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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
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140 目的


「これで全員揃ったな」


 テリーを中心にテーブルを囲み全員が着席する。裕二の隣にいるバチルは何故か涙目だ。


「どうした、バチル」

「おしり痛いのニャ」

「何だそりゃ?」


 バチルのおしりはさておき。ここまでの経緯は全員が把握した。今から話されるのはこれからの事。そして、テリー、エリネア、メリルが何故ここまで来たのか。それも話される。


「俺たち三人はそれぞれ目的が違う。だが、途中まで行く場所は同じだ。まずはメリルの話しからだな」


 メリルの目的は、学院を勝手に休学したバチルを連れ戻す事にある。

 そもそもバチルの休学は不備があり、学院側も仕方なく了承していたが、その行方は全くわかっていなかった。当然、バチルの本国にもそれを知らせなければならない。その報せを聞き、バチルを連れ戻す事になったのが、姉であるメリルだ。

 メリルは一度学院に行き、そこからバチルを探し始めるのだが、その探し方はバチルと同じ嗅覚によるもの。おそらくバチルを探し出せるだろう。

 しかし、勝手にそれをされると困る者がいる。それは唯一バチルの居所を知るテリーだ。テリーはバチルと裕二が一緒にいるのを知っていたのだ。

 バチルの居所は裕二の居所でもあり、それを知られたくはない。なので、テリーは自分もそこへ行くので案内を買って出た。だが、そこに条件も付けた。

 その条件とは、バチルを探すのをテリーがサポートする。そうなれば、ヴィシェルヘイムのような場所も楽に通り抜けられる。バチルが戻ったらメリルと一緒に学院に留まり、やがてくる魔人との戦争に協力してもらう、と言う事だ。

 そうなればテリーは情報管理も出来、メリルはバチルを楽に探せる。そして、どうせ戦う敵なのだから共闘したほうが良い、とも言える。

 テリーは話せない部分を省きそれを上手く説明した。そう言う経緯でメリルがこのメンバーに加わったのだ。


「えっ! じゃあバチル帰っちゃうのか」

「おしり痛いのニャ……」


 それを聞き動揺する裕二。しかし、バチルは全く話しを聞いていない。まだおしりが痛いようだ。


「今すぐじゃない。それに帰る時はエリネアを置いて行く」

「エリネア!? 良いのかよ。王女様だぞ」

「良いのよ。それとも私じゃ不満?」

「い、いや。そうではないけど……」


 エリネアの目的は、帰ってしまうバチルの代わりに裕二をサポートする事となる。何故か裕二がペルメニアに戻る、と言う話しにはならないようだ。


「そして、俺はユージをこの先へ連れて行くのが目的だ」

「へ?」


 ヴィシェルヘイムの谷の向こう。何があるのかわからない未踏の地。テリーの目的は裕二をそこへ連れて行く事だ。


「どうせ行く気だったんだろ?」

「まあ、いつかは行くつもりだったけど」


 裕二はバイツからヴィシェルヘイムとその先の話しを聞き、いつか行ってみたいと思っていた。それはタルソット村でマサラート王子と別れた時もだ。

 マサラートの見た夢には、ヴィシェルヘイムの前に立つ裕二の姿があった。どんな場所なのか知りたかったし、その奥には何があるのかも知りたかった。

 そして、ドワーフやメフィから聞いたドラゴンの話し。メフィは、そこでドラゴンが何かを守っていると言っていた。本当かどうかはわからないが、そこに行ってみたい。裕二はずっと、そう思っていたのだ。


「なら俺がいた方が心強いだろ。それにお前はシェルラックには戻れない。それはバンとセーラも同じだ」

「ああ、確かに……え? バンさんとセーラさんが何で?」

「行けばわかる!」


 裕二がバンとセーラを見ると頷いている。良くわからないが了承済みのようだ。テリーは相変わらず有無を言わせぬ強引さで事を進める。


「心配するな。俺とお前がいて万が一などあり得ない。そうだろ?」

「まあ……そう言われりゃそうだな。俺はともかくテリーがいるしエリネアもバチルもいるから……」

「じゃあ決まりだ」

「で、でもそこに何があるんだ? テリー知ってるのか?」

「それも行けばわかる」

「行けばわかるって……うーん」


 イマイチ納得出来ない裕二。行ってはみたいが、少しくらい教えてくれても良さそうなものだ、とも考えてしまう。

 しかし、テリーは立ち上がり、目の前にあるテーブルを指差す。


「ユージ。このテーブルを見ろ。丸くて足が四つある。でも、その説明だけじゃ色や大きさはわからない。だけど、自分の目で見たら、それもすぐにわかるだろ?」

「そうだな」

「お前はバイツに、ヴィシェルヘイムの奥には魔人の巣窟があると聞いた」

「聞いたな」

「だが、俺はそれを自分の目で見て判断しろと言った。何故なら言葉だけでは、このテーブルと同じように全てを説明出来ないからだ。言葉など正確ではない上に歪める事も簡単なんだよ」

「なるほど……」

「色々疑問があるのはわかる。それも全てひっくるめ、自分の目で何があるのか見てこい!」

「そうだな……わかった!」


 全員で谷の向こうへ行く。そして、バチルが帰る時にはエリネアが残る。そう言う事で話しはまとまった。それからは夕食を摂り、就寝までそれぞれが時間を過ごす。

 バチル、メリル、セーラはまとめて湯浴み。バンはテリーから更に色々な話しを聞きたいようだ。

 そして、エリネアは裕二に声をかける。


「ユージ。ちょっと良いかしら」

「何だ?」

「表で話したいの」

「ああ、わかった」


 そう言うと二人は外へ出て行った。


「うわっ、真っ暗だな。テン、頼む」


 裕二の頭上から、テンの作る光の玉が辺りを照らす。そこに映し出されたエリネアはとても美しいが、どこか気まずそうな表情をしていた。


「話しって何だ?」

「あの……私、ユージに……ミーが死んだと勘違いしてあなたに酷い事を……」


 それは裕二がチェスカーバレン学院を出る騒動のきっかけにもなった話しだ。

 グロッグがエリネアを騙し、裕二がミーを殺したと信じさせた。その結果、エリネアは裕二にかなり酷い言葉を投げつけた。その後、エリネアはまともに裕二と対面せず、今に至っている。

 それについては絶対に謝らなければならない、とエリネアはずっと思っていたのだ。それが今回、テリーに同行した目的のひとつでもある。


「あー、あれか。アリーに聞いてるよ。エリネアも騙されたんだろ? 別に俺は気にしてないし」

「ユージ……本当にごめんなさい。私……それ以前にも言葉が足りなくてユージを誤解させたり……」

「気にすんな。俺こそゴメン。勝手にいなくなったから、エリネアにもそれをずっと気にさせてたんだな」

「ユージが謝る事じゃないわ。だって……」


 エリネアがそう言いかけた時、裕二は両手をパチンと叩く。


「その話しは終わりだ。俺は最初から怒ってもいないし、エリネアが気にする事は何もない」

「……ありがとう。ユージ」


 エリネアは笑顔でそう応えた。だが、裕二は何故かそれに身構えてしまう。


 ――うっ! かわいい……

 ――裕二ハーレム、裕二ハーレム!

 ――ミャアアア!

 ――うるせえ。


 笑顔の可愛らしいエリネアに一瞬狼狽える裕二。その様子を見て何かマズったのかと一緒に狼狽えるエリネア。


「ご、ごめんなさい。ユージにお礼を言う時は必ず笑顔にしろって、テリオスから何度も言われて練習させられたの。変だったかしら?」

「ふふ、お前ら何やってんだよ」


 裕二はちょっと笑いながらそう答える。エリネアもつられて笑う。

 だが、それで緊張も緩んだようだ。二人はその辺の岩に腰掛けた。

 そして、エリネアならバチル以上に、裕二が去った後の学院の事には詳しいはず。裕二はバチルに聞いてもわからなかった部分が多いので、色々と聞いてみた。


「リサとバイツは元気なのか? 何かテリーに教わってるって聞いたけど」

「ええ、二人とも元気よ。ユージに会いたがっていたわ。テリオスには魔法や剣技、格闘とか色々教わってるの。実際に手合わせしてみると、格の違いが良くわかったわ。あの人は全てに於いて達人よ」

「まあアイツは化け物だからな」

「ダドリーやドルビー、学院長も心配してたわ。あっ、それと……コリーって子、知ってるかしら」

「コリー……誰だっけ?」


 ――裕二様。コリー・スパネラです。折れた杖を弁償しろと言っていた……

 ――あー、あの当たり屋か。


 セバスチャンに説明され思い出す裕二。

 コリーはグロッグに命令されて、裕二に当たり屋まがいの事をしたり、ミーを殺す為に自警団から裕二の剣を盗んだ男だ。


「彼はもの凄く反省しているらしくて、ユージに謝りたいって言っていたのよ」

「そうか……別にそれも今更怒ってないからな。グロッグとシェリルはどうなった? 学院にいないんだろ」

「ええ……そうね」


 その件については何故か言い淀むエリネア。何かあったのだろうか。


「グラスコード家についてはテリオスから話されると思うの。だから、それはもう少し待って」

「そうなのか……」


 少し気まずい空気が流れるが、裕二が他の話しでそれを払拭する。


「でも何でエリネアが残るんだ? 良く考えたら、今なら俺が学院に戻る事も出来るんだよな? そうすればエリネアも学院に戻れるだろ。俺も後の行動は決めてないし」

「それもおそらくテリオスについて行けばわかるわ……私じゃダメかしら」

「い、いや。そうじゃないんだけど……な、何だろうな。答えは全て谷の向こうにあるのか」


 気まずさを払拭させようと、更に気まずくさせてしまう裕二。それを慌てて誤魔化す。

 だが、裕二は考えていた。もしかして、この超美少女と二人、アチコチで寝泊まりする事になるのかと。それは男として、嬉し恥ずかしなんやらかんやらなのだ。


 ――そうなると、寝泊まり……あれ?


 そこで裕二はある事に今更気づく。それは裕二たちの目の前にあるもの。


「この家、どうしたんだ。何でこんなのが谷にある?」

「これはテリオスの収納魔法で出した家よ。実際は傾かないように土魔法を併用するの」

「はあぁ、なるほど。その手があったのか」


 ――これならエリネアと寝泊まり出来る!


「そろそろ戻るか。さすがに眠いだろ」

「ええ、そうね」


 裕二とエリネアは結構長い時間話し込んでいた。その為、既に床に就いている者もいる。

 ちなみに、寝床は男性三人は一階のソファー。女性は中二階でひとつのベッドを二人で使う。ひとつはバチルとメリル。もうひとつは、エリネアとセーラ。


 そのセーラは既に眠り始めていた。

 そして――


 ――セーラ……


 誰かがセーラの名を呼ぶ。


 ――セーラ……


 それは夢の中。その呼びかけに、セーラは目を開く。


 ――あなたは……


 そこには美しい山と森。遠くには滝が見える。そして、古く巨大な寺院のような城のような建物が見える。少し不思議なのは雲の位置がやたらと低い事だ。

 その前には、真っ白なドレスを着て、背中から翼を生やす美しい女性がいる。

 セーラはそれに見覚えがあった。


 ――時空の女神、ネメリー!


 教会に飾られた絵画に描かれているネメリー。今見ているのはそれに近い。

 そして、アリーとは顔が少し違うが、そのまま成長させたらこうなるだろう、と言う顔つきをしている。

 

 ――受け取りなさい。


 そして、セーラは光に包まれた。


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