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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
120/219

120 絶望の勝利


「来るぞ!」


 数十メートル先から突進を始めるキマイラ。その勢いの増し方はかなり急激だ。完全な戦闘モードと言う事だろうか。

 まずはその勢いを殺し、キマイラを拘束しなければならない。


 ――裕二様。キマイラは何か魔法……いや魔力を使っています。

 ――なに!?


 セバスチャンに言われ裕二は視界を切り替える。すると確かにキマイラから、かなりの魔力が発散されている。しかし、魔法を使っているようには見えない。いったい何なのだろう。


 そうこうする間にキマイラはこちらへ近づく。初めて間近で見る巨体はかなり威圧感がある。

 牙、爪、足の太さ、体の大きさ、尻尾の大蛇、折りたたまれてはいるが翼もデカくその先には鋭い鉤爪がある。そのどれもが強烈な力強さと荒々しさを放っていた。

 今までのモンスターとは明らかに違う。目の前に立つだけで死を予感させる化け物だ。


「行くぞ!」


 メフィは手のひらをキマイラに向け、それを力強く前に倒す。まずは勢いを殺す為のエアキャノンだ。その様子から、前回よりも強力にしてあると思われる。


 キマイラは一瞬だけ後退した。だが、すぐに爪で地面を掴む。そして、再び突進を始める。

 ベヒーモスの時よりも威力を高めたエアキャノンは、ほんの一瞬だけ足止め出来たに過ぎない。


「スネークプラント!」


 キマイラが再び走り出す直前、エムオールが魔石を放つ。

 スネークプラントと呼ばれたそれは、地面につくや、そこから蛇のように木が生えキマイラの足に絡みつく。

 一か所を拘束されたキマイラはバランスを崩す。直後に他の場所からもスネークプラントが伸びキマイラを拘束する。

 それは時間が経つほど成長し拘束力を強める。

 キマイラの動きが完全に止まった。


「よっしゃ!」

「まだじゃ愚か者!」


 しかし、キマイラは尻尾の大蛇から巨大な炎を吐き出し、自身の足ごと焼き払う。そして、あっさりとスネークプラントを引き千切った。


「分散しろ!」


 全員が左右に飛ぶ。

 突進したキマイラはそこに着地するやすぐに方向転換し、手近にいる裕二を狙った。


「来いよ化け物!」


 だが、そこへ横からジンジャーが、戦斧を思い切りキマイラの肩口へ叩き込む。


「うぉらあああ!」


 戦斧はキマイラの肉に半分ほど食い込み止まる。が、そのまま戦斧が抜けなくなってしまった。


「あ、あれ?」

「離れんか馬鹿者!」


 直後にジンジャーはメフィのエアキャノンに吹き飛ばされる。


「いてーなババア!」


 ジンジャーの戦斧はキマイラの筋肉に掴まれたのだ。圧倒的なその肉体は傷口の筋肉さえ武器にする。メフィは即座にそれを理解し、ジンジャーを吹き飛ばした。そのままそこに留まっていたら彼は殺されていただろう。


「メテオストリーム!」


 そのほんの一瞬の隙をつき、裕二がメテオストリームをキマイラの頭めがけて数発連続で放つ。

 その攻撃は僅かに逸れたが、キマイラの右頭部を破壊した。もはや拘束はしきれぬとの判断から、裕二はそうした。戦法を試している余裕などないのだ。

 キマイラは右目の辺りから頭をえぐられている。


「やったぜユージ!」

「まだじゃと何回言わす!」


 ところがキマイラは全く衰えない。

 頭の半分を失っても動きが全く変わらないのだ。尋常ではない生命力にさすがの裕二もたじろぐ。


「何だコイツ」


 キマイラはそのまま裕二に狙いを定める。だが、今度はそのえぐれた部分にジンジャーの戦斧が真上から叩き込まれた。


「おい! それ俺のだぞ」

「やかましニャ!」


 それをしたのはジンジャーではなくバチルだ。裕二の攻撃で落ちた戦斧を魔剣ニャンウィップで掴み、それを使い攻撃した。筋肉のなさそうな頭部なら掴まれない、とバチルは考えたのだろう。かなり深く食いこんだ戦斧はそこから引き抜かれジンジャーの元に飛ばされ、足下に転がる。


「お、わりいな」

「さっさと拾え! 愚か者が」


 しかし、普通なら大ダメージのはずの攻撃もキマイラには通用していないようだ。

 キマイラは尻尾の大蛇から再び炎を放ち、周りを威嚇する。


「あれが先じゃな。ジンジャーとバチルは背後へ周れ!」


 全員が距離を取りながらキマイラを囲む。だが、キマイラのターゲットは裕二に確定しているようだ。再び裕二に襲いかかる。

 裕二は残った頭部にメテオストリームを放つ。頭が完全になくなれば、さすがのキマイラも動かないだろう。

 同時に背後からジンジャーとバチルが大蛇を狙う。しかし、大蛇は当然炎を吐いてくる。


「ニャは」


 だが、バチルはその大蛇の頭を魔剣ニャンウィップで絡み取り地面に叩きつけた。それだけでは大したダメージにはならないが、バチルの目的はダメージではない。


「今ニャ!」

「お? おう!」


 一瞬戸惑ったジンジャー。しかし、バチルの攻撃によって炎の軌道が変わり大蛇の根本が狙えるようになっていた。そこへ戦斧を叩き込む。


「手応えありだぜ!」


 その攻撃により、大蛇は根本から半分ほど千切れた。ほとんど本体にぶら下がっている状態だ。まだ頭は生きているが、炎の狙いは定まらないだろう。

 同時に裕二のメテオストリームでキマイラ本体の頭が完全に吹き飛ばされた。キマイラは首から上がない状態だ。


 しかし――


「ウソだろ……」


 裕二がそう呟く。キマイラはそれでもまだ、動いているのだ。

 頭はなくなり尻尾の大蛇も半分千切れている。にもかかわらず、キマイラの動きは衰えない。

 あり得ない。聞いていた以上の化け物だ。ここにいる誰もがそう思っただろう。

 そして、キマイラは気配だけを頼りに再び裕二に襲いかかる。


「さっさと死ね!」


 裕二は即座に連発でメテオストリームを放った。

 背後ではジンジャーが大蛇の根本を完全に叩き斬る。


 落とされた大蛇はもがきながら炎を吐きまくる。そして、本体は何度もメテオストリームを喰らい体の半分がなくなったあたりでやっと動きを止めた。

 残された大蛇の後頭部にバチルが剣を、ジンジャーが戦斧を同時に叩き込み。それが砕けると炎もおさまり、キマイラの全てが完全に止まった。


 五人に大した怪我はなく、何とかキマイラを倒す事が出来た。


「ここまで強いとはのう……」


 全員がキマイラの残骸を見つめながら、その場に立ちすくむ。

 ダメージによる衰えがないとは聞いていたが、まさかこれ程とは思わなかった。

 頭が吹き飛ばされても関係なく動き回る姿は、常識を遥かに越えている。ダメージどうこうのレベルではない。


「しかし、どうすんだコレ。討伐隊は皆殺しにされるぞ」


 ジンジャーの問いに答える者はいない。

 戦いには勝った。しかし、キマイラが絶望的な強さである事も同時に確認された。

 ホローへイムにはまだこれがウヨウヨいる。討伐隊が結成されても、この五人以上の戦力など簡単には揃えられないだろう。その五人でも裕二のメテオストリームがなければどうなっていたか。二体以上のキマイラと戦ったらどうなるか。試していない攻撃は色々あったが、この化け物に通じるかはわからない。

 キマイラ一体でこれなのだ。討伐隊は人が死ぬ勘定をしながら人海戦術で戦う以外にない。



 調査隊は一旦場所を移し休憩をする。その雰囲気も明るいとは言えない。キマイラには勝ったが、その衝撃的な強さを目の当たりにしたからだ。

 あれでは現在わかってるだけの数でも、とんでもない脅威となってしまう。

 一行は荷物を下ろしたその場所に座り込む。


「完全に見誤ったな」


 エムオールがボソリと呟く。


「そうじゃな。最初から全力の攻撃、それを前後に分けておかねばならん。攻略方など試す余裕はないわ」


 まともに効いたのは裕二のメテオストリーム。部位によってジンジャーの打撃も有効ではあった。しかし、そのどちらもシェルラックでは最上位に位置する攻撃だ。ほとんどの者にそこまでの攻撃力はない。


「エムオール。以前と比べてどうだった?」


 別の場所でキマイラと戦った事のあるエムオールにラグドナールが訊ねた。


「報告書である程度理解していたつもりだったが、あれは完全に別物だな。俺が倒したのはあんなに強くはなかった。傷口の筋肉で刃を掴むなんて事はなかったし、首を落としても多少生きてはいたが、立ち上がれる程じゃない。僅かに手足が動く程度だ」


 エムオールの戦ったキマイラとは、かなりの落差があるようだ。その落差には何か原因があるのだろうか。


「そう言えば……戦いが始まる直前、キマイラは魔力を発散していましたね」


 裕二はセバスチャンに言われ、それを視認していた事を思い出す。


「なに! やはりそうなのか……妾も微かに感じたが、あれは何だったのじゃ?」


 メフィにもその心当たりはあるようだ。


「いえ、それ以上は……」


 しかし、あの魔力を何に使ったのかはわからない。裕二は何となくだが、気持ちの昂りにより無意識的に発散されたものではないかと思っている。


「ふむ、モンスターに魔法を使う種はそうはいない。やるとしたら我々のような術式を使う魔法よりも、感覚魔法じゃな」

「感覚魔法?」

「こういう事じゃ。ほれ」


 メフィはそう言いながら地面に生えてる雑草に手をかざす。すると雑草はメフィの手の動きにつられるように左右に動きだす。


 ――超能力? サイコキネシスか。


「魔力を感覚的に操る術じゃ。複雑な術式はいらん。が、このような簡単な事しか出来ん」


 キマイラは炎を操る事が出来る。それが魔法なのかはわからないが、魔力を発散していた以上、簡単な魔法が使えてもおかしくはない。

 その範囲はメフィの言う感覚的なものから初歩的な魔法程度だろう。ファイアーなら大量の魔力でファイアーゴリ押しと言う訳だ。複雑な術式によるファイアーの強化はない。


「じゃあ身体強化使ってるんじゃねえか?」


 ジンジャーがそう答える。悪くない視点だとは思うが、それはメフィに軽く否定された。


「身体強化は初歩的とは言えんな。それに簡単な身体強化が使えるとして、それは頭がなくても動ける程の身体強化になるのか?」

「そりゃまあ……そうだけどよう」

「アイツは三つの味が楽しめるニャ。と言う事は三体分倒す必要があるのニャ」

「おめえは訳わかんねえんだよ!」


 と、あまり頭の良さそうでないジンジャーにバッサリ切り捨てられたバチル。しかし、それを聞いていたエムオールは僅かに顔を持ち上げる。


「なるほどな……三位一体でもあるがそれぞれ独立もしている。だから頭がなくても動ける」

「そう言う事ニャ」


 しかし、エムオールが以前戦ったキマイラは頭がなくても多少生きてはいたが、立ち上がれる程ではなかった。今回とは何が違うのか。

 基本的には三位一体でありながら、それぞれ独立しているのは、キマイラが合成獣と言う特徴から納得出来る。が、完全な独立ではないので、頭がなければそれ程長くは持たないと思われる。それを補う為の何らかの強化。やはりそれがあるのだろうか。


 裕二も身体強化についてはある程度勉強しており、メフィの言う事が正しいのも良くわかる。簡単な身体強化でああはならない。

 裕二が知る中で最も近いのは、学院時代にバイツの使ったベルセルクターミネイションだ。しかし、あれは身体強化と言うより狂戦士状態。正しくはハーフバーサーカーとなる。そして、キマイラが使えるような簡単な魔法ではない。


「てことは、仮にそれを疑似強化としましょう。その疑似強化を解除すれば、キマイラはエムオールさんが以前戦った時と同じ状態に戻る。そう言う事ですよね」

「そうなるな。だが、その疑似強化が何なのか。どう言う方法なのか。それが全くわからん」


 キマイラは魔力を持っている。それは確実だ。そして、何らかの強化を自身に施している。これは確定ではないが可能性は高い。

 何となく光が見えてきた気もするが、肝心な部分が全く見えない。まだ両手を上げて喜べる状態には程遠い。


「そう言えばラグドナール。過去の討伐報告書は持ってきておるか?」

「あるぞ。見てみるか」


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