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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
11/219

11 魔法実技


 裕二はチェスカーバレン学院編入初日。同じグラスコード家であるシェリルからドブネズミ扱いされてしまった。

 こちらが彼女に何もしていないにも関わらず、いきなり敵対的な態度をとられた原因は何だろう。

 裕二が孤児だと言うことが原因だろうか。貴族であるグラスコード家にどこの馬の骨ともわからない、下賤な孤児が。という事だろうか。


 ――何だ、あのおんなー!

 ――ミャアアアア!

 ――まあ、落ち着け。

 ――裕二様。あの者に攻撃の許可を!


 アリーとチビドラだけでなく、セバスチャンまで怒っているようだ。

 とは言っても、裕二は十四歳だ。ひとつ年下の女の子に腹をたてるのも、どうかと思う。それに、世話になってるグラスコード侯爵の娘である以上、殴り飛ばすという訳にもいかない。

 とりあえずは無視しておくしかないだろう。


 そうこうしているうちに、クラスの者達が移動を始めた。雰囲気からすると別の場所での授業という事か。裕二にそれを教えてくれる者はいない。


 ――とりあえず付いて行くか。


 到着したのは学院内にある森の演習場だ。ディクトレイ先生もそこにいた。


「ユージ。君は初めてなのでしばらく見学すると良い。後で君の魔法を見せてもらうのでそのつもりでいてくれ」


 という事は魔法実技という事か。周りを見るとほとんどの生徒が杖を取り出している。短杖が多いが、中にはいかにも魔法使いという感じの長い杖を持つ者もいる。


「では始めなさい」


 ディクトレイ先生に号令で生徒達が、順番に魔法を的に放つ。

 片手に杖を持ち、両手をあげ、何やら呪文を唱える。すると杖の先から拳ほどの小さな火球が放たれた。的に多少焦げ目がつく程度だ。


 ――あんなので良いのか?


 森で戦ってた裕二からすると、あの程度では戦闘など出来ないレベルになる。しかしそれは、裕二が普通に火を放てばかなり目立ってしまう事を意味する。


 ――チビドラ。あれくらいのファイアボールにするぞ。

 ――ミャアアアア。


 魔法の練習を眺めているとシェリルの番になった。他の生徒と同じように杖を構え詠唱を始める。すると他の生徒より明らかに高速、高威力のファイアボールが飛び、的にじんわりと穴を開けた。


「凄い! さすがシェリル様」

「グラスコード家の血は伊達じゃないわね」


 周りから称賛の声が漏れる。そしてシェリルは得意気な顔で笑顔を振り撒く。


「私なんてエリネア様に比べたらまだまだよ」


 裕二はそんな様子を遠巻きに眺める。

 そのシェリルの後ろには少し異彩を放つ女生徒がいた。

 嫌な女ではあるが、シェリルはかなりの美少女だ。しかしその後ろには更に数段上の美少女が控えている。

 遠くから見ても神々しささえ感じるその美少女に、周りから声が掛かる。


「エリネア様の番よ」


 そのエリネアと呼ばれた女生徒は杖を構えた次の瞬間、サッカーボール並のファイアボールを放つ。

 構えてからの魔法を放つ速さ、そして速度と威力はシェリルを軽く凌駕していた。そして魔法が着弾した瞬間、的はその圧力により燃えながら吹き飛ばされる。


「さすがエリネア様ね!」

「私達では殿下に到底及びませんわ」


 ――殿下って? 王女様なのか?


「学院内でその呼び方は禁止されてるはずですよ」

「も、申し訳ありませんエリネア様」


 白に近いふわりとした金髪の少女。透き通るような肌に青い目が美しく輝く。他の生徒と同じ制服のはずなのに何故か彼女の物は上質な服に見えてしまう。いかにも高貴な血脈という感じだ。

 後で知る事だが、裕二の推測通り、このエリネアという少女は十三歳のペルメニア皇国第一王女、エリネア・トラヴィスなのだ。


 しかし良く見ると、その周りの生徒はエリネアという少女に気に入られたい雰囲気を、がっつり醸し出している。裕二としては近づきたくない雰囲気だ。

 それに魔法の腕もクラスでは上位なのだろうが、チビドラのファイアブレスには全く及ばないレベルでもある。


 全員の順番が終わったようで、また先頭から魔法の練習になる。

 だがそれを見た裕二は少し焦り始めた。


 ――水魔法だとぉ!?


 生徒がやりはじめたのは水属性魔法だ。

 これも先程と同じように戦闘では全く使えないレベルではあるが、ほとんどの生徒が水魔法を使えている。中には水がバシャッと落ちて終わりとか、お粗末なのもあるが、水魔法の全く使えない裕二よりはましだ。


 シェリルとエリネアも水魔法は火魔法より得意ではないようだが、それでもクラス上位になるだろう。それなりの魔法を放っていた。


 ――まずいぞセバスチャン。どうするか?

 ――困りましたね。では火魔法の威力を上げておけば、他の魔法が使えない事も相殺されるのでは?

 ――仕方ない。それでいくか。


 その後、授業は風魔法まで進み、そこで終了した。土属性魔法はやらないようだ。難易度の問題だろうか?


「では、最後にユージ。君の魔法を見せてくれ」


 順番を外れて一番最後に先生に言われて魔法を使う。当然全員見てるし最も目立ってしまう。かなり居心地が悪い。

 裕二の元いた世界でも、教師というのはこの辺の配慮という事を全く考えない場合が多い。そのうち『二人一組になれ』とか言う授業もありそうだ。


 ――そうなるとボッチ確定なんだが。


 裕二の為に新たな的が用意される。これも配慮なのかも知れないが、裕二としてはやめてほしい。


 ――仕方ない。少し強めにやるしかないな。


「では始め!」


 ディクトレイ先生の号令と同時に、裕二がチビドラのファイアブレスを放つ。

 ファイアブレスとは言っても、今回は他の生徒に合わせて火球状にしたファイアボールだ。


 裕二が軽く腕を振ると、直径二メートルほどのファイアボールが超高速で飛ぶ。その威力は、一瞬で的を焼き払い、地面を焦がす。それでも威力はかなり落としているが、他の生徒に比べると桁違いだ。


「な、なにあれ……」

「完全無詠唱だったぞ」

「それよりも杖さえ……」


 あたりが静まりかえる。裕二にとって、これが良かったのか悪かったのか、判断はつかない。


「す、凄いなユージ。火属性に関しては上位魔術師クラスだ」


 呆気にとられたディクトレイ先生が、やっと口を開く。


「はい、ありがとうございます」

「他の魔法も見せてもらって良いかな」


 やはりそうくるか。しかし出来ないものは出来ないので正直に言うしかない。


「すいません。他の魔法は使えなくて……」

「そうなのか? あれほどの火魔法が使えるのにか?」

「はい」

「まあ、出来ないものは仕方ない。今後、覚えていくと良いだろう。ではこれで授業を終わる」


 ――あれで良かったのかセバスチャン?

 ――おそらく。他の魔法は今後覚えれば問題ないでしょう。


 授業も終わり、全員ぞろぞろと移動を始めた。

 しかしその時――


「ちょっとあなた」


 いきなり声をかけられ振りかえると、そこには先程の美少女、エリネアが腕を組んでこちらを睨み付けている。


「なんですか?」

「無詠唱であの威力は大したものね。でも他の魔法が出来ないなんて、話しにならないわ」

「……はい」

「チェスカーバレン学院のトップクラスにいる以上、その品格を落としてもらっては困るわね」

「はあ」


 こいつもかよ。と裕二が思った直後。再び嫌なやつがしゃしゃり出てきた。

 裕二を睨み付けながらシェリルが口を開く。


「何なのその態度! せっかくエリネア様に話しかけて頂いたのに。やはり名を変えても下賤な身分は変えられないという事ね。エリネア様、参りましょう」


 シェリルは一方的にまくし立てると、仲間を引き連れ去っていく。その際、どうやら他の仲間もシェリルに影響されたのか、裕二をひと睨みしていった。


 ――あのおんなー!

 ――ミャアアアア!

 ――裕二様、攻撃の許可を!

 ――まあ、まて。落ち着け。


 さすがにセバスチャンやチビドラを怒らせて攻撃させるのはまずい。戦闘特化型タルパではないが、その力は強いのだ。本気で攻撃されたら大怪我では済まないだろう。


 ――馬鹿の戯言だ。ほっとけ。

 ――うう、むかつくー!


 タルパ達の怒りはわからないでもないが、今はそれよりも火属性以外の魔法を覚える事が先決だ。


 その日の授業も終わり、無事、と言えるのか微妙だが、寮に帰宅する。


「まずは水魔法だな」


 アドバイスを求める為にセバスチャンを実体化させる。アリーとチビドラはいつも通り霊体化の状態でプカプカ浮いている。


「裕二様、まずは今日習った術式詠唱を正しく覚える事から始めましょう」


 とは言っても、裕二は術式を使う魔法を使った事がない。超能力的に何とかならないかと考えていた。


「まずは先にそれをやらしてくれ」

「わかりました」


 水魔法なので床が濡れないように、以前山で作った石の皿を置く。その上に手を出し、水をイメージしてみた。

 両手をつけ、水をすくうような形にし、その中に水が作られるイメージだ。


 しかし……


「出来ないな。何か間違ってるのか?」

「足りない要素があるのかも知れません。やはり術式を覚えてみましょう」

「そうだな」


 裕二は術式を丸暗記して、それを唱える。だがうまくいかない。


「少しちぐはぐな感じがしますね。裕二様ならそれなりの魔力はあるはずですが、噛み合ってないというか……」

「なるほどな、俺もそんな感じするし。水を作るイメージが邪魔だな」

「なら術式のみに集中してみましょう」


 ――術式のみに集中か。術式をコピペする感じのがやりやすそうだ。


 裕二は体内から溢れ出る魔力に術式をコピペするイメージでやってみる。いや、イメージではない。裕二の中では本当にコピペをしているのだ。ノートに書かれた術式を取り出し、それをそのまま魔力に貼り付ける。すると……


「のわ! 出来た」


 裕二の手から水が溢れ出し、床の皿にこぼれ落ちる。


「つーか詠唱いらないじゃん」

「そのようですね」


 それを見ていたアリーとチビドラが大喜びで水の中に飛び込んだ。


「裕二すごいー!」

「ミャアアア!」

「何やってんだオマエら」

「プール!」

「ミャアアア!」


 水自体をイメージしても練習すれば出来そうな気はするが、このやり方のが手っ取り早いのかもしれない。


「おそらくこのやり方だと手っ取り早い分、術式による制限もあるでしょう」

「あーなるほど。規則正しくやれば出来るが書かれた事しか出来ないってわけだな」

「はい、ですが授業で使うには充分でしょう。本格的に使うなら、もう少し術式を変え超能力的なアバウトさもほしいですね。そうなると術式はシンプルな方が向いてるかも知れません」

「そうだな。その辺はオイオイやっていこう。とりあえず授業で赤っ恥かかない程度にはなりたい」

 

 この日は初歩的な水魔法と風魔法を練習し、何とか形にはなってきた。とりあえず、他の生徒よりはマシにはなっただろう。





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