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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
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113 セーラの部屋


「今の男はシャクソンの少数分隊。ダルケンと言います。以前から素行の悪い男で我らも警戒はしていたのですが……」


 バンの説明によると他の者は同じ隊の仲間で、ズール、ゴドン、モッグと言うらしい。それなりの能力の持ち主なのか少数分隊として活動している。その中心人物がダルケン。裕二に蹴り飛ばされた男だ。


「死亡率の高いシャクソン隊でも、何故かゼッカーのような実力もある真面目な男は早く死に、ああ言った輩は生き残るから不思議ですな」


 とりあえず今回は何とかなった。だが、彼らがこのまま引き下がる、とは考えない方が良いだろう。

 一応、今回のような事はしないと約束はさせた。そして、部隊同士の争いも基本的には出来ない。

 報復の手段はあまりなさそうではあるが、無警戒と言う訳にもいかない。

 特に裕二は彼らに直接攻撃し、最後に挑発的な言葉を吐いている。普通に考えれば、彼らは裕二を憎んでいるはずだ。


「ユージ殿。もしかしたらシャクソン隊からアンドラークに抗議があるかもしれません。後で私がオーメル将軍に事情を説明しておきます。一切の責任は私が取りますのでご安心を」


 ダルケン達の親分であるシャクソン・マクアルパイン。そちらが動くと面倒な事になりそうな予感もする。

 権威には権威。そちらは裕二よりも、聖堂騎士団団長であるバンやオーメル将軍に任せた方が良い。

 それに裕二の行動には、巫女を守ると言う大義名分がある。ただのケンカではないのだ。たとえ抗議がきても、それ程大事にはならないだろう。


「とりあえず帰りましょう。明日は休みなのでユージ殿、バチル殿、ビスター殿もゆっくりとお休み下さい」



 三国の会議場や冒険者ギルドの屋根がかろうじて見える、一本向こうの通り。そこには白く塗られた壁にオレンジ色の屋根。周りからは少し際立つ印象の建物がある。

 そこがクリシュナード正教会、シェルラック支部だ。その教会に併設された建物が聖堂騎士団と巫女の宿舎になっている。

 教会内部には冒険者、兵士問わず、クリシュナードの信者や、死んだ仲間に弔いの祈りを捧げる者がいる。

 彼らは巫女であるセーラの姿を見つけると、両手を組み深々と頭を下げる。

 聖堂騎士団とセーラは凛々しさを崩すことなくその間を通り抜け、クリシュナードへ祈りを捧げてから、それぞれの部屋へ帰っていった。


「ふう……」


 普段は巫女としての振る舞いを要求されるセーラ。しかし、プライベートな空間になれば途端に気も抜けベッドに転がり込む。


「クルートート卿はユージ様の態度を自分の役目と言っていた……それって、私が憎まれないように怒りを自分に向けてくれたって事よね」


 セーラは額に手を乗せ大きく息を吐いた。怖い思いもしたが、二人のやり取りを見て、そこに気づいたようだ。


「うふふ」


 裕二は何も言わなかったが、後々の事まで考え自分を守ろうとしてくれた。しかも裕二は聖堂騎士団ではないので、そんな義務はないのにだ。その意味を理解したなら嬉しくない訳がない。


「ユージ様は何者なのかしら。チェスカーバレン学院にいたなら貴族の可能性は高い……聞いてみたいけど、うぅ」


 その点については、先日バンからあまり詮索しないように言われている。しかし、詮索するなと言われると余計に知りたくなるのも人情。


「うー!」


 セーラは枕に顔をうずめて足をジタバタさせている。


「はっ! そうだ」


 ベッドから飛び起きクローゼットへ向かうセーラ。


「明日もユージ様に会うのだから、もう少しキレイな――」


 そう言いながらクローゼットの扉を開け、端から端まで目を往復させる。

 が、そこに並んでいるのは質素な旅装束と、こちらも質素な巫女の正装である紺の服。その着替えのみ。


「うっ……かわいい服がない」


 巫女の着る衣装は質素なものが好ましいが、公式の場でなければ厳しい規定がある訳ではない。しかし、ここシェルラックでは女性の着るようなかわいい服など売っていない。セーラのクローゼットは教会から支給された物しかない。

 そもそもシェルラックにいる女性は、商人の家族か裏通りの娼婦くらいだ。商人の家族は主人に頼めば良い。娼婦達は商人に一括して衣類を注文し、その受け渡しは娼館などで行われる。

 娼館に行ってはいけないと言う事はないが、セーラにとってはヴィシェルヘイムよりも敷居の高い場所だ。


 そこまで気づいたセーラは顔が引きつる。そして、部屋を飛びだして行った。


「クルートート卿!」


 バンの部屋まで走りドアを叩くセーラ。焦っているのかノックの音もせわしなく感じる。

 そこから現れるバン。まだ鎧を装備したままだ。


「何事ですか、騒々しいですぞ」

「も、申し訳ありません。次のお休みはいつかと思いまして……」

「先程、明日はお休みと全員に言いましたが」

「あ……」


 確かに言っていた。セーラはそれを思い出し顔を赤くさせる。


「何か御用でも?」

「いえ、あの……最近、森も物騒になってきたので……アクセサリー系の魔法道具を購入出来ないかと思いまして……」


 セーラが森に入る時は基本軽装だ。

 重たい装備では戦闘員でない巫女には身体への負担も大きい。それに聖堂騎士団が守るので重装備の必要はない。仮に重装備にしても、聖堂騎士団を突破するような敵がいたとしたら、どれほど意味があるのか。

 その場合は逃げる事も考慮して軽装になっている。


 しかし、アクセサリー系の魔法道具なら装備しても負担にはならない。

 先日のように、メタルスコーピオン、ベヒーモス、ホワイトデビルが同時に現れたら。もしくはそれ以上のモンスターが現れたら。それに備えておく必要はある。


「なるほど……確かにそうですな」

「なので、次のお休みに商店を見て回りたいのですが……」

「わかりました。そう言う事なら私がお供致しましょう」

「ええ、お願いします!」


 セーラは嬉しそうに返事をする。だが、そのお買い物の真の狙いは、アクセサリーなら女性らしいものもあるのではないか。すなわち、もうちょっとオシャレにしたい、と言う事だ。


「女性らしいものがあると良いですな」

「うっ……」


 ――見抜かれてる?



「それで……誇り高きシャクソン隊の貴様らはおめおめと引き下ったのか」

「は、はい……すいやせん」


 シェルラックに戻ったダルケン達。

 裕二と聖堂騎士団の件をシャクソンに報告している。多少は咎められるだろうが、もしかしたらシャクソンが何とかしてくれるなではないか、と言う期待あっての事だ。


「まあ良い。ところでユージは強かったか? 見栄を張らずに答えろ」


 本来なら強がりたいところだが、先に見栄を張るなと釘を刺されてしまったダルケン。自分達より裕二の方が強いのはお見通しなのだろう。

 この場合、見栄を張るとシャクソンから殴られると、ダルケンは知っている。


「もらったのは一撃だけですが……あの動きは警戒してても避けるのは難しいっすね」

「そうか……まあ、貴様らなら四人でバン・クルートート程度だったら何とか戦えるだろ。ユージはそれより遥かに強いはずだ。あの獣人もな」


 シャクソンはどこから知ったのか、裕二とバチルの戦力は既に把握しているようだ。


「で、いざこざの原因は何だ」

「そ、それは……」

「大方、お前らが巫女に手を出したとかそんな事だろ」

「はい……」


 さすがにその事は怒られると思ったのか、ダルケンは黙っていた。しかし、シャクソンは特に気分を害するでもなく、淡々としている。普通の隊ならあり得ない話しだ。


「お前ら巫女をものにしたいのか?」

「それは……」

「正直に言え」

「そりゃまあ……そうっすね」


 それを聞いたシャクソンは、少し考えてから再び口を開く。


「わかった。少し準備に時間はかかるが、お前らに任務を与える。報酬は巫女だ」

「ほ、本当っすか!」

「やるか?」

「もちろんです!」


 どのような任務なのかはまだ聞かされていない。だが、ダルケン達は快諾した。通常ではあり得ない報酬を前に、断る理由はない。もし、何かあってもマクアルパイン家が背後にいると言っても良い状況だ。自分達に咎は及ばないとも考えられる。


 ――使い潰すにはちょうど良いゴミどもだ。


「では、追って任務を伝える。下がれ」


 そして、ダルケン達はシャクソンの部屋から出て行った。彼らは歩きながら今の内容について話す。


「ダルケン。どんな任務なんだ?」

「さあな。だがユージもタダでは済まねえぜ」

「何でわかる」

「ゼッカーが何で死んだか知ってるか。アイツは隊長に配置の事でゴチャゴチャ文句を言っていた。その結果があれだ」


 ダルケンによると、ゼッカーは強力なモンスターの出やすい地域に、不釣り合いな部隊の配置を是正するよう何度も抗議した。その結果、隊の人数を減らされてゼッカー自身がそのような場所に送られた。

 実際は噂話し程度の内容だが、ダルケンは単なる噂ではないと確信しているようだ。


「あの人に逆らうとそうなるってこった。ユージはシャクソン隊に手を出した。そうなるのが必然ってやつだ」

「そうなのか?」

「つーかよ。報酬を聞いたら普通の事はやらねえってわかるだろ」

「報酬……確かにそうだな」


 シャクソンの考える任務とは、どのような内容なのだろうか。巫女が報酬となると、セーラが危険なのは間違いない。それをする目的も気になる。


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