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剣と魔法と七体の人工精霊  作者: ひろっさー
第一章 異世界転移と学院
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1 超能力少年

 都内の中学校に通う十四歳の少年。

 彼の名を神谷裕二と言う。


 身長、百七十センチで痩せ型の体型。平均よりはやや整った顔立ちで、クラスの女子からは密かに人気のあるタイプ。


 そして何を隠そう、彼は超能力者(エスパー)なのだ。


 とは言っても彼、裕二に出来る事はせいぜいスプーン曲げと他の人より勘が鋭いくらいだ。

 そしてその能力は小学生の頃から見られ、周囲の友達に自慢していたので、裕二の古い友達はだいたいその事を知っている。しかしその事で嘘つき呼ばわりされたり軽いいじめにもあった事があり、今は積極的にそれを自慢する事は無い。


 そんな裕二には、これとは別に秘密がある。


「アリー、俺のノート知らないか?」

「そこのDVDケースの下にあるよー」


 今、裕二の部屋には彼ひとりしかいない。だが裕二にはもうひとつの存在が見えている。


 その存在は十五センチ程の大きさの女の子で、背中には青く半透明の羽根が生え、その羽根と同色のミニドレスを纏った可愛らしい少女だ。

 その存在の名をアリーと言い、裕二の肩越しにフワフワと漂いながらDVDケースを指差していた。


「ああ、ここにあったか」


 裕二はDVDケースを机の上に置き、その下にあるノートを鞄にしまった。

 ちなみにそのDVDのタイトルは『超能力VS霊能力』だ。


 そう、裕二はオカルト大好き少年でもあるのだ。


 そのきっかけは子供の頃に見たテレビ番組で世界的に有名な超能力者、ユーリ・ゲルグと日本最強と言われた霊能力者、木田愛子が共演する内容だ。

 ユーリ・ゲルグは植物の種を手の中に握り、超能力で芽吹かせるという実験をやった。

 結果、種からは小さな芽が出て実験は成功した。

 続いて木田愛子も同じ事をやるのだが、霊能力者の彼女はそんな事はやった事ないし自信がない素振りを見せていた。

 しかし実験が始まると真剣に種を目吹かせるよう念じ、結果、ユーリ・ゲルグよりも大きな芽を成長させてしまったのだ。

 その結果に木田愛子自身も驚いており、裕二の目にはそれが演技には到底見えなかった。


 幼い裕二はそれを見て強い衝撃を受けた。


 超能力と言われるものも霊能力と言われるものも根源的には同じなんだ。なら魔法とか呪術とか気功とかも、その根源は同じなのではないか。


 そう考えたのがきっかけでオカルトに嵌り、自身もスプーン曲げ程度ではあるが超能力が使える様になった。そしてその後も様々な事をインターネットで調べ、数年前に知ったのが人工精霊やタルパと呼ばれる存在、その作り方だ。


 裕二はその作り方を実践し、数ヶ月かけてアリーという存在を作り出してしまった。


 そのタルパが、裕二の超能力とは別の秘密となる。


 タルパとは、無からイメージだけで霊的存在を作ったものだ。そのイメージは容姿や性格の細かい部分から始まり、声や仕草、喋る内容まで決める。それを長期間続けると普通に会話まで出来る様になる。

 作った本人の分身のようなものなので、その知識で裕二を上回る事は基本的にはない。だが裕二が忘れている事は答えられる場合もある。しかし裕二の記憶なら何でも答えられる、という訳ではないようだ。その点について忘れているのか欠落しているのかは謎だ。


 裕二は妖精の様な可愛らしい存在をイメージし、アリーを作った。

 アリーという名前はフェアリーの下を取っただけの安直なものではあるが、裕二はその名前が気に入っている。


 アリーの存在を感知出来るのは裕二だけで、物理的な事は一切できないし、手に乗せても重さはない。なので妄想と言えばそうなるのかもしれない。

 スプーン曲げと違い、とても人には言えないが、それでも、何でも話す事が出来る存在がいるのは裕二にとって、かけがえのないものでもある。


 そんな超能力者でタルパを作り出す裕二には、これとはまた更に別のオカルト的な興味を持つものがあった。


「これで明日の支度は終わりだな」

「裕二、数学の教科書入れてないよー」

「マジか! ヤベー」


 裕二は数学の教科書を探していたのだが、ふと手に取った本はそれではなく『異世界転生ストーリー』という、ありがちなタイトルのラノベだ。


「なあ、アリー。異世界って本当にあるのかな?」

「あるよー」

「前もそんな事いってたけど本当なのか? お前、俺と同じ知識しかないはずなのに何でそんな事言える」

「だって記憶にあるもん」


 裕二は前にもアリーに同じ事を聞いて同じ答えが帰ってきた。


 アリーが言うには、裕二の記憶には異世界とその行き方があると言う。しかし一度異世界に行けば二度とこの世界には戻れない。そして異世界に関してはそれ以外の記憶はなく、それは断片的な前世の記憶という感じらしい。

 裕二はそれを聞き、かなりワクワクしたのだが、一度異世界に行けば帰れないという部分でそれを実行出来ずにいた。

 そして時間が経つと、さすがにそんな事ある訳ないよな、という気にもなってくる。


「いやいや、そうじゃなくて数学の教科書」

「鞄の下だよー」


 そして裕二は少しだけ不思議な力のある普通の少年として毎日学校に通うのであった。


 だが翌日、裕二の運命は大きく変わりだす。



「お前が神谷裕二か。超能力使えんだろ。やってみろよ」


 教室の窓際に座り外を眺めていた裕二にいきなり声をかけてきたのは隣のクラスで有名な不良、永井茂だ。


 永井は裕二の小学生時代の友達からスプーン曲げの事を聞き、それを確かめにきたのだ。


「出来るけど曲げていいスプーンがないと出来ないぞ」


 裕二がかつて小学生時代に軽いいじめにあった原因がこれだ。

 周りは軽々しくスプーン曲げを見せろと言うが、スプーンだってタダじゃない。小学生の裕二に曲げる為だけのスプーンなど買える訳がない。なのでスプーンが無いから出来ないと言うと嘘つき扱いされる。

 何とも短絡的だが、小学生の思考だとその程度の奴はたくさんいる。中学生にもなればスプーンがない事を理解して諦めるか、稀に本当にスプーンを持ってくる者もいる。そういう場合は本当にスプーンを曲げて見せる。それでも信じない奴は信じないが、それ以上文句を言うやつも余りいない。

 しかしこの永井という奴の思考は小学生止まりなのだろう。裕二に食ってかかってきた。


「やっぱ出来ねえんじゃねえか。嘘つきやがって」

「だったらお前が曲げてもいいスプーン持ってこいよ」

「なんだとテメー! 本当に出来るならお前が用意すりゃいいじゃねーか。出来ねえからそんな事言ってごまかしてんだろ」


 めちゃくちゃな理屈で裕二を責め立てる永井。教室内はやや騒然とするが、誰も永井を止める者はいない。


「ハイハイ、わかったよ。スプーン曲げなんてできません。嘘ついてすいません。これでいいか?」

「テメー! ふざけやがって」


 永井は興奮して裕二の胸ぐらを掴み、その勢いでグイッと後ろに押した。

 しかしここは学校の四階にある教室の窓際。

 裕二は勢い余って窓の外に転落する。


「キャー!」

「バカ! 何やってんだ!」


 近くでそのやり取りを見守っていた生徒達が急いで窓に駆け寄るが、既に誰にもどうにも出来ない状況だ。


 裕二はその光景を下から見ている。

 永井の顔には大変な事をした、という焦りと後悔とも言える表情でこちらを見て、窓から半身を出し裕二に手を伸ばす。


 裕二は意外と冷静にこの光景を見ていた。

 そして、このままだと地面に頭を打って死ぬだろうとも思った。


 しかしその時――


『裕二、行く?』


 ――ああ、頼む。アリー。


『本当にいいのね?』


 ――このままじゃ死ぬからな。


 次の瞬間。裕二は目もくらむ程の光に包まれ、どこかに吸いこまれる感じがした。

 そしてそのまま気を失った。



「う、うう」

「裕二、大丈夫?」


 少し肌寒さを感じて目を覚ます裕二。

 目の前にはアリーがフワフワと浮いていた。


「スゲー頭痛と虚脱感だな」


 そう言いながら辺りを見回す。

 かなり高い場所にいるようだ。眼下には広大な森が広がっている。


「何だここ? 山か?」

「みたいだねー」


 裕二のいる場所は緩い斜面になっており、すぐそばには壊れた石碑がある。そこには何か書いてあったようだが、粉々の石碑からは何も読み取れない。

 そんなものを読み取ってる場合でもなく。他を見渡すが特に何もない。わかっているのは自分が山の中腹あたりにいる事。そして見渡す限りの森がある事。これだけだ。


「さっきまで教室にいて、永井に窓から落とされて……で、アリーの言った『行く?』ってのは異世界に行くかどうかって事だよな?」

「正解だよー」

「じゃあここは異世界なのか……山と森しかねーぞ」


 日本にもこのような場所はあるだろうから、ここが異世界とは判断しにくいが、アリーがそう言うのでそう思うしかないだろう。実際、教室からいきなり超常的な力でここに来たのだから。


 しかし裕二にはもっと重要な事がある。


「これからどうすんだ?」


 裕二は途方に暮れるのであった。


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