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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
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107 儀式と精霊


 翌日、裕二はビスターの了解を得て聖堂騎士団と行動をともにする事になった。

 彼らとはシェルラックの門付近で待ち合わせる事になっていたが、裕二達がそこに着いた頃には、既に聖堂騎士団は綺麗に整列し、準備万端で裕二達を待っていた。

 三十人程で構成された聖堂騎士団。全員が同じ鎧を装着し、その胸には教会の紋章のようなものが描かれている。そのうちの何人かは組み立て式祭壇の部品だろう、それらしき荷物を抱えている。


「本日はよろしくお願いします、ユージ様」


 セーラが頭を下げると背後の騎士団もザッと音をたて一斉に裕二へ敬礼する。規律正しく統制されているようだ。


「よ、よろしくお願いします」

「ニャッハッハッハ! このバチル様が全てのモンスターを倒してやるニャ。安心して申請するニャ」

「申請?」

「あ、いや。バチルの最近のお気に入りワードなんで気にしないで下さい」

「はあ……」


 と、顔合わせも済ませ出発する。

 一行は森に切り開かれた道を進み奥へと入って行く。

 ヴィシェルヘイムにはこの様な切り開かれた太い道が何本か存在し、そこから細い道へと枝分かれしている。だが、それは森全体からするとほんの僅か。未だ人の踏み込めていない場所も多い。

 シェルラックはヴィシェルヘイムのモンスターと常に戦っているが、それでも、森から溢れ出しそうなモンスターを水際で食い止めている程度に過ぎない。

 森の先にある谷がひとつの境界のように考えられているが、そこまででも多くを把握しているとは言い難い状況だ。

 行動範囲を拡大しようにも強力なモンスターが多い為、なかなかそうはならない。その原因の一端は魔人の召喚したモンスターだ。元から棲みついていたモンスターだけなら、こうはならなかっただろう。

 ヴィシェルヘイムは五百年前に起きた魔人戦争の負の遺産とも言えるのだ。

 そんな場所でセーラは誘導瘴気を見た。これは魔人と関係するものなのか。それとも魔人とは関係ない現象なのか。今はわからない。

 まずそれを知る第一歩は、裕二自身が誘導瘴気を確認するところから始めなければならないだろう。


「そう言えばユージ殿。昨晩あたりから魔食いの指輪の値段が五倍から十倍くらいまで跳ね上がっているそうだぞ」

「えっ! それって……」

「間違いなくユージ殿がバスカートを助けた影響であろう」

「ですよね……」


 おそらく、裕二がバスカートを助けた方法を話した魔術師たちが、一斉にシェルラックにある魔食いの指輪を求めた。

 今までは本当に魔人の瘴気に効くのかわからない、しかも壊れやすいと定評のある指輪をわざわざ買い求める者は少なく、今回の件まで大した価値はなかった。

 だが、裕二がその一部の術式を使い、瘴気に影響を与えられる事を証明してしまった。そうなると魔術師以外の者も、もしかしたら魔人が現れた場合も効くのではないか、と考える者も増えた。それが魔食いの指輪の価値を大きく押し上げたのだ。


「おそらく今後、多くの魔食いの指輪がシェルラックに集まるであろうな。それとともにユージ殿が深淵なる知識を持つ強力な魔術師である、と言う噂も広まるであろう。気をつけなされよ」


 誘導瘴気が強者を狙っているなら、同じく強者と言う噂の広まりつつある裕二にも、その矛先は向くかも知れない。いつまでも新参者と安心してはいられない。


「うう、マジか」

「しかし、良い影響もある……かも知れん」

「良い影響?」


 もし、誘導瘴気が魔人の操るものなら、その魔人は近くにいる事にもなる。しかし、シェルラックが魔食いの指輪だらけになれば、魔人は少なくとも街中で隠れて活動する事は難しくなる。

 魔人がそのような活動をしているのかは不明だし、指輪がどの程度魔人に有効かも不明なのでちょっとした希望的観測ではあるが、指輪が増えて困る事はないはずだ。


「なるほど……」


 しかし、裕二は知っている。少なくとも、メイザー坑道跡にいた魔人には、指輪が有効だった。

 今後、何らかの方法を使い、街に入り込んだ魔人の正体が暴かれる。などと言う事件もあるかも知れない。


「ところで……ユージ様とバチル様はどのような関係なのですか?」


 セーラが裕二に訊ねる。しかし、裕二としてはそんな事考えた事もない。友人と言えば友人。同じチェスカーバレン学院の同級生とも言えるし、ライバルのような関係と言えなくもない。少なくともバチルとは二度、戦っている。


 ――いや、待てよ。一応俺とバチルは男女。もしかして外から見たら……


 裕二はそう考えながらセーラを見やる。すると、セーラはやや顔を赤らめながら目を逸らす。


 ――何だこの反応……


 と、裕二がどう答えようか迷っているとバチルがそれに答えてしまった。


「私は真のバターソテーを見つけなければならないのニャ。その使命を教えてくれたのがユージなのニャ。だからその後にユージをぶっ飛ばすのニャ」

「は、はあ……」

「更にその後はバイツとテリオスをぶっ飛ばすニャ」

「え、えーと」


 セーラにはバチルが何を言ってるのは全くわからないだろう。それもそのはず。ずっと一緒にいる裕二にもほとんどわからない。だが、少なくとも裕二は、それを細かく聞いても意味がない事は知っている。


「まあ、コイツとは友人で多少のライバル関係もありますね。味方としては頼りになりますよ」

「そう言うことニャ」

「そうなのですか」


 セーラは何とか納得出来たようだ。裕二とバチルに笑みを浮かべながらそう答えた。


「バチル殿も相当な剣士とお見受けする。是非、その戦いを見てみたいものだ」

「任せるニャ。全てバターソテーにしてやるニャ」


 バンもバチルには興味があるようだ。その視点はセーラとは違い、同じ剣士としての腕前だろう。

 バスカートの治療中に感じた隙のなさ。腰に挿す剣はライトブレードだろうか。バンはチラリと見ただけだが、かなりの業物なのは間違いなさそうだと見ている。そして、バンの認める裕二に、迷いなく頼りになるとの言葉を引き出させるなら、その剣に恥じない強さはあるのだろう。


 ――おそらく、この私と同程度の強さはある。是非、手合わせしてみたい。


 バンはそのように感じていた。


 そんな話しをしながら先へ進む一行。

 バンの配下の騎士達は地図を見ながら何やらセーラに確認をしている。

 前日までの死亡報告が多い場所へ来たようだ。セーラとバンが話し合いながら細かな場所の選定をする。


「これからセーラ様は浄化の儀式に入ります。お三方は休憩していて下され」


 と言う事は、ここが瘴気の多い場所、瘴気溜まりになるのだろう。裕二には一見してそのようなものは感じられない。


 ――とりあえず集中して……いや、久々に精霊視を使ってみるか。


 騎士たちは祭壇を作り周りには台座の付いた魔石らしき物を置いてゆく。それが結界なのだろう。

 セーラはその台座一つ一つに祈りを捧げ、何かを唱えながら両手を様々な形に組み合わせる。

 裕二が以前住んでいた世界で見た、九字切り、九字護身法と良く似ている。


 精霊視のままそれを見ていた裕二。するとセーラの体は白く輝きだす。その輝きが台座の魔石に注がれる。


 ――おお、神秘的。てことは、あれ精霊なのか?

 ――微妙ですが精霊にも見えますね。私には精霊に近いもの。そんな風に思えます。


 セバスチャンにもそれは見えているようだ。だが、精霊とは断言しなかった。

 しかし、精霊視で見ているのだから精霊、もしくはそれに近いもの、と考えるのが妥当だろう。


 ――裕二様。セーラ様から光とは別に煙のようなものが出ています。おそらくそちらは魔力でしょう。


 セバスチャンには光と魔力、両方見えている、と言う事だろうか。裕二はそれを聞き集中する。

 今までに精霊も魔力も視認した事のある裕二。それは別々に見るものと思っていたがセバスチャンの言葉を聞く限り、同時に見る事も可能に思えてきた。


 ――ああ、なるほど。似てるけど違うんだな。よく見るとわかる。


 既に経験のある事を同時に行う。それは裕二にとってさほど難しい事ではなかったようだ。今の裕二には、霊体化のセバスチャンと同じものが見えているのだろう。

 裕二は更に考える。精霊に近い光、そして魔力。それが同時に見えるなら、この場にあるはずの瘴気も見えるのではないか。

 裕二は更に集中する。すると地面に黒いモヤのようなものが見えてきた。


 ――あれが瘴気か。


 裕二の今見ているセーラ。

 自身の魔力を光に変え、それを結界に注ぐ。そして、地面には大雨の後の水たまりのように黒いモヤ、すなわち瘴気がある。裕二にはそのように見えていた。


 そして、セーラは準備を終えると祭壇の前に跪く。そして、両手を握りしめ祈りを捧げ始めた。


 ――おお!


 すると、祭壇中央へセーラの光が集まる。そこには銅鏡のようなものがあり、集まった光は様々な色に変化しながらそこから溢れ出す。それはそのまま流れるように地面に落ちていった。

 それは裕二がかつてリサに手伝ってもらい見たのと同じ光景。色とりどりの光が地面に流れる。そして、その光が地面に溜まる瘴気を消してゆく。


 ――そうなってるのか……なるほど。


 精霊らしき光は精霊になる前のものだったのだ。裕二にはそう感じ取れた。

 よく見ると、ひとつの精霊だけでは瘴気は消えない。いくつかの種類の精霊、その相乗効果によって瘴気は消えるようだ。

 大地が元々持っていた様々な光のエレメント。

 瘴気を消す、と言う事はそれを元に戻す、と言う事になるのだろう。

 大地の力を復活させる。それが浄化の儀式。裕二はそう考えた。


 ――てことは……


 裕二は地面に手をつく。そして、以前チェスカーバレン学院の森でやったように、或いは図書館でやったように、一気に精霊を作り出した。


 祈りを捧げていたセーラはビクッと肩を震わせる。その直後、物凄い量の精霊が地面から湧き出す。かつて自分が作り出した何倍もの精霊が洪水のように地面を埋めてゆく。


 ――うおっ、やり過ぎっぽいぞ。いつの間にかパワーアップしてるし。


 そして、あっという間に見渡す限りの瘴気は消え失せてしまった。


「ん? なんかスッキリニャ」


 バチルにもそれが感じ取れたのだろうか。何となく清々しい表情になっている。しかし――


「セーラ様! どうなさいました」


 そう叫んだのはバンだ。バンは叫びながらセーラに駆け寄る。

 そして、セーラを見ると祈りを止め、背後に振り返り驚愕の表情で裕二を見ていた。


「い、今のは……ユージ様が……」

「え……すいません」


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