第05話
そして翌日……
お母さんは先におじさんと六角亭に行って待っているのかと思ったけれど、最初から私と一緒に行くつもりだったらしい。
「お母さん、お店に先に行って一緒に待っていなくていいの?」
「ええ。もうお店の人が全て用意してくれて準備万端だから、急ぐ必要は無いわよ?」
そういう意味じゃ無いんだけど、まぁいいか。
お店に到着して、そこで待っているのは勿論おじさんと正樹。
そして二人は向かい合わせに座って私達を待っていた。
「お待たせしました」
「いや、僕たちもつい先ほど来たばかりだよ」
簡単に挨拶を済ませ…… この座り方だと勿論私が正樹の隣かな。
そう思って正樹の側に行こうとすると、お母さんが先に正樹の隣…… おじさんの向かいに座った。
「あれ? お母さん、席そっちでいいの?」
「え? 勿論よ?」
これでいいらしい。
んー、これでどういう挨拶の仕方をするんだろう?
よく解らないまま、私はおじさんの隣に座る。
テーブルについて四人がシャンパングラスを持つと、乾杯の音頭をとったのは何故か主役の一人である筈のおじさん。
「それでは、今日の良き日に二人の門出を祝すに相応しいめでたい席を始めようか。乾杯」
混乱する私を余所に、三人とも当たり前のように中身を飲み干した。
よく解らないけど、とにかく合わせようと私も急いでシャンパンを飲み干す。
そして……
「おめでとう。それじゃ、二人とも挨拶をよろしく」
おじさんがそう言うと、正樹とお母さんが立ち上がった。
…………え?
「この度、俺と加奈子は結婚することになりました。今まで俺達を見守ってくれてありがとう。これからは俺達二人でその恩に報いられるよう幸せになる事を誓います」
「正嗣さん、暁美。私はこれから私の精一杯で正樹さんを誠心誠意支えて幸せな家庭を築いて行く事を誓います。今までありがとう…… そしてこれからもよろしく御願いします」
そして二人が深々と頭を下げた。
…………え?
…………え?
えーーーーーーー?
「どっ、どどどどど、どういう事!?」
「暁美?」
「暁美ちゃん?」
「暁美、どうしたの?」
三人が不思議そうに私を見る。
「どうしたもこうしたも、なんでお母さんと正樹が結婚することになってるの?」
「え? 暁美、昨日聞いたらわかってるって言ってたじゃないの」
「ええ? 私、てっきりお母さんはおじさんと……」
「ほら、やっぱり暁美、勘違いしてた」
「勘違い?」
「ああ、勘違い。俺、小さい頃から加奈子が好きで、中学の時にはもう加奈子しかいない!って思って口説いてたんだぜ? それで、高校卒業したらすぐ働いて加奈子を支えようと思ったらせめて大学は卒業してくれないと検討対象にもならないって言われてさ」
「ああ、それであの時、就職するかもって担任に言ってたんだね……」
全国模試でも上位クラスに入ってくる成績なのに何を言い出すんだって担任によく呼び出されていたのを覚えてる…… そんな理由だったんだ。
それにしても、中学からお母さんを口説いてた? 小さい頃からお母さんが好きだった?
小学生? 幼稚園? どんだけませガキだったのよ、正樹。
「大学生活を送れば冷静になって考え直すと思ったのよ。周囲に女の子も増えるし。そうすれば正樹さんにお似合いの子が見つかってその子と素敵な人生を歩めるんじゃないかって。なのに、それが逆にますます火をつけたみたいで……」
「当たり前じゃ無いか。大学で他の女見て益々加奈子しか駄目だって実感したし。俺、人生を共に歩んでいく相手に加奈子以外の女なんて考えたことも無いぜ? 夜のおかずだって加奈子の水着写真――――」
「わーーーーーーー それはいいから」
お母さんが慌てて正樹の口を手で押さえて塞いだ。
うっわー、筋金入りだわ、正樹。
幼馴染みの知らなかった一面に、ちょっとドン引きしそうですがいいですよね?
「まあ、そんなわけでな、暁美ちゃん。こいつにはずっと加奈子さんを嫁にしたいって言われて、最初はどうしたもんかと思っていたんだが、あまりにも真剣でな。それで加奈子さんを他の男に取られないように、僕が近くにいて牽制することにしたんだ」
「え? え? えー? おじさんがお母さんと仲睦まじく見えてたのは演技だったの?」
「演技と言うより予行演習かな。いずれ息子の嫁として家族になるなら仲が良いに超した事は無いから」
あまりもの話に、もう開いた口がふさがらない……
「それじゃ、おじさんにとってのお母さんって……」
「最初は息子の幼馴染みのお母さん。正樹に相談されてからは息子の嫁って認識だね。だから、意味は途中で変わったけれど、ずっと息子をよろしくってお願いしてた」
「それで良かったんですか?」
「ん? ああ、そういう意味か。世間的には確かに年齢的にも僕の方がお似合いに見られるだろうね」
実際、ついさっきまでそう思っていたから、素直に頷く。
「それでも、さっきも言ったけれど、正樹が真剣なのは男として凄くわかったからね。親として息子の幸せを願うなら、それを応援しようという想いしか湧かなかった」
「ありがとう、父さん。もう駄目かもと思ったときも父さんに支えられた。お陰で一番大切な人とこうして一緒になれた……」
そう答えて、少し瞳を潤ませながらも本当に嬉しそうな正樹と、この会話の間、終始真っ赤な顔をしながらも蕩けた笑顔で幸せそうに正樹を見つめているお母さんを見ると、こうなるのが二人の運命だったんだねと思った。
「でも、暁美こそ良かったの?」
「どういうこと? お母さん」
「私、暁美は正樹さんを好きなんだって思ってたから身を引かなきゃって思ってたのに、全然堪えて無さそうね」
「え? 全然思ってなかったよ。そんな事」
「やっぱりそうだよな。お陰で加奈子を貰い受けるのに、加奈子が俺を拒むだろう一番の理由が無くて助かってた」
「ずっと一緒に育ってきたからさ。正樹のことはお兄ちゃんみたいなものとしか思えなくて恋愛対象からは外れてたのよ」
「だよな。俺も確かに暁美は妹にしか思えなかったし…… ん? まてよ? そうすると、加奈子はお母さん? いや違う、最初から加奈子はお母さんとは思えなかったし…… けど男の初恋はお母さんだってよく言うよな…… まさか、それを拗らせた? そんなわけない、俺にとって最初から加奈子は一人の魅力的な女性にしか見えなくて………………」
なんだか正樹が真剣な顔でブツブツ言ってる。
「まあ、そんなのどうでもいいじゃない。正樹はお母さんと結婚したいって結論は変わらないんでしょ?」
「もちろんだ。俺は今までも、そしてこれからも加奈子一筋だって誓うよ」
きっぱりと言い切る正樹にまた頬を染めて照れるお母さん。
うん、そういう意識でこうして見ると、確かに良いカップルだわ。
「それじゃ正樹。お母さんをよろしくね。辛い目にあわせて泣かせたら蹴飛ばしてやるんだから」
「加奈子には喜びと悦びの涙しか流させるつもりはねーよ」
ん? 何か変な言い回しをされた気が……
あっちでは、小声で「ちょっと、何言ってるのよ……」とか言いながら、お母さんが正樹の太ももをつねってる。
うん、やっぱり何か意味深な言い回しだったらしい。
深く突っ込むのはやめとこう。




