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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
130/219

130 忘れ去られた拠点


「おい、方向は合ってるんだろうな」

「大丈夫だ。ちゃんと隊長から地図をもらってるからな」


 セーラを担ぎながら走るダルケンに、同じ分隊のゴドンが行き先について聞く。

 彼らにとっても初めて行く場所なので、シャクソンから地図をもらい詳しい事も聞いている。

 そこはかつて、シェルラックが未踏地に足を踏み入れる為に作った拠点。休憩所となるはずだった場所だ。

 なるはず、と言うからには、そうならなかった場所と言える。つまり使い勝手が悪く、ほとんど使われずに放置された拠点になる。

 その理由は未踏地の奥に入りすぎた。他の拠点から遠すぎた。など様々な理由があるのだろう。

 それなりの歴史があるシェルラックにも、そう言った失敗は当然ある。他にも放置された拠点はいくつかあり、いつしか誰も気に留めない場所となる。そして、その存在も忘れ去られてゆく。


 ダルケンたちはシャクソンに命じられ、そこへセーラを運ぶよう言われた。


「まだ結界は生きてるらしいぜ。そこでたっぷり楽しんだら、コイツは置き去りにして任務終了だ」

「置き去りって、生かしとくのか?」

「そうだ。聖堂騎士団の後処理をした奴らが来るらしい。だから殺すなってよ」


 ダルケンたちは聖堂騎士団を眠らせ、セーラを攫うのが役目。その後処理は別の者がやると聞いている。おそらく、殺して死体を隠すのだろうと、ダルケンは思っている。

 セーラもそうなるのだろうが、それは自分たちの役割ではない。


「ごちそうは残しとけって訳か」

「へへ、そう言う事だぜ」


 そうなれば聖堂騎士団は丸ごといなくなる。その真相はわからず、ダルケンたちもシャクソンも罪に問われる事はない。


「さすが隊長!」

「全く部下思いの悪党だぜ」


 やがて彼らの進行方向の先に、それらしき建物が見えてきた。


「あそこだ!」


 そこへ到着し、中へ入る。

 薄汚れてはいるが、一応モンスター対策の施された石造りの休憩所ではあるので、それ程朽ち果ててはいない。ただ木材で作られた窓や入り口は既に腐ってなくなっている。

 ダルケンは風雨に晒された石のテーブルの上にセーラを寝かせた。


「へへ、まずは俺からだ」

「早くしろよな。次は俺の番だぞ」

「慌てんなよ。オメェらは装備を外して待っとけ」


 そう言いながらダルケンも装備を外す。待ちきれないのか、乱雑に武器や鎧を投げ捨てた。

 もう他の事など考えられない。報酬を受け取るのみだ。ダルケンたちは心も体も無防備と言える状態になっている。


 そして、今まさにダルケンがセーラの体に手をかけようとした時――


「キキッ!」

「な、何だ!」


 全ての窓や入り口から一斉にホワイトデビルが入ってきた。その数はおよそ二十体。


「ざけんな! 結界はどうした」


 本来なら結界があるので、モンスターはこんな簡単に入っては来れないはず。何がどうなっているのか。混乱するダルケンたちはあっという間に囲まれる。


「おい! 装備を持ってかれたぞ」

「な、何だと!」


 そのうちの数体がダルケンたちの外した装備を根こそぎ持ち去ってしまった。彼らはひとつの武器もなくホワイトデビルと戦わなくてはならない。

 ダルケンたちもそれなりの精鋭ではあるが、この数のホワイトデビルと素手で戦える程ではない。鎧もないので一撃喰らえば致命傷だ。


「く、くそ……」


 爪と牙で威嚇しながら少しづつにじり寄るホワイトデビル。それに合わせて後退するダルケンたち。だが、動けないセーラは完全にホワイトデビルの中に埋もれる。その中の一体がセーラを抱えた。


「お、女を連れ去りやがった!」


 そして、そのまま窓から半分近くのホワイトデビルが出て行く。残りはまだ威嚇しながらこちらへ近づいてくる。


 その直後――


「な、今度は何だ!」


 轟音とともに石壁がぶち破られる。

 そこに現れたのは真っ赤な鎧を装着したアンデッドのようなモンスター。それが肩から何かを発射し、全てのホワイトデビルが瞬殺された。


「何だこれは! どう言う事だ。セーラさんはどこだ!」


 そこへ飛び込んでくる裕二。バンとバチルもそれに続く。だが、バンだけはダルケンたちの格好を見て、ここで何を行おうとしていたのか理解し、激怒する。


「貴様らああ!」

「ひぃ!」


 剣を抜き斬りかかろうとするバン。しかし、寸前でそれを裕二が止める。


「待ってくれバンさん! それは後回しだ」


 刃をダルケンの首に当てたまま動きを止めるバン。ダルケンの首から僅かに血が滲み出る。


「しかしユージ殿! この外道どもは――」

「セーラさんを追うのが先だ! コイツらは俺が話しを聞き出す。バンさんとバチルはセーラさんを追ってくれ」

「くっ……わかった」


 血走った目でダルケンたちを睨みつけながら剣を納めるバン。そして、剣から手が離れた瞬間、思い切りダルケンを殴りつける。


「ゴハッ!」

「クズめ。行きましょうバチル殿」


 二人は再び白虎に乗り込むと、セーラの後を追いかけた。


「ムサシも一緒に行け!」

「うむ」


 ここで二つに別れ、バンとバチル、そして、白虎とムサシがセーラを追う。

 裕二はその場に残り、その隣にはリアンが控える。すぐに後を追いたいのであまり時間はかけられない。


「どう言う事か話せ。話さなければ殺す」


 リアンの風貌に恐れおののきながら、装備もなく裸に近い格好で並ぶダルケンたち。裕二はその中のゴドンに話しかけた。


「だ、誰がテメエなんかに教え――」

「リアン殺れ」


 裕二の命令でリアンのデカイ手がゴドンの顔に衝突する。その勢いはゴドンの頭と後ろの壁を同時に破壊し、体はその場にずり落ちる。


「ひっ、ご、ゴドン」

「各自聞くのは一回だけだ。駆け引きなど出来ると思うな。答えなければコイツと同じ目にあうぞ」


 ダルケンたちは死ぬか話すか、その二択を今すぐ決めなければならない。裕二はそう言っているのだ。


「次はお前だ」


 顔色を全く変えず、ズールの前に立つ裕二。それを見て恐怖に引きつるズール。


「ま、待て。話せば命は――」

「リアン殺れ」

「グボッ!」


 そして、ズールも同じ目にあった。答えを間違えれば即殺される。裕二は本気だ。何の躊躇もない。

 生き延びたければ裕二の納得する答えをするしかない。そこに余計なものを挟んだら殺される。命乞いさえ聞き入れてはもらえない。

 自分の番がくる前に、それを理解出来たのはまだ幸運なのだろう。残った者は裕二が知りたい事を洗いざらい話すしかない。何が自分を殺す引き金になるのかわからないのだ。今の状況ならたとえ謝罪であっても、そうなりかねない。


「わ、わかった、話す。シャクソン隊長に命令されたんだ」


 ダルケンは裕二が自分の所へ来る前に話し出す。裕二もそちらへ目を向ける。


「何のために攫った。生贄か」

「ハッキリとした目的はわからねえ。でもお前がシャクソン隊に逆らった報復だと思う」

「報復? 巫女を攫うのがか」

「それもあるが、隊長はホローへイムでお前を殺すつもりだったらしい。ユージの事は隊長が処理すると言っていた」

「俺を……」

「たぶんキマイラに殺らせるつもりだったと思う。準備は出来た、と言ってた直後にホローへイムの議題が持ち上がったからな。その噂をばら撒いてたのはうちの隊だ」


 シャクソンが裕二を処理すると言い、準備が出来た、と言ったのなら、それは裕二を殺す準備だろう。

 シャクソン隊が噂をばら撒きラグドナールの隊がそれを調べる。そして、三国会議の議題となり、調査隊に裕二を入れた。

 シャクソンはホローへイムでキマイラに裕二を殺させるつもりだった。つまり、あのキマイラの集結は最初から意図されたもの。

 キースたちが戦えばああなると知っていた。メフィ班なら仕留められのだろうが、キースの隊は仕留めきれない。キマイラを仕留めきれなければどうなるか。それを予めわかっていた。

 ラグドナールが止めるのも聞かずに戦闘を強行したのは、そう言う理由からだ。

 おそらくシャクソンは裕二だけでなく、その場にいた調査隊ごと葬るつもりだったのだろう。あの戦力なら裕二さえいなければ、それも可能だった。

 だが、その目論見は失敗した。なので、裕二が使った力を逆に利用し、それが魔人の力であるかのように仕立て上げた。そうなれば裕二はシェルラックに戻れない。


 ――しかし、セーラさんも攫うとなると、そちらにも何か仕掛けが……いや、待てよ。俺を殺したい意図とセーラさんの誘拐を結びつけるもの……


 裕二はそこで気づく。自分の指に嵌められた指輪を。

 考えてみれば、いきなり知らない商人がやってきて、こちらに都合の良い品物をかなりの値引きで売る。しかもそれはシェルラックでは売れないとわかっている品物だ。あまりにも出来すぎている。


 ――この指輪はキマイラ襲撃が失敗したら、俺をおびき出す為の……そして、ホワイトデビルがセーラさんを連れ去る。


 それが全てシャクソンの計画なら、ここにいたホワイトデビルもシャクソンの計画に入っていた事になる。それが出来ると言う事は。


 ――アイツが魔人だ!


 バチルがシャクソンの気配は壊れている、と言った時から、何となくそうではないかと思っていた裕二。その時は何の証拠もなかった。ただ単に嫌な奴。そう言ってしまう事も出来る。しかし今、確信した。

 壊れた気配の持ち主。人ではなく人に偽装した気配なら、そう感じるのかも知れない。人としてなら壊れているが、人でなければどうなのか。

 バチルは既に壊れていると言っていた。あれは最初から人間ではない、と言う意味なのかもしれない。

 そして、それはモンスターに強者を殺させ、生贄を狙い、ホワイトデビルも使役する。しかもそれを自分ではやらず駒を使う。魔人のやりそうな事だ。


「この場所も最初から決められていたのか」

「そうだ。地図も渡された。結界があるって話しだったが、何故かモンスターが来やがった」


 ――コイツらも最初から殺すつもりだったのか。


 せっかくの生贄をダルケン如きのオモチャにさせる訳がない。ダルケンたちは聖堂騎士団の盲点を突き、セーラを攫った。それをするには人間の方が都合が良いからだ。

 しかし、ここまでセーラを運んだなら彼らは用済み。巫女を報酬にすれば装備を外す事さえ計算に入る。ホワイトデビルが無防備になったダルケンたちを殺し、その後を引き継ぐ。

 その為にはここに結界があってはならない。最初からそんなものはないのだ。普通に考えれば、ずっと使われていない拠点に結界などあるはずもない。

 その嘘も、ダルケンたちを安心させ装備を外させる事に一役買っている。そうなればホワイトデビルは簡単にセーラを攫える。

 彼らも騙されていた。ここまでセーラを連れて来たら殺される予定だった。要はステンドット子爵となんら変わらない。単なる魔人の捨て駒だ。

 聖堂騎士団を処理したらここに来る者もいる。となっていたが、おそらくそれも最初からいない。巫女を殺させない為の嘘だ。いや、もしかするとシャクソンはホワイトデビルの事を言っていたのかも知れない。

 セーラは報酬であり生贄であり囮でもあったのだ。

 これは全て偶然ではなく、用意周到に計画されていた。となると、バンとバチルが向かった先には、まだ何かがある。

 そこは本来裕二が向かう場所。セーラは指輪を嵌めた裕二をおびき出す為の餌だ。罠かも知れないが、それがわかっていても行かなくてはならない。

 シャクソンはそこまで見越していたのだろう。


 ――ふざけやがって。だが、急がないとマズいな。


「わかった。命だけは助けてやる。さっさと失せろ」


 裕二はそう言いながら窓に向かう。


「ま、待ってくれ。俺たちは二人殺され装備も持っていかれた。このままじゃ帰れねえ。何か武器を貸してくれ」


 ここからシェルラックまでは、かなり距離がある。そこを裸同然の二人では突破出来るはずもない。

 だが、裕二は彼らを許した訳ではない。情報と引き換えに殺さなかっただけだ。


「自業自得だろ。自分たちでどうにかしろ。ただ運良くシェルラックに戻れても、シャクソンに殺されるだろうがな」


 裕二はそう言うと、懇願する彼らをその場に残し、先行するバンとバチルを追いかけ始めた。


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