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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
143/219

143 戦利品


 林の結界と瘴気を除去した後。裕二たちは、そこに隠されたモンスターをどうするのか対策を練る。テリーの話しでは、残り一体。となると、ケツァルコアトル以上のモンスターでもおかしくはない。油断は出来ないだろう。


「でも、何であと一体ってわかるんだ? 隠されてるのはわかったけど、見えないし」

「さっき収納魔法は本来、亜空間魔法だと教えただろ。それを使っている。そして、亜空間の数は十二。谷に現れたケツァルコアトルは十一体だ。瘴気の流れから、使われている亜空間かどうかもある程度判断出来る。つまり残りは一体だ」


 上位のモンスターは使役されている状態にしてから、亜空間に閉じ込めて管理される。その入り口は林の中にある。収納魔法の場合は術者を媒介に出入り口と亜空間を繋ぐ。今回は林の木を媒介に入り口を作り、別の任意の場所に出口を作る。ケツァルコアトルの場合、その出口が谷となった。魔人が必ず収納魔法を使える訳ではなく、複数で共有するので、このような形になったのだろう。


「亜空間魔法には他の使い方もある。だが、高難度な魔法の為、一般的には物をしまうのがせいぜいだ。だから、収納魔法なんて呼び名で定着しているのさ」

「ほおおぉ。なるほど」

「その他の使い方は後で教えるとして、残った亜空間から何が出てくるかわからないから、対策は立てられない。まあ、俺たちなら何が来ても問題はないが、念の為――」

「テリオス様」


 セーラが手を上げる。テリーの話しを聞き、何か思いついたようだ。


「何がいるのか、わかった方が良いのですよね」

「出来ればな」

「なら、これを使っては如何でしょうか」


 セーラはそう言いながら、懐から何かを取り出した。


「これは……身代わりの札か」


 セーラは身代わりの札を谷での戦闘時バンに渡したが、セーラの逃走用に十枚残されていた。今となってはあまり必要ないものだ。こんな場所からセーラひとりが逃走しても全く意味がない。


「それだけあれば三十分はもつな」

「三十分!? そんなにもつのか」


 それを聞き驚く裕二。谷での戦闘ではそんなにもたなかった印象だ。おそらく枚数も十枚以上は使っていた。


「使い方次第だ」


 テリーの説明によると、身代わりの札は術者によって効果時間が変わる。高位の魔術師であれば一枚最大で約三分。十枚を一枚ずつ使えば三十分となる。バンが使ったように一度にばら撒くと、すぐに効果が切れる。


「め、面目ない……」


 その辺の木に一枚貼り付けて、チビドラにでも持たせる。高空を飛びながら逃げまわれば、攻撃はされにくい。後はそれを繰り返す。その間に対策を立てる。


「二〜三枚あれば足りるな。少し借りておく」


 と言う訳で、チビドラが木切れを持ってスタンバイ。テリーが出口を開けたら裕二が札を貼り付ける。リアンとムサシも最初から出しておく。


「そろそろやるニャ?」


 ずっと白虎の上で寝転がってたバチルも雰囲気を察して活気づき、裕二の隣に並んだ。


「用意はいいか!」

「いいぞ!」

「ミャアアア!」

「皆殺しニャー!」


 テリーが木に刻まれた術式に何かを書き加え、そして細かく空間を叩く。


「出るぞ!」


 テリーは速攻でこちらへ移動。裕二が札を貼り付けチビドラが飛ぶ。


「行け! チビドラ」

「ミャアアア!」


 林の奥から黒い影が一気に広がる。そしてそこから、体長十メートル程のゴツゴツした岩の塊のような灰色のモンスターが現れた。その衝撃で周りの木は、バキバキになぎ倒される。


「あれは……」


 テリーがそれを鋭い目つきで見据えた。


「ユージ」

「なんだ!」

「チビドラ戻していいぞ」

「は?」


 そして、テリーはモンスターの方へ普通に歩き出す。


「お、おいテリー!」

「ガラクタニャ」


 バチルは興味を失くしたようで、再び白虎の所へ戻っていった。そして、肝心のモンスターを見ると、出現した場所から全く動いていない。それどころか指一本動いていないようで、辺りは静まり返り、テリーの足音しか聞こえない。

 裕二はその後を追った。エリネアとバンもそれに続く。


「これはストーンゴーレムだ。どこからこんな物拾ってきたんだ?」

「ストーンゴーレム?」

「それは何なのです」


 裕二とバンは良くわからないようだが、エリネアは合点のいった表情をしている。


「ゴーレムは命令がなければ動かないのよ。その命令権を持っていたのは魔人。そして、その魔人はもういない。おそらくどこかの遺跡から見つけたのでしょう」

「なにぃ! じゃあこれ、どうすんの?」

「せっかくだから、もらっとくか。ユージ欲しいか?」

「もらうのかよ!」


 テリーはとりあえず、サッと手をかざし自分の収納魔法でストーンゴーレムを保管した。そして、元の場所へと歩き出す。


「後でユージが動かせるようにしといてやるよ。でも、これは最後に残しといたのではないな。途中で使えなかっただけだ」


 ゴーレムは命令を受けると愚直にそれのみを行動をする。裕二を殺せと命令すれば、周りを無視して裕二に向かう。

 あれだけのモンスターがいれば、それを踏み潰していくだろう。そこを逆手に誘導でもされたら単なる邪魔者だ。あの状況では使えなかっただけなのだ。


「なるほど。じゃあ一応戦利品になるんだな」

「ショボいけどな。でもリトロナクスくらいなら一撃で倒すぞ。動きは鈍いが力だけはある。オマケに修復機能もある。しぶとい雑魚だ」


 ストーンゴーレムは体内の魔石に魔力を蓄えている。その魔力が続く限り、どこか一部が壊れても自動で修復する。そして、体のどこかにある、術式を書き換えれば命令権を変えられる。それを消すか、魔石を壊せば動きは止まる。


「風よけにでも使え」


 かなり面倒な思いをしてこの結果には少し拍子抜けだが、一応ストーンゴーレムと、セーラの能力開花と言う収穫はあった。それに歴代巫女の骨も回収し、瘴気の濃い場所も浄化出来たので時間をかけた甲斐はあったのだろう。


「少し休んだら山のふもとまで急ぐぞ」



 その後、裕二たちは出発し、何度かモンスターをやり過ごしながら山のふもとへ辿り着く。多少余計に時間もかかったので、その頃にはすっかり日も暮れていた。食事をしたら後はそれぞれ自由な時間だ。


「ユージ殿」


 そこへバンが声をかけてくる。


「ムサシ殿に稽古をつけてもらう事は可能でしょうか」

「ああ、大丈夫ですよ。ムサシ、相手してやってくれ」

「うむ」


 どうやらバンはムサシの戦いを肌で感じてみたいと思ったようだ。谷での戦いを通して自分の至らなさを痛感したバン。ムサシには到底敵わないが、その教えを乞うのは今しか出来ない。

 バンはこの日から毎日、ムサシとの稽古に励む事となった。


 セーラは精霊を作り出せるようにはなったが、今はただそれだけだ。それをどう扱うのか。裕二と同じような事は出来なくても、何か別の事は出来るかも知れない。

 まずは、精霊魔法に詳しいエリネアから、色々と教わっている。


 バチルとメリルは基本的に仲が悪い訳ではないので、自由な時間には一緒にいる事が多い。アリー、チビドラ、テンも加わり、バチルがメリルに今までの旅の話しを聞かせている。

 他人が聞いたら意味不明な事でも、メリルにはしっかり伝わっているようだ。


 そして、裕二はテリーから色々と教わっている。


「亜空間に物を収納するのが収納魔法だ。その領域は高位の術者であるほど広く使える」


 収納魔法は亜空間内で領域を決め、そこのみを使う。そうしなければ亜空間のどこに物があるのか、わからなくなってしまう。


「マジか! セバスチャンそんな事やってたか?」

「いえ全く」

「お前の場合と一般論を一緒にするな。今まで不都合がないならそれでいいんだ。肝心なのは、その亜空間をどう使うのかだ。そこに立ってみろ」


 テリーは立ち上がり、その二〜三メートル前に裕二を立たせる。


「例えば移動だ。良く見ておけ」


 すると、前にいたはずのテリーが、一瞬で裕二の後ろに立つ。それは素早く移動したとかそんな次元ではなく、そこまでの距離を通らない。まさに瞬間移動。ワープと言っても良い。


「何だそれ!」

「これをクイックムーブと言う。亜空間を通って移動する超高難度魔法だ」

「か、カッコイイ……それでどこでも行けるのか?」

「そんな訳ないだろ。せいぜい見える範囲だ。知らない場所に出口は作れん。主に戦闘中の移動に使う」


 目に見える短い距離に入り口と出口を作り、亜空間を通る。

 亜空間内は時間の流れが違う。その流れはゼロではないが、限りなくゼロに近い。なので亜空間内の物が腐る事はまずない。しかし、クイックムーブは人が通るので時間の調整も必要になる。

 テリーは自分に入り口を。そして、裕二の背後に出口を作り亜空間を通った。その亜空間は紙のように薄いもので事足りる。ほとんど出入り口だけだ。


「つまり自分で作った亜空間に自分で入る、と言う事になる。もちろんそれも予め領域を決めるがな」

「なるほど。収納魔法で応用可能だな」

「それを総称して亜空間魔法と言うんだ。でも気をつけないと自分が亜空間に落ちるからな」

「なに……それは嫌だ」

「だから領域をしっかりと決めるんだ。でもユージの場合はセバスチャンが亜空間を管理してるんだろ? まず落ちることはない」


 霊的存在にもなれるセバスチャンが亜空間を管理する。現実世界と霊的世界、更に亜空間。セバスチャンは気づいていないが、常にそこを行き来している。裕二が意識しなくてもセバスチャンが必要な領域を勝手に作り出しているのだ。


「そうなのか? セバスチャン」

「言われてみれば……そんな気も」

「まあ、それくらいは知っておけ。いずれにしても、ユージならその程度は少し練習すれば出来る」

「おお! じゃあ、早速やるぞ。セバスチャン」

「ちょっと待て。そんなのは後でいい」

「え?」

「お前、家を欲しがってただろ?」

「まあ、そうだな」

「俺は今まで何を話した」


 領域は高位の術者であるほど広く使える。自分で作った亜空間に自分で入る。

 テリーはそう言っていたはずだ。


「それってつまり……亜空間に住めるのか!?」

「かつて一人だけ、そんな馬鹿げた事を実行しちまった奴がいた。まあ、誰とは言わんが。ユージならそれも可能だろうな」


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