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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
138/219

138 残る魔人は


「本当にそれで良いのね。全てを忘れ、黙って暮らすなら、むしろ今までより安全に生活出来るのよ」


 それが最も楽だろう。裕二とともに在る、と言う意味は、ずっと裕二と一緒にいられる訳ではない。

 裕二の支えとなり、今まで以上の困難を背負い込む事にもなる。エリネアはそう説明する。


「わかってます。もしかして死ぬかもしれないとも思いました。ですが、そこにいられるエリネア様やテリオス様が、私には非常に羨ましくも思えるのです」


 既に裕二を支える立場にある二人。セーラも同じようにその場所に立ちたいと思っている。このまま帰れば、おそらく巫女もやめなければならない。そして、全てを忘れ、平穏な生活に戻る。

 確かにその方が楽だ。しかし、後悔するだろう。何故あの時、裕二についていかなかったのかと。もし、ここで別れたら一生会えない気がする。


「そんなのは嫌です。どんな形であろうと、私も行きます。クルートート卿。それで良いですか」

「もちろんですとも。セーラ様ならそう仰られると思っておりました」


 テリーはそれを聞き頷いた。


「わかった。もう後戻りは出来ないぞ。それは覚悟してくれ」

「はい」

「それと先程言ったように、ユージは自分がクリシュナードだと知らない。だからそれに気づくまでは、今まで通り振る舞ってくれ。間違っても跪くなよ。一応、違法行為だからな」

「わかりました!」


 話しが終わると、テリーは近場の木々が生い茂る場所へ向かう。そして、いきなりそこへ家を出した。

 煉瓦造りの平屋。街に行けば普通にありそうな家だ。そこで七人寝泊まりするのは少し狭そうではあるが、野宿よりは余程良い。


「何を驚いている。さっさと入れ」


 驚くバンとセーラを尻目に、テリーは家の中へ入っていった。


「これは収納魔法で格納された家を土魔法で地面に活着させてるのよ。あの人はペルメニア最強クラスの魔術師でもあるから、しばらくは驚く事が多いと思うけど、じきに馴れるわ」


 エリネアがそう説明し、中へ入る。そして、メリルが裕二とバチルを担いでそれに続く。


「とりあえず休むですニャ」


 バンとセーラは目を丸くしながらその家を見回し、おずおずと中へ入った。

 家の中は暖炉と炊事場、椅子やテーブルなど、ひと通りの物が揃っており、中二階にはベッド。奥には浴槽もある。


「ユージとバチルは寝かせておけ」

「わかりましたですニャ」


 メリルが二人をベッドに寝かせ、エリネアがお茶の準備をする。そこへセーラも慌てて手伝いに入る。しかし、バンは何かを考えているようだ。未だ混乱している部分もあり、何かを忘れているような気がしている。


「はっ! そうだ。テリオス殿」

「何だ、とりあえず座れ」


 何かを思い出したバン。それは早急に伝えねばならない問題。テリーはその様子を見ても、特に慌てる事なく席につく。


「ユージ殿はシャクソンが魔人だと言っておりました。そして、そのシャクソンに魔人の疑いをかけられたと。奴は今シェルラックに戻り――」

「それなら大丈夫だ」



 時間は少し遡る。


 シャクソンはホローへイムから急いでシェルラックに帰り、自分の立てた予定通り、キースを三国会議に向かわせた。

 そして、自分は本家に戻る為、すぐにシェルラックを出立した。


 シャクソンの目的は裕二を谷へ向かわせる事。そして、シェルラックも裕二の敵にしてしまう事。普通はそこまでされたら生き残れるはずがない。

 しかし、シャクソンはホローへイムで裕二の力を見て、それだけでは足りないと思い始めた。

 自分の仲間の元へ行き、それを伝えなければならない。出来る限りの戦力を以って裕二を殺さなければならない。

 しかし、それをやるにしても秘密裏に行う必要がある。シェルラック近辺で自分の本当の姿を見られる訳にはいかない。元の姿になれば、空を飛んで行けるのだが、それは出来ない。シャクソンはあくまでもシャクソンだと、シェルラックに認識させておかなければならない。

 もし、それが見つかりシャクソンがいなくなったとなれば、何故シェルラック近辺に魔人が現れた途端に、シャクソンがいなくなったのか。そのシャクソンが言う事が本当なのか。そう考えられてしまう。裕二が魔人だと言う疑惑の信憑性は一気に下がるのだ。

 そこへラグドナールが到着すれば、シャクソンこそが魔人ではないのか、ともなりかねない。


「なるべく早く戻る。お前は魔人であるユージを逃してはならない。キマイラよりもそちらが優先されると伝えておけ」


 シャクソンはキースにそう言い残し、馬に乗る。

 街を出てペルメニアに向かう街道は多くの兵士や商人の馬車が行き来していおり、それなりの地位にあるシャクソンは途中何度も兵士から敬礼を受ける。


 ――面倒だが、アリバイにはなる。人が途切れたら元の姿に戻り急がねば。


 シャクソンはそう考えながら馬を走らせる。やがて人も少なくなり、そろそろかと思い始めた。


 ――アイツらを越えたらにするか。


 シャクソンの前方には、馬に跨りシェルラック方面ヘ向かう三人組みがいる。 それをやり過ごしたら当分人はいない。そうなれば後は元の姿に戻り、仲間のいる場所へ向かえる。

 しかし、その三人組みとすれ違おうとた時。


「ちょっと聞きたいんだが」


 その中のひとりに声をかけられた。


「何だ。俺は忙しい」

「まあそう言うな。シェルラックの場所を聞きたいだけだ」


 ――コイツは馬鹿なのか? この先に街はシェルラックしかないんだぞ。まあいい。


「ここを真っ直ぐ行けばシェルラックだ。用が済んだら行け」

「なるほど。そりゃ助かった。だが、もう一つ聞きたい事がある」

「何だ! さっさとしろ」 


 その者は苛ついているシャクソンに対し全く表情を変えず、当然のような口調で質問を続けた。


「何故お前はシャクソン・マクアルパインの振りをしている」


 途端にその者の目つきが鋭く変化する。そして、シャクソンの表情も一気に強張った。


「なっ!? 何を馬鹿な事を言ってる。無礼だぞ!」

「ほう。お前が本物のシャクソンなら、すぐに俺がテリオス・ジェントラーだと気づくはずだが? それに上手く瘴気を隠しているようだが、俺には通用しない」


 ――コイツ……シャクソンの知り合いなのか。マズい……


「本物のシャクソンはどうした。殺したか」


 ――殺すしかない!


 そう決意するシャクソン。その決意が隠していた瘴気を一気に噴出させ、場の雰囲気を一変させる。殺気と瘴気に満ち溢れた空気。後ろの二人もそれを感じ取っただろう。しかし、テリーはおろか、その二人も余裕の表情を崩さず、黙って見守っている。

 シャクソンはそれを見て危機感を覚える。この三人は最初から知っていた。知っていて声をかけてきたのだ、と今更ながらに理解する。


「もう瘴気を隠すのはやめたのか」


 だが、それでも、シャクソンに取れる選択肢はひとつしかない。


「くっ……死ねええ!」


 シャクソンはいきなり剣を抜き、斬りかかってきた。しかし――


「ネガティブエナジーディフュージョン」

「グッ!」


 テリーの魔法により崩れ落ちるシャクソン。同時にその化けの皮がはがれ、魔人の姿を晒した。

 その魔法は魔人の持つ瘴気を拡散させる魔食いの指輪と同じ効果を持つ。しかし、その威力は遥かに上だ。

 先程までシャクソンだった者は、地面に手をつきこちらを睨みつける。


「もう一度聞く。本物のシャクソンはどうした。ヴィシェルヘイムで殺したのか」

「き、貴様ああ!」


 よろめきながらも立ち上がり、テリーに飛びかかる魔人。しかし、テリーは馬に乗ったまま落ち着き払い、片手を手綱から離す。同時にその手に現れた剣で魔人を斬り裂く。


「あ、ああ、あ……」


 魔人は肩から反対の脇腹までスッパリ斬られた。そして、地面に倒れる。


「これが魔人……なのね」

「そうだ。俺たちにとってコイツらを倒すのは然程難しくない。だが、それをするには隠された些細な瘴気も見逃してはならない」


 テリーはそう言いながら馬を降り、魔人の首を跳ねた。


「急ぐぞ。ユージの元へ」



「ラグドナール隊長。やはり、バン・クルートートとセーラ・ロウェルは見あたりません。騎士団も眠らされていたので何もわからないと……」

「くそっ! 急がねばならんが……半数を残して捜索にあてろ」


 三国会議に事実を伝える為に急いでいたラグドナール隊。その途中で倒れた聖堂騎士団を見つけた。そして、彼らを保護してわかったのはバンとセーラがこの場にいない、と言う事。

 戦闘員のバンはともかく、巫女のセーラは探す必要がある。

 ラグドナールは隊を半分に割り、シェルラックへ向かう者と捜索隊に分けようと考えた。


「しかし、奇妙なタイミングじゃな。ユージは以前、聖堂騎士団と行動をともにしていたのであろう?」

「はあ? ユージが巫女を攫ったとでも言いてえのかよババア!」


 メフィの意見に反抗するジンジャー。しかし、それは即座に否定される。


「そんな事言うとらんわ、馬鹿者が!」


 メフィはこれが裕二失踪のタイミングと何らかの関係があるのではないかと考えた。何故なら聖堂騎士団は薬によって眠らされていた。明らかに人の仕業。


「それをシャクソンの配下がやってたとしたら、どうなるか考えてみろ、愚か者!」

「なるほど。シャクソンの野朗!」


 ジンジャーは軽く納得しているが、他の者にはその意図が読めない。ラグドナールがそれを訊ねる。


「メフィ、どう言う事だ」

「ユージは巫女をよく知っておるはずじゃ。仲も良いかもしれん。もしシャクソンがユージを殺したいなら、囮に使えるじゃろ」

「な、なんだと!」


 となると、セーラの行く先に裕二がいる可能性も出てくる。隊としてはそちらの捜索を全力でやるべきなのかもしれない。ラグドナールは捜索の人員を再考し始めた。

 しかし、ちょうどその時、ラグドナールに背後から声をかける者がいた。


「誰かと思ったらラグドナールか」

「お前は……テリオス!」


 その登場に驚き、目を見張るラグドナール。


「お久しぶりね。ラグドナール」

「エリネア様まで……」

「私もいるですニャ」


 一切の気配を感じさせず現れた、テリー、エリネア、メリル。

 メフィはそれだけを見て、この三人が只者ではないと感じ取る。


 ――これが……テリオス・ジェントラー。なるほど。ユージに勝ったのはまぐれではなさそうじゃな。


「急ぐので要件だけ伝える。ちょっとこっちへ来い」

「な、何だ」


 テリーは混乱しているラグドナールの腕を引っ張り、少し離れた場所へ行く。そこで麻袋を取り出した。


「何だこれは」

「中を見ろ。声を出さずにな」


 ラグドナールは麻袋の紐を解き、恐る恐る中を覗き見た。


「うっ……これは」

「シャクソンだ」

「なっ!!」


 そこには魔人の首が入っている。更に混乱するラグドナールだが、それを指し示す意味はひとつしかない。


「シャクソンが……魔人だったって事なのか」

「そうだ。これは奴の持ってた剣だ。証拠にしろ」


 そう言ってテリーは麻袋とシャクソンの剣をラグドナールに渡す。


「ちょ、ちょっと待て。証拠にって……」

「ユージは俺が探す。お前はシェルラックを上手く収めろ。特にマクアルパインだ。詳しくはジェントラー家に問い合わせろ。今なら話せる事もあるが、ここでは言えん」


 この魔人の首がシャクソンなら、本物のシャクソンは既に殺されている。それによりシェルラックは混乱するはずだ。

 テリーはその後処理をラグドナールに頼んでいるが、その口ぶりからもっと大掛かりなものを連想させる。

 ラグドナールは使徒の家系に属する者として、わからなくても飲み込まねばならない部分もあると感じている。


「しかし、俺たちは今、巫女も探さなくては……」

「セーラ・ロウェルか。それも俺が探しておく。だが、行方不明者として処理しておけ。ここにいる奴らは全員帰らせろ」


 すぐに納得出来る話しではない。テリーは自分たちを帰らせ、たった三人で裕二とセーラを、この広大なヴィシェルヘイムから探し出すと言っているのだ。普通に考えたらまず無理だろう。


「いくらなんでも、三人だけでは――」

「なら、そこで聞き耳を立てているご婦人に聞いてみろ。お前よりはマシな判断をするはずだ」


 テリーはそう言いながら親指で背後の木を指し示す。そこには、いつの間にかメフィが立っていた。気配を消し、様子を窺っていたのだ。当然メフィは相手の技量も考え、それを全力でやり、徹底して気配を消していた。


「最初から気づかれておったか。さすがじゃな」

「メフィ! いつから……」

「ひとつ聞く。どのようにユージを探すつもりじゃ」


 メフィはラグドナールの言葉を遮り、テリーに質問を投げかける。


「それはユージとともに在る。あんたに見せる為に呼び戻す事はできんな」


 ――なるほど、精霊か。ならば探すのではなく、既に居場所を把握しておるのか。妾もユージを探すのは可能じゃが……


 メフィはその場に近づく。そして、ラグドナールに言った。


「その者なら探し出すじゃろうな。妾たちよりも早く。確実に。我らが行っても出し抜かれるので行く意味はない。無駄足じゃ」

「だ、だが……」

「妾は今の話しを聞かなかった。捜索はお前たちに任す。それで良いな、テリオスとやら」

「ああ。任せろ」


 そう言ってテリーは立ち去ろうとした。そこへメフィが振り返り、声をかける。


「じゃが、必ず生かして連れ帰るのじゃぞ」

「安心しろ。ユージはそいつら程度には殺られん」


 テリーはラグドナールの持つ麻袋を見やってそう言った。


「だが、万が一ユージが窮地におちいるのなら、それを助けるのに俺以上の適任者はいない」

「大した自信じゃな」

「昔からそう決まってるからな」


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