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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
117/219

117 調査隊結成


「以上のメンバーをホローへイム調査隊とする」


 調査隊の指揮官として同行するラグドナール。

 彼はシェルラックの門の前にある広場で、今回の調査の為に集められたメンバーを前に、細かな説明をしていた。

 各自事前にある程度の事は聞いているので新しい情報はなく、顔合わせと挨拶程度のものだ。


「現場までの道のりは君達精鋭にとっては大したものではない。しかし、ホローへイムに一歩足を踏み込めば、そこは魔境と言って良い場所だ。くれぐれも注意するように!」


 集められたメンバーは攻撃班と調査班に別れる。ほとんどの者はラグドナール隊から選ばれており、そこに裕二とバチルも加わる形だ。

 そして、後にシャクソンの隊からもメンバーが選ばれこちらに加わる予定となっている。


「ユージとバチルは最前列の左右に別れてもらう。バンさんから気配の察知能力が高いと聞いてるからな。期待してるぞ」


 ラグドナールはいつもの笑顔でそう説明した。


「わかりました」

「任せろニャ!」


 行軍時は隊列の前後に強い攻撃班。調査時は調査隊を中心に周りを取り囲む形で攻撃班を配置する。

 裕二とバチルはいずれもその最前列の攻撃班に加わる。なので、もし敵が現れたら真っ先に状況判断をしなければならない。

 その想定される最大の敵はキマイラになる。裕二とバチルの力がどの程度通用するのか。まずはそれを見極める必要があるだろう。

 今回の任務は調査なので戦闘が主体ではないが、それがないとは言い切れない。調査ではあっても、戦闘する事を想定しておくのは当然と言える。

 ちなみに今回の任務はビスターには荷が重いのでメンバー入りしていない。アンドラークからのメンバーは裕二とバチルのみとなる。


「では出発する!」


 ラグドナールの号令で調査隊が動き出す。そして、シェルラックの門をくぐりヴィシェルヘイムへと入っていった。


「ユージ知ってるニャ? キマイラはライオンとゴブリンとバターソテーの合成獣ニャ」

「違うと思うけど、そうだよな」

「つまり三つの味が楽しめるお徳用モンスターニャ!」

「なるほど……三つの味」


 裕二はそれを聞き、以前暮らしていた地球でたまに見かけたチョコ、アンコ、クリームが合体した三色パンを思い出した。

 さすが天才バチル・マクトレイヤの発想は違う。裕二は素直にそう感じた。


「なワケねーだろ!」

「ニャッハッハッハ」


 ――つーか食うつもりかよ……


「へへ、俺も食うのには賛成だぜ。そんな余裕はねえだろうがな」


 そう声をかけてきたのは、スキンヘッドに刺青のある大男。

 鋭い鋲の突き出した籠手を装着し、腰には鉈、背中にはどでかい戦斧を背負った、裕二と同じ攻撃班のメンバーだ。

 雰囲気としてはパーリッドのギルド職員、パーチに似ている。


「俺はラグドナール隊のジンジャー。お前らがユージとバチルか。相当つえーらしいな」


 顔はもちろん怖い。だが、一応笑っているので悪い人間ではなさそうだ。


「ユージ。そいつはウチの隊のエースのひとりだ。怪力ジンジャーと呼ばれててシェルラックでは有名なんだぜ」


 ラグドナールの話しによると、ジンジャーはメタルスコーピオンに戦斧を叩き込んで、あの頑強な外骨格をへこませた事があるそうだ。とは言ってもそれで倒せた訳ではないようだが、相当な力でなければ、そうならないのは間違いないだろう。

 見た目も実力もシェルラック屈指のパワーファイターだ。


「愚か者! いくら力があっても、妾の援護がなければお前などとっくに死んでおろうが。ラグドナールもコヤツを甘やかすでない」

「なんだと! うるせえぞババア」


 当たり前のように挑発的な言葉を吐きながら、ジンジャーに厳しい視線を向ける女性。

 金色に縁どられたグレーのローブを纏い、頭をすっぽりとフードに覆われているが、そこから見え隠れするのはロングヘアーと思わしき美しい金髪と彫りの深い端正な顔立ち。

 言葉遣いは古臭さを感じさせるが、ジンジャーが言うような歳には見えない。むしろ若々しくかなりの美形だ。

 弓を背負っているので弓使いなのだろう。


「そいつはメフィと言って強力な魔法と弓を使う。ジンジャーと同じくウチのエースだ」


 ラグドナールがそう説明する。


「ユージ、気をつけろよ。そいつは二百歳のババアだからな」

「二百歳!?」


 ジンジャーがそうつけ加えた。するとメフィはやや面倒くさそうな顔をしながらフードを脱ぐ。そこから美しい髪がバサリと垂れ落ちたが、同時に長く尖った耳が現れた。


「後で驚かれても面倒なので見せておく。妾は誇り高きエルフの血族。とは言っても任務にそんな事は関係ないがな」


 裕二の初めて見るエルフ。

 この世界にくる以前からそれについての知識はあったが、実際は想像以上に芸術的で完成された美しさを醸し出している。

 エルフの特徴は耳以外にもあり、人間と比べると平均して魔力が高く、魔法の扱いにも長けている。そして、ジンジャーがバラしてしまったが長寿である事も含まれる。


「何を見ている、小僧。そんなにエルフが珍しいか」

「い、いや。すいません」

「良い耳ニャ。森で暮らす為の耳なのニャ」


 うっかりメフィを呆けた顔で眺めてしまった裕二。ジロジロ見られて良い気はしないだろう。

 バチルは自身が獣人と言う事もあるのか、あまり驚く様子はない。


「バチルとやらは良くわかっておるな。この耳が森の声を聞くのじゃ。お主ら獣人もそうであろう」


 と、他種族同士、何やらわかり合っている部分があるようだ。


「もうひとり、そこのムチをぶら下げてるのがエムオール。罠やロープ、魔石などあらゆる物を使いこなす。この中ではキマイラと戦った事のある唯一の人物だ」

「よろしくな」


 ラグドナールの紹介した男。見た目は三十歳前後の普通の冒険者だ。凝った作りの革鎧には、ムチ以外の様々な物をぶら下げている。道具使いのスペシャリストと言った感じだ。

 細く鋭い目だけをこちらに向け、低い声で挨拶する様子からは、特に裕二達への興味は感じられない。

 寡黙な雰囲気が印象的な男だ。

 だが、この中で唯一キマイラと戦ったとなると、その話しは聞いておきたい。


「エムオールがキマイラと戦ったのはヴィシェルヘイムではなく、ペルメニアの東の森だそうだ」


 と、語りだしたのは当の本人ではなく、お喋り大好きのラグドナールだ。

 しかし、寡黙なエムオールが説明するより、話しなれたラグドナールが説明する方がわかりやすくはなるだろう。

 裕二はその話しに耳を傾ける。


「だが、色々聞くとヴィシェルヘイムのキマイラの方が戦力は上かもしれん」


 エムオールの戦ったキマイラは確かに強かったが、シェルラックの過去の報告とは差があるのだそうだ。

 個体により差があるのは別に不思議な事ではないが、エムオールはそれ以上の違和感を感じているらしい。

 もしかしたら、見た目が似た別のモンスターとも考えられる。

 いずれにしても、ヴィシェルヘイムのキマイラは、一般に知られるより強力な可能性が高い。


「報告書の通りなら、通常のキマイラとは別物の可能性もある」


 エムオールがボソリとつぶやく。


 キマイラと戦った事のない裕二には雲をつかむような話しだが、ヴィシェルヘイムで最強クラスのモンスターなのは間違いない。

 その強さはヴィシェルヘイムに故あってのものなのか、とも考えさせられる。

 キマイラは聖堂騎士団が壊滅を予想して戦わなければならない相手でもある。今まで現れたモンスターと同等に考えてはならないだろう。一瞬の油断が命取りになりかねない。


 裕二はそこまで考えると、ある事を思い出す。それはアンドラークの王子、マサラートの手紙に書かれた内容だ。

 そこに書かれたのは裕二とバチルが倒れる未来。

 現在、裕二とバチルは一緒におり、これから強敵と戦う可能性が高い。

 マサラートが予言した未来。それが起きる条件だけは既に満たしていると言っても良いのだ。


 ――嫌な予感がするな……


 裕二の予感はさておき、この五人が三つある攻撃班のひとつとなり、年長者メフィをリーダーに調査隊の最前列を担う。

 実質的にはこのグループが、シェルラック最強と言っても良い。だが、その評価が浸透するのはもう少し先の話しだ。



 裕二とバチルがいないからと言って、セーラ達が森に入らない訳ではない。

 これが本来の形なのだから当たり前なのだが、バンは一応戦力の低下を考慮し、あまり深く森に入らない予定を立てている。

 誘導瘴気の調査は全く進んでいないのだから当然そうなる。

 前回の規模以上のモンスターが現れたら、裕二とバチルがいないのはさすがに厳しい。

 森の浅い場所なら、拠点や他の隊の動きを頭に入れておけば、そちらへ誘導しながら戦ったりも出来るので、比較的安全だ。


「セーラ様。あまり余計な事は考えなさいませんよう。ユージ殿は調査が終われば戻るのですから」

「わ、わ、わ、わかってます!」


 明らかにいつもより元気のないセーラ。バンはその内心を見透かしたように言葉をかける。

 セーラが元気のない理由には、裕二がいないと言う事もあるが、それだけではない。


「クルートート卿。キマイラは他のモンスターと違い、かなり手強いと聞いていますが……ユージ様とバチル様は大丈夫でしょうか」


 セーラが不安げにそう訊ねた。


「調査隊にはシェルラック屈指の者達が選ばれております。ラグドナールも指揮官としては優れてますから、引き際を見誤る事はないでしょう」


 調査隊に参加しているジンジャー、メフィ、エムオールはシェルラックから見れば、今のところ裕二、バチルよりも格上と見られている。

 ラグドナールはそれなりの人選をしているのだ。


「それに、あのお二方の実力は我々が見た以上。おそらく私が見た範囲では、本気で戦った事はないでしょうな」

「そうなのですか?」


 誘導瘴気が現れた時の戦い。

 二人のやり取りと手際の良さ。それを見ていたバンは、守るものがなければどちらか一人でも間に合ったのではないか、と考えている。


 ――少なくとも、まだ出していない力はあるであろう。肝心なのは、その底が全く見えぬと言う事だ。


「あくまで個人的な意見ですが、戦闘に於いてあの二人を上回る人物はシェルラックにはいないでしょう。ユージ殿とバチル殿はそれくらい凄いのですよ」

「本当ですか! クルートート卿がそこまで仰るなんて……」


 シェルラックでもトップクラスに位置すると考えられている剣士、バン・クルートート。多少気難しいこの男がそこまで絶賛する人物などそうはいない。

 セーラは戦闘については良くわからなくても、それは知っている。


「もちろんですとも。キマイラは確かに化け物ですが、絶対に倒せない程の化け物ではありません。過去に討ち取られた実績もあるのです。あのお二方ならキマイラ如きに倒されるはずはありません」


 それに調査隊の主目的は戦闘ではない。こちらと敵の戦力が釣り合わなければ即座に撤退となるだろう。

 キマイラを倒すより調査結果を持ち帰る事に意味があるのだ。


「調査目的には、キマイラの弱点を探る事も含まれております。簡単ではないので、出来たらですが。しかし、あの二人なら、それもやってしまうのではないですか?」

「なるほど。確かにそうですね」


 バンの説明を聞き、セーラは胸のつかえが取れたかのように笑顔を取り戻した。

 もちろんその為にバンはそう言う話しをしたのだが、全て嘘偽りのない本音でもある。


 ――本音ではあるが……


 バンは裕二とバチルの戦闘力に強い信頼をよせている。だが、他に気になる事もある。

 それは三国会議で感じた違和感。全てシャクソンの思い通りになってしまった事への不安。

 そのシャクソンは先日トラブルを起こしたダルケン達の親分だ。当然その件も聞き把握しているだろう。

 後日合流するシャクソンの隊に、ダルケン達は含まれるのか。もし含まれていたら……

 そこに不安を感じずにはいられない。

 何故なら、彼らは確実に裕二を憎んでいるからだ。

 ホローへイムと言う閉ざされた場所。そこで何かしら報復がないとも言い切れない。


 ――シャクソンは名指しでユージ殿を指名した。戦歴を考えれば当然とも言えるのだが……


 シャクソンが自分の隊員の為に動く。

 あるかも知れないし、ないかも知れない。どちらかと言えば、普通はそんな事しない。しかし、少なくともシャクソンはそれをやっても不思議ではないと思わせる人物でもある。

 そこがバンには大きな違和感となって胸に突き刺さっているのだ。


 ――くれぐれも気をつけられよ。ユージ殿、バチル殿。


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