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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
122/219

122 様子見


「うおー、退屈」


 夜になり、辺りが暗闇に包まれても、観測は少人数で交代しながら続く。

 攻撃班も同じように交代で歩哨につく。今日は裕二の番なので、ひとり野営地の外側に立つ。

 とは言っても裕二の場合、タルパに任せられるので、あまり気合を入れてやる必要はない。ムサシが霊体化でその辺を飛び回っている方がよほど効率的だ。


 キマイラの数は今のところ、ホローへイム全体で百〜二百くらいと考えられている。もちろん、これはまだ精度の低い数字なので、もっと調べる必要がある。

 そして、ワイバーンも同数なのだが、こちらは初日と現在の落差が有りすぎる。彼らが元からいたのか、どこかからやってきて増えたのかはわからないが、その落差を考えると、キマイラ以上に増える可能性もあるだろう。


「セバスチャン。キマイラの弱点思いつかないか?」

「難しいですね。メタルスコーピオンの時のように簡単にわかると良いのですが」

「だよな。今回はバチルの勘でもダメか」

「あのお方は突発的に何かやらかしますので、期待しておきましょう」


 やはりこのままでは援軍を呼ぶしかないのだろうか。たとえ援軍を呼んでも、シェルラックが何もしない訳ではないので、それなりの人数は死ぬだろう。

 一番良いのはどう考えても、キマイラの弱点を見つける事だ。それがあればの話しだが。


「そういやセーラさん達は大丈夫かな?」

「あまり深く森に入らないとはいってましたが……誘導瘴気があるので心配ですね」


 キマイラとワイバーンに加えて、そちらの問題も全く片付いていない。心配事は増えるばかりだ。


「シャクソン隊が来たら、ダルケン達にもお気をつけ下さい。ここは閉ざされた場所ですので」

「それもあったか……どんだけ問題あるんだよ」


 と、裕二を取り巻く環境は、いつの間にか問題だらけになっていた。

 一気に力ずくで解決出来てしまえば良いのだが、それを出来そうなものはひとつもない。


「まあ……いっか」


 と、その時。霊体化のムサシが猛スピードで裕二の元に戻ってくる。


「何かきたか!?」


 その直後。裕二も感知能力を作動させ、その気配を感じ取る。すると、その気配は地上ではなく上空にあった。


「ワイバーン……か」


 気配は六つ。かなり離れているが上空をゆっくりと飛んでいる。

 そして、野営地の遥か外側を旋回し始めた。


「マズい」


 裕二は即座に野営地へ戻り、ワイバーンの事を伝えようと走る。しかし、野営地ではワイバーンの気配を感じたのか、バチルやメフィら数人が起きて空を見上げていた。


「攻撃ではないニャ」


 バチルが落ち着いた声でそう言う。メフィも言葉は発しないが焦る様子はない。

 そして、ワイバーンは二〜三度旋回するとどこかへ飛んでいった。それを目で追うメフィ。


「何しにきおった……」


 暗闇の中で視界も悪かったが、月明かりに照らされた影は間違いなくワイバーン。ここを中心に旋回したので、こちらを意識した行動なのか。

 そして、バチルが感じたように攻撃的な雰囲気はなかった。

 ただ何となく見にきただけ。そんな風にも思える。


 とりあえず問題はない。問題はないが、かなり不気味だ。


「人騒がせな奴ニャ。今度来たら焼き鳥ニャ」

「いや、やめてくれ。刺激するな」


 ラグドナールが慌てて止める。

 そして、ワイバーンの気配も完全に消え彼らは再び眠りにつく。



 翌朝になり調査隊は再び移動を始める。移動しながら話される内容は、ほとんど昨日のワイバーンについてだ。

 何をしに来たのか。と言うのが全員の疑問だが、それに答えられる者は当然いない。


「メフィさん。もし調査隊とワイバーンが戦闘になったら、どうなります?」

「全滅じゃろな」


 キマイラと互角のようにも言われているが、それはあくまでも一対一の場合。しかもある程度地上戦を想定してだ。実際のワイバーンは群れで攻撃し空も飛ぶ。

 人間からすると、たとえワイバーンが一体でもキマイラより戦いにくい。


「飛ばれたら剣は届かん。遠隔系の魔法に頼るしかない。仮にワイバーンが地上に降りて、ジンジャーが会心の一撃を喰らわせたとしても、どれ程のダメージを与えられるかは全くわからん」

「魔法は効くんですか?」

「炎系には強いと聞いた事がある。他はどうじゃろうな」


 誇り高きドラゴンの眷属ワイバーン。

 もしかしたら、彼らとの戦闘も考えなくてならないかも知れない。

 そんな話しをしていると、急にバチルが立ち止まる。


「何かいるニャ」


 バチルの指差す方向。裕二も気配を感じるがかなり薄い。キマイラではないだろう。

 そこには太い木があり、その木の影に隠れた何かがいる。と言うよりも、あると言った方が正しいかも知れない。


「ぷよぷよニャ」

「スライムじゃな。迂闊に触るな」


 直径三メートル程の丸く透明でぷよぷよした物体。魔人の召喚ではなく、ヴィシェルヘイムに元から生息していたモンスター、スライム。

 裕二とバチルはその姿を初めて見る。

 こちらを襲ってくる様子はなく、全く動かない。どうやらウッドリザードのような獲物を待つタイプのモンスターらしい。


「体の真ん中に核があり、中が忙しなく動いとるじゃろ。あれでモンスターを誘う」


 メフィの説明によると、スライムは通常全く動かず、餌になるモンスターが来るのを待つ。モンスターが来たら核の中を動かして誘う。それに釣られてモンスターがスライムに手を付くと、ぷよぷよの体内に取り込まれ溶かされ捕食される。一度取り込まれるとその部分は動けなくなり、抜けだすのはかなり難しい。


「じゃが、同時にその核が弱点でもある。そこを剣や槍で刺せば倒せる」


 とは言っても、スライムの体は大きくそこまで届きそうにない。


「ちょっと待っておれ」


 そう言うとメフィはそこらに転がる石や木の枝を集め、スライムの下部に投げつける。するとそれらの物はぷよぷよした体の内部に取り込まれて行く。

 その直後に中央の核が上部へと動き出した。


「下部を攻撃されたと思い核を上部に移動させる。ああやって核を守るのじゃ。」


 核が上部に動けば体表に近づく。そうなれば剣は核に届く。スライムの身を守る為の行動は弱点を露出させる事にもなるのだ。


「バチル。その剣で刺してみよ」

「うニャ」


 バチルがスライムの核に剣を刺すと、そこから中の液体が溢れ出て、同時に本体の形も崩れてゆく。

 どうやらこれで終わりらしい。


「よ、弱すぎニャ」


 バチルが呆れる程の弱さ。ここまで弱いモンスターは滅多にいないだろう。良くこんなキマイラがたくさんいる場所で生き残れたものだ。


「スライムは人にとっては弱い。じゃが他のモンスターには強いのじゃ」


 核が弱点と知っている人間は簡単に倒せるが、モンスターはそんな事知らない。なので人間にとっては雑魚でしかないが、モンスターには強敵となる。

 メタルスコーピオンのように、倒し方があるかないかで、結果は全く変わるのだ。


「力はかなり強いので知らずに取り込まれると大概のモンスターは動けん。もしかしたら、キマイラでも敵わんかもな」

「え!? マジっすか」

「もしかしたらじゃ。よく聞けユージ」


 でも確かにその可能性はなくもない。動きを封じられ、そこから溶かされてゆく。キマイラの力でそれを抜け出せないなら充分あり得る。そうであったからこそ、スライムは今ここにいるのではないか。

 人が相手なら生き残れないが、キマイラ相手なら生き残れるのかも知れない。人の来ないホローへイムならそうであってもおかしくはない。

 これがキマイラ攻略の突破口になりそうな気もする。しかし――


「言っておくがキマイラ攻略に使えんぞ。まず数が少ない」

「え?」


 メフィは裕二がそう考えたのを感じ取ったのか、言われる前に否定する。

 スライムは弱すぎる程弱いので、人に見つかり次第殺されてきた。それが数を減らした要因でもある。まかり間違って手を付いたら、かなり危険なのでそれは仕方ない。

 そして、いたとしても触れないので移動させるのが大変だし、スライムがキマイラを食ったとしても一体まるごとはデカすぎて食べない。移動も滅多にしないのだから、次にスライムの腹が減るのは数日後とか一ヶ月後とかもあり得る。そうなれば捕食行為自体やらない。

 そもそもキマイラに勝てる保証もなく、数も少ないのではまず無理だろう。対キマイラに使える見込みはほとんどなく、見込みのないものを試す余裕もない。


「うー、そうなのか」

「その程度、妾がとうに考えておるわ。じゃが目の付け所は悪くない」


 別のモンスターの力を借りて、と言うのは今までなかった視点だ。スライムはダメだったが、他に何かあるかも知れない。

 裕二は少しだけ目の前が開けたような気がした。


 ――要は視点を変えるって事か。


 視点を変えればあの異常な耐久力のキマイラを、もっと簡単に倒せるかも知れない。シェルラックはそうやって、ひとつひとつ攻略してきたのだ。

 裕二やバチルなど強力な力を持つ者は別だが、どのモンスターも人間ひとりではなかなか敵わない。しかし、人は知恵によってその困難を乗り越えてきた。それがシェルラックの歴史でもある。

 これはキマイラと人間の知恵比べになるのかも知れない。視点を変えると言うのはそう言う事だ。


「うっ!」


 そう考えていた裕二は、急にゾクッとする気配を感じ、その方向へ目を向ける。


「なんだよアレは……」


 裕二の反応に気づいたラグドナールが静かに呟く。メフィもすぐ、それに気づいたようだ。


「百近くおるぞ」


 そこから感じる大量の視線。

 それは調査隊のいる場所から数百メートル離れた木の上。そこに、たくさんのワイバーンがおり、その全ての視線がこちらへ向けられている。


「崖から離れてやがるぞ。しかも、あんなにたくさん」


 ジンジャーの声には相当な焦りが混じっている。

 そこもワイバーンのテリトリーだとでも言うのか。

 相変わらず彼らはこちらに攻撃する様子はない。だが、ジワジワとその数を増やし、更に距離を詰めてきている。そして、その視線は明らかにこちらを意識している。


「マズイかもな」


 今まで人にはほとんど牙を向けなかったワイバーン。しかし、そうでない可能性も考えなければならないのかも知れない。

 大量のキマイラとワイバーン。そんなものをどうやって倒せると言うのか。


 スライムを通して何となくだが見えた可能性。しかし、目の前の光景はそれを一気に打ち崩してしまった。


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