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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
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127 悪意の理屈


 裕二、リアン、ムサシの作る防衛ライン。そこを突破出来たキマイラはいない。更にその向こう側に集結したキマイラはチビドラに指揮されたワイバーンが根こそぎ刈り取っていった。

 残り僅かとなったキマイラ。

 しかし、その獰猛な性格は残兵処理に都合が良い。なにせ放っといても勝手に集まってくれる。それをリアンとムサシが粛々と処理するだけだ。


「リアン! そいつが最後だ」


 裕二の感知している最後のキマイラ。

 既にワイバーンにボロボロにされているが、強化された肉体は勢いを失わない。

 しかし、キマイラが飛びかかった瞬間、その首はリアンの爪によりスッパリ斬られ、勢い余って遥か彼方に飛んでいく。


 そして、役目を終えたリアンとムサシはその場から掻き消えた。


「ご苦労さん。しかし、あんなに強かったとは……」


 もう一方、チビドラも裕二の元に戻ってきた。


「お前もご苦労さん」

「ミャアアア!」


 ――ワイバーンどうするかってさ。


 アリーがチビドラの言葉を裕二に伝える。

 見ると辺りに広がるたくさんの木に、戦闘を終えたワイバーンが止まっており、その全てが裕二とチビドラの方向を向いている。


「お、おう。とりあえず……帰っていいのかな」

「ミャミャ、ミャアアア!」


 すると一斉にワイバーンが飛びたち、どこかへ去っていった。

 しかし何故、こうなったのか。まさかワイバーンが味方になるとは思っていなかった裕二。それは後でチビドラに聞くとして、今は今後どうするのか考えねばならないだろう。


 辺りはキマイラの屍が大量に転がる壮絶な光景となっている。まだその余韻冷めやらぬ者が多く、ほとんどの者は何が起きたのかすら理解出来ていない。

 しかし、それでもハッキリとわかるのは、強化された三百のキマイラを前にしたにもかかわらず、自分たちは助かった、と言う事だ。


「ユージ! こりゃいったいどう言う事だ!? これ全部お前がやったのか? さっきのあれは何だ? あの怪物は?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 凄い勢いで駆け寄り、裕二の肩を掴むジンジャー。裕二に聞きたい事は山ほどあるだろう。それはジンジャー以外の多くの者が感じている事でもある。

 裕二もどう説明して良いのかわからない。


「おいユージ! どうなんだ!」

「いい加減にせんか!」


 ジンジャーの頭を思い切りはたくメフィ。


「隠している能力など誰にでもある。ユージのはかなり特異じゃがな。しかし、貴様はそれにより救われたのじゃろう。隠し事を探るより礼を言うのが先であろうが、愚か者!」

「そ、そりゃ……そうだった。済まねえユージ。お前のおかげで助かった。礼を言うぜ」


 そして、メフィは調査隊に向かって声を発する。


「今はキマイラがどうなったのか、現状を把握し、調査隊としての行動を決める事が先であろう。余計な詮索などしとる暇はないぞ! ラグドナール! ちゃんと指揮をせい」

「そ、そうだな……まずはキマイラの討伐数把握だ。生きてるのがいるかも知れないから気をつけろ。メフィ班は……とりあえず休憩していてくれ。後で聞きたい事もある」


 現れたキマイラの数と観測で把握している数は近い。ホローへイムの九割以上のキマイラは倒したのではないか、とも考えられる。

 調査隊としては、攻略方を見つけ更にキマイラの数も大幅に減らしたので勲章ものの大成果と言える。


 ラグドナール隊は隊長の号令で動き出す。まだ裕二に色々聞きたい者もいるだろう。礼を言いたい者も多いはず。しかし、それだけではなく、あんな怪物を操る裕二を奇異な目で見ている者もいる。

 各々考える事は違うが、今は任務を優先させなければならない。

 だが、全体の半分が動く中、シャクソンの隊は、何の指示もなくまだ動いていない。こちらにも裕二に助けられたと思う者はいるだろうが、ほとんど行動をともにしていない裕二を、怪しげに見る者も多い。


 それを横目に見るラグドナール。

 後は細かな調査をして帰るだけだが、ひとつ気になるのはワイバーンだ。

 ラグドナールは空を見上げ、彼方に飛び去るワイバーンを視界に捉える。あれをどう考えれば良いのか。裕二に聞くしかないのだろう。


 しかし、それを見ている人物がもう一人いた。


 ――やはり、あれはユージが使役したのか。となると一筋縄では……ん?


 シャクソンもそれ見ていた。が、ある事に気づく。


 ――崖を越えた。ワイバーンは海に帰るのか? だとすると……アレがいないのは好都合か。


 既にかなり遠くを飛ぶワイバーン。彼らはホローへイムの崖をテリトリーにしていたはずだが、何故か今はそれを越え、まるで役目を終えたかのようにその先へ飛び去っている。


「おい! ちょっと待て!」


 調査隊が動き出す中、シャクソンが大声で叫ぶ。そして全員、何事かと注目する。


「そいつは魔人だ。殺せ!」


 そう言いながら裕二に向けて指をさすシャクソン。

 それに驚く裕二。どう言う事なのかと周りは混乱し立ち止まる。

 そして、ラグドナールが慌てて口を開く。


「な、何を言っているシャクソン! ユージが魔人の訳ないだろ」

「そうじゃ。ユージは我々を救ったのじゃぞ。そんな訳なかろう」


 メフィもそれに同意する。しかし、シャクソンはそれに反論する。


「ふざけるな! ワイバーンを使役し、あんな怪物を召喚する。普通の人間にそんな事が出きるのか? それこそ、まさに魔人の力だ」


 それを聞き、ハッとする者もいる。確かに普通の人間にそんな事は出来ない。そして、先程現れた怪物の禍々しさと圧倒的な強さ。それを思い出し身震いする者もいた。特にリアンは、あれこそ魔人に使役されし者、そう思われても仕方ない外見をしている。


「ユージが魔人なら、何で俺たちを助ける。意味ないだろ」

「馬鹿が! 魔人は人間より遥かに狡猾な存在だ。今の戦闘はシェルラックを信用させる為の行動だ。奴は内側からシェルラックを破壊する気なんだよ! そんな事もわからんのか」

「な、なんだと。そんな事、あるはずがない。ふざけた事を言うな! ユージは俺たちの仲間だ」


 シャクソンの言葉に反論するラグドナール。裕二と親しい者はそんな訳ないとわかっている。しかし、ここにいるのは裕二と親しい者ばかりではない。


「魔人がモンスターを使役するのは常識だ。未だかつて人間でワイバーンを操った者がいるのか? 魔人だからこそ出来た。その戦力はシェルラックに向くんだぞ!」


 ここにいる者たちは全てを理解している訳ではなく、未だ混乱している者も多い。そこにシャクソンの言葉は一定の説得力を持つ。

 もし裕二が魔人なら。その力が自分たちに向けられたら。そう考えるだろう。

 特に裕二と親しくないシャクソン隊は、その傾向も強い。他ならぬリーダーのシャクソンがそれを言っているのだから、その言葉を信用する者がいてもおかしくはない。


 その事態を傍観するしかない裕二。あの力をどう説明すれば良いのか。それが難しい事は自分が一番良くわかっている。だからこそ、それを隠してきた。

 これをどう収めるべきか。裕二は考えるが、なかなか良い案が浮かばない。


 ――いや、そもそもシャクソンには悪意があるようにも思える。無理やり俺を魔人に仕立て上げたいみたいだ。


 シャクソンが裕二を魔人に仕立て上げたいのなら、どのような説明、説得にも応じるはずがない。

 こちらが如何に正論を述べようと目的が違う。ラグドナールは事実を話したい。しかし、シャクソンは事実を話したいのではなく、裕二を魔人にしたい。正論だろうが何だろうが理解を見せてはいけないのだ。

 シャクソンの言う事は一見正しいと思う者もいるかも知れない。しかし、決定的に違うのは話しの前提だ。

 裕二が魔人かどうか。それは本来詳しく調べてから、確実に魔人だと言う証拠がなければ前提にはならない。

 今はシャクソンが勝手にそれを決め、確実な前提であるかのように話しているだけだ。そこから先に話しを進めてしまっているので、前提を正しいものと勘違い、或いは皆がそれを軽視してしまう。シェルラックを内側から破壊する、と言う言葉に注意が行ってしまうのだ。

 更に、それを聞いてる人間は裕二の召喚したリアンとムサシ。そして、裕二に操られたかのように見えたワイバーンを見ている。

 それがシャクソンの勝手に決めた前提に説得力を持たせている。本当は前提が最初からあやふやなのだから、その先で何を話そうが成り立つはずがない。

 これでは話しが纏まる訳はない。いや、纏めるつもりがないと言える。

 裕二を魔人に仕立て上げるのが目的ならば、そうなる。


「構わん。コイツらは無視してユージを殺せ! その獣人も女も仲間だ。一緒に殺せ!」


 ついでにバチルも仲間にされてしまった。しかし、急な事にシャクソン隊にも狼狽える者が多く、なかなか手を出せない。

 まさか彼らもこうなるとは思わなかったのだろう。


「さっさと殺れ!」


 その声に、シャクソン隊が剣を抜き動き出した。そして、裕二を遠巻きににじり寄る。

 それを見たラグドナールは自分の隊に指示をだす。


「ユージを守れ! 絶対に手を出させるな」

「やってやろうではないか。妾に勝てると思うならかかってこい」

「ついでにシャクソンもぶっ殺してやるぜ。前から気に入らねえんだよ」

「ユージは下がれ。俺たちに任せろ」


 メフィ班がその前に立ちふさがる。

 このままだと味方同士で戦闘になってしまう。

 

 ――それが奴の目的か?


 裕二にはその狙いがわからないが、このまま放っとく訳にはいかない。

 シャクソンはともかく、その配下はまだ混乱し言われるままに剣を抜いた雰囲気だ。決して戦いは望んではいないはず。

 そうなると、彼らが争わない方法はひとつだけ。裕二はそれを実行する。


「全員下がってくれ」


 メフィたちは裕二の声に振り返る。


「俺がやる。バチル、いいな!」

「ニャッハッハッハ。皆殺しニャ」


 メフィ班の横を通り前に出る裕二とバチル。


「メフィさん。後はお願いします」


 その時。裕二は小声でそう告げた。


「お前……」


 同時に裕二とバチルの横に、リアンとムサシが現れる。


「先に言っとくが、このリアンだけでお前ら全員でも十秒持たないぞ。さっきの戦いを見てたら、それくらいわかるだろ。それでもやるか?」


 リアンを指差して裕二はそう言った。

 剣を向けて裕二に対峙する者たちは奥歯を噛みしめ脂汗を流す。それは全くその通りだとわかっているからだ。

 片手でキマイラを潰す怪物。おそらく、自分たちなら百人いても敵わない。それはその怪物一体だけでの話し。そうでなくともこの中の誰かなら、リアン以外でも結果は同じだろう。


「別にお前らにどう思われても構わないが、俺は魔人じゃない。その説明も面倒だからしない。だけど剣を向けられたら俺は自分を守る為に戦う」


 裕二、バチル、リアン、ムサシ。圧倒的な存在感の四者。彼らを前にしたら、たとえ剣を構えてても、それ以上はなかなか動けない。動いた瞬間に死んでもおかしくはないのだから。


「どうする。戦う気がないなら剣を納めろ。だけど俺と戦う気がある奴は――」


 そして、そこに白虎も現れた。


「追ってこい。望み通り殺してやる」


 そう言うと裕二は白虎に飛び乗る。


「乗れ、バチル」

「ニャは。チビのお父さんニャ」


 そして、白虎は二人が乗ると凄い勢いで走り出す。その姿はすぐに見えなくなってしまった。


「ユージ!」


 叫ぶラグドナール。そして隊を挟んで後ろにいるシャクソン。


 ――予定は狂ったが……これで良い。


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