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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
129/219

129 計算外の想定


「急げ! もたもたするな!」


 ラグドナール隊より先行するシャクソン隊。

 その先頭を行くシャクソンは大急ぎでシェルラックに引き返していた。


 ――やはりユージは仕留めきれなかった。計算外の事もあったが、その計算外は想定していた。


 シャクソンの計算外は、裕二がワイバーンを使役した事。それとは違う何かを召喚した事。

 そんな事が起こるとは思っていなかった。しかし、計算外の何かが起きても良いように想定はしていた。


 ――奴は谷へ向かう。そうせざるを得なくなる。


 裕二たちが谷へ向かう気がなくても、そうしなければならない。最初からそのように仕組まれているのだ。それがシャクソンの、計算外の想定。


 ――だが、奴の力は計算外の範疇には収まらない。


 シャクソンはひたすら前を向き、険しい表情で歩く。


 ――あの力。奴は……ユージはもしかすると……



「順調に行けば、そろそろ帰還されると思いますぞ」

「ユージ様ですか!」

「……ユージ殿も含めた調査隊が、ですな」

「そ、そうでした」


 バンはセーラの慌てぶりに苦笑する。

 巫女としてのセーラならば、裕二だけでなく調査隊全員の無事な帰還を願わなければならない。

 バンは暗にそう言っているのだ。


 ――まあ、気持ちはわかりますが。


 裕二とバチルがいなくても問題なく任務をこなしている聖堂騎士団。とは言っても、誘導瘴気の対策はほとんどないのは変わらない。

 それを想定し、二人が戻るまで何とか凌ぐ必要がある。

 そこでセーラが提案したのが、自分が先頭に立ち、誘導瘴気を感知する役割を担う事。

 もちろんそれが、どれだけ有効なのかはわからない。しかし、誘導瘴気を意識して感知するのと意識しないで感知するのとでは、早さや範囲も変わるのではないか。セーラはそう考えた。

 本来、それは聖堂騎士団の役目で、戦闘能力のない巫女をそのように扱ってはならないのだが、セーラの強い希望とバンの苦汁の判断により、そう決まった。

 だが幸いにして、今のところ誘導瘴気の気配はなく、モンスターとの戦闘回数自体が減っている。

 順調と言えば順調。しかし、単純にそう考えて良いものか。


 ――モンスターが減るには何か原因があるはず。それが何なのかわからぬのが却って不気味だ。


 その原因を調べるのは難しいだろう。しかし、予想は可能だ。そして、最初に思いつく予想。それは――


 ――どこかにモンスターが集結しているのではないか……


 バンは眉間にしわを寄せ下を向く。


「どうされました? クルートート卿」

「あ、いや。何でもありません」


 ――しかし、もしそうであれば、どこかの隊がその気配なり痕跡なりを見つけるはず。


 とも考えられる。だが、それはシェルラックの兵力が活動出来る範囲内での話しだ。彼らの到達出来ない場所で何かが起きても、それを知ることは出来ない。


「ここで小休止する。後ろに伝えてこい」

「はっ!」


 バンが騎士のひとりに命じる。

 拠点の休憩所ではないので短時間その場に座り休むだけだ。各々が水を飲んだり汗を拭いたりして過ごす。

 その間も隊列の前後には歩哨を立てる。モンスターへの警戒は一時たりとも怠ってはならない。


 そして、小休止を終え立ち上がろうとするバン。


「うっ!」


 そこで自分にかなり強い眠気が襲ってきている事に気づく。

 何とかそれを堪え、周りを見渡すと、荷物に突っ伏している者、座っているが目を閉じている者、地面に肘をついている者がいる。


 ――ただの眠気ではない! これは……


 強い危機感とは裏腹にバンのまぶたは更に重くなる。そして、目の前にいるセーラは完全に目を閉じていた。


「セーラ……様」


 バンは意識を手放す寸前だ。このまま横になれば完全に寝てしまう。だが、その睡魔に抗うのは不可能。そう判断しながら地面に倒れ込む。


「くっ……」


 しかし、バンは倒れながら自分の足にナイフを刺す。

 強い痛みがほんの少しだけ意識を取り戻させる。


 ――あれは……


 薄目で狭い範囲の様子を窺うバン。そこへこちらに歩いてくる者の足が見える。


「へへ。スゲー効き目だな」


 厚い布でマスクをして小瓶を見る男。バンはそれを見て理解した。


 ――ダルケン! あの小瓶は……眠り薬か。


 理解はしたが体は動かない。おそらく聖堂騎士団全員が眠っているだろう。


「隊長の言った通りだぜ。モンスターへの警戒はしても人間の警戒はしない。モンスターは眠り薬なんか使わねえからな。ヘヘ」


 ダルケンたちは聖堂騎士団が小休止するのを隠れて待ち、自分たちはマスクをして風上から強力な眠り薬を撒いた。

 ただそれだけの作戦に見事引っかかってしまった。

 バンはダルケンたちの報復対象を勝手に裕二だと思っていたがそうではなかった。狙いはコチラだったのだ。


「後はコイツを例の場所に連れてけば、それがそのまま報酬だ。お前ら急ぐぞ」


 ダルケンはセーラを抱え上げ、その場から立ち去った。


 ――セーラ様! くそっ……


 目の前でセーラが攫われたのに何も出来ないバン。立ち上がるどころかこのままでは寝てしまう。


 ――どう……すれば……



「ピカピカ光ってるニャ」

「まずい! セーラさんに何かあったのか!?」


 バチルは裕二の指に嵌められた、レッドリンクの指輪が光り始めた事に気づき、それを伝えた。

 その指輪はセーラに危険がある場合に光り、その位置を知らせる。


「白虎! バチルも乗れ!」

「ニャ?」


 ツリーハウスの中に現れた白虎。裕二とバチルはそれに跨がると、白虎は狹い入り口をぶち破り樹上から地面に飛び降りた。


「何なのニャ?」

「その指輪が光るとねえ。セーラが危険なの」

「ミャアアア」

「ニャ! じゃあ助けに行ってモンスターをぶっ飛ばすニャ!」


 アリーの説明で状況を理解したバチル。その危険はモンスターの仕業と思っているが、そこまではわからない。

 レッドリンクの指輪は位置と危険を知らせるだけだ。


「北だな」


 指輪は魔石の中に濃い光りを指し示す。その方角にセーラがいるのだが、距離まではわからない。

 しかし、裕二とバチルは感知能力に優れている。近くまで来れば、セーラの気配を察知するだろう。

 それまでは、ひたすら北へ向かうしかない。


「アリーとチビドラは上空から見てくれ。邪魔なモンスターはムサシ! 頼むぞ」

「わかったー!」

「ミャアアア!」

「うむ」


 裕二の指示で飛び立つアリーとチビドラ。そして、ムサシが露払いをする。


「裕二様。指輪の光りは少しづつですが、西へ傾いています」

「西……つまり移動中って事か」

「はい。おそらくセーラ様は攫われた」

「くっ! 生贄か。でもそれならすぐには殺されないよな」


 生贄なら何からの儀式を行う。そこに移動するまでの時間、セーラに危害は加えないはずだ。まだ取り返すチャンスはある。裕二はそう考えた。


「チビドラ。あそこに何かいるねえ」

「ミャアアア」

「行ってみよう!」

「ミャアアア!」


 アリーが何かを見つけた。そして、そこに急降下して行く。そこには、よろめきながら必死に走る人物がいた。


「あ、この人」

「ミャアアア」

「チビドラ、ファイアー!」

「ミャアアア!」


 チビドラは上空に向かい火柱を立てた。それが何かを見つけた合図だ。


「何だ、あっちは東よりだぞ」

「裕二様。行ってみましょう」


 裕二たちは火柱の立つ地点に到達する。そこにいたのは――


「バンさん!」

「ユージ……殿。助けてくれ」


 足を押さえボロボロになりながらここまでたどり着いたらしい。それは間違いなくセーラを追うためなのだろう。


「話しは走りながら聞きます。バチルはバンさんを支えてくれ。テンは治療だ」


 白虎の上には裕二、テン、バン、バチルが乗る。その程度の重量で白虎が速度を落とす事はない。裕二たちは再び指輪の示す先へ向かう。


「毒物飲んでるね。とりあえず水を飲んで。裕二様、水出して」

「ユージ殿。この子どもは……」

「さっさと言う事を聞くニャ! このちびっ子は凄いのニャ!」

「だから、ちびっ子じゃないから」


 バンは異次元ポケットから出された水筒で水を飲む。

 テンはその間に足へ手をかざし、傷を治す。


「おお……治癒魔術師なのか」

「今飲んだ水に毒を集めるから。そしたらドバッと吐いてね」

「わ、わかった」

「凄いちびっ子ニャ!」


 バンが言われた通りに水を吐く。すると毒は体外に排出されたのか、だいぶスッキリしたようだ。


「何があったんですか」

「うむ、それが……」


 裕二の問いに答え始めるバン。

 小休止中にいきなり眠気に襲われた。その結果、聖堂騎士団は全員眠り込み、セーラが攫われた。それをしたのはダルケンたちだ。奴らが眠り薬を使って事を起こした。

 バンは自分の足をナイフで刺し、何とか意識を保つ。このままでは自分も眠ってしまう、と思った時。目の前にはタマラ草があった。

 麻酔効果、幻覚、興奮を引き起こすタマラ草。その興奮の効果を期待し、葉を直接口に含み、何とか立ち上がる事が出来た。

 だが、眠り薬とタマラ草を両方摂取したせいか、目は冴えたが体は重く、思うように動けなかった。

 それがテンの言う毒物なのだろう。


「しかし、おかげで元に戻った。済まぬな、テン殿」

「えへへ」


 役目を終えたテンは、その場で掻き消えた。バンは当然驚くが、今はそれを聞いている場合ではない。


「ダルケンか……ふざけやがって。アイツら何の真似だ」

「目的はわからん。だが、急がねば」


 指輪が指し示す方向には、セーラを連れたダルケンたちがいる。裕二たちはそれを追いかけセーラを取り返す。

 おそらく奴らを見つけられたら、セーラを取り返す事は難しくない。


「でも何で西……そっちは谷だぞ」


 モンスターがセーラを攫ったならともかく、ダルケンは人間だ。わざわざ危険な谷の方向へ行く意味がわからない。


「まあいい。捕まえて聞くだけだ」


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