表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
136/219

136 苦闘の先


 モンスターの群れはかなり減少してきた。だが、代わりに現れたのはオルトロスとリトロナクス。質と言う意味ではこちらの方が上だ。状況は良くなっている、とは言い難い。

 そして裕二の方も、魔力の減少を感じ始めている。もしこのまま魔力が減り続けたなら、いずれは魔力枯渇となり、裕二は何も出来なくなるだろう。それはバチルも同じだ。

 既に千を越えているモンスターを相手に、裕二とタルパ、バチルとバンのみで戦っている。人数だけ見れば、今持ちこたえているのは奇跡、と言える。

 問題はそれだけではなく、ここがケツァルコアトルの支配地域だと言う事。それがまだ出てきていない。

 それがどこで出てくるのか。おそらく、それを決めているのは魔人だ。


「いたとしても、かなり離れているな」


 裕二は戦いの始めから、魔人の位置を探っている。だが、そう簡単には見つからない。

 裕二とバチルは以前、魔人の気配を察知し、攻撃しているのだから、今回はかなり警戒しているだろう。魔人としても、わざわざ近くにいる必要もなく、モンスターの群れの外側でも良いはずだ。そうなると見つけるのは簡単ではない。

 だが、もし魔人を見つけ、倒す事が出来たなら、このモンスター集結自体を止められる可能性もある。

 裕二の目に映る、たくさんの誘導瘴気。魔人を倒せばそれも全て消えるはず。

 しかし、それをするのはかなりの困難だろう。


「だが、雑魚はかなり減った。チビドラは戻れ! リアンは全体攻撃を控えろ!」


 ここで一体づつモンスターを倒す方針に切り替える。もちろん全ての雑魚を倒せている訳ではないが、それはバリケードへ流す。


「バチルは少し休め。こっちはセバスチャンを出す」

「いらんのニャ」

「俺が休みたいんだよ。お前の後は俺が休む」

「……わかったニャ」


 そう言わなければバチルは休まない。そして、裕二がそう思っている事もバチルは知っているだろう。そのまま裕二の言う事に従い、バリケードへ戻っていった。


「バチル様! お水をお飲み下さい」


 セーラが水を差し出す。バチルはそれを受け取り一口飲んだ。しかし、その雰囲気はいつもと全く違い、口数は少ない。


「あ、あの、バチル様」

「お前とバンは必ず裕二の言う事を守るニャ」

「え?」


 その意味がわからないセーラ。裕二からは特に何も言われてはいない。


「後でそうなるニャ」


 それきりバチルは口を閉ざす。


「バチル様……」



「そ、それでは裕二様が!」

「良いんだセバスチャン」

「しかし……」

「悪いが命令だ。必ずやれ」

「か、畏まりました……」

「その為に、もう少しモンスターの数を減らさないとな」


 バリケードの外は裕二、セバスチャン、リアン、ムサシのみ。その四者で片っ端からモンスターを倒していく。

 数は少ないが面倒な敵が多い。リアンとムサシも今まであっさり倒していた敵に少し時間がかかっている。

 それは、リアンの全体攻撃。ムサシの強力なプラズマブレードによる攻撃を控えているせいだ。なので、その全てには対応出来ない。

 必然的にバリケードへ向かうモンスターも増える。


「くっ! だいぶ増えましたな。テン殿」

「デカい袋小路は僕が一気にやるよ。細かい所は拘束しないから、君はそっちを頼むね」


 今までは袋小路に追い込んでから拘束していたが、それもなるべく控える。ベヒーモスなどは狭い場所ならあの強力な突進力はない。バンでも何とか対応出来るだろう。


「ニャ!」

「バチル殿!」


 休んでいたバチルが、その助っ人に入る。


「少し中を片付けてから行くニャ」

「かたじけない」


 今のこの状況。誰も口にはしないが、どう見てもギリギリで持ちこたえているようにしか見えないだろう。

 それは戦闘に疎いセーラでさえ感じている。

 もし、ここに何か他の者が現れたらどうなるのか。新たな敵に対応出来る力は残っているのか。それを考えずにはいられない。


 ――どうか、クリシュナード様。どうか皆様を――


 一心に祈りを捧げるセーラ。

 戦えない自分はそれ以外の事は何も出来ない。ならばそれをやり続けるしかない。皆が無事に戻るように。それを祈り続けるしかないのだ。


「えっ?」


 その時。一瞬だけセーラの魔力がガクッと減ったような気がした。

 驚いて後ろを振り返るセーラ。そこにはアリーがいる。こちらを見てニッコリと微笑んでいた。


「チビドラおいで」

「ミャアアア」


 アリーの所へチビドラがパタパタと飛んでくる。


「お前は少しお休みね」

「ミャアアア」


 そして、チビドラはアリーの膝の上で丸くなって眠りだした。



「次はユージが休むニャ」


 外へ戻ったバチルはそう言った。


「おう、後でな。セバスチャン戻れ」

「畏まりました」


 それを見たバチルは裕二を睨みつける。さっきと話しが違う。


「お前騙したニャ」

「いっ!? いや、騙してないよ」


 裕二はそのままモンスターと戦い始める。バチルもそばで戦う。お互いが背を向けながら言葉を交わす。


「次騙したらぶっ殺すニャ」

「わ、わかった……」


 バチルの剣幕に焦る裕二。戦いながら横目で見るバチルは、かなり怒っている。


「お前には最後までいてもらう。だから休ませた」

「ニャら良いニャ」

「つーか……バレてる?」

「当然ニャ!」


 バチルの凄まじいまでの野生の勘。それは裕二の考える事までもお見通しなのだろうか。何とか納得はしてくれたようだが、次騙したら本当にぶっ殺されるかもしれない。


「だいぶ数も減ってきたから、そろそろだろ」

「もう来てるニャ。あそこニャ」


 バチルが空を指差す。そこには巨大な魔法陣が二つ出来ている。


「いよいよ真打ちかよ。しかし、派手な登場だな」

「雑魚ではない証拠ニャ」


 空中に作られた二つの魔法陣。そこからゆっくりと何かが出てくる。

 それは黒光りする巨大な蛇。その体長は二十メートルはあるだろう。頭の少し下から大きな翼が生えている。

 野放しにされていたモンスターとは違い、ここぞと言う場面で出されている。

 間違いなくこれが――


「ケツァルコアトル……しかも二体」


 バンがそれを見て唖然としながら呟く。シェルラックが全く敵わなかった最強のモンスター。それをどのように倒せば良いのか。バンには到底思いつかない事だ。

 しかも敵は地上にもまだ残っている。それも同時に相手しなければならない。


 ――あれのブレスを喰らったら終わりだ。どうすれば良い……


 その強力なブレスは人を溶かすとされている。それも一瞬で広範囲にだ。今すぐ勝負がついてもおかしくはない。


 しかし、ケツァルコアトルが現れた直後、リアンが短くガトリングガンを発射する。その注意を自分に逸らす為の威嚇射撃だ。

 ケツァルコアトルはそれに反応し、リアンに向けて二体同時にブレスを放つ。


「リアン!」


 裕二が叫んだ直後、リアンは霊体化で移動し、それを避ける。そして、また威嚇射撃を繰り返す。

 ブレスの放たれた場所は、草木はおろか大きな岩も半分近く溶かされている。いくらリアンでも、あれを喰らったらどうなるかわからない。

 しかし、リアンは威嚇と移動を繰り返し時間を稼ぐ。それは同時にケツァルコアトルと裕二たちの距離を離す事にもなっている。いや、むしろリアンの狙いはそこにあるのだろう。


『ギャォオオオオ!』


 すると突然、一体のケツァルコアトルが大声で悲鳴をあげた。その背中にはムサシが乗っている。霊体化で移動したのだ。

 身をよじるケツァルコアトル。ムサシが何か攻撃を仕掛けたようだ。しかし、その巨体はリトロナクスより更に大きい。その弱点も当然わからない。更にムサシは、裕二の魔力減少に伴いその力をセーブしながら戦わなくてならない。

 今までのように短時間で倒すのは期待出来ない。


「だが、アイツらなら倒される事はない。俺たちは雑魚掃除だ」

「うニャ!」


 残りは裕二とバチルのみで片付ける。

 しかし、力をセーブしているとは言え、リアンとムサシが動いていれば、それは裕二の魔力減少に繋がる。だが、そこをケチる訳にはいかない。相手はケツァルコアトルなのだから。


「くっ!」

「ユージは下がるニャ!」


 地上の敵は少ないとは言え、その全てが二人に向かう。裕二は表情から察するに、かなり厳しそうだ。それを庇うバチルもそれほど変わらないだろう。


「ニャ!」


 オルトロスの攻撃がバチルに向かう。それを避け首に剣を突き刺す。しかし、バチルはその時、疲れからか剣を手放してしまった。そこへ別のオルトロスの体当たりにより、バチルは弾き飛ばされる。


「バチル!」


 そして、地上にいる全てのモンスターが裕二ひとりを目掛けて突進してくる。さすがにその数のモンスターを今の状態でひとりでは倒せない。


「ユージ殿!!」


 それを見ていたバンは、咄嗟に懐から何かを取り出す。そして、それをバリケードになっている木々にばら撒いた。


「クハッ!」


 それはセーラが以前購入した身代わりの札。それを木に貼り付ければ身代わりとしてモンスターを引き寄せる。バンは先程セーラからそれを受け取っていたのだ。

 しかし、その身代わりの札は一枚でもかなりの魔力を消費する。バンは一度にそれを何枚も使い、一気に魔力が減少し、その場に倒れる。


 だが、バンの機転により、裕二を狙っていたモンスターも全て、そちらへ向かっていった。


「バンさん!」

「クルートート卿!」


 難を逃れた裕二。その引き換えにバンが倒れた。しかし、ほんの少しだけ時間を稼げる。地上のモンスターはそちらへ集中している。ケツァルコアトルはリアンとムサシが惹きつけている。

 つまり、他はガラ空きだ。


 ――今しかない! 今なら逃がせる。


「セバスチャン! 行け!」

「か、畏まりました……」


 少し返事に淀みがあるセバスチャン。だが、行動は迅速だ。


「白虎!」


 白虎を呼びながら、セーラと倒れたバンを抱えるセバスチャン。


「な、何をなさるのですか!」

「裕二様の……ご命令なのです」


 絞るような声でセーラに答える。そして、二人を白虎に乗せた。


「行きなさい!」


 セバスチャンはセーラとバンを抱えたまま、白虎を発進させる。


「どこへ……どこへ行かれるのですか! 今は――」


 叫ぶセーラの声を遮り、セバスチャンはその目的を話す。


「セーラ様、お聞き下さい。私は途中で消えるかも知れません。白虎はしばらく持つはずです。出来るだけ遠くへ逃げて下さい」

「そ、そんな……それでは、ユージ様とバチル様はどうなるのです!」

「…………」


 その問いに対し、セバスチャンは何も答えない。彼らを乗せた白虎は、モンスターに追われることなく森の奥へと消えていった。



 ドサリと、その巨体が地上に落ちた。

 ムサシがケツァルコアトルを一体仕留めたのだ。


「はぁ、はぁ、もう一体……の訳ねーよな」


 バリケードに群がるモンスターの背中を攻撃する裕二。残されたケツァルコアトルを見上げると、そこには新たな魔法陣が四つ作られていた。

 オルトロスに弾き飛ばされたバチルも何とか起き上がり、空を見上げる。

 ケツァルコアトルは残り五体に増えてしまう。


「またアイツがきたニャ」


 地上には更にリトロナクスが十体程こちらへ向かってくるのが見える。敵側も残り少ない駒を使っているのだろう。しかし、この場面でその数はかなりの脅威だ。こちらはまだ倒していないモンスターもいる。


「大丈夫かバチル! アレが来る前に片付けるぞ!」

「うニャアアア!! ぶっ殺すニャ!」


 威勢の良い声を出すバチル。しかし、それは自らを無理矢理奮い立たせる為に鼓舞しているようにも見える。まだ先程のダメージは残っているはずだ。


 バリケードに張り付いた身代わりの札は、思いの外役立っている。入り組んだ木々の間にある札はなかなか攻撃されにくい。とは言え、二人とも魔力だけでなく、体力も限界に近い。無防備な敵を斬り伏せるだけでも力は削られて行く。

 その結果――


「はぁ、はぁ……おい、バチル! おい!」


 見ると、バチルは倒れていた。先程のダメージの影響なのか、口からは血を吐いている。裕二はそれに対し何も出来ない。バチルに対処すれば、その間に周りを取り囲まれてしまう。


「少し……休むニャ」

「クッソ! わかった寝てろ。無理するな」


 テンを出して何とかしてやりたい。だが、今はそれを出来る状況ではない。攻撃以外で魔力を使う余裕がないのだ。

 既に裕二はリアン、ムサシ、白虎、セバスチャン以外のタルパは消えるよう命じている。

 その中で今、戦えるのは、裕二、リアン、ムサシのみ。

 しかし、敵は容赦なく襲いかかって来る。ちょうど身代わりの札も効果が切れ始めた。そこに群がるモンスターも、その矛先を裕二に向ける。

 これではもう、如何に裕二でも対処しきれない。


「メテオストリーム!」


 裕二はそれに対し、全方向へメテオストリームを放つ。狙いも定まらず不発が多く含まれるが、その分の魔力は当然消費される。その量は決して少なくはない。だが、それでもやるしかなかった。


「うっ……まさか」


 その瞬間裕二は気づいた。自分の中にある魔力量を。そして、これが最後の攻撃になる事を。


「お、おい……俺は」


 同時に、リアンとムサシが消え、裕二もその場に倒れる。


「まだ……」


 そして、森の中では逃走した白虎に乗るセバスチャンも消えた。


「セバスチャン様!」


 残されたセーラが叫ぶ。

 その数十秒後に白虎も消え、セーラとバンは森の中へ投げ出された。


「きゃあああ!」


 そして、谷に残るケツァルコアトルを含む全てのモンスターが裕二の方向を向く。


「……まだ……まだだ」


 裕二とバチルが倒れ、その上空に浮かぶケツァルコアトル。それはまさに、マサラートの見た夢。予言と一致した光景。


「バチル……生きてるか」

「ニャ……」


 薄目を開けバチルを見る裕二。どう見ても起き上がれそうにない。裕二もバチルも完全に魔力と体力を使い切ってしまったのだ。まだ生きてはいるが、このままでは終わってしまう。

 何か手はないのか。せめてバチルだけでも何とかならないのか。裕二はボヤける頭で必死に考える。だが、何も良い考えが浮かばない。それどころか裕二の思考は徐々に停止へと向かっている。何も考える事が出来なくなってきているのだ。


「バ……チル」


 しかしその時――


 裕二が薄目で見るバチルの方向。その後ろには他よりひときわ大きな岩が見える。


「アレ……は」


 その岩の上に何かがいる。

 そして、それは大きく手を振り上げた。


「パーティクルテンペスト」


 何かがそう呟く。直後、空から光の雨が高速で降り注ぐ。そして、大量のそれは裕二とバチルの周りにいるモンスターの体を突き抜けた。

 その場にいるモンスターは悲鳴をあげ、体中から血を吹き出しそこへ倒れる。


 その者は長い髪をなびかせながら裕二の方を向いた。

 逆光にシルエットだけが浮かぶ。しかし、裕二にはそれが誰なのかすぐにわかった。

 そして、その懐かしさに裕二の目は潤む。そこにいたのは裕二でさえ勝てなかった最強の男。


「後は任せろ。ユージ」


 その者の名は――


「テ……リー」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ