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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
134/219

134 予感


 裕二はホローへイムで、シャクソンに魔人として追い立てられた。セーラはダルケンたちに眠り薬を使われ攫われた。レッドリンクの指輪がそれを裕二に知らせ、谷へと導かれた。

 それを計画したのはシャクソン。

 ホローへイムで裕二を殺す計画を立て、それが適わぬと知るとセーラを餌に谷へ誘導する。そのセーラを攫ったのはダルケンたち。

 ダルケンは裕二に脅されシャクソンのした事を話した。この計画にシャクソンが関わっているのは疑いようがない。そして、その計画にはホワイトデビルが使われた。それをやれる存在となると、魔人しか考えられない。

 つまりシャクソンは魔人と考えるのが妥当。


「そんな……では、私のせいでこんな事に」

「セーラ様のせいではありません。たとえセーラ様がいなくても、シャクソンは似たような事をしたでしょう。あちらをご覧下さい」


 セバスチャンはセーラにモンスターの大群を見るよう促す。


「あ、あれは!」

「そうです。大量の誘導瘴気。裕二様を殺そうと言う意志がハッキリしております」


 モンスターの大群は誘導瘴気に導かれ、この場に集まっている。その数は、もはや数え切れない程多い。


「あの数ですから、おそらくシャクソン以外の魔人もこの場にいるのでしょう」

「そ、そうなのですか」

「はい。裕二様は以前、アンドラークで魔人の計画を阻止した事があります。彼らから見れば、裕二様は危険な存在。その時の魔人がここにいてもおかしくはない」


 タルソット村でステンドットを倒した時。ついに魔人は現れなかった。当然、魔人は裕二の存在を知り、危惧しているはず。

 そして、聖堂騎士団もろとも裕二を倒そうと誘導瘴気を使いモンスターをけしかけた。だが、それも失敗に終わる。


 魔人は既に二度、失敗しているのだ。だからこそ、この大規模な作戦が考えられた。そこには少なくとも、メイザー坑道跡にいた魔人。そして、シャクソンが関わっている。


「ヴィシェルヘイムの規模を考えると、魔人はもう少し増えるでしょうね」


 魔人は数が少ないとも言われている。となると、ひとつの地域の工作にそれほど人員は割けない。必然的に、この大規模な計画であっても、そこに関わる魔人は少ないはずだ。

 とは言え、広大なヴィシェルヘイムに、魔人がシャクソンひとりだけとは考えにくい。


「ここに魔人がたくさんいるのですか?」

「いえ、たくさんはいません。おそらく三〜四体。既に裕二様も気づいておられます」

「ユージ様は……皆様は大丈夫なのでしょうか?」

「今のところは大丈夫です。セーラ様は、自身が守られる立場をなのをお忘れなきよう、お願い致します」

「は、はい……」


 今のところは問題ない。だが、状況が変わればどうなるか。それも魔人の計画に入っているだろう。このまま雑魚敵だけで終わるとは思えない。

 しかし、セバスチャンはそれよりも危惧している事がある。


 ――シャクソンはこの場にいない。そして、裕二様の力を見てしまった。


 となると、シャクソンは裕二の正体に気づいた可能性もある。

 もし、それがわかったなら、魔人はどのような対応を取るのか。出来る限りの力をここに集結させるだろう。

 魔人の探し求めていた宿敵。五百年間それを倒す為に隠れてきたのだ。


 ――更に仲間を呼ばれる可能性は高い。



「テン殿。だいぶモンスターが増えましたな」

「そうだね。僕らで対処出来そうなのは流してもらうよ」


 全方向から現れるモンスター。バリケードの外でそれに対応するのは、裕二、バチル、リアン、ムサシ、チビドラだけだ。数が増えれば対応出来ない場所も出てくる。

 なるべく自分たちに敵を惹きつけてはいるが、それをずっと維持するのも難しくなるだろう。


「リアンとムサシは大丈夫だろうけど……バチル! そろそろ疲れたろ」

「ニャッハッハッハ。喉かわいたニャ」

「だよな」


 今はまだ、その程度だろうが、このままではいずれ体力も魔力も消耗して行くだろう。


「しょうがない。一旦休もう」

「ニャ?」

「セバスチャン!」


 裕二が呼ぶと、即座にセバスチャンが現れる。


「ご用意はできております」

「しばらく頼む。白虎も連れていってくれ」

「畏まりました」

「バチル、戻るぞ」

「戻るニャ?」


 バリケードへ向かう裕二とバチル。その場には実体化したセバスチャンと白虎が現れる。


「本格的な戦いは久しぶりですね、白虎」

「グルォオオォ」

「これを使わせてもらいましょう」


 セバスチャンは異次元ポケットから、邪剣オートソウを出し、構えた。


「むん!」


 自身の身の丈程もある大剣。セバスチャンはそれを軽々と振り回す。そして、向かってくるベヒーモスの首を一撃で跳ね上げた。

 大食い、と呼ばれるその剣は、大量の魔力を消費するが、それは剣の片側にあるノコギリ刃を動かす場合だ。その反対側には通常の刃がある。

 ジンジャーよりも強い力のあるセバスチャンならば、それだけでも充分戦える。

 それに対し、白虎はすぐに動かずモンスターが自分に集まるのを待つ。


「グォ……」


 そして、充分に敵を惹きつけてから、片方の前足をトンっと軽く地面に下ろした。


「ほう、あなたそんな特技があったのですね」


 そこから急激に泥沼が広がる。それは単に足止めだけのチャチなものではない。そこら一帯のモンスターが全て泥沼に沈んで行く。

 ベヒーモスもホワイトデビルもメタルスコーピオンも、体高の低いモンスターは全て沈みきる。そして、巨人のキュクロープスでさえ、体のほとんどが地面に沈んだ。

 そして、白虎がもう一度地面を叩くと、泥沼は元の固い地面に戻る。

 辛うじて首を出しているキュクロープスは、白虎の牙に刈り取られる。

 呼吸を封じる事が決め手となるメタルスコーピオンはそのまま窒息死、他も地面から出られなければ同じ死に方をするだろう。

 仮に地面から這い出てきても、その瞬間を狙えば容易く倒せる。


「そう言えば白虎は水の上を歩けましたね。水属性の能力に長けているのでしょうか」


 そして、チビドラは相変わらず上空からモンスターを燃やしまくっている。

 裕二とバチルはしばらく休めるだろう。



「裕二、こっちだよー」


 バリケードに到着した裕二とバチルを、アリーが呼ぶ。

 そこには、テンの作ったテーブルの上に水と果物が用意されていた。


「ユージ様! バチル様!」

「あ、セーラさん起きてる。もう大丈夫ですか?」

「私の事より……いえ、今はお休み下さい」

「この果物、セーラが皮むきしたんだよー」

「ニャは。ハラ減ったニャ」


 バチルは早速、果物を頬張りながら水を飲む。


「バターソテーはないニャ?」

「ねーよ」


 裕二もその場に座り水を飲む。

 辺りを見回すと、バリケードにも結構な数のモンスターが集まっているようだ。それをバンとテンで倒している。


「バンさん! 後で代わりますよ。少し休んで下さい」

「いや、心配ご無用。私は大して戦っておりませんのでな」


 ――私はあのお二方の百分の一も役立ってはいない。ならばせめて、二人を休ませる事を考えなくては。


 とは言え、バンも通常の戦闘から比べるとかなりの時間戦っている。体力もそれなりに消耗しているはずだ。

 しかし、いきなり――


「ニャは」


 そのバンの襟首を掴み、バチルが投げとばす。


「な、なにを!」

「やかましニャ」


 それを裕二が受け止めた。


「ああ言う奴ですから。休まないと、また投げられますよ」

「か、かたじけない」

「クルートート卿もお休みになって下さい」

「セーラ様……わかりました」


 バンのいた場所には、代わりにバチルが入る。


「凄いちびっ子も休むニャ」

「僕は良いんだ。裕二様が休めば僕らも休んだ事になるから」

「ニャ! そうなのニャ? なんて便利なのニャ! さすが凄いちびっ子ニャ」

「テンだけどね」


 バンは休みながら、この後どう戦えば良いのか考える。しかし、通常ならまともに戦えるはずもない戦闘をしているのだ。裕二たちの力がそれを成しており、バンのやれる事は多くはない。


 ――出来る事をやるしか……


「おじさんも果物食べなよ。セーラが剝いたんだよ」

「そ、そうだな。いただこう」


 アリーがバンの前に果物を置いた。その光景をジッと見つめるバン。


「ん? なーに」

「いや、何でも……」


 ――先程テン殿の話しは間違いなくアリー殿の事。私の知るそれは、かつてクリシュナード様に付き従った存在、時空の女神ネメリー。


 それは使徒とはまた違う存在。いくつかの絵画にその存在が描かれているのを、バンは見た事がある。シェルラックの教会にも数点、そのような絵画があるだろう。

 そこに描かれたのは、白鳥のような美しい翼を生やした女性。天使のように描かれた存在だ。

 アリーはそれとは違い、蝶のような羽根を生やしているので、見た目は異なる。

 クリシュナードを描いた様々な絵画の中には、それ以外の存在も描かれているのだが、研究者ではないバンでは名前さえわからないものも多い。


 ――彼らもそう言う事なのだろうか……


 バンは上空で派手に炎を撒き散らすチビドラを見た。バンの記憶にはクリシュナードに付き従う、巨大なドラゴンの絵もあった。

 それらにまつわる話しは色々あるのだが、バンにはひとつだけ、良く覚えている話しがある。


 ――時空の女神ネメリーは、世界の終わりに事を成す。


 クリシュナードの研究者であっても、その意味はわかっていない。ただ、世界の終わり、と言う部分に強いインパクトがあり、バンはそれを良く覚えているのだ。


 ――いずれにせよ、もし、ユージ殿があのお方なら、それを軽々しく口にはしない。私如きがそれについて探って良いはずもない。そうした振る舞いをしなければ。


 聖堂騎士団として教会に仕えるバン。

 テンの一言からその答えを導き出し、裕二こそが自分の仕えるべき絶対の存在なのではないか、と思い始めた。


「バチル。代わるから少し休め」

「うニャ。バターソ――」

「ねーから」


 今度はバチルと裕二が入れ替わる。それほど長くは休めないだろうが、少しでも体力を回復させておきたい。

 裕二が袋小路に追い込まれたモンスターを次々倒していると、テンがやって来る。


「裕二様。モンスターの数は減ってきてるよ。だけど――」

「オルトロスが増えたか」


 バリケードの外を見ると、集まってくるモンスターの数は減り、全体的にまばらな印象になっている。しかし、その分オルトロスが増えているようだ。

 敵のレベルは上がってきている。いや、上げているのだろう。


「オルトロス程度なら、なんとか――つーか何だアレ。デカいぞ!」


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