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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
10/219

10 ドブネズミ


「ではユージ。今日は先程の者に学院内と寮を案内させる。授業は明日からじゃ。終わったらまたワシの部屋に来なさい」


 リシュテインはそう言い残し、部屋から去っていった。代わりに先程、学院長室まで案内した女性が部屋に入る。マレットがそれを見届けると裕二に話し出す。


「魔法科一年Aクラスという事はシェリル様と同じクラスですね」

「そうなんだ」

「ではユージ様。今日からは案内に従って寮にお泊まり下さい。私はグロッグ様とシェリル様に旦那様の手紙を渡してから帰ります。何かありましたら、精霊郵便でお知らせ下さい」


 そう言ってマレットは帰って行った。


「では、参りましょう」


 この女性はファニエと言う。見た目は十六〜七歳だろうか。メイド服を着ているのでメイドなのだろう。裕二の年齢からすると、少しお姉さんになる。

礼儀正しいので好感の持てる人だ。


「ユージさんは魔法科一年Aクラスなので成績トップのクラスになりますね」

「えっ! そうなんですか」

「はい、各学年ごとにAからFまで成績順です。成績が落ちるとクラスも変わります。毎年各クラス二〜五名は入れ替わりますね」

「なるほど。トップクラスでも安泰という訳じゃないんだ」

「成績を維持しながら課外活動を頑張る方もいますからね」


 生徒は授業以外の活動に、生徒会、クラブ活動、研究会、自警団がある。成績には関係ないが、課外活動で大きな功績があると卒業後の評価にも繋がる。


「自警団なんてあるんですね」

「はい、自警団の活動は学内はもちろんですが、学外、つまりスペンドラの治安維持、要請があればそれ以外の地域でも活動します。なので軍隊に準じる高い権限を学院と領地から与えられているのです」


 高い権限がある分入団には能力が重視される。騎士科、魔法科共に上位クラスの男子生徒に人気がある課外活動になる。自警団に入っていれば、それは卒業後の評価にも繋がるからだ。


「うーん、興味ないな」


 裕二はそのまま歩きながら食堂へと案内される。


「デカいですね」

「生徒は千五百人いますから。今はガラガラですがお昼時は凄いですよ」


 メニューは色々ありそうだが、基本セルフサービスだ。千五百人も来たらいちいち店員が運んでいられないだろう。ここは王家の人間でも自分で食事を運ばなければならない、国内唯一の場所だそうだ。ただ侍従にやらせるのは問題ない。もちろんセルフサービスではない別のレストランもある。


 その他、学院内には図書館、ホテル、アパート、カフェ、武器屋、服飾店、精霊郵便局、演習用の森や辻馬車まで様々な施設がある。


「凄いな。こうなるとコンビニも欲しい」

「コンビニ?」

「あ、いえ。何でもないです」


 アチコチさんざん歩き回ってやっと寮に到着する。ほとんど小さい街を一周してきた様なものだ。


「制服は部屋のクローゼットにありますので、明日から着用して下さい。一息ついたら、また学院長室に起こし下さい」

「ああ、それがあったか」


 裕二は一息ついたら行きたくなくなると思い、部屋の確認だけしてすぐに学院長室へ向かう。

 ちなみに部屋は、ベッド、机、棚、クローゼット、トイレ、シャワーのあるシンプルな部屋だ。



「失礼します」


 裕二は再び学院長室を訪れた。


「度々すまんな。まあ座りなさい」


 まあ、何を言われるのかはだいたい想像がつく。


「ユージの魔法について詳しく聞いておきたいんじゃがな」


 ――だよね。


「黙っていてくれるのであれば――」

「もちろん、そのつもりじゃ。まあ管理上知っておかねばならんしのう。それに個人的な興味もかなりある」


 そう言われてしまえば教えないワケにもいかない。何か面倒をかけた場合もその方が都合も良いだろう。


「学院長が見たのはこれです」


 と言って、裕二はチビドラを実体化させる。


「ミャアアア!」

「おお! ちっちゃいのう。じゃが間違いなくドラゴンじゃ」

「作る時間が短かったので小さいですが」

「作る? どういう事じゃ?」

「このドラゴンは人工精霊です」

「人工じゃと!? そんな事が可能なのか」


 裕二はリシュテインに詳しくタルパについて説明する。その作り方から特徴、憑依と現在使えるタルパの数。それを聞くリシュテインは終始信じられないと言った表情だ。


「攻撃特化型の人工精霊はデカいので、ここでは見せられませんが」

「よ、良し! 実習室に行こう」


 最早リシュテインは、完全に管理上知っておかねばという雰囲気ではない。興味以外ないだろう。裕二は半ば強制的に実習室へ連れて行かれた。


「リアン」


 裕二がリアンを実体化させる。すると、その禍々しい姿を見たリシュテインは驚愕の表情でリアンを見上げる。


「これを人工的に作ったとは……」


 裕二は用意された的にリアンのガトリングガン、グレネードランチャーを放つ。

 リシュテインは終始目を見開き、一瞬たりとも見逃さない構えでその様子を見ている。そして後には穴だらけ、もしくはバラバラにされた的がその場に転がっていた。


「むう、なるほど。他にも人工精霊があれば見せてもらいたいんじゃが」

「は、はあ」


 リシュテインは目を輝かせながら裕二に言った。裕二としても少々面倒になってきたので、一気に全てのタルパを出す事にした。


「全員出ろ」


 裕二の号令でアリー、チビドラ、セバスチャン、ムサシ、リアン、白虎、テンが姿を現す。


「こ、これは……全て人工精霊なのか!」

「はい」

「…………とんでもない事じゃな」


 裕二はそれぞれのタルパの役割について説明する。リシュテインは驚きながらも裕二の言葉に耳を傾ける。その中でもリシュテインにとって異彩を放っていたのはセバスチャンだ。他のタルパと比べて、知性に溢れた存在と見なしたのだろう。


「おヌシも人工精霊なのか?」

「はい。私を始め、ここにいる全ての存在は裕二様によって作り出されたのです」

「なるほど……ユージよ。想像以上の力じゃな。わかっているとは思うが、安易にこの力を見せん方が良いじゃろ。ユージの力は通常の召喚魔法の領域を、遥かに超えている」 

 

 リシュテインの説明では、通常の召喚魔法は複数の高位魔術師によって行われる。それも簡単ではなく、様々な準備と長い詠唱が必要とされる。


「大昔は人間を供物とし、それを代価に強力な存在を召喚したとされておる。現在ではそういう方法は行われんが。それと比べれば、ユージの一声でこれだけ精霊が出現する、という事がどれほどの事かわかるじゃろ」


 おそらく遠方からやってきた記憶喪失の少年。その正体はわからないが、まずはその辺の魔法に関する常識を、知ってもらわねばならないだろう。グラスコード侯爵もその為に、チェスカーバレンに裕二を寄越したのだ。リシュテインは改めてそれを認識する。


「まあ、色々大変そうじゃが、その行く末は是非とも見てみたいのう。ユージにはそれだけの価値はあるという事じゃ。他にも聞きたい事はあるが今日はこの辺にしとこう」



 リシュテインに解放され、途中食堂で食事をしてから部屋に戻る。その頃には辺りは暗くなっていた。

 周りにはチラホラと他の学院生も見かけるが、出来るだけ彼らとは目を合わせず、足早に自室へと戻る。新参者としては、あれは誰なのかと奇異の目で見られるだろうが、それは決して心地好いものではない。せめてクラスでの紹介が終わるまでは、出来るだけ避けたいのが普通だろう。

 部屋に入ると中は暗くなっている。一応ランプがあるので点けてみるが、あまり明るくはない。


「ダメだこりゃ。テン、頼む」


 テンは天井に張り付くと、部屋を明るく照らしだす。念のため、明るすぎて不審に思われないよう、カーテンはきっちりと閉める。

 そしてベッドに転がりこむと、早速セバスチャンを呼び出す。そしてアリーとチビドラは呼び出さなくても、いつも通りその辺をプカプカと浮いていた。


「セバスチャン。とりあえず魔法はチビドラ、後はムサシの憑依で何とかなるか?」

「おそらくは。後は他の者の様子を見て考えればよろしいかと思います」

「一応成績トップクラスだからな。色んな魔法使える奴がいるんじゃないか?」

「ひと通りの平凡な魔法は、使えた方がよろしいとは思います」

「だよな。普通に考えると火、水、風、土の四属性魔法か。チビドラは火以外使えないのか?」


 裕二は不意にチビドラに問いかけると、チビドラはキョトンとしながらそれに答える。それを翻訳するのはアリーだが。


「ミャアアア」

「使えるけど使えないってさー」

「何だそれ?」

「ミャアアア」

「そのうち使えるかもだってー」

「それいつだよ」

「ミャアアア」

「わからないってさー」

「成長とかするのかな? どうなんだセバスチャン」

「はい、私も分かりかねますが、成長という部分も必要かも知れません。ですが何か他のキッカケが必要な気が致します」

「キッカケか……何だろな」


 そんな話しをしながら明日の準備をする。とは言っても制服が合うか確かめて、鞄にノートとペンを入れておくだけだ。それが済むと、裕二はさっさと寝てしまう。



 翌朝。裕二はファニエに案内され、魔法科一年Aクラスへ向かう。

 教室では既に授業が行われているようだが、ファニエは構わずノックをし、担当の教師を呼び出す。

 教師の名は、ディクトレイと言う。痩せて薄い髪をオールバックにし、神経質そうな表情をした教師だ。本当に神経質かどうかはわからないが。


「彼が編入生ですか」

「はい、後はよろしくお願いいたします」


 そう言ってファニエが去っていくと、裕二はディクトレイに連れられ教室に入る。予想はしていたがクラス全員が裕二を見ているおり、その視線が裕二に突き刺さる。新参者として一番嫌な瞬間だ。


「今日からAクラスへ編入する事になった、ユージ・グラスコードだ。みんな仲良くするように。わからない事は……そうだな、同じグラスコード家のシェリル君に聞くと良い。シェリル君、立ちたまえ」


 ディクトレイ先生の視線の先には、学院の制服を綺麗に着こなした、美しい金髪の女生徒がいる。表情はややきつめだが、美少女と呼ぶに相応しい顔立ちだ。


「ユージ。わからない事は彼女に聞くと良い。頼んだよシェリル君」

「はい、先生」

「ユージの席は窓際の空いてる席だ」

「はい」


 ユージは返事をして席に歩く。その際、クラス中の視線を浴びているが、着席してしまえばそれも終わる。そして何事もなかったかのように授業が再開された。


 授業の内容は魔法の理論について説明しているようだ。詠唱される術式の構成や、それを短縮させる方法を詳しく説明している。

 周りの様子を伺うと、ほとんどの者は真面目に授業を聞いているが、数名は裕二が気になるのかチラチラとこちらを見ている。


 やがて授業が終了し休憩時間となり、ディクトレイ先生も一旦教室から出て行った。


 すると裕二の背後に数名の気配が近づくのを感じる。


「ちょっとあなた。ユージとか言ったかしら?」


 それは先程ディクトレイに紹介されたシェリル、シェリル・グラスコードだ。そのシェリルが数名の生徒を引き連れ、裕二を睨み付けていた。


「あなた孤児なんですってね。全くお父様の気まぐれにも困ったものだわ。こんなドブネズミを拾ってくるなんて」


 ――ドブネズミ?


「念のため言っておきますけど、ディクトレイ先生がああ言ったからと言って、気安く話しかけてもらっては迷惑よ。ドブネズミがグラスコード家にいるなんて知れたら、どれだけ我が家の名を汚すか」


 ――なんだこの女。


「ドブネズミはドブネズミらしく、下水道をはい回ってなさい」


 それだけ言うとシェリルは去って行った。


 こうして、裕二のチェスカーバレン学院の初日は過ぎて行く。


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