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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
139/219

139 返された魔力


「そう言う事だから安心しろ」


 ここまでの経緯をバンに説明するテリー。いつの間にかセーラ、エリネア、メリルも着席して話しに耳を傾けている。

 シェルラックについてはラグドナールに任せるしかない。テリーが魔人の首を託した事により、各国上層部はその存在を知る事になるだろう。そして、裕二、バチル、バン、セーラの四人は行方不明者として扱われる事になる。


「もう一つ聞きたいのだが、ユージ殿はあの巨大なドラゴンさえ使役出来るのに、何故それを最初から使わなかったのでしょう」

「簡単だ。ユージ自身がそれを知らない。たぶんアリーもわかっていない。緊急時だからこそ召喚出来た。あれはそもそもユージを守る者じゃないからな」


 アリーの召喚したエレメンタルドラゴン、ヴァリトゥーラ。テリーの話しによると、あれはアリーが無意識に巫女であるセーラの魔力を温存しておき、緊急時にそれを使い、呼び出したらしい。

 そして、その役割は裕二たちを守るのではなく、この先にある土地を守っていると言う。だが、その詳しい事はテリーにもわかってはいない。


「だから本当に必要な時でなければ呼び出せないはずだ。ユージの仲間に小さなドラゴンがいただろ。あれの半身がヴァリトゥーラだ」

「な、そうなのですか!」

「だからアイツは半身が戻るまで小さいままだろうな」


 裕二はアリーとともにこの世界に来た時、最初にチビドラを作った。その時にイメージしたのは巨大なドラゴンだったのだが、何故か小さいドラゴンになってしまった。その理由は、既にチビドラの半身がここにあったから、となる。


「なるほど……」

「ユージの仲間の精霊たちはかつてクリシュナードに仕えていた者たちだ。それぞれが強大な力を持っている。それもおいおいわかってくるだろう」


 バンとセーラはその話しを聞き、かつて教会で目にした様々な絵画を思い起こす。そこには確かに、クリシュナードに仕えたドラゴンや女神などが描かれていた。見た目は今と同じではないが、それは絵画の方が間違っている可能性もある。その中には最近になって描かれたものもあるのだろう。


「私たちの知らない事がたくさんあるのですね」

「そうですな」


 セーラとバンはクリシュナードの持つ力の巨大さ、その一端に触れ、それをしみじみと感じていた。

 テリーはそこで一旦話しを打ち切ると、中二階へ目を向ける。


「うるさい奴が先に起きたな」


 すると、そこからガサガサと音がしてから、バチルがひょっこり顔を出す。


「ニャ? ここなんニャ」


 バチルはそこから飛び降り、テリーたちのいるテーブルへ向かう。


「エリネアニャ! あとテリオ……ニャアアア! 何でお前がここにいるニャ!?」


 バチルとメリルの目があった。その瞬間、バチルは恐怖に引きつる。それとは対照的にメリルはニッコリ微笑んでいる。


「お前、学校どうしたですニャ。父上はお怒りですニャ!」

「ニャアアア!」


 徐々に目が釣り上がるメリル。バチルは悲鳴をあげ、テレポーテーションのような速さで逃げ出す。おそらく今までで最速だ。しかし、その先には既にメリルがおり、首根っこを掴まれていた。バチルの姉は更に速いのだ。


「お仕置きですニャ」

「ごめんなさいニャ! 許してほしいのニャ! もうしないのニャ」


 呆気にとられるエリネア、バン、セーラ。あの驚異の身体能力を持つ、暴れん坊のバチルがあっさり捕まり、叱られた子供のように謝り倒している。見た事のない光景だ。


「おい。まだユージが寝ている。外でやってくれ」

「わかりましたですニャ」


 テリーに促されバチルを連れて外に出るメリル。ドアを閉めた途端、色んな音が聞こえてくる。もちろんバチルの悲鳴も聞こえる。


「後はユージが起きたら俺たちの目的を話そう。それまでゆっくりしてくれ。俺は外の様子を見てくる」


 そう言うとテリーは席を立ち、外に出ていった。エリネアとセーラ、そして、バンがその場に残された。


「そう言えばエリネア様。ここはヴィシェルヘイムで最も危険な場所とされておりますが、そんな所で野営をしても大丈夫なのでしょうか」


 バンは外の様子を見に行ったテリーを見て、急にその事を思い出した。既にほとんどのモンスターは倒されてはいるが、後からまた何か来ないとも限らない。


「一応それを見に行ったのでしょう。でも大丈夫よ。テリオスならケツァルコアトル程度ならひとりでも倒せるから」

「ふむ、あのお方も只者ではないとお見受けしますが、何故あのような知識まであるのでしょう。クリシュナード様の研究者よりも詳しいではないですか」

「私も詳しくはわかりません。けど、あの人はユージの古い親友。それは私たちが考えるよりも遥かに特別な事なのよ。正直、羨ましいわね」

「古い親友……」


 その言葉の意味を図りかねるバン。だが、今の状況はわからない事の方が多い。それもいずれわかるのだろう、と口を閉じる。


「でも明日は早く出発すると思うわ」

「それは何故でしょうか」

「あれだけドラゴンが暴れたのだから、シェルラックも驚いているかも知れないわ」

「な、なるほど。それは早めに出る必要がありますな」


 一撃でモンスターを谷ごと吹き飛ばすヴァリトゥーラ。その余波はシェルラックにまで届いている可能性もある。そうなれば、それについての調査も有り得るが、現在の最優先は魔人シャクソンの事なので、本当にそうなるかはわからない。しかし、念のため早めに出発する事になるだろう。


 ――なんてお綺麗な方……


 話しているエリネアを見て、そう思っていたセーラ。


 ――ここまでたった三人で来られるのだから、きっとお強いのでしょうね。


 王女であり強者でもあり、そして飛び抜けた美しさを持つエリネア。セーラは同じ女性として、それを見て少し自信をなくしてしまう。


 ――ユージ様はこう言うお方がお好みなのかしら……当然そうよね。


 そのまま下をうつむく。すると――


「うっ!!」


 セーラの体に衝撃が走る。そして、目の前のテーブルに両手をついた。


「セーラ様! どうされました」

「大丈夫! セーラ」


 バンとエリネアが立ち上がり、同時に叫ぶ。

 すると、セーラの背後からチビドラに乗ったアリーが出てきた。


「あー! 返しすぎたー! テンきてー」

「ミャアアア!」


 アリーの声でテンも現れる。


「ダメだよアリー。何やってんの」


 そして、テンとアリーがセーラの背中に手をかざす。


「な、なにを……」

「セーラに返すの」


 バンの言葉に答えるアリー。そして、小言を言うテン。


「いきなりやっちゃダメだよ」

「エヘヘ。だって借りたし」


 バンは焦るが何もしようがない。この二人を止めて良いのかすらわからない。


「その二人のやる事なら大丈夫でしょう。借りた魔力を返しているのだと思うわ」


 エリネアがそう説明する。おそらくアリーはセーラに借りた魔力を返している。その衝撃をテンが和らげているのだろう。最初、苦しそうだったセーラも徐々に良くなってきた。


「セーラ大丈夫?」

「は、はい、ですが、あ、アリー様。小さくなってませんか?」

「うん。私、小さいの。でもたまに大きいの」


 セーラが初めて見たアリーは人間サイズだったが、今は元のサイズに戻っている。だが、セーラにとっても今となってはそれほど驚く事でもない。それ以上のものを散々見てきたのだから。


「あれ? エリネアがいる!」


 アリーはセーラに手をかざしながらエリネアに気づく。


「久しぶりだねー、エリネア」

「え、ええ。お久しぶりね」

「ミーは元気?」

「え? ええ、もちろんよ」


 やはりアリーはあの時の事を覚えていないようだ。この会話は二度目になる。


「ミーと遊びたいなー。ね、チビドラ」

「ミャアアア!」

「今はお城に預けているの。ペルメニアに戻ったらみんなで遊びましょう」

「やったー!」

「ミャアアア!」


 と、ここでエリネアが気づく。アリー、チビドラ、テンがここにいると言う事は。


「何だここ!! セバスチャン!」


 中二階から裕二の声が聞こえる。どうやら目が覚めたようだ。そして、即座にセバスチャンを呼び出した。


「ここは……どこかの家らしいですね。あちらにエリネア様、バン様、セーラ様がいらっしゃいますので安全なのでしょう」

「あーなるほど。って! エリネア! 何で!?」

「私にもわかりませんが、おそらく谷での戦闘で裕二様は気絶され、そこを助けていただき……」

「ふむふむ」


 と、セバスチャンの説明を受けている。混乱している裕二だが、セバスチャンのおかげで何となく事態を察し始めた。そして、中二階からひょこっと顔を出す。


「やべ。本当にいる」

「うふふ。ユージ降りてきて」


 恐る恐る下に降りる裕二。アリーとテンもセーラに魔力を返し終えたようだ。


「久しぶりだなー、エリネア」

「ええ。本当にお久しぶりね」


 久々に見たエリネアは、裕二の知るエリネアとは少し変化があるようだ。硬さの取れた柔らかい笑顔。チェスカーバレン学院時代にはそれを見る事はなかった。美しさも、より磨きがかかっている。


「何か変わったな」

「そうかしら?」

「バンさんとセーラさんも無事だったんだ。良かった」


 しかし、裕二は辺りを見回し、バチルがいない事に気づく。


「あれ? バチルは……あ、いや。テリーもいたはずだよな」

「もうすぐ戻るわ。とりあえず落ちついてちょうだい」

「そ、そうだな」


 椅子に腰掛ける裕二。そして、エリネアがシャクソンの事と、谷での経緯を話す。ただヴァリトゥーラの事は話さないようだ。テリーが助けた事になっている。


「アイツはやっぱり魔人だったのか、さすがテリーだな……でもみんな無事で良かった。しかし、何でテリーとエリネアがここに――」


 と、言いかけた時。ドアが開いてバチルとメリルが戻ったきた。


「ぬぁ! 何でバチルが二人!」

「やかましニャ!」

「ユージ様。お初にお目にかかるですニャ」


 何故か涙目で怒鳴るバチルと対照的に丁寧なメリル。そして、エリネアがメリルを紹介する。


「あちらはバチルのお姉様でメリル・マクトレイヤ様よ」

「お姉様!」

「馬鹿な妹がお世話になりましたですニャ」

「なんと丁寧な……」


 そして、その直後に再びドアが開き、テリーが戻ってきた。裕二はその懐かしさに釘付けになる。


「テリー……」

「久しぶりだな。ユージ」


 いつも自信たっぷりで偉そうなテリー。そして、その余裕の笑顔でいつも裕二を助けてくれた最大の親友。その時となんら変わりない姿がそこにあった。


「また助けてくれたのか。悪いな」

「お前が気にする事はない。言ったろ。俺はお前に何度も助けられたって」

「……ああ。言った」


 そして、裕二の目から自然と涙が溢れる。


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