのが、今度はたくさんの草花が生い茂る野原に変わった。気温も先ほどとは違い、春先のような暖かさに変わる。その数百メートル先には、神殿のような遺跡のような物がいくつも見える。

 朽ちかけた物もあるが、周りの木々と調和した美しい光景だ。

 

「あの先が目的地だ」


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