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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
144/219

144 山越え


「なあテリー。山の上、真っ白じゃね?」

「雪が降ってるんだから当たり前だろ」

「寒いの嫌ニャ!」


 テリーは収納魔法から人数分の分厚いコートを取り出し、全員に渡した。それはあの、寒そうな場所を通る事が確定しているからなのだろうか。


「山頂までは行かない。途中洞窟を通る

。それまでは寒いから着ておけ」

「あったかニャ!」

「魔法のコートですニャ」


 全員がそれを着込むとシャドウ、スレイプニル、白虎、リアンを呼び出し出発する。彼らなら、険しい山道であっても難なく進めるだろう。


「テリオス殿。この辺りはどんなモンスターがいるのですか?」


 リアンに乗るバンがテリーに訊ねる。


「あそこを見てみろ」


 テリーが空を指差す。すると全員がそちらを注視する。そこには遥か遠く、かなりの高さを飛んでいる何かがいる。バンやセーラあたりには黒い点にしか見えないが、裕二やバチル、エリネアが見ると翼の生えた何かだとわかる。


「あれはガーゴイルだ。この山を守っている。だが、俺たちには攻撃してこない」

「へえ……テリー。あれ何だか石みたいに見えるんだが」


 裕二にはそう見えたようだ。エリネアにもそう見えているようで、頷いている。バチルは興味なさげだ。バトルジャンキーのバチルにとって、攻撃してこないモンスターなど意味はないのだろう。


「そうだ。ガーゴイルは石で出来ている。そして、瘴気の強い者を攻撃する」

「瘴気の強い者……つまり魔人か」

「普通はな。だが、人間でも魔人なみに瘴気が強ければ襲ってくる。ここにはそんな者はいないので襲われない」

「そんな人間いるのか?」


 瘴気の発生源の一因は人だ。強い憎しみや嫉妬がそれを生み出す。それがあまりに強くなると、それに適応出来ずに精神を壊したり、病気になったりする者も現れる。


「だけど稀に適応してしまう者もいる。多少の事なら攻撃はされないが、それが魔人なみとなると話しも変わってくる。ガーゴイルはそれを見逃さない」

「魔人なみの人間なんて嫌だな」


 そこで裕二がふと思い浮かべるのは、チェスカーバレン学院にいた、グロッグ、シェリル兄妹だ。良く考えてみれば、あの二人は瘴気を撒き散らしているような気がしないでもない。だが、実際に魔人と遭遇した裕二には、さすがの馬鹿兄妹でも魔人なみとは思えない。おそらくテリーの言う『多少の事』その範疇に入るのだろう。


「少数だが、絶壁のある場所はワイバーンもいる。それは近づかなければ攻撃はしてこない。今回は問題ない」


 今回はと言う意味は、おそらくチビドラがいるからだ。テリーはそこまでの詳しい説明はしなかった。


「後はスノーパンサーとかの雑魚がたまにうろついている。そしたら白虎に威嚇させろ。この辺りはそれで充分だ」

「この辺り?」

「山を越えると多少はモンスターも増えるが、問題はない。それは後で説明する」


 テリーはそこで話しを打ち切る。モンスターはいるが、敵らしい敵はいないようだ。しかし、それも山を越えれば変わってくるのだろう。


「寒いのでちょうど良かったですね、クルートート卿。この気候で戦うのは大変でしょう」

「ええ、確かに。しかし、ガーゴイルなる者がいるとは思いませんでしたな」


 セーラの言葉に笑顔で返すバン。しばらくは気を抜いても良さそうだ。


「ところで昨晩のムサシ様との稽古は如何でした?」

「ええ、予想はしていましたが、全く相手になりませんでした。闘気だけでほとんど躱されましたね。彼が使ったのは人差し指だけでした」


 ムサシはバンと模擬戦を行ったが、剣は使わなかった。

 迫りくるバンの剣を紙一重で躱し、瞬時に闘気を纏う。そこでバンは一瞬怯む。戦う為の心のバランスを崩されたのだ。ムサシはそこを突いてきた。


「後は人差し指で肩を突かれ吹き飛びました。隙を狙っても全てが誘いなのです。わかっていてもどうにもなりません」


 圧倒的な差のありすぎるバンとムサシ。しかし、それを話すバンに悲観的なものはなく、少し嬉しそうでもある。

 かつてシェルラックで高名な剣士とされ、その自負もあった。しかし、谷での戦いで己の弱さをハッキリ見せつけられた。自分とは次元の違う戦いをそこに見た。バンなどいてもいなくて変わらない。その無力さをひしひしと感じていた。

 そこで感じる危機感を打開してくれたのが、ムサシとの稽古だ。

 何故ムサシがこれ程までに強いのか。それを考えはしても、危機感など感じている暇はない。

 ムサシが見せてくれたのは、戦い方のほんの一部でしかないのだろう。しかし、それだけでも身につければ、バンは大きく変わる。裕二たちについて行くならそうしなければならない。その道筋が何となくだが見えた。バンはそう感じていた。


「学べる期間は短いのでしょう。今はそれをやるのみです」


 おそらくそうなのだろうと予想していたセーラも、悲観的ではないバンを見て嬉しそうだ。


「セーラ様はどうでしたか? エリネア様から色々と学んでいたようですが」

「ええ、私にも出来る事がありそうな気はしてます。ですが……」


 セーラはそこで少し表情を曇らせる。


「どうされました?」

「何となくなんですが……エリネア様は教会を良く思ってらっしゃらないような気がします」


 バンとセーラの所属するクリシュナード正教会。エリネアから様々な話しを聞くうちに、セーラは何となくだがそう感じたようだ。


「ふむ、何か理由があるのでしょうか」

「そこまでは……精霊の話しが主体でしたので」

「なるほど……では、今しなければならない事を優先させましょう。我々には知らない事が多すぎます。それもいずれわかるのでしょう」

「そうですね……はい。そうします」


 セーラはそう言いながら明るく顔を上げた。


「ところでテリー。シェルラックはどうなってるかな。みんな大丈夫だろうか」


 裕二はホローヘイム以来会っていないラグドナール隊や聖堂騎士団の事を考える。オーメル将軍やビスターも裕二たちが行方不明だと思っているはずだ。

 シャクソンとその他の魔人がいなくなったとは言え、シェルラックも混乱はしているだろう。


「それはラグドナールが何とかする。後からダドリーがシェルラックへ来る事になってるからな」

「ダドリー。テリーのお兄さんか」

「そうだ。末端の兵士はともかく将軍クラスならある程度は知らされる。お前やバチル、バン、セーラが俺といる事もな。ジェントラー家に抜かりはないから心配するな」


 テリーがそう言うのなら、そうなのだろう。ホローヘイムでほとんどのキマイラを倒し、谷で千のモンスターを倒し、そして、シャクソンと魔人も倒した。なので、シェルラックの脅威となるものはほとんどなくなった。おそらく誘導瘴気もない。裕二の心配はかなり軽減されてはいるが、あのような別れ方をしたラグドナールやメフィ、ジンジャー、エムオールにはもう一度会いたいとも思っている。そこが少し心残りだ。


「そう言えば……メフィさんからイヤリングもらってたな」

「友人の証だそうですので大切にしておきましょう。いつかまた会う日がくると思います」

「……そうだな。うぉっ!」


 霊体化で並走するセバスチャンへ顔を向ける裕二。すると、いつの間にか白虎の後ろに、リアンに乗っていたはずのバチルが乗っていた。と言うかコートを着込み丸くなって寝ていた。


「リアンより白虎の方が暖かいのでしょう。先程こちらへ飛んできました。裕二様にそれを気づかせないのはさすがです」

「コイツは本当に凄いな。白虎の背中とは言え、山を登ってるのに普通寝るか?」

「……ソテーニャ。ムニャムニャ」


 バチルは気持ち良さそうに寝ていた。寝ているのに振り落とされないのは、さすがに感心するしかない。どういう仕組みになっているのか裕二にもわからない。


「コイツとももうすぐお別れか……随分助けられたな」


 ともに死線を乗り越えたバチル。既に裕二にとっても単なる友人ではなくなっていた。家の都合でメリルに連れられて学院に戻らなければならないので、一緒にいられるのはあと僅か。そう考えると少し寂しくもある。


「この先に何があるかによって裕二様の行き先も決まるのでしょう。テリー様が代わりにエリネア様を置いていかれると言ったのは、それもある程度決まっているのではないかと」

「なるほどな」


 テリーは裕二も一緒にペルメニアへ戻るとは言わなかった。バチルの代わりにエリネアを置いていくといった。それは裕二の意思に関係なく、まだ旅が続く事を意味する。何故そうなるのか今はわからないが、テリーはその答えを見せる為に、ここへ来てくれたのだろう。


「アイツ最初から何もかも知ってたんじゃないのか?」

「でしょうね。そうでなければ辻褄の合わない事が多すぎます。言葉の端々から、もうそれを隠す気がないのを感じます。それもこれから、わかるのかも知れません」

「まあ、テリーだからな。今更驚く事でもないか」


 裕二のタルパの中で、セバスチャンだけがテリーから、裕二がクリシュナードだと知らされている。そして、その時。セバスチャンは裕二に聞かれなければ、それを話さないと約束もした。現在もその約束は守られている。

 この先に何があるのかはわからないが、セバスチャンもテリーが全てを話してくれる事を待っているのだ。


 そして、山の中腹辺りまで登り終えた頃、シャドウに乗り先頭を行くテリーの歩みが止まる。


「ここが洞窟への入り口だ」


 そこには斜面にもたれかかるように、大きな岩がひとつある。テリーはシャドウを降りてその岩に手をかざした。すると、岩は横に転がりその先には通路が見えた。裕二はこれと同じものを見た事がある。


「ドワーフの村の入り口みたいだな」

「そうだ。ここにはかつてドワーフの村があった。今は誰もいないがな」


 テリーは再びシャドウに跨がる。


「誰もいないって……どういう事だ?」

「五百年前の魔人戦争でほとんど死んだ。この辺りは激戦区だったからな。生き残りはパーリッドの辺りに移り住んだ」


 と言う事は。裕二がパーリッド近郊、ルビンの森で出会ったベルグナルやミルフ、シートットなどのドワーフの先祖はここにいたのかも知れない。


「今日はこの中で泊まる事になる。コートは脱いでおけ」


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