表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
124/219

124 攻略と到着


 ホローへイムの開けた場所。障害物の少ない草原。調査隊は今、そこにいる。


「多少は効率よくやらせてもらう」


 メフィはそう言いながら数百メートル四方に結界を作る。


「何の結界ですか?」

「風の精霊による結界じゃな。この中は暴風が吹き荒れる」


 この大きさなら距離的に考えて、キマイラがこちらに気づいた時には既に暴風吹き荒れる結界に入っている事になる。そうなればキマイラは強化出来ない。その状態で戦闘となる。

 まずはキマイラが強化されるか見る必要があるだろう。


 メフィ、ジンジャー、エムオール、裕二、バチルはその中央で待ち構える。他の者は隠れて監視する。

 後はキマイラが来るのを待つだけだ。


 ――つくづく大した男じゃのう。父から聞いたクリシュナードの武勇を思い起こさせる。とは言っても、あの正真正銘の怪物とは比べられぬか……


「ん? 何ですか」


 微笑を浮かべながら裕二を見るメフィ。最初は裕二がメフィをジッと見ていたのだが、今はその逆だ。


「ユージよ。もし、エルフの里に行くことがあれば、妾の友人だと言え」

「は? はあ」


 そう言いながらメフィは魔石で作られた耳飾りを外し裕二に渡した。


「それがその証じゃ。失くすなよ」


 裕二はそれを受け取りマジマジと眺めた。エルフのしきたりか何かだろうか。


「来たぞ!」


 魔遠鏡で観測していたエムオールが遠くにキマイラの姿を発見する。既に結界内はかなりの暴風が吹き荒れており、キマイラもその中だ。


「まずはこれじゃな」


 メフィが弓矢を構える。それでキマイラにこちらの存在を気づかせる。


「ふふ、愚か者」


 次の瞬間、メフィの矢が放たれる。

 矢は一直線にキマイラを目指し見事命中した。その直後、キマイラはこちらに気づき走り出す。


 だが――


「明らかに遅いな」


 その速度は以前見せたものとは全く違い、かなり遅い。いや、相対的に遅いと言うだけで決して遅くはない。

 しかし、その速度がキマイラの強化を見分ける証となっていた。


「やるぞ!」

「ニャは」


 攻撃したメフィを目指して走るキマイラ。その左右からバチルとジンジャーが回り込み、キマイラの背後を取ろうとする。

 しかし、圧倒的に早いのはバチルだ。ジンジャーはそれを追う。

 その早さのせいで、バチルはまだメフィたちとかなり距離があるにもかかわらず、キマイラの背後をとってしまった。

 そして、キマイラの後ろ足に投擲ナイフを投げつける。以前ならその程度ではどうにもならなかっただろう。しかし、今回キマイラはその攻撃でバランスを崩した。

 直後にバチルは尻尾の大蛇の根本に剣を叩き込む。すると、大蛇は本体と完全に切り離された。電光石火の早業だ。


「うニャー!」


 斬られた瞬間、大蛇は炎を撒き散らす。が、バチルは凄まじい跳躍を見せ、その頭上から更に数本の投擲ナイフを放った。


「ほう。やるではないか」


 大蛇の頭はバチルの投擲ナイフによりキマイラの体に縫い付けられた。そこから吐き出される炎は、全てキマイラ本体に向かって放たれる。本体の制御を離れた大蛇は、攻撃すればするほど、自身にダメージを与えるしかない状態になっている。

 本体にもある程度は炎の耐性があるのだろう。しかし、自身の攻撃とは言え長時間、しかも近距離で直接それに晒されたらどうなるか。


「ここまで来れぬな」


 キマイラは徐々に勢いを失い、やがてその場に立ち止まる。そこへ遅れてきたジンジャーが戦斧を振り上げる。


「おらあああ!」


 ジンジャーの戦斧はキマイラの首の四分の一程を残して斬り取る。もはやその首はかろうじて繋がっているだけの状態だ。


「よっしゃあ!」

「完全に刈り取れニャ!」


 直後、バチルの剣により、キマイラの首はスパッと切り離され回転しながら地面に落ちる。それと同時に本体も倒れた。


「ニャは! ニャは!」


 まだ、少しだけ動く本体。バチルはそこへ狂ったように剣を叩き込む。やがてそれが動きを止めると、最後に大蛇の頭を叩き割る。

 そして、キマイラは完全に全ての動きを止めた。


「中途半端ニャ! 最後までちゃんと殺すのニャ!」

「わ、わりいな」


 バチルに怒られるジンジャー。それを見て笑うメフィ。


「ふふ、あちらも大した娘じゃ。完全に息の根を止めるまで絶対に手を抜かん。一見無謀に見える行動も全て計算されておる。ジンジャーでは敵わんか。我らの出番はなかったな」


 結果から言うとほとんどバチルひとりでやってしまった。類まれなる強力な戦闘力のバチルではあるが、今見せた程度の攻撃なら精鋭数名で賄える。暴風結界と言う準備は必要だったが、キマイラはそこまでパワーダウンしていたと言える。


 これなら戦える。隠れてそれを見守っていた調査隊もそう思っただろう。

 裕二の言う事は全て正しかった。この方法なら討伐隊も死傷者はかなり減る。

 大きな問題のひとつがやっと片付いた瞬間、と言えるだろう。誰もが安堵の表情を浮かべた。


 だが、その時。おざなりに拍手をしながらこちらへ近づく者がいた。


「さすがと言うべきか、ユージ。お前がこの方法を考えたそうだな」

「っ!」


 声の方向には調査隊がいる。しかし、その人数はいきなり増えている。そして、先頭にはあの、シャクソン・マクアルパインがいた。

 裕二たちが戦闘中に彼が隊を引き連れ、ホローへイムに到着したのだ。


 ――シャクソン……


「どうした。勝ったのだからもう少し喜べ」


 シャクソンの登場に苦々しい表情を見せる裕二。そして、そんな表情を見せたのは裕二だけではなく、他の者にも多くいた。シャクソンをよく思わない者は多い。


「そうか。お前はウチの隊の者と揉めたんだったな。悪い事をしたとは思っている。アイツらは俺が厳しく叱っておいた。だからそんな顔をするなよ」


 ニヤつきながらそう言うシャクソン。やはりその件は把握しているようだ。しかし、シャクソンはその非を認めたような発言をしている。態度だけ見ればそうは思えないが、それでも、そう言われたら受け入れるしかない。


「わかりました……」


 しかし、裕二もなかなか笑顔で、と言う訳にもいかない。そんな微妙な空気の流れる中、ラグドナールが口を開く。


「そんな訳だから、予定は少し変わった。シャクソン隊にも今の方法を覚えてもらう。そして、多少実戦がてら数も減らしたい」

「もう覚えた。こちらはこちらでやるから気にするな」


 元々は観測範囲を広げる為のシャクソン隊。しかし、その役割はラグドナール隊の新たな作戦により変更される。

 シャクソンはそれを詳しく聞かずに軽く引き受ける。


「俺たちは近くに野営地を張る。行動は明日からだ。何かあったら知らせに来い」


 そう言うと、シャクソンは隊を引き連れ去って行った。


「相変わらず嫌な奴じゃな」

「まあ……仕方ない。俺たちも撤収するぞ」


 シャクソンの登場だけで気分を害する者も多いだろう。その態度や言動のひとつひとつは文句を言う程ではない。

 何となく嫌な感じがする。その程度の事だ。その程度の事で、マクアルパイン家の人間に盾突く者はいない。

 ここでシャクソンと同格なのはラグドナールだけだ。シャクソンに正面切って文句を言えるのもラグドナールだけだが、彼もその程度で事を荒立てる気はない。気分が悪くても我慢するしかないだろう。


 だが、調査隊として見ると、本日はキマイラを倒せる目処の立った喜ばしい日でもある。シャクソンの事はとりあえず置いといて、今日ばかりは早めに撤収しゆっくり皆を休ませたい。ラグドナールはそう考え、すぐに野営地の設営を始めた。


「本日は全員ご苦労だった。まだ問題はあるが調査隊としての目標は達成されつつある」


 キマイラについてはかなり良い状態と言って良い。後は通常の観測、そしてメフィ班以外の攻撃班が戦えるか試す。その見通しも明るい。

 もう一つの問題はワイバーンだ。こちらは監視を続けるしかなく、やれる事はせいぜいテリトリーマップを作るくらいだ。現状、ワイバーンとの交戦は控えたい。

 しかし、そこまで終了すれば、調査隊の任務も終わりだ。


「そろそろシェルラックに帰れるな」


 そんな声が漏れ聞こえてくる。キマイラ攻略方がわかるまで、先の見えない調査隊であったが、早ければあと二〜三日で帰れるだろう。

 シャクソン隊もやる事は同じだ。


 そのシャクソン隊がいた時は雰囲気が悪かったが、現在は皆の表情も明るい。ひとりの死人も出すことなく任務は終了するだろう。ここにいる全員がそう考えていた。


 焚き火を囲んで笑いあう隊員たち。その中にいる裕二の元へ、霊体化のセバスチャンがどこからか飛んできた。


 ――裕二様。やはりいませんね。

 ――いないのか。こちらに気を使ったのか?

 ――それはわかりませんが、油断はしない方が良いかと。

 ――そうだな。アイツらは何となく信用出来ない。


 セバスチャンはシャクソン隊の中にダルケン達がいるか見に行っていたのだ。だが、その中に彼らの姿はなかった。

 シャクソンはダルケン達が裕二を含めた聖堂騎士団と揉めた事を知っていたので、こちらに気を使ったとも考えられる。

 その非を認めたのなら、当人同士を会わせるのは控えるだろう。

 しかし、シャクソンがそんな事を考える男には到底見えないのも事実。セバスチャンの言うように油断は禁物だ。


「なあバチル。シャクソンはあの時見たのと変わりないか?」


 裕二のとなりで頭を腕で支え寝転がるバチル。その表情は何か考えているようにも見える。


「アイツは既に壊れてるのニャ」

「そうか……」


 以前と同じバチルの発言。

 いや、少しだけ違う。『既に』とはいったいどう言う意味なのか。

 今の裕二はそこまで読み取れなかった。


 そして、もう一方のシャクソン隊。

 そちらも同じく野営地が設営され、隊員が休んでいる。そこから少し離れた場所に椅子を置き、シャクソンが足を組んで座っている。


 その視線は崖の方向へ向いていた。


 ――ワイバーン……そして、キマイラか。


 シャクソンはラグドナール隊がホローへイムへ来てからの報告書を眺める。

 そこにはメフィ班がキマイラを倒した状況が書かれていた。


 ――これを見る限り、まだ気づいてはいない。いや、気づいていたら今頃……しかし、あれはどう言う事だ。


 シャクソンは神妙な面持ちで席を立つ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ