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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第三章 魔の森
100/219

100 シャクソン・マクアルパイン


「ユージ。今の奴には気をつけるニャ」


 思いの外バチルは落ち着いていた。

 キュクロープスとの戦いで見せたはっちゃけた雰囲気とはまるで違う。いつものバチルなら裕二が予想した通り、即座に殴りかかってもおかしくなかった。


「どう言う事だ? お前がそう言うならかなり強いって事か」

「違うニャ……奴の気配は壊れているニャ」


 バチル独特の言い回しに戸惑う裕二。しかし、その真剣な表情から今の男が只者ではない印象を受ける。少なくともバチルはそう感じたのだろう。

 言われてみれば裕二も何か違和感があったような気がする。


「とにかく気をつけるニャ」

「まあ……お前がそこまで言うなら」


 決して侮れないバチルの野生の勘。

 裕二はテパニーゼからも、それがどれだけ凄かったのか聞かされている。一応頭の片隅に留めておいた方が良いだろう。


「タグが出来たようです。帰りましょうか」


 ビスターがそう告げた。今の出来事で彼も少し気まずそうだ。

 三人はタグを受け取りさっさとその場を後にした。


 ギルドを出てしばらくするとビスターが口を開く。


「先程の男はシャクソン・マクアルパインと言って、ペルメニア系の独立軍を率いています」

「ペルメニア系の独立軍?」

「はい。元々ペルメニア指揮系統なのですが命令違反が多く手に負えないようで、今では独立軍となってペルメニアとは切り離されているのです」


 ビスターから詳しい話しを聞くと、シェルラックに展開するペルメニアの本軍は、サレム王国と国境を接するハルフォード辺境伯の軍隊がほとんどを占める。その最高責任者もハルフォード家の人間だ。


「ハルフォードって……確か使徒の家系のひとつか……マクアルパインもそうじゃなかったか?」

「そうです。ハルフォード家、マクアルパイン家、どちらもクリシュナード様の使徒の家系」


 先程のシャクソン・マクアルパインは使徒の家系であるマクアルパイン家の次男。つまりかなり高い地位にある、と言う事になる。


「あーなるほど。だから命令違反が多くても処分は難しいと」

「はい。ハルフォード家も持て余しているらしく、今では……」

「勝手にやってろって事か」

「そうなります。噂によると、シャクソン・マクアルパインは元々本家でも評判が悪く、厄介払いでこちらへ派遣されていると聞きます」

「なるほど。シェルラックはいい迷惑だな」


 とは言っても、その戦闘能力は高く周りからは一目置かれている。

 シャクソンの率いる隊は百名程と少ないが、強引に強い者を引き抜く場合もあり、少数精鋭とも言える。


「ですが、彼の隊は無茶な作戦を強行する場合も多く、死亡率はかなり高いようです」


 なので、それを詳しく知っている者はシャクソンの隊を避けるようにしている者も多い。

 だが、逆にそう言う部隊だからこそ入りたいと言う強者も決して少なくないそうだ。


「彼も言ってた通り、待遇が良いのは本当らしいですから」


 つまりシャクソンの評価は徹底的に避けられるか、強く求められるか両極端とも言える。


「とりあえずは避けた方が無難ではあります」


 シェルラックにはそう言った小規模の独立軍がいくつかある。

 冒険者だけで結成されたチーム。それとクリシュナード正教会の所有する聖堂騎士団もある。

 その中で一番目立っているのが、シャクソンの部隊と言える。


「なんか色々面倒そうだな。バチル、俺達はアンドラークの専属になっとくか? その方が良さそうだぞ」

「ユージに任せるニャ」


 バチルはつまらなそうにそう答える。



「おお、そうですか。そうしていただけるとこちらも安心です」


 裕二は、アンドラーク駐屯地へ戻ってからオーメル将軍に先程の話しをし、アンドラークの専属になりたいと申し出た。


「殿下の紹介ですからどう切り出そうかと思ってましたが。なるほど、シャクソンは避けた方が良いですな」


 オーメル将軍としても自国の王子の紹介で訪れた裕二達を客人として扱わねばならず、自軍に引き入れるにしても躊躇していたようだ。

 裕二がそれを申し出た事により、オーメル将軍も気兼ねなく、とまでは行かなくても頭を悩ませる必要はなくなった。


「ではどうしますか。ライトブレードを使いベヒーモスを簡単に屠るお二人なら隊に組み込むより単独の方が良いかと。ビスターをそのまま付けますので指示や報告はビスターにやらせますが」


 オーメル将軍もその辺はかなり考えたようだ。通常の部隊は罠を用意してモンスターの動きを拘束してから倒す。

 しかし、裕二達にその必要はほとんどない。となると、そう言った部隊に組み込むのは非効率的だ。

 二人は高い戦力を持つので独断で動いてもらい、細かい判断はビスターにさせれば良いだろう。


「そうですね。で、具体的には何を」

「基本的にはどこの軍も同じ。モンスターを見つけ次第倒す。倒せない場合は報告。それだけです」


 基本は裕二、バチル、ビスターで行動する。その指示はビスターが出す。

 場所は街道ではなく、ヴィシェルヘイムの森の中になるだろう。

 そこでモンスターが多いと報告のある場所を目指し戦う。森の中は他の部隊も多く展開しているので、時には友軍のような働きもするだろう。

 そう言うことで話しは纏まった。

 明日からはいよいよヴィシェルヘイムに入る事になる。



「しかし、バチル様の言っていた事が少し気になりますね」

「シャクソンか。なるべく関わらないようにしとこう」


 自室に戻った裕二はセバスチャンと話しをしている。

 雰囲気からするとシャクソンと言う男は暴君気質の高そうな人物だ。

 そこにはマクアルパイン家の権威と財力。そして、自身の持つ力を背景にしているのだろう。だが、それだけなら大した問題でもない。

 裕二は既にアンドラークの専属となり、シャクソンの部隊に入る事はないからだ。仮に誘われてもそれが断る口実にもなっている。


「それ以上何もしようがないだろ。グロッグじゃあるまいし」

「そうなのですが……」


 グロッグ、シェリル兄妹は理不尽に裕二を憎んだ。その理由のひとつは、裕二がグラスコード家に所属した為だろう。

 それ故、二人は裕二を家から、そして学院からも追い出すべく様々な嫌がらせ、攻撃を仕掛けてきたのだ。

 しかし、シャクソンにそんな理由はない。

 性格の悪そうな人物ではあるが、会わなければ関係ない。会ったとしても相手にしなければ良い。

 おそらくあんな態度を取るのは裕二達だけではないはずだ。普段から誰に対してでもああなのだろう。

 バチルの言ったことは気になるが、今のところ何かしら対応する必要はない。


「迂闊にケンカでもしたら立場がある分厄介そうだしな」

「はい。バチル様もあの様子ならいきなりケンカはしないでしょうし」


 トラヴィス家、ジェントラー家、チェスカーバレン家、ハリスター家、ハルフォード家、シェルブリット家、そして、シャクソンのマクアルパイン家。

 それが代表的な使徒の家系となる。そして、その力はいずれの家も強大だ。

 ハルフォード家だけで、このシェルラックに派遣されるペルメニア兵の大部分を占めている事からも、その規模の大きさが覗える。

 マクアルパインもそれと同格になるのだ。

 例えば、あり得ない話しだが、テリーが夜道を歩いていて、いきなり誰かにケンカを売られ叩きのめされたとする。

 そうなればジェントラー家が黙っていない。その者はジェントラー家に捕まり徹底的に叩き潰される事になる。

 シャクソンとケンカをすると言う事は、それと近い事でもあるのだろう。


「そう考えると、ステンドットなんか話しにならないくらい規模が違うんだろうな」

「そうですね。同じ貴族でもえらい違いです」


 裕二がそのままグラスコードにいたなら、多少ケンカをしても何とかなるだろう。しかし、今の裕二はいち平民でしかない。

 何の後ろ盾もない。と言う事は頭に入れておいた方が良い。


「後は……夜の訓練か」


 裕二は学院にいた時、そしてパーリッドにいた時も夜になると訓練の為に街の外へ出ていた。シェルラックでもそれは当然続けるつもりだ。その為には訓練する場所が必要だ。


「とりあえず、訓練場へ行ってみるか」


 部屋を出た裕二は宿舎の裏にある訓練場へと足を運んだ。だが、そこには夜になっても訓練している兵士が少なからずいる。


「ユージ殿。見学ですか」


 そこにはビスターの姿もあった。


「結構人いますね」

「はい……ああ、なるほど。人に見られない訓練場所をお探しですか」


 人に訓練を見られたくないのは裕二だけではない。シェルラックに集まる猛者たちは、人に見せたくない様々な技術を有している。その訓練を一般兵が集まる場所でやりたくはない。

 ビスターは裕二もそうなのだろうと考えた。


「ええ、まあ」

「高位の冒険者になればなるほどそうなりますからね。彼らは裏街道付近でやってますよ」

「裏街道?」


 ビスターの言う裏街道とは、シェルラックとヴィシェルヘイムの間にある街道ではなく、そこからペルメニア方面に伸びる街道の事を言っている。シェルラックの南水路に沿った道なのですぐそばだ。


「そちらは比較的安全ですし、夜なら人も馬車もほとんど通りません」

「なるほど。行ってみるか」


 シェルラックは夜になると城門は閉じられ跳ね橋は通れなくなる。しかし、夜でも討伐や訓練に出る者がいるので小さな扉と水路を渡る船が用意されている。


「ですが、そのクラスになると船など使わず水路を様々な方法で飛び越えて行く人の方が多いですね。戻る時に確認がありますが出るのは自由です」


 強力な身体強化で。棒高跳びの要領で。風魔法を使って。様々なロープを使った技術で。人によりそのやり方は千差万別だそうだ。

 水路の幅は約十メートル。裕二なら城壁の上から身体強化、或いはムサシか白虎の憑依で軽々いけるだろう。


「わかりました。ちょっと見てきます」


 裕二は城壁に走っていった。その階段を駆け上がると、そこでも訓練が行われている。

 彼らは淡々と訓練を続けており、裕二が城壁の縁に足をかけても誰も気に留めない。

 裕二はチラリと廻りを見てから水路を飛び越え外に出た。


「ほう。やるな」


 裕二が着地すると同時に暗闇から声がかかる。


「見ない顔だな。新参の冒険者……ん? 君はユージ・グラスコードか?」

「へ?」


 暗闇から突然現れた裕二を知る人物。彼は何者なのか。


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