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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
102/219

102 初戦


 人に見られず訓練出来る場所を探して街の外に出た裕二。

 しかし、裕二はそこでハルフォード家の当主候補、ラグドナール・ハルフォードとクリシュナード正教会の聖堂騎士団団長、バン・クルートートと出会った。

 そして、ひょんな事からバンと模擬戦を行いこれに勝利する。


「さすが化け物。バンさんはシェルラックでも高名な剣士だからな。それに勝っちまうとは」

「あんまり言いふらさないでもらえます?」

「オーケー! 俺は口がかたい」


 そうは見えないが、一応釘は刺しておいたほうが良いだろう。そうしなければこのお喋り大好き男は確実にアチコチで話すはず。


 裕二はとりあえず訓練場所の確保は出来そうだと考え、今日のところはこれで帰る事にした。

 このままここにいてもラグドナールのお喋りに付き合わされるだけだ。次回からはラグドナールの気配を感じたら離れれば良いだろう。情報が知りたい時は便利だが、毎度お喋りには付き合えない。


「じゃあこれで」

「おう。またな」


 裕二は正門に向かい堀を飛び越えて街へ入り、自分の部屋へと戻っていった。


 明日からはいよいよヴィシェルヘイムへと入る事になる。



「ニャッハッハッハ。やっと戦えるニャ」


 翌日、裕二はバチル、ビスターとともに森へ向かう。

 バチルは遠足に行く子供のように嬉しそうだ。


「張り切りすぎて油断するなよ」

「任せろニャ!」


 基本的に森でやる事はモンスターを探し、それを討ち取る。しかし、場合によっては臨機応変に対応する必要も出てくるだろう。

 森ではたくさんの部隊が同じように行動している。中には苦戦する部隊もある。その場合は遠慮なく参戦して良い事になっている。獲物の取り合いは禁止だ。利益は後で公平に分配される。

 そんな事をしなくてもモンスターは多い。利益を望むなら森の奥へ行けば、より強力なモンスターにも出会える。

 もちろん命がけの戦いになるが。


 裕二たちはシェルラックの正門を出て真っ直ぐ進む。

 街道を越えるとすぐにヴィシェルヘイムだ。そこには森の奥へ続く太い道が切り開かれている。そこから細かい道へ枝分かれしており、各部隊は前日までの目撃情報、討伐情報を頼りに先へ進む。


 裕二は森へ入るとすぐに感知能力を作動させる。この辺りはまだ、モンスターより人の方が多そうだ。


「森の中には拠点もいくつかあるので、今日はそこを目指しましょう」


 拠点は大雑把に言うと二種類ある。

 ひとつは草木が刈られ切り開かれた場所。そこに大型のモンスターをおびき寄せたり、罠を張ったりする。戦闘の為の場所だ。戦闘拠点と呼ばれる。

 もうひとつは休憩所。

 同じように切り開かれているが、強固な石壁と幾重もの結界により守られた場所。兵士や冒険者はそこで休息、仮眠をとったりする。緊急避難や怪我をした場合にもそこを使う。こちらは休憩所、避難所などと呼ばれる。

 とは言っても、百パーセント安全な場所ではない。結界や石壁をやすやすと越えてくるモンスターもいるそうだ。

 ヴィシェルヘイムには長年の間にその様な場所が多数作られているので、覚えておきたい情報だ。


「そう言えば、聖堂騎士団てのもいるんですよね」


 裕二は今のところ警戒すべき気配を感じないので、昨日戦ったバン・クルートートの所属する聖堂騎士団についてビスターに聞いてみた。


「聖堂騎士団はモンスター討伐が主体ではなく、巫女様の護衛として森に入ります」

「巫女様?」


 クリシュナード正教会に所属する聖堂騎士団。その主な任務は教会から派遣された巫女を守る事。


「ここではたくさんの人が死にますからね。巫女様はその供養と土地の浄化を行うのです」


 供養はわかる。戦いで散っていった戦士を弔うのは当たり前と言えば当たり前。その任を教会が受けもつのも理解出来る。しかし、浄化とは何だろう。裕二はそれをビスターに聞いてみた。


「こんな場所ですから多くの兵はいつも死を身近に感じてます。彼らはいつでも死ぬ覚悟はあるのです。ですがそうであっても、死に際の後悔、痛み、苦しみにより、大なり小なり瘴気は生み出されるのです」


 ヴィシェルヘイムでは通常よりもたくさんの人が死ぬ。その分生み出される瘴気も多い。

 魔人に必要とされる瘴気。その瘴気が大量にある場所を瘴気溜まりと言う。それをそのまま放置する事は出来ない。


「それを浄化するのもクリシュナード様の教え。瘴気溜まりを浄化するのは教会の役割なんですよ」


 巫女はその様な場所へ出向き、そこで祭壇を作り土地を浄化する。

 しかし、巫女には戦闘能力がない。ヴィシェルヘイムの様な場所では、その護衛が必要になる。


「それが聖堂騎士団てワケだ」

「そうです」


 巫女はシェルラックに於いて、必要不可欠であり尊敬される立場なのだそうだ。仲間を失った者達も多いので自然とそうなるのだろう。


「最近こちらに赴任してきた巫女のセーラ・ロウェル様は大変お美しいお方ですよ。そのセーラ様を守るのが、バン・クルートート卿の率いる聖堂騎士団なんです」

「へえ、なるほどね」


 裕二がついこの間までいたツェトランド伯爵領。ステンドットによって皆殺しにされた村もあると聞いている。そう言う場所も瘴気溜まりが出来ないよう浄化が行われるのだろう。

 そう考えると、クリシュナード正教会はペルメニアだけに留まらず、各国で重要な役割を担っているとも言える。


「教会を取り仕切っているのは使徒の家系の一角、シェルブリット家ですね。彼らは爵位を持たない代わりに教会を任せられた。そう聞いてます」

「シェルブリットか。聞いたことあるな……」

「その礎となったのがクリシュナード様ですからね。偉大なお方ですよ。クリシュナード様がいなければ、今頃ここは魔人の跋扈する土地になっていたでしょう。そうなれば人など瘴気を生み出す為の道具でしかありません」


 裕二は今更ながらにクリシュナードの偉業、それが五百年経ってもビスターのような一般大衆にも根付いているのだと知る。それほどこの世界の人々には重要な人物なのだろう。


 そんな話しをしていると、先頭にいるバチルがふと立ち止まった。


「なんかいるニャ」


 バチルの言葉に裕二とビスターが反応する。彼らの視線の先にはまだモンスターは見えないが、遠くの森の木々が僅かだが不自然に揺れているのが見える。


「キキッ……」

「この鳴き声。ホワイトデビルですね」


 ホワイトデビル。それは体長百五十センチ位の白い猿だ。手が異常に長く鋭い爪がはえており、口には長い牙がある。

 群れで行動し動きも素早い。かなり頭が良く、人数の少ない部隊を集中的に狙う。

 裕二たちは三人しかいないので、既に目をつけられているはずだ。その狡猾さ故の危険度は高いのだろう。


「十四体だな。もう囲まれてる。バチル、いけるか?」

「ニャハ、皆殺しニャ!」

「来るぞ!」


 草むらから数体のホワイトデビルが現れ襲いかかってきた。

 裕二は近い敵から次々とエクスプロードフレイムを放っていく。

 ダメージを受け怯んだホワイトデビルに今度はバチルが飛びかかり、剣で次々と首を跳ねる。


「ニャハハハー! 死ぬが良いニャ!」


 バチルは目を爛々と輝かせながらモンスターを狩る。

 半数を狩ったあたりでホワイトデビルに動揺が見えだした。バチルの狂気じみた目に恐れおののいているのだろうか。


「あと六体ニャ!」


 バチルがそう言いながらニヤリとした瞬間。一体のホワイトデビルが逃げ出した。それに続いて他の仲間も逃げ出す。


「逃さんニャ!」


 バチルはホワイトデビルと距離があるにもかかわらず、緑色に光る剣を斜めに振り下ろす。


「なんだありゃ!?」


 バチルの剣からライトブレードの光が伸び上がる。それがムチのようにしなりながら、逃げるホワイトデビルの背を襲う。


「キー!」

「ニャー!」


 背中が赤く染まるホワイトデビルはたまらず悲鳴をあげた。バチルのライトブレードは間髪入れず連続で敵の背中に深い裂傷を刻む。

 そして、倒れたホワイトデビルにトドメを刺すのかと思いきや、バチルはそれを飛び越え、その先に逃げたホワイトデビルにライトブレードを振るった。


「ニャッハッハッハ! ここが貴様の墓場ニャー!」


 そして、ライトブレードは逃げたホワイトデビルの体に巻き付き、バチルはそれを一気に引き寄せる。

 すると、ホワイトデビルは勢い良くバチルの後ろにいる裕二の元に飛んでいった。


「うおっ!」


 咄嗟に剣をつき出す裕二。そこへホワイトデビルがグッサリと刺さる。


「ストライプニャッ!」

「ストライクだろ」


 そして、残ったホワイトデビルにバチルがドンドントドメを刺してゆく。


「うニャー! 勝ったニャアアア!」


 バチルは倒れたホワイトデビルを踏みつけながら叫ぶ。ほとんどバチルひとりで倒してしまった。


「凄い……ですね」

「確かに」


 唖然とするビスター。キュクロープスとはまた違うタイプの敵も、あっさりと倒してしまうバチル。裕二もその手際の良さに感心する。


 殺して良い相手なら全くの容赦がないバチルの攻撃。それは当たり前の事でもあるがバチルの場合、気迫と勢いが違う。


「つーか、さっきのライトブレードは何だ?」

「これが魔剣ニャンウィップなのニャ!」

「あーなるほど。ニャンウィップってムチみたく使えるのか。いいなそれ」


 ムチのように伸びる魔剣ニャンウィップ。これがバチルのライトブレードの本来の使い方なのだろう。その点でバチルは裕二を上回っていそうだ。


「俺の剣でも出来るのかな?」

「知らんニャ!」

「まあ、今度試すか」


 戦闘は終了し本来ならここでモンスターを解体する。だが裕二には異次元ポケットがある。そして他の場所ならともかく、ここシェルラックでは裕二の異次元ポケットと似た魔法、収納魔法は重宝がられるが決して珍しい魔法ではない。

 裕二としても使える魔法を隠すのは不便なので、予めビスターにそれとなく聞き、自分が収納魔法を使えるとさり気なくアピールしておいた。

 裕二はホワイトデビルを次々と放り投げ異次元ポケットにしまう。


「ニャ! なんニャそれ。消えたのニャ!」

「収納魔法だ。一応黙っといてくれ」


 そんな感じで裕二たちは、何度かモンスターを倒し、目標地点になっている拠点、休憩所へと向かう。


「見えてきましたね。あそこです」


 ビスターの指差す先に石壁が見えてくる。その入り口は人ひとりがやっと通れる程度に狭い。これもモンスター対策なのだろう。裕二たちはいくつかの狭い場所を通り抜け休憩所の中へ入っていった。

 中は殺風景だが、予想以上に広く人も多い。そして、いくつかの部屋に別れている。その中のひとつの部屋に人だかりが出来ている。


「何かあったのか?」

「うニャ?」

「かもしれません。行ってみましょう」


 裕二たちは、人だかりの奥へ歩を進めた。


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