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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
110/219

110 オーメル将軍との話し合い


 突如、誘導瘴気に導かれて現れたメタルスコーピオン、ベヒーモス、ホワイトデビル。それらは裕二とバチルの活躍により倒された。

 そして、戦闘終了後。裕二とバチルはそこから少し離れた一本の木がある場所に違和感を感じ、そこへ攻撃を放った。

 裕二、バチル、バンの三人は急いでその場に駆けつけると、攻撃によりえぐられた木には緑色の液体が残されていた。


「ユージ殿。これはいったい何なのだ? 何故お二人はここへ攻撃を仕掛けた」


 シェルラックで剣士として、そして、誉れ高き聖堂騎士団の団長として有名なバン・クルートート。

 今までに数々の強敵を葬り去ってきた彼でさえ、今回の戦闘には理解不能な部分が多かった。

 知りたい事はたくさんある。その最たるものが、この緑色の液体。強烈に嫌な予感しかしない。


「何だったんでしょうね。間違いないのは、ここに何かいた。それは隠れてこちらの様子を窺っていた」


 裕二とバチルが注目した何の変哲もない一本の木。そこに何らかの方法で身を隠し、裕二達が戦う様子を見ていた。

 しかし、裕二とバチルは方法は違うが、辺りの気配をかなり正確に感じ取れる。その精度はバンを大きく上回るのだろう。そこにいた者は裕二とバチルの目をごまかす事は出来なかった。その結果、二人から同時に攻撃を受けた。

 そして、攻撃を受けた者は緑色の液体をその場に残し、いなくなった。

 普通に考えれば、攻撃によりダメージを受け逃走した。その際に傷を負い、そこから体液が流れてしまった。それが緑色の液体。そう考えるのが妥当だ。


「まあ、誘導瘴気はそいつが動かしていたのかもしれません」

「うむ……自分の仕掛けた攻撃を隠れて見ていた訳か。となると……緑色の体液を残すなら人間ではなかろう。あのように姿を隠すモンスターなど聞いた事もないのでそれも違う。やはり……」

「魔人の可能性は高いですね」


 裕二は誘導瘴気を視認し、そこに何らかの意思を感じた。そして、それを操っていた者は、意外と近くにいたのかも知れない。まだわからない部分もあるが、情報としては大きな収穫を得た事になる。


「ところでバチル」

「なんニャ」

「お前どうやってメタルスコーピオンを倒し……ああ、そうか。その手があったか!」


 裕二は倒されたメタルスコーピオンの泥で汚れた顔を見ながら、何かに気づいたようだ。


「ど、どう言う事だユージ殿。バチル殿は何故、こうもあっさりメタルスコーピオンを倒せた」

「簡単ですよ。ここを見てください」


 裕二はメタルスコーピオンの口。その少し上を指差す。よく見ると、そこには小さな穴が開いており、中には泥が詰まっていた。


「おそらく、これは鼻でしょうね」

「鼻だと?」

「バチルはメタルスコーピオンの鼻に泥を詰めて、呼吸出来なくさせたんですよ。鼻で呼吸できなければ口でするしかない。その結果、あっさり口を開いた。だろ? バチル」

「その通りニャアアア!」


 おそらく、その頑強な外骨格を見るに、皮膚呼吸が得意な生物にも見えない。呼吸器官は鼻と口しかなかったのだろう。その一方の鼻が塞がれたら口を使うしかない。

 バチルはそんな細かい事はいちいち考えなかっただろうが、優れた視力と野性の勘で即座にそれを見抜いた。


「コイツの弱点は鼻クソをほじれない事ニャ!」


 どんな方法でも良いので鼻を塞ぐ。それが出来ればメタルスコーピオンは一気に雑魚に成り下がる。


「素晴らしい。この方法ならほとんどの部隊が使える」


 バンは少し興奮気味だ。かつて自身もメタルスコーピオンによって部下を殺された経験もある。その時にこの方法を知っていれば、などと欲張りな事を言うつもりはない。だが、今までは殺されていた仲間も、今度からはそうならない。その方法を知るのはバンにとっては大きな収穫であり、喜ばしい事でもある。


「シェルラック全体の対メタルスコーピオンの勝率は一気に変わるぞ!」

「うふふ、クルートート卿がそんなに興奮するなんて、珍しいですね」


 いつの間にかそばに来ていたセーラ。

 普段は見せないバンの表情に驚きながらも少し嬉しそうだ。戦闘に関しては良くわからないセーラでも、このバンの様子を見れば裕二とバチルが凄い事をしたのはわかる。そして、この戦闘が今までと規模が違う事もだ。


「ですが、騎士団の皆様もお疲れになったでしょうし、考えなければならない事も増えました。本日は予定を切り上げて帰還しようと思うのですが」

「そ、そうですな。セーラ様がそう仰られるのなら、そう致しましょう」



 まだ陽の高いうちにシェルラックへ戻った一行。

 バンとしては今回の戦闘で新たに増えた謎について裕二と話し合いたいと思い、セーラの早く帰る提案に賛成した。

 その裕二達と聖堂騎士団は街の門をくぐると一旦別れる。


「ではユージ殿。後ほど」


 バンにとっては様々な事が起きた今回の戦闘。

 裕二とバチルの戦闘に目がいってしまったが、他にも考えなければならない点はある。


 ――やはり……セーラ様が狙われたのか。


 裕二の言うように何者かが戦闘を見ていたなら、その者は誘導瘴気を使いモンスターを操っていた。そして、バン達が背後から来たホワイトデビルに対応出来なければ、セーラは攫われていた可能性がある。

 そう考えてしまうと一気に不安になる。

 裕二とバチルがいたから何とかなったが、もし聖堂騎士団だけなら、あれを防ぐ事が出来ただろうか。

 バンはふと、横を歩くセーラに視線を移す。

 しかし、セーラはあまりその不安を感じているようには見えない。むしろいつもより楽しげな表情を浮かべている。


「何だか楽しそうですな、セーラ様」

「そ、そんな事はありません!」

「?」


 何故か慌てて否定するセーラ。

 あれほどの戦闘の後なのだから不安や疲労の色を見せていても良いはずだ。


 ――上機嫌なのは良いが、これからまたユージ殿と会って、セーラ様の狙われた可能性を話すとなると……私がひとりで行くべきか。


 今まではあまり具体的でなかったセーラが攫われる可能性。それをセーラの前で話せば、今の機嫌の良さも損なわれるだろう。バンとしては、あまりセーラに不安を抱かせたくはない。


「セーラ様はお疲れでしょう。この後の話し合いは、私がひとりで行こうと思うのですが」

「え!? な、何でですか。私も行きます!」

「し、しかし……」

「大丈夫です。私は何を聞いても心を揺さぶられる事はありません。私が攫われる可能性は元より承知です」

「…………」


 先程の攻撃によるセーラ誘拐の可能性。

 セーラ自身もそれを感じていたのだろうか。にしては、あまり不安感はなさそうだ。


「それよりもクルートート卿」

「なんでしょうか」


 セーラは先程までの表情と違い、少し俯きながら話し出す。


「聖堂騎士団とクルートート卿がいて下さるなら、きっと私をお守りいただけると信じています。そこに不足を感じている訳ではないのですが……その……ユージ様たちは、今後も私達と行動をともにしていただく事は可能でしょうか」


 とりあえず一緒に行動している裕二達三人と聖堂騎士団。だが、それはあくまでもとりあえずの処置であり、非公式なものだ。今後、この組み合わせがどうなるのかはわからない。


「ふむ……」


 アンドラークに所属する裕二達と教会所属の聖堂騎士団。本来は目的も違うので別々に行動するのが普通だ。


 ――確かに、ユージ殿とバチル殿が一緒にいてくれれば心強くはあるが……


「では、オーメル将軍に全てを話し、ユージ殿の隊を正式に貸していただけるよう頼んでみては如何でしょう」



 そして急遽、裕二、バン、セーラ、オーメル将軍を交えた話し合いが行われる事になった。

 バンはまず、裕二に事情を話し、ビスターに取り次いでもらいオーメル将軍の部屋へと集まる。


「オーメル将軍閣下。突然の事で申し訳ありません」

「いやいや。クルートート卿の頼みでは無碍に断るなど出来ませんからな。我が戦友達もどれだけ弔ってもらった事か。お気になされるな」


 バンとオーメル将軍は笑顔で握手を交わしてから席につく。

 直接的な政治的権力のほとんどないクリシュナード正教会。しかし、各国に跨がるその影響力は大きく、それなりの戦力も保有している。

 アンドラークとしても友好関係を保っていきたい勢力だ。


「で、お話しとは? ユージ殿と関係あるようですが」


 オーメル将軍はチラリと裕二を見ながらそう言った。


「じつは……」


 バンは今までの経緯をオーメル将軍に説明した。

 誘導瘴気の事。セーラと裕二はそれを視認出来る事。しかし、それによりセーラが狙われる可能性が高い事。それに必要な戦力と誘導瘴気の調査の為に、裕二の隊を借り受けたい事。

 裕二とバチルが見えない敵に攻撃をした説明で、オーメル将軍はかなり驚いていたが、概ねその内容を理解したようだ。


「なるほど。誘導瘴気……そんなものが本当にあるなら調査は必要ですな。しかもそれを視認出来る人間でないとならない」


 オーメル将軍はゆっくり考えてから結論を出す。

 瘴気が何らかの意志で動き、ヴィシェルヘイムを彷徨いながらモンスターを誘導しているのが本当なら、それを放置する事は出来ない。しかも、セーラの身も守らなければならないので、この情報は公にする事も難しい。そこに魔人が関わっているなら尚更だ。魔人に関する情報を公開するとなると、現場だけで判断する事ではなく、本国と相談しなければならない。

 まずは、その為の調査をしなければならないが、そこに関われるのは今のところ秘密を共有し、瘴気を視認出来る裕二しかいない。となれば、将軍も了承せざるを得ない。


「わかりました。とりあえず表向きは聖堂騎士団の戦力補強の為に、こちらの隊を貸し出す。そして、秘密裏に誘導瘴気の調査、その目的を探ってもらう。そう言う事にしましょう」


 バンとセーラは顔をほころばせる。

 将軍の許可があるなら、今後も問題なく聖堂騎士団と裕二達は行動をともに出来る。

 しかし、将軍の話しはまだ続く。


「ですがもし、三国の会議などでユージ殿の力が必要になった場合。その時は一時的にコチラへ戻す事もあります。そこはご了承下さい」


 ペルメニア、アンドラーク、サレムの三国による会議。

 シェルラックで大きな問題が持ち上がった場合に開かれる会議だ。その為の会議場もあり、そこには三国以外の小規模な組織も招かれる。

 通常は大規模な討伐や調査。その合同部隊の結成が話し合われる。

 アンドラークとしては、そう言った場合、裕二やバチルの戦力が必要になるだろう。その時は、聖堂騎士団との合同部隊に裕二達は参加出来ない、と言う事になる。


「わかりました。ユージ殿はそれで構わないですかな」

「ええ、問題ありません」


 と言う事で話し合いはまとまり、全員が席を立つ。

 しかしその時、オーメル将軍が裕二を呼び止めた。


「ちょっとお待ち下さいユージ殿」


 そう言いながら将軍は自分の机の引き出しから一通の手紙を取り出す。


「殿下からお手紙がきております。後でお読み下さい」

「殿下……マサラート王子ですか?」


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