表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
132/219

132 バリケード


 谷にたどり着いたバンとバチル。

 その谷底にはセーラが寝かされており、いつの間にかホワイトデビルはいなくなっていた。


「セーラ様!」


 すぐに白虎から飛び降り、セーラの元へ駆けつけるバン。

 だが、その途中にあった岩陰にはオルトロスが潜んでいた。


「っ!!」


 不意をつかれたバンは襲いかかるオルトロスに対応出来ない。

 その直後、目の前が真っ赤に染まった。


「これは……」

「大丈夫かバンさん!」


 背後から裕二の声が聞こえ、すぐ目の前には突然現れたリアンが立ちはだかる。そして、片手でオルトロスを受け止めていた。

 バンの視界はリアンの真っ赤な鎧に遮られたのだ。


「リアン殺れ!」


 リアンはその頭を掴み持ち上げる。オルトロスも必死に抵抗しリアンの体に爪を立てる。だが、リアンの体には傷ひとつつかずビクともしない。

 そして、もう片方の腕が動いたかと思った瞬間、リアンの爪はオルトロスの背中に突き抜けていた。

 そのまま手を放しオルトロスの体は地面にドサリと落とされる。


「こ、こんなに強いのか……」


 バンはリアンの圧倒的な強さに身震いする。キマイラと同格と思われたオルトロスが、まるで相手にならない。


 ――今までの流れから考えると……ユージ殿はこれを使役しているのか? 人がどうこう出来る存在ではないぞ。


「ユージ遅いニャ」

「遅くねーよ。お前も今来たばかりじゃねーか。後ろから見てたし」


 ――いや、今はそれよりも――


 バンはそのやり取りを背中にセーラの元へ駆け出そうと、そちらへ目を向ける。しかし、そこには既にムサシがセーラを抱きかかえ、こちらに来るところだった。


「セーラ様!」

「君は後だよ。まずは僕が診るから」

「凄いちびっ子、また現れたニャ!」


 そこに突然現れるテン。

 双方が駆け寄り、その場で地面に寝かされるセーラ。テンはその体に手をかざす。


「何も問題ないね。眠り薬以外に何かされた形跡は一切ない。じきに起きるよ」


 セーラは眠り薬の影響で寝ているだけなので特に問題はない。その効果が切れれば自然と目を覚ますだろう。

 それを聞いたバンは安堵の表情を浮かべた。


「良かった……セーラ様」


 だが、安心出来るのはその一瞬だけだ。裕二はすぐに指示を出す。


「そうか……白虎の背中で寝かせてくれ。セバスチャンとアリーは白虎と共にセーラさんの護衛だ」

「畏まりました」

「わかったー!」

「リアンとムサシは南、チビドラは北で俺たちの援護。テンは植物でアチコチにバリケードを作ってくれ」

「ミャアアア」

「裕二様。誘導型にする?」

「そうだな……それで頼む」


 テキパキと指示を出す裕二。それを見るバンは一瞬戸惑うが、今までバンは裕二とバチル、二人と行動を共にし、その間、似たような光景は何度も目にしてきた。


 ――ここにモンスターが集まっているのか。


 そして全てではないが、その意図を理解する。

 裕二は既に感知能力でモンスターの気配を察知している。それはバチルも同様だ。そして、その指示を考えると、敵はかなり大規模になるはず。

 リアンとムサシが南側の敵と戦う。そちらは援護など必要ない。

 北側の敵は裕二、バチルが戦う。チビドラはその援護だ。

 そして、中心にいるセーラに敵を近づかせないよう護衛を付け、周りをテンのバリケードで囲む。

 誘導型と言ったのは、一気に突破されないよう、バリケードを迷路のように作り敵を誘導し、少数に分けてから倒す為だ。

 全てをガッチリ固めたら、いずれ敵は仲間の上を駆け上がりバリケードを越え一気にこちらへ迫る。しかし、ガッチリ固めずに隙間を作れば、敵はそこを流れ小分けされて行く。そうやって敵を分散させるのだ。

 そして、強力な戦闘力を持つ者は、バリケードの外側で戦う。


「ユージ殿。どの程度の規模なのですか?」

「うーん。千は越えると思います。バンさんはテンと誘導先をお願いします」

「千だと!?」


 ――そうか。最近モンスターが減ってたのは、ここに集結していた為。となるとやはり……


「我らはここに誘導された。誰かがそれを計画した」

「ええ、それは俺を魔人に仕立て上げようとしたシャクソンでしょうね」

「シャクソン! 奴なのか」

「詳細は省きますが、おそらくアイツが魔人です。そうだろ? バチル」

「アイツは壊れているのニャ」

「そ、そうなのか!?」


 まだモンスターは見えていないが、気配は既に周りを取り囲んでいる。最初から退路などないのだろう。ここで全てを倒しきるしかない。

 だが、そうしようと思っているのは敵側も同じ事。その為にこんな大規模な計画を立てたのだ。おそらくほとんどの戦力をここに集中させるはず。


「そういやバチル。いい忘れていた事があったわ」

「なんニャ」

「マサラート王子が俺とバチルの倒れる未来を見たってさ。だぶんそれってここだろ」

「だからなんニャ」

「いや……まあ、そう言うと思ったけど。一応な」


 ――何だと! マサラート王子……この間の手紙の内容か。


 バンは二人の話しを聞き、オーメル将軍との会談の帰り、裕二が将軍から手紙を受け取った事を思い出した。


 ――宮廷占星術師の予言だろうか。いずれにせよ、アンドラークの王族が言うならそれなりの信憑性はあるはず。もしや……


「そんなのはあてにならないニャ。倒れたら起きれば良いだけニャ」

「そりゃそうだ。まあ一応気をつけとけよ」


 それを聞き一瞬危惧したバンだが、二人はあまり大事と受け止めていないように見える。


 ――ふっ、倒れたら起きれば良いか……確かにその通り。


「来たか!」


 裕二がそう言うと同時に南から爆発音が響き、土煙があがる。


「な、なんですか、あれは」

「リアンですね。向こうは大丈夫でしょう。俺たちは反対側をやります」


 バリケードの外側、まだかなり離れた場所から戦闘を始めたリアンとムサシ。

 その眼前にはベヒーモス、メタルスコーピオン、キュクロープスを主にメディッサバイパーやホワイトデビルなど多種のモンスターが含まれる。そこだけでおそらく数百はいるだろう。

 それに対し、リアンのガトリングガンはゆっくりと左から右へ連射しながら動く。その射線上にいる者はことごとくその身を削られて行く。

 但し、メタルスコーピオンだけは、その攻撃をものともせず、こちらへ向かってくる。

 しかし、リアンはそれを放置して霊体化で別の場所に移り、広範囲に攻撃を仕掛けている。

 そこに残されたムサシは腕を組みそれを静観している。

 リアンの残したおびただしい量の肉塊から、メタルスコーピオンだけが選り取られた直後、ムサシは腕を解きロングダガーを構える。

 普通の人間よりやや大きい程度のムサシ。それに対し、体長四メートル、そして、最強クラスの防御を誇るメタルスコーピオン。それが複数同時に襲ってきたら、泥団子の攻略法などやってる余裕はない。

 しかし、ムサシは構えを崩さないまま、微動だにしない。


「むっ!?」

「ニャ?」

「……ムサシ……か」


 その瞬間、場の空気が震え、裕二たちもそれを感じ取り背後を振り返る。

 直後にムサシのロングダガーが緑色に輝いた。その光は、裕二やバチルの持つライトブレードと同じ輝き。

 しかし、それがライトブレードと同じだとしても、メタルスコーピオンは倒せない。それが通用しないのは周知の事実だ。

 そのメタルスコーピオンは目前まで迫るが、ムサシはまだ動かない。


 そして、メタルスコーピオンの攻撃がムサシに繰り出された瞬間。


「消えた!」


 背後を覗いていたバンにはそう見えた。

 しかし良く見ると、ムサシはそこから数メートル離れた場所にいた。そして、そこにいたメタルスコーピオンは動かない。いや、それどころかあの頑強な体がバラバラにされている。


「……斬られてる……メタルスコーピオンが」


 攻略法の発見により、簡単に倒せるようになったメタルスコーピオン。しかしそれでも、防御力だけならキマイラ以上、複数同時に襲われるとかなり厄介な敵だ。

 ムサシはそれを一瞬で斬り殺したと言うのか。


「あれは……ライトブレードではない! あの輝きは……プラズマブレードなのか」


 リアンの元へ移動するムサシの手には先程とは違い、赤から紫、そして青く変化を繰り返すロングダガーが握られている。


 バンの知識に僅かだが存在するプラズマブレード。伝説と言うよりはお伽話に出てくるような架空の武器で、実在するともしないとも言われている。それはライトブレードの更に上。魂さえ斬り裂く魔剣。

 ムサシはそれを自身の力で生み出したのか。その真相はわからない。


「スゲー数の誘導瘴気だな。こっちも来るぞ!」

「ミャアアア!」


 途端にチビドラが飛びたつ。こちらもモンスターの数はおよそ数百。

 チビドラは上空からファイアブレスを放ち広範囲を一挙に攻撃する。しかし、こちらはリアンと同等と言う訳にはいかない。

 メタルスコーピオンは当然だが、ダメージを負いながらも耐久力の高いベヒーモス、何とか攻撃を耐え凌げた、いくつかのモンスターが抜けてくる。


「マッドウオール!」


 そこへ裕二が魔法で泥の壁を作る。


「バチル。メタルスコーピオン頼む」

「ニャー、もっと強いのが良いニャ」


 裕二の使ったマッドウオールは防御用の壁ではない。そこを突破するメタルスコーピオンの鼻を、泥で塞ぐ為のものだ。そして、口を開いたらバチルが倒す。

 それ以外のモンスターは、裕二が剣か魔法で倒す。それを移動しながら行い、周りを取り囲まれないようにする。


 だが、そこを突破し、バリケードに到達するモンスターもいるだろう。


「それは僕と君が倒す」

「よろしく頼む。テン殿」


 バリケードの内側に残されたバンとテン。

 迷路のように作られたバリケードはモンスターを誘導し、袋小路に追い込む。それをバンが倒して行く。

 テンはバリケードを細かく調整しバンを援護する。


「まあ、ヤバかったら僕も本気出すから」

「そ、そうか」


 一見順調な滑り出しに見える戦い。しかし、それはまだ始まったばかりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ