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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
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105 セーラの来訪


「ゼッカーの少数分隊はメタルスコーピオン三体。ベヒーモス四体と同時に戦っていたようです」


 ヴィシェルヘイムの休憩所からシェルラックへ戻る途中の裕二たち三人。その中のひとり、ビスターはゼッカー達の詳しい戦闘内容を聞いていた。


「メタルスコーピオンてなんニャ?」

「強力な防御力を誇るモンスターです。ベヒーモスと同時に現れたらキツイでしょうね」


 メタルスコーピオンとは体長四メートル程のサソリだ。その名が示す通り、全身を金属的な外骨格に覆われている。なのでその防御力は高い。その反面動きはそれほど速くはなく、ハサミで威嚇、尻尾の毒針で攻撃をしてくる。


「毒性はあまり強くないので、刺されても痺れる程度です。ですが痺れて動けなくなるので、その間に食われます」

「そんなの魔剣ニャンウィップでぶった斬ってやるニャ」

「いえ、そこがメタルスコーピオンの強みでして……」


 ビスターは話しを続ける。

 メタルスコーピオンの外骨格は何らかの魔力的なものに守られているのか、鉄をも斬り裂くライトブレードさえ通らないと言われる。それは一見弱そうな腹や関節も同じだそうだ。そして、通常の魔法もほとんど効かない。

 攻撃力はまあまあだが、防御力はほぼ完全無欠に近いモンスターと考えられている。


「じゃあ倒せないんですか?」


 シェルラックの兵士はそのメタルスコーピオンにどう対応してきたのだろう。裕二はその疑問をビスターにぶつける。


「いえ、一か所だけ弱点があります」


 そう言いながらビスターは人差し指を立てた。


「それは奴の口。その口が開いた瞬間に剣を差し込みます。そのまま剣を左右に揺さぶってやると簡単に倒せます」

「おお、なるほど。外が強い分内側は弱いんだな」

「そうです。しかし、メタルスコーピオンは戦闘中滅多に口を開かないので通常は長期戦になります。その間に別のモンスターがくるとキツイですね」


 自分で弱点がわかっているのか滅多に口を開かないメタルスコーピオン。そもそも戦闘中に口を開く保証もない。そうなるとほとんどお手上げだ。

 その防御力の高いメタルスコーピオンと戦車のように強力な突進力のベヒーモス。

 精鋭と考えられていたゼッカーもそれに対応出来ず、命を落とした。

 裕二とバチルはライトブレードの使い手でもあるが、同じ状況に陥ったらどうなるか。簡単には勝たせてもらえないだろう。


「普通はそのように別々のモンスターと同時に鉢合わせる事はそんなにないですけどね。ゼッカーは運が悪かったのかも知れません」


 運が悪ければ簡単に死んでしまうヴィシェルヘイム。裕二としてはその対応策も考えておきたいところだ。


「ニャッハッハッハ! そんなの楽勝なのニャ」

「何か良いアイデアでもあるのか?」


 いつも通りの大口をたたくバチル。裕二も期待はしていないが、一応聞いてみる。


「まずぶっ飛ばすのニャ。そして香ばしく焼いてから食べるニャ」

「だ、だな」


 つまりアイデアはない。と言う事だ。


「まあ、素材としては高価なので無理をしてでも倒したい相手ですが、時間を決めてそれまでに倒せなければ、撤退が普通ですね」


 裕二たち三人はそんな話しをしながらシェルラックへと帰っていった。



 裕二たちは兵舎の食堂で軽く食事をする。

 ビスターはバチルに「申請ニャ」と首根っこを掴まれていたので、バターソテーの件で食堂の責任者の所にでも連れて行かれたのだろう。

 裕二はその光景に苦笑いしながら部屋へと戻った。


「やっぱり手強いモンスターが多いんだな。メタルスコーピオンにライトブレードが効かないのは事前に知っといて良かった」

「ですが、そこまで防御力が高いと対応も難しいですね」


 セバスチャンもその対応には頭を悩ませているようだ。


「資料室で調べた限りでは、メタルスコーピオンはトップクラスの強さではないようですからね」

「そうなのかよ……」

「ケツァルコアトル、ワイバーン、キマイラ辺りが現在知られているトップクラスのモンスターだそうです」

「名前からして強そうだな」

「そして、ヴィシェルヘイムのモンスターは、そこに元々いた種と魔人に召喚された種とで別れているようです」


 モンスターの分類としてそのような分け方があるそうだ。例えばワイバーンは元からヴィシェルヘイムにいたが、キマイラは魔人に召喚されこの地に棲み着いた。なかなか活用しにくそうな知識だが、知っておいて損はないだろう。

 モンスターの棲息場所も種によって違い、強いモンスターほど森の奥、つまり谷に近い場所にいる。

 確認はされていないが、その谷を越えると更に強いモンスターがいるのではないかと考えられている。


「とりあえずは新たな魔法を覚えるか。何が効くかわからんし」

「そうですね。まだチェスカーバレン学院で調べておいた魔法はたくさん残ってますので」


 そうなると夜の訓練は重要になるだろう。新たな魔法、新たな戦法なども考えたい。バンやラグドナールもいるので情報も仕入れやすい。もちろん従来の訓練も続けたい。


「んじゃ、早速行くか」


 裕二は街の外へ出ようと立ち上がる。

 しかし、その時。裕二の部屋のドアをノックする音が響く。同時にビスターの声が聞こえてきた。


「ユージ殿。お客様がお見えになってます」

「客? 誰だ」


 裕二がドアを開けると、そこにはビスターだけがいる。許可があるまで客は待たせているのだろう。


「バン・クルートート卿と巫女のセーラ様です。お通ししますか?」

「え……ああ、頼む」


 裕二としては一応知り合いでもある、バンが来るのはわからないでもない。しかし、全く接点のないセーラが何故、裕二の部屋に来たのかわからない。

 そう考えながら二人を部屋ヘ通す。


「いきなりで済まんな、ユージ殿」

「ええ、構いませんけど……」


 裕二はそう言いながらセーラへ目を向ける。

 着替えてからこちらへ来たのだろう。ヴィシェルヘイムで見た旅装束とは違い、丸い襟が可愛らしい紺のジャケットと同色のロングスカート。制服っぽい雰囲気なので巫女の正装だろうか。あくまで質素だが、清楚でとても良く似合っている。

 

「こちらはクリシュナード正教会から派遣された巫女のセーラ・ロウェル様。休憩所で顔をあわせたので覚えておろう」

「はい」

「先程は治療に協力していただき、ありがとうございました。ユージ様」

「え、ええ……?」


 一瞬戸惑う裕二。セーラから礼を言われるような事はしていないが、彼女が協力を受けた立場と考えているようだ。病人の為に祈るのも巫女の仕事なのだろう。

 入り口でそんなやり取りをしているとビスターがお茶を運んできてくれた。なかなか気が利く男だ。裕二は二人をソファーへ座るよう促してから話しを始める。


「実は先程のバスカートの治療法。既に噂になっているので我々もある程度は把握しているが、その細かい部分を是非、セーラ様がお聞きしたいと申してな」

「ぶしつけなお願いで申し訳ありません」

「まあ……構いませんけど」


 裕二は説明を始める。

 まずは治癒を阻害しているのは瘴気と仮定する。魔食いの指輪から写した術式。その魔人の文字の部分。魔力を介しバスカートへ移す。おそらくその魔人の文字が瘴気を壊したのだろう。

 休憩所でしたのとほとんど同じ内容だ。しかし、この説明には語られていない部分がある。


「ユージ様は何故、魔法を阻害しているのが瘴気と仮定したのですか?」

「う……それはですね」


 裕二としては感覚的な事なので説明の難しい部分。それ以前に何となく言わない方が良いのではないか、と言う気もしていた。なので仮定した、と無意識に言っていた。

 だが、ストレートに聞かれてしまうと、どう答えて良いのか戸惑ってしまう。


 ――良く考えたら、瘴気の感覚を知ってるってのはそのきっかけ。俺の場合、魔人と遭遇した話しもしないといけないのか?


 裕二がメイザー坑道跡で魔人とニアミスした時、ヘスの魔食いの指輪が壊れた。そこで感じた魔人の禍々しさ。壊れた指輪はその禍々しさに反応したのだ。つまりそれが瘴気。裕二はその感覚を良く覚えている。

 同じようにペルメニアのエンバードでも、魔人の気配を禍々しさとして感じていた。それも同種のものだ。


 しかし、その話しはペルメニアでもアンドラークでも機密扱いのはず。

 休憩所では、そこに突っこまれる事はなかった。その辺は偶然、と解釈されたのか、治療と関係ないので無視されたのか。少なくともヴィシェルヘイムには巫女がいて、その巫女が土地の瘴気を浄化している。よそならともかく、ここでは瘴気と言う言葉は聞きなれない言葉ではない。

 病気の原因に瘴気があると仮定した。それはこのヴィシェルヘイムに於いて、不自然な論理にはならないのだろう。

 そもそも、当てずっぽうで瘴気と仮定しました。それで通りそうな話しでもある。

 

 だが、そう考えない者もいた。それが裕二の目の前に座るセーラだ。


「もし……話せない部分があるなら、そこは省いてもらって構いません」


 ――うっ、見透かされてる。


「わかりました。自分は瘴気の持つ禍々しい感覚。それは以前から知ってました。何故知ったのかは迷惑のかかる人もいるので話せません。なので仮定したのではなく、確信したのです」

「やはり……」


 バンとセーラは納得したような表情を浮かべる。


「なるほど。おそらくどこかの国家絡みでその感覚を得たのでしょうな。そこが話せないのは仕方ありません」


 バンもセーラもその点については詳しく聞かない姿勢は通してくれそうだ。そもそも、彼らの聞きたい事はそんな事ではないのだろう。


 しかし、裕二はここで疑問に思う。

 巫女は土地の瘴気を浄化する。なら、巫女も瘴気を感じ取れるのではないか。巫女であるセーラが他人の瘴気の感覚など知ってどうするのか。

 裕二はその辺をセーラに聞いてみた。


「セーラさんは瘴気を感じ取れるんじゃないんですか?」

「わ、私は……」


 セーラは助けを求めるようにバンの様子を伺う。裕二は答えにくい質問をしたようだ。しかし、バンの様子は慌てる事もなく落ち着いている。


「ふむ、セーラ様。やはり話しましょう。ユージ殿はここまで話して下さったのですから、信用と言う面では問題ありません」


 セーラはバンの言葉を聞き「そうですね」と一言言うと、覚悟を決めたような表情で裕二と向き合う。


「率直に言うと、ユージ様のように細かなものは気づけませんでしたが、私も瘴気を感じ取れます。それとは別に瘴気の視認も可能です」


 視認も可能。それはどのような形かはわからないが、瘴気が目に見えると言う事になる。


「ですが、そもそも巫女に、瘴気は見る事も感じる事もできません。土地の浄化と言う経験の末に、その能力が育った者はいますが少数です」


 瘴気な塊のような魔人がすぐそばにいたなら。その禍々しさを感じ取る者は多いだろう。その正体が瘴気だと、裕二は確信している。

 しかし、土地に溜まる瘴気。毒の中に薄く広がる瘴気。これらを感じ取れるのは少数の人間のみ、となるのだろうか。

 実際、裕二がヴィシェルヘイムへ行っても、土地の瘴気は感じられなかった。セーラも同様に裕二の捉えた毒の中の瘴気を感じてはなかった。

 お互いが感じ取るべき方向性の違い。それにより能力の伸び方も変わる。そのように考える事も出来るだろう。

 裕二は集中する事により細かな瘴気まで感じ取れる。セーラは儀式を通じて相対する土地に広がる瘴気。それを感じ取る。だが、その立場を入れ替えて上手くいくとは限らない。そこはそれぞれに見合った経験が必要になる。


「ユージ殿。瘴気を感じ取れる人間は少ない。それを他人に知られるのはあまり良い事ではない」


 バンがそう切りだすとセーラが続けて話し出す。


「なので私は今まで、その能力を隠していました。ですが……」

「何かあったんですか?」

「はい……今までに見た事のない瘴気を見たのです」


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