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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
135/219

135 歪む大局


 全体的なモンスターの数は減ってきた。代わりにオルトロスが増えているが、見た目はかなりまばらな印象になってきた。

 その中に一体。特別大きなモンスターが混じっている。


「何だよアレ! 怪獣じゃねーか。ちょっと行ってくるぞ」


 裕二はテンにそう告げ、再びバリケードの外へ向かう。

 その様子を見て、バンが何事かとこちらに駆け寄る。そして、外へ走る裕二の遥か先にいるモンスターに気づく。


「あ、あれは、リトロナクスなのか……」


 リトロナクスは魔人戦争時に現れたモンスターだが、現在はその姿を確認されてはいない。既に絶滅したと思われているモンスターだ。

 体長は約十メートル、体高は四メートル近い。巨大な口のある頭から尻尾まで、ほぼ水平に伸びる二足歩行のモンスター。前足がかなり小さい分、後ろ足は大きく強そうだ。見た目はティラノサウルスに良く似ている。

 魔人戦争後に残されたモンスターの中で多くの被害をもたらし、人類から集中的に討伐され姿を消したとされている。


「あんなのまでいるとは……」


 こちらへ迫るリトロナクス。裕二はそこへ向かい一直線に走る。


「裕二様! 白虎をお連れ下さい。泥沼が役立つはずです」

「わかった。来い、白虎!」


 他のモンスターはチビドラとセバスチャンに任せ、裕二は白虎とともにリトロナクスの眼前に迫る。


「やれ! 白虎」


 そして、白虎が地面を叩くと、そこから泥沼が広がり、リトロナクスと辺りのモンスターを纏めて地に沈める。


 しかし――


「はあ? 何やってんだ」


 リトロナクスはその長い尻尾を推進力に、泥沼を泳ぎ出した。


「泳ぐんじゃねーよ! 白虎、固めろ」


 もう一度白虎が地面を叩くと、途端に泥沼は固まる。リトロナクスは体の半分をその場に沈めているが、次の瞬間、その地面が割れる。

 強力な尻尾でそこから脱出しようともがいているのだ。これではすぐに出てきてしまう。

 攻撃的な牙の並ぶ大きな口に目が行ってしまうが、尻尾の働きがなかなか侮れない。


「させるか怪獣!」


 裕二はその隙を狙い、メテオストリームをリトロナクスの頭に連発で放つ。


「ダメだ。デカすぎる」


 魔法は命中した。しかし、その巨大な頭の一部を破壊するだけだ。そして、そこに与えたダメージにより、リトロナクスは暴れ出し、地面からあっさり抜け出てしまう。

 ダメージは与えられる。しかし、それが中途半端では、リトロナクスはより凶暴化してしまうようだ。

 キマイラとは違う厄介さを持っている。


「ライトブレードを伸ばして使うしかないか」


 裕二は少し焦っている様子だ。

 ライトブレードは刀身が伸ばせる。それを使えばリトロナクスの太い首を一気に切り落とす事も可能だ。

 しかし、ライトブレードは通常でも魔力消費が大きく、刀身を伸ばせばそれに応じて魔力を使う。

 一体だけならそれでも良いが、おそらくこの後もリトロナクスは出てくる。それにどう対応するか。


「ニャは」


 そこへバチルが白虎を踏み台に高く飛び上がる。そして、暴れるリトロナクスの頭のてっぺんに着地、同時に剣を根本まで突き刺す。


「ニャ。外したニャ」


 そのダメージにより、更に暴れるリトロナクス。しかし、バチルはもう一度飛び上がると先程と同じように、ほとんど同じ場所へ剣を突き刺した。

 すると、リトロナクスは動きを止め、そのまま横に倒れた。しかもバチルはその攻撃にライトブレードを使っていない。一瞬で弱点を見抜き、そこを刺す。これぞまさに剣技と言った感じだ。


「おお、さすが! どうやったんだ」

「こいつ頭悪そうニャ。そこを狙うニャ」

「は?」

「裕二様! おそらく脳みそです」


 セバスチャンが他のモンスターと闘いながら叫ぶ。

 バチルの言う頭悪そうと言う意味は、その分脳みそが小さいと言う事。そこを一撃で突き刺せば倒せる。余計な攻撃はリトロナクスを暴れさせてしまうので、やらない方が良い。そう言う事だ。

 しかし、巨大な頭の見えない部分。そこをライトブレードを使わず一撃で仕留めるのは至難の業。故にバチルでさえ、一度目は外した。

 裕二なら何度か練習すればそれも出来るかもしれない。しかし、今それをやっている余裕はない。

 効率を求めるならバチルに頼るのが懸命だ。


「バチル! そいつがまた現れたら任せて良いか」

「支払いはバターソテーニャ!」

「わかった! 白虎とセバスチャンは戻れ」

「畏まりました」


 その様子をバリケードから見ていたバン。リトロナクスも何とか倒せるのを見届け安堵の表情を浮かべる。

 しかし、こちらへ戻るセバスチャンと白虎を見て疑問を持つ。


「テン殿。何故あの二人を戻すのですか? あれだけの武力ならば――」

「僕らは裕二様の莫大な量の魔力によって動いているんだ。でもその莫大な魔力も僕ら全員が全力で動いたら、その消費量はデカい。そのうち少し休んだ程度では追いつかなくなる」


 その為に裕二はセバスチャンと白虎を戻した。まだ魔力は温存しておかなければならないのだ。

 テンはバリケードの外を見ながらそう答えた。その表情には、先程よりも若干の焦りが見え始めている。


「そ、それは知らぬとは言え失礼な事を申し上げた……」

「気にしなくていいよ。僕らはやれる事をやろう」


 ただでさえ裕二に頼り切っているのに、更なる負担を求めるような物言いをしてしまったと、バンは反省した。


 ――何か私に出来る事は……そう言えば、あれが……


 そして、モンスターの途切れた隙を見て、セーラに駆け寄る。


「セーラ様。あれはお持ちですか」

「あれ、と申しますと?」


 セバスチャンはそのやり取りを黙って見ている。


 ――これを……もし、バン様がこれを使うとなると……リアンとムサシの方も少し面倒になってきましたね。


 バリケードの外ではリトロナクスが増えてきた。リアンとムサシの方もそれは同じだ。しかし、ムサシはリトロナクスの手前で弾丸のように飛ぶ。

 刀身の短いムサシの武器では、体の大きなリトロナクスを相手にするのは不利に思える。

 しかし、ムサシは一撃で首を跳ね飛ばす。それがバンの言うプラズマブレードの効果なのだろうか。リトロナクスの首は綺麗な断面を残して地に落ちた。


 ムサシの負担が増えた為、リアンがメタルスコーピオンも相手にする。その分移動速度も落ちてしまうが仕方ない。

 ガトリングガンとグレネードランチャーの攻撃を抜けてくるメタルスコーピオン。それがリアンの周りに群がる。そして、一斉に毒針での攻撃を仕掛けた。

 だが、リアンは一切動じない。その体は毒針など全く通さないのだ。当然ハサミの攻撃も通用しない。

 リアンは群がるメタルスコーピオンの体を踏みつけ尻尾を片手で掴む。そして、一気に引きちぎる。

 リアンの前では、ヴィシェルヘイム最上位の防御であっても何の役にも立たない。メタルスコーピオンは紙切れのように引きちぎられていく。

 メタルスコーピオンに何らかのアドバンテージがあるとするなら、それはリアンの移動を少しの間、阻止出来た事だろう。

 しかし、そのほんの少しのアドバンテージ。それが全体を歪めていく事にもなる。


 ――さすがに魔力がヤバい。チビドラを減らしたいが……そうも言ってられないか。


 魔力枯渇を意識し始めた裕二。

 その魔力は魔法のためだけにあるのではない。限界を越えると魔法が使えないだけではなく、体に影響が出てくる。今その状況になれば死ぬ確率は高い。如何に裕二とて不死身ではないのだ。


 ――リアンとムサシは主力だから抑える訳にはいかない。バチルは……口数が減ってるな……


 見た目にはまだ軽快に動いているバチル。しかし、よく見るとその顔は険しい。今までに一度も見た事のない表情をしている。


「バチル。休んでこい」

「まだ大丈夫ニャ。自分の心配をしとけニャ!」


 裕二もまだ動けてはいる。しかし、その状態をバチルは正確に見抜いているようにも思える。


 リトロナクスは倒せる。しかし、その登場により、こちらのペースは乱され始めているのだ。


「クルートート卿。いったいそれを何に使うのですか」

「ご心配なさるな。セーラ様は我らの為に祈って下され」

「で、ですが」

「クリシュナード様は常にセーラ様とともにあるのです。その祈りは必ず届きます。それが巫女であるセーラ様のお役目」

「わ、わかりました……」


 そう言うとバンは元の場所へ戻っていった。それを見送るセーラは沈痛な面持ちだ。


 ――さすがに馬鹿な私でもわかる。こちらが不利なんだ。しかもかなり分が悪い。


 そして、セーラは地面に跪き、目を閉じて祈りを捧げる。


 ――クリシュナード様。どうか、皆様をお守り下さい。


 その様子を、背後からアリーがジッと眺めていた。


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