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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
133/219

133 テンとバン


 敵の前に立ち止まり、一見無防備な姿を晒す裕二。しかし、それは誘いだ。ベヒーモスが集まってきたら全方向にメテオストリームを放つ。

 バチルは鼻の塞がれたメタルスコーピオンを次々と倒す。

 二人にとって大した敵はいない。だが、数は多い。

 敵を倒しては移動を繰り返しバリケードに近づかせないようにする。


「裕二様! 少し敵を流していいよ」

「わかった!」


 テンの言葉にベヒーモスとキュクロープスをわざと突破させる裕二。

 バリケードを調整がてら試すつもりだ。


「ベヒーモス二体は閉じ込めるから頼むね。キュクロープスは僕が試す」

「う、うむ。しかし、相手がキュクロープスとは言え、テン殿ひとりで大丈夫なのか?」


 どう見てもただの子供にしか見えないテン。バチルに言わせると、凄いちびっ子なのだが、バンから見ると、とてもモンスターと戦えるようには見えない、か細く可愛らしい女の子。

 しかし、テンは笑顔で臆する事なく答える。


「もちろん大丈夫。バリケードの性能を試すだけだし」


 テンにより迷路のように作られたバリケード。モンスターはその中心を目指す。だが、その先にはより強固に作られた樹木による袋小路が用意されている。

 ベヒーモスがそこに到達するや、入り口は閉じられバリケード自体がモンスターに迫り、ベヒーモスを拘束する。

 拘束されたベヒーモスは見動きが取れない状態にされ、そこへバンが剣を叩き込む。

 そして、別の袋小路に誘い込まれた巨人、キュクロープス。

 そこへ踏み込んだ途端、テンは素早く自分の手を動かす。それに呼応するようにバリケードも動く。

 そこから伸びた太い木の枝は、先が鋭く尖っており、その先端が敵の背中を貫く。

 口から血を吐くキュクロープスは、そのまま太い枝に持ち上げられ、バリケードの外側へぶん投げられた。

 それを見たバンは唖然としている。


「なるほど。これならかなり戦える」

「でも魔力の消費を考えるとあんまりやりたくないんだ。どうしたってアッチが使うからね」


 と言いながらテンは後ろに親指を向ける。その遥か向こうにいるのはリアンとムサシ。


 全てのタルパを動かす原動力。その力の源は、莫大な魔力を持つ裕二。

 どれだけの敵が現れるのかわからない今、無駄に魔力を消費する訳にはいかない。

 だが、今いるだけのモンスターなら、どうにかなるだろう。数が多くても大した敵はいない。


 ――しかし、ここはケツァルコアトルの支配地域だったはず。それが現れる気配は今のところない。


 雑魚敵ばかりだが数は多い。そこに何らかの意図があるのなら。


「これは……もしや、こちらの魔力を削る為の……」

「だろうね」

「そ、それでは、今すぐユージ殿に知らせなくては!」


 それに気づき慌てるバン。しかし、テンはあくまで冷静に答える。


「大丈夫。裕二様ならその程度、とっくに気づいてるよ。仮に気づいてなかったらセバスチャンが言うから」

「セバスチャン……」


 既に誰がいつからいるのか良くわからなくなっているが、その程度では驚かなくなったバン。その彼が守るバリケードの中心には、白虎の上で眠るセーラがいる。そこから落ちないよう人間サイズになったアリーがセーラを支えており、その隣には事態を静観するセバスチャンがいる。

 セーラを守り切る為、効率よく戦う為にベストな配置がされているのだ。

 そこに何か問題があれば、セバスチャンが真っ先に動く。


「あのお方も立ち振る舞いから、かなりの武人のように見受けられるが」

「うーん、どうかな。どちらかと言うと参謀役だからね。でも単純な武力ならジンジャーって人よりは遥かに強いよ」

「な、なんだと! あのジンジャーよりも……」


 シェルラックで断トツの力を誇るジンジャー。セバスチャンはそれを凌駕する程の力を持つ。しかし、その真価が発揮されるのは、やはり参謀としての役割だ。

 裕二が決定する様々な事柄の影には、いつもセバスチャンの助言がある。


「もうひとつ、伺っても良いか」

「どうぞ」

「セーラ様のそばにいる、あの羽根の生えた少女は……」

「アリーだね」

「あのお方もかなりの力を持たれるのか?」

「アリーは特別。僕らのお姉ちゃんだよ。時空の女神だから、その力は……アレ? 何だっけ……言っちゃいけないのかな」


 と、テンはそのまま口を閉じ、考え込んでしまった。

 そのまま黙り込むテン。しかしクリシュナード正教会に仕えるバンには、テンの言う言葉に心当たりがあった。


 ――時空の女神とは…………もしやネメリーなのか!? だとすると、ユージ殿は……いや、この件は……これ以上探ってはならない事だ。


「ん? えーと、何の話しだっけ?」

「い、いや。何でもない」

「ふーん。そうだっけ?」


 テンはかなり気になる事を言っているが、それを考えると思考が乱れるようだ。それに、敵があまり来ないとは言え、お喋りしていられる程暇ではない。


「こっちも少しづつ敵を流してもらうから」

「そ、そうだな」



「ニャッハッハッハ!」


 バチルはモンスターの群れに向かい、魔剣ニャンウィップを振り回す。その先端には、まだ生きているメタルスコーピオンが絡め取られている。

 バチルはメタルスコーピオンごと振り回し、その鋭いハサミと尻尾の毒針で、モンスターの群れをガンガンなぎ倒して行く。


「さすがに豪快だな……でも力は温存しとけよ!」

「ニャッハッハッハ! ニャーッハッハッハ」


 ――でもさすがに千は越えてるな。ヴィシェルヘイムの全てのモンスターを集めた、って事はないよな。


 当初感じたモンスターの気配は千。しかし、今はもっと増えている。

 これがどれくらいの数になるのか。


 ――雑魚ならいくら来ても……とは思うが、それだけとは思えない。


 裕二の元へ、戦闘中に何度かセバスチャンが訪れいくつか情報を聞いている。その中で最もありそうなのは――


 ――ケツァルコアトルか。だが、最初に現れたオルトロス。一体のはずがないって言ってたな。


 裕二は戦闘しながら頭を働かす。

 この戦闘はまず間違いなく、魔人の画策したもの。これだけで終わるはずがない。しかし、だとするとその魔人は今、何をしているのか。


 ――数が多すぎて気配が掴めないな。何となく視線は感じるが……


 裕二はかつて誘導瘴気が現れた時の戦闘後、魔人らしき気配を捉えた。それは姿を隠しこちらを観察する存在。

 裕二とバチルの攻撃でダメージを負ったはずだが、そのまま逃げられた。

 しかし、感触としてはあまり強さは感じなかった。魔人自体は大した強さはないのかもしれない。


 ――テリーも自分の敵じゃないって言ってたし。


 そうなると魔人を先に倒してしまえば良いのではないかとも思うが、それがどこにいるのかわからない。

 おそらく、姿と気配を消し、ジッとこちらを見ているのだろう。

 そうこうするうち、モンスターの群れに些細な変化が現れる。


「ん? バチル! オルトロスが一体混じってるぞ」

「ニャッハッハッハ! いい事考えたニャ」


 バチルはそう言うと、魔剣ニャンウィップで、迫りくるオルトロスの太い首を絡め取り、そのまま空中へ放り投げた。

 そして、そのまま地面に叩きつけるのかと思いきや、その近くにいたベヒーモスに投げつける。


「ニャは!」


 するとオルトロスは背中からベヒーモスの角に突き刺さる。驚いたベヒーモスはオルトロスに視界を塞がれたまま走り出す。

 前が見えないベヒーモスは敵味方関係なく突進し、そこらにある岩にぶち当たる。おそらく自滅するまでそれをやり続けるだろう。オルトロスもその頃にはボロボロのはずだ。


「さ、さすが天才」


 キマイラと同格と言われるオルトロスだが、その戦闘力、耐久力は強化されたキマイラよりは低そうだ。オマケに炎の攻撃もないので強化版キマイラよりは幾分マシとなる。

 オルトロスもひっくり返ったまま固定されたら、何も出来ないだろう。とは言え、こんな事が出来るのはバチルくらいだが。


 南側ではたくさんのモンスターを相手取り、リアンとムサシ、たった二体でその全てを堰き止める。

 こちらにもオルトロスが交じり始めたが、リアンとムサシには全く関係ない。それどころか、北側の裕二たちよりもバリケードから敵を遠ざけている。


「私ももっと戦えれば良いのだが……」

「いやいや、ここは死守しなきゃいけない場所だからね。敵もまばらでちょうど良いんだよ」

「そ、そうではあるが……」


 バリケードの外では、バンとは次元の違う戦いが繰り広げられている。何とか力を尽くしたいバンとしては、歯がゆい部分もあるだろう。


 その時――


「ん、うぅん」

「お目覚めですか」

「は、はい……え?」

「セーラ起きたー!」


 ダルケンたちに攫われる前から眠らされていたセーラ。周りを見ると、知らない老紳士や女の子がいる。


「バン様はあちらで戦っております」

「えっ!?」


 セバスチャンが手で指し示す場所にバンがいる。そちらもアリーの声でこちらの動きに気づいたようだ。


「セーラ様! 今はその方々の言う事をお聞きになって下さい!」

「は、はい」


 そして、セーラが真っ先に気づいたのは、自分の寝かされた場所。と言うより生物。


「きゃあああ!」

「大丈夫だよ。白虎は怖くないから」

「ひっ……はい」

「私がご説明致します」


 セバスチャンが今の状況をセーラに説明した。


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