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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
128/219

128 逃走


「ユージ!」

「どこ行くんだユージ! おい!」

「お前らよさんか……」


 その場から白虎に乗りいなくなってしまった裕二とバチル。

 その姿は完全に見えなくなったが、それでもラグドナールやジンジャーは裕二に呼びかける。


「ユージは我らを争わせない為にこうしたのじゃ」

「な、なに! どう言う事だババア」


 シャクソンとその配下の目的は裕二を殺す事。それをラグドナール隊が阻止しようとする。すると同士討ちになる。

 しかし、この場から裕二がいなくなれば、シャクソン隊は敵を失い争う理由がなくなる。裕二がいなくなったのはその為だ。

 メフィは裕二の最後の言葉で、それを理解した。


「じゃあ、ユージは……ユージはどこに行ったんだ!」

「わからぬ。おそらくもう……シェルラックには戻らぬであろう」

「そ、そんな……ふざけんじゃねえ!」


 そして、裕二に敵対していたシャクソン隊はそこから動く気配はない。

 裕二はやる気なら追ってこいと言っていたが、誰もそれをせず、シャクソンも命令をしなかった。


「撤収だ! シェルラックに帰るぞ。後処理はラグ、貴様らがやれ」


 そう言って自分の隊を引き上げさせようとするシャクソン。まだする事はあるのだが、全てをラグドナール隊に押し付ける気だ。


「ま、待て! ふざけるな。討伐隊の到着までワイバーンの監視は必要だ。最低でも崖上の降下地点に数名残していけ!」

「そうか。キース! 今すぐ十名選抜しろ。撤収しながらで構わん。決めたら降下地点に置いていけ」


 意外な事にシャクソンはラグドナールの言葉に従う。しかし、それは部下に丸投げし、かなり急いでいるように見える。先程とは打って変わって面倒は避けたい雰囲気だ。


「俺は三国会議に魔人が現れたと報告しなきゃならん。雑事は任せたぞ」

「シャクソン! お前!」


 ラグドナールはいきり立つが、シャクソンはそれを完全に無視する。

 そうなれば裕二は益々シェルラックには帰れない。おそらくシャクソンは、裕二を対象とした魔人討伐を会議に進言するだろう。


「くそ!」


 ラグドナールにこの自分勝手な男を止める事は出来ない。自分たちもなるべく早めに撤収し、三国会議に訴えるしかない。


「もう移動してやがるぜ」

「随分、急いでいるような見えるな」


 その様子を不審に思うジンジャーとエムオール。


「もう放っておけ。我々はユージが不利にならんよう、どのような報告をするか考えねばならん」


 そのしばらく後、調査隊は任務を終了し、監視の為の分隊を残して撤収した。



「ニャッハッハッハ。フカフカなのニャ!」

「おい、落ちるから暴れんなよ」


 白虎に乗り逃走する裕二とバチル。

 かなりの大事になってしまったが、バチルは白虎の乗り心地に大はしゃぎだ。


 ――コイツ……本当に何も考えてないな。


「ニャッハッハッハ。速いのニャ!」


 バチルにとっては先程の出来事も、白虎がどこから現れどう言う存在なのかも全く関係ないようだ。

 だが、裕二としてはその方が楽だ。いちいち説明を求められても、どう話せば良いのかわからない。


「このまま崖を登るからな。落ちるなよ」

「ニャ?」


 白虎は二人を乗せたまま垂直に近い崖を一気に駆け上がる。


「ニャは! ニャは! 楽しいニャ。もっぺん下に降りて最初からやるニャ!」

「やらねーし」


 崖を駆け上がりホローへイムを脱出する白虎。バチルはそのスリルを楽しみたいようだが、そんな暇はない。

 一応、裕二はシャクソン隊にやる気なら追ってこい、と啖呵を切ってあるので、霊体化のムサシを並走させ警戒にあたらせる。

 もし誰か追ってきたらムサシに無力化させるつもりだが、殺すつもりはない。とは言っても、白虎に追いつく者がいるとも思えないので、あくまで念の為だ。


「おいバチル。もうシェルラックには帰れないけど、それで良いか?」

「ニャ? それがなんニャ 別に構わんニャ」

「そうか……悪いな。巻き込んじまって」

「ニャッハッハッハ! 何か知らんけどバターソテーで勘弁してやるニャ」


 ホローへイムを離れヴィシェルヘイムをひた走る。もちろんシェルラック方面には行かない。その進行方向は街ではなく谷になる。

 その辺りになるともう拠点はなく、地図に書かれていない未踏の地だ。モンスターの数もレベルもアップするだろう。

 しかしつい先程、キマイラを倒しまくった裕二なら、さほど問題はないはずだ。


「と、思ったけど。全然モンスターいないな」


 未踏地だからと言って、必ずモンスターがいる訳ではない、と言う事だろうか。意外ではあったが却って都合が良い。


 ――裕二様。この辺りまで来れば、もう追っては来られないでしょう。あそこにある丘で休憩し、今後の対策を考えましょう。

 ――そうだな。そうするか。


 セバスチャンの助言により丘を目指す。突発的に逃げてきたので後の事など何も考えていない。シェルラックにも戻れないので帰る場所もない。普通の森ならともかく、ヴィシェルヘイムのようなモンスターの多い場所にも住みたくはない。

 まずは、とりあえずの行き先を考えねばならないだろう。


「全員出てくれ」


 丘に辿り着くと、裕二は全てのタルパを実体化させる。バチルに見せる為だ。


「バチル、ここにいるのは全員仲間だ」

「そこのオッサンと鎧マンは知ってるニャ。あと、チビのお父さんニャ。あと骸骨さんと――」


 既に見た事のあるタルパもいるせいか、バチルに驚く様子はない。


「テン。高い場所にツリーハウスを作ってくれ。リアンとムサシは見張りを頼む」


 裕二の命令でそれぞれ動き出す。


「ニャ! 木が動いてるニャ。このちびっ子がやってるニャ?」

「ちびっ子じゃないよ。テンだよ!」

「凄いちびっ子ニャ!」

「だからテンなの!」


 バチルに邪魔されながらテンは高い木を選び、そこにツリーハウスを完成させた。そこならほとんどのモンスターは来れないし、たとえ来てもリアンとムサシが見張りにいるなら問題ない。ゆっくり休めるだろう。


「バチル。遊んでないで上で休むぞ」

「ユージ。このちびっ子凄いニャ!」

「だからテンだってば!」


 裕二とバチルはツリーハウスに登り、座って軽く食事をしながら休む。


「ニャッハッハッハ。お前ドラゴンニャ? チビドラゴンニャ」

「ミャアアア!」

「そうだよーだって」


 バチルは何の疑問もなくタルパたちと打ち解けてくれているので、裕二としても助かる。チビドラを突っつき回して楽しそうだ。

 しかし、事態はそれ程楽観的でもない。色々と決める事や心配事もある。


「まずはこれから向かう先を決めなきゃならないけど。どうするか」


 まずシェルラックはない。

 シャクソンはシェルラックでも有力者のひとり。それが裕二を魔人だと騒ぎたてればどうなるか。何か手段はあるかも知れないが、今はやめた方が良い。


「ニャら谷に行くニャ。モンスター倒し放題ニャ!」

「いやいや。この状況で何で谷だよ」


 普通に冒険者として活動し、シェルラックと言う拠点があるなら、いざ谷へ、と言う選択肢もあるだろう。しかし、今必要なのは冒険ではなく拠点だ。

 ヴィシェルヘイムの谷。そして、その先へ。と言うのは大いに興味があるのだが今は論外だ。


「となると、やはりアンドラークかペルメニア方面になります」

「だよな」


 セバスチャンがそう提案する。

 今現在いる場所からだと、北へ森を抜ければアンドラーク。東へ行けばシェルラックがあるが、そこを少し大回りしてサレム王国を抜ければペルメニアだ。

 楽なのはアンドラーク。ペルメニアならチェスカーバレン学院に戻る、と言う選択肢もある。


「でもシャクソンはペルメニアの大貴族だからなあ。情報が行かないとも限らないよな」

「すると、アンドラークですか」

「うーん。一度マサラート王子に相談しに行くか」

「それが良いと思います」

「それで仮決定にするか。他の場所もあるかも知れないし」


 とりあえずはそう決まった。しかし、その他に心配事もある。


「メフィさんたちは大丈夫かな」

「あれが最良の選択だったと思います。ラグドナール様もいるので問題ないでしょう。ですが、セーラ様は心配ですね」

「それもあるな……」


 結局、誘導瘴気の問題を解決しないままこうなってしまった。もう聖堂騎士団と行動をともにするのは不可能だ。

 次に誘導瘴気が現れた時。聖堂騎士団はそれに対応する事が出来るのだろうか。もし対応出来なければ、セーラはかなり危険な状況になるはず。


「それを考えるとアンドラークには行きにくいよな」


 今、この瞬間にもそのような事態が起きてるとも限らない。そう考えると、この地を離れる決心も鈍ってくる。


「ニャッハッハッハ。それニャら森のモンスターを全部ぶっ飛ばせば良いニャ」

「森のモンスターを全部……」


 到底不可能に思える事を言うバチル。しかし、裕二はそれを馬鹿にしたり否定したりはしない。

 おそらくそんな事は無理だろう。だが、バチルの言う「全部ぶっ飛ばせ」この言葉が裕二の心に深く残った。


「まあいいや。そういやチビドラ。ワイバーンは何で俺たちを助けたんだ?」

「ミャ、ミャミャ」

「奴らは僕の下僕だあ! だってさ」

「やっぱりそう言う事なのか?」


 ワイバーンはドラゴンの眷属だとメフィは言った。そして、ワイバーンはドラゴンを敬っているのではないか、とも言っていた。

 チビドラはタルパではあるが、裕二はドラゴンとして生み出した。そして、ワイバーンは完璧にチビドラに従った。

 ワイバーンはチビドラをドラゴンとして、そして主として認めたのだ。


「ミャ、ミャアアア」

「あのはぐれたのがチビドラを見つけて、他のワイバーンを呼んで来たんだってさ」

「なるほど……」


 最初ホローへイムに着いた時、ワイバーンは七体しかいなかった。彼らは調査隊からドラゴンの気配を感じ取り、仲間を集めた。夜中に調査隊の上空を旋回していたのはその気配を確かめていた為だ。

 そしてもし、キマイラとの戦闘があるのなら、ワイバーンはこれに介入するつもりだったのだろう。主であるチビドラの命を受ける為、そのチビドラの主である裕二を守る為に、ワイバーンはそこに留まっていたのだ。


「じゃあ偶然あそこにワイバーンがいたのが、功を奏したって事になるのか」

「ミャ」


 そして、裕二は戦闘が終わると、ワイバーンをどうするかチビドラに聞かれ、帰って良いと答えたので、ほとんどのワイバーンは崖を越えてどこかへ帰って行った。


「そう考えると常時使える戦力ではない、と言うことになります」

「そ、そうだな……帰らせたのは失敗だったか?」


 セバスチャンの指摘に狼狽える裕二。しかし、使わないのにあの大群をそばに置くのもどうなのか。と言う考えもある。

 ワイバーンの大群を引き連れてアンドラークに行けば大騒ぎになるはずだ。やはり、ああするしかなかったのだろう。


 と、そこで一旦話しが途切れると、バチルが何かに気づいたようだ。


「ユージそれなんニャ?」

「え?」


 バチルはその方向に指をさしている。裕二もその方向を見る。


「こ、これは!」


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