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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
114/219

114 レッドリンク


「バチル。お前も行くか?」

「行かないニャ。今日は外の掘りでバターソテーを捕まえるのニャ!」


 今日は聖堂騎士団が休日なので裕二達も同様に休む。久々の休日だ。

 裕二は街へブラつきに行かないかとバチルを誘うが、シェルラックの外側を走る水路で魚を捕まえると言う理由で断られた。もちろん、それをバターソテーにするつもりらしい。


「ビスター! さっさと網をもってくるニャ! バターソテーは急ぐのニャ!」

「は、はい!」


 既に冒険者を始めてからかなり経つ裕二。経験ではまだベテランとは言えないかも知れないが、その強力な戦力でパーリッドの頃から様々なモンスターを倒してきた。シェルラックに来てからもその武勇は知れ渡り、結構な有名人になりつつある。

 それにより多額の報酬も受けてきたので、お金は貯まる一方だ。加えてマサラート王子から受け取った金貨も手を付けてはいない。

 特に買う物がない、と言う理由もあるが、今の裕二はそこそこの金持ちとも言える。

 今日もまた、買う物はないのかも知れないが、見てまわるだけでも楽しいだろう。一応シェルラックは、ビスターによると買い物の穴場でもあるのだから。


「ビスターに案内してほしかったけど……まあ良いか」


 街に詳しいビスターはバチルに取られてしまったので、裕二は仕方なくひとりで出かける。



「これは身代わりの札だね。近場の木に貼り付けるんだ。するとモンスターはそちらを攻撃する」

「ほう、そんな物があるのか」

「だが、魔力を大量消費するので一度に沢山は使えない。効果がないモンスターもいる。効果時間は場所や術者によりまちまちだが、札が破られると終わりだ」

「ふむ、万能ではないが、持っていて損はなさそうですな。セーラ様」


 バンとセーラは数名の騎士を引き連れ買い物に来ていた。

 バンとしては、巫女の護身用アイテム。セーラとしてはちょっとオシャレなアクセサリー目当てなので、同じ商店に並んでいる物でも注目する品物は微妙に違ってくる。

 そして、非戦闘員が防御の為に使うアイテムとなると極端に少ない。

 攻撃用の魔石や指輪などは、魔法の使えない剣士が牽制に使ったりする物で、セーラが持っていてもあまり意味はない。


 ――札はオシャレじゃないけど……


「そうですね。少し多めに買っておきましょう」


 そして今、シェルラックで流行っているのは魔食いの指輪だ。最近は品数も増えたのか、どの店にも並んでいる。


「やはり、ちょっとお高いですな」


 その効果も魔人に効く、毒の治療に効く、とされているが、ハッキリ実証されている訳でない。流行らせた本人から実情を聞いているバンとセーラには、欲しいけど値段に見合った物とは思えない。


「これでも品数が入ったんで多少は値段も下ったんですけどね」


 店主が指輪を持って説明する。

 バンとセーラがそれに注目していると、背後から声がかかった。


「何やってんですか?」


 二人が振り向くと、そこにいたのは裕二だ。


「ユージ様!」

「おお、ユージ殿も買い物ですかな」


 同じ街に住み、同じ日に休んでいるのだから会っても不思議ではない。バンは普通に対応しているが、セーラは少し驚いたようだ。


「我々はセーラ様のアクセサリー類を買いにきたのですが、非戦闘員の物となるとなかなか……」

「ああ、なるほど」


 バンは細かく説明する。セーラが使うなら、あまり重量のない物。防御や時間稼ぎに徹した物が良いのだが、そう言った商品は少ない。

 金属製の鎧で魔法により重量を抑えた物もあるにはあるが、かなり高い。更にセーラのサイズを考えると確実にオーダーメイドとなるので値段も跳ね上がり日数もかかる。


「じゃあ防御系のマントとかローブが良いでしょうね。効果は低いですけどモンスターの嫌いな繊維を編み込んだヤツとか、さっきありましたよ。サイズも直せると思いますし」

「おお、それは良いですな。どうでしょうセーラ様」

「是非、見てみたいです。案内してもらっても良いですか?」


 セーラは嬉しそうだ。バンとしてもそこに思いは至らなかったので、裕二が来てくれると助かるだろう。


 と、そんな話しをしていると、そこへ声をかけてきた者がいる。荷物を色々抱えているので行商人だろうか。


「それだったらこれはどうだい? 巫女様に持たせるんだろ」


 男はそう言って小さな箱を取り出し、蓋を開けた。中には赤く美しい魔石の指輪が二つある。


「これは紅玉石と言う高級な魔石の指輪だ。かなり高価なんだが、使われてる術式がレッドリンクと言ってね。シェルラック向けじゃないから売れ残っちまった」

「レッドリンク?」


 男の説明によると、レッドリンクの指輪は二つでひと組。片方に危険が迫るともう片方の指輪が光る。そして、紅玉石がその方角を指し示す。

 セーラに危険が迫れば指輪が教えてくれると言う訳だ。


「ほう、良いな。いくらだ?」

「金貨十枚」

「なっ!」


 バンが値段を聞くとかなり高額な答えが帰ってきた。日本円で約百万円だ。他にも色々購入したいバンとセーラにとっては余裕で予算オーバーになる。

 しかし、男はその様子を見て、再び口を開く。


「と、言いたいところだが、そちらのユージさんにはかなり稼がせてもらったからな」

「へ、俺?」

「ああ、おかげで在庫の魔食いの指輪が一気に捌けた。アンタが買うなら金貨二枚で良いぜ」


 かなりの値下げだ。何か裏があるのかと勘ぐってしまう。

 ここシェルラックでは偽物やぼったくりにはかなり厳しい。しかし、こう言う売り方なら、バレずに売る事も可能なのかも知れない。

 だが、男はそれについても説明する。


「偽物って事はないぜ。何ならその辺の商店で見てもらっても良いし」


 特定の人物ではなく、誰に見てもらっても良い。となると指輪が偽物の可能性は少なそうだ。

 実際、その辺の商店主に聞いてみると、物は間違いなく値段も相応なものだと言われた。


「胡散臭えかも知れないが、実際アンタみたいな人がいると俺たちは色々と助かるんだ。出来るだけこの街にいてくれて、また何か発見してくれると俺たちの儲けに繋がる。既に儲けたからな。その礼だと思ってくれ。そう言う理由だからまけるのはアンタだけだ」


 裕二の使ったものは流行る。物として間違いない。そう言った宣伝効果でもあるのだろうか。

 本人はピンと来ないようだが、バンとセーラはなるほどと頷いていた。


「じゃあ、金貨二枚くらいならプレゼントしますよ」


 裕二はセーラにそう言いながら男に金を支払った。


「ユージ様、良いのですか?」

「毎度あり! また頼むぜ」


 金貨二枚とは言っても結構な額ではあるのでセーラは遠慮気味だが、男は金を受け取るとさっさといなくなってしまった。


 裕二は二つの指輪をセーラに渡そうとする。バンとセーラが装備すれば良いと思ったのだが。


「これはユージ殿が購入された物ですので、片割れは私ではなくユージ殿が持つべきかと」

「え、しかし」

「それにユージ殿がセーラ様の安否を把握してくれるなら、私も安心できます」


 と言う感じで押し切られ、結局は裕二とセーラがレッドリンクの指輪を持つ事になった。

 その間、セーラは終始顔を真っ赤にしてうつむきっぱなしだった。


 ――ユージ様と繋がる指輪……


 その後も少し買い物をしてから、裕二とセーラ達は別れた。


「良い物をいただきましたな、セーラ様」

「はい!」



 裕二はそのまま部屋には帰らず、訓練のため街の外に出た。今日は時間もたっぷりあるので、人のいない場所を探して新たな魔法の練習をするつもりだ。


「メテオストリームか」


 セバスチャンのノートに以前から書き記されてあった魔法、メテオストリーム。

 かなり多くの魔力を消費するので通常は複数名で行われる魔法だが、セバスチャンは裕二なら問題ないだろうと考え、チェスカーバレンでそれを書き残しておいた。


「こちらの資料室で調べましたが、ベヒーモスなら一撃で倒せるほど強力な魔法です」


 裕二ならそれを使わなくても、ベヒーモスを一撃で倒せる。だが、この魔法の利点は遠距離から複数同時に倒せる事にある。


「魔法は土魔法ベースなので地面に使います。石のようにガチガチに固められた土を一気に高温で熱し炎を纏う。それを超スピードで相手に放つ。魔法をかける地面の範囲が広ければ、その分複数のメテオストリームが使えます」


 真っ赤に熱せられた鉄のたまを大砲で撃たれるようなものだ。

 当たった場合に爆発も追加出来るのでかなり強力な魔法となる。


「んじゃ、やるか」

「裕二ガンバレー!」

「ミャアアア!」



「これで良いのかい」


 先程、裕二にレッドリンクの指輪を売った男はひとけのない路地に入り、フードを目深にかぶった別の男と話しをしている。


「その儲けはお前にやろう」

「全部もらっちまっていいのか?」

「ああ、その代わり、この事は絶対話すな」

「そりゃ構わねえけど……」


 男はフードの男に訝しい目を向ける。

 男から品物を預かり、言われた通り裕二にそれを売った。

 品物は本物だったが、それを考えると儲けは多くない。しかもその儲けを全て自分にくれると言う。

 何かあると勘ぐるのが普通だろう。


「俺は以前、アイツに色々世話になってな。陰ながら応援してるんだよ。だが、あれをタダでやっちまったらアイツは受け取らない。だからお前に頼んだ。俺が金を取る訳にもいかないだろ?」

「なるほどな。昔の恩人って訳か。そりゃ黙っとくしかねえな。俺は儲けさせてもらったし異論はねえよ」


 もし、自分のした事で裕二に何かあったら、この男としては気分が悪いが、そう言う理由なら納得出来る。

 なかなか義理堅い奴もいたもんだ、と思いながら男はそこから立ち去った。


「ふん。タルソットでは色々世話になったからな」


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