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大団円ハッピーエンド企画 「幸せな想定外」  作者: 山口みかん
おまけ ~ 加奈子 ~
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第04話

 そして、高校入試……

 彼の成績なら県外にある超進学校でも余裕で大丈夫と先生にも太鼓判を押され、私達もそちらへの進学を勧めたのだけれど、彼はそれを一蹴した。


「勉強なら教材さえあればどこでも出来るけれど、加奈子さんはここにしか居ないから」

「駄目よ。間違えないで、大事なのは貴方の将来よ?」

「何も間違えてない。僕の将来だよ? 加奈子さんは。いいから見てて、間違ってない事を証明する」

「……正樹君……」

「加奈子さんが気に病む必要は無いよ。加奈子さんを信用させられない、安心して貰えない僕が未熟なだけだから」

「そんな事は――――」

「大丈夫、僕はここでもっと成長してみせる」


 そう言って彼は暁美と同じ近所にある普通の公立高校へと進学した。

 そしてここでも学年トップは勿論、全国模試でも優秀な成績を収め続けた。

 クラブには入らなかったらしく、中学での活躍を知っていた人達からは勿体ないと言われた。

 彼がクラブ活動を行わなかった理由は、社会勉強をしたいと言い出してアルバイトを始めたことによる。

 片親を理由に学校の許可を取ったらしい。

 母子家庭で無くても理由になるの? とは思ったけれど、成績は全く落とさないのだから誰も文句の付けようもない。

 何か欲しいものでもあるのかと思ったけれど、特に大きな買い物をするわけでも無く貯金をしている。

 本当に社会勉強の為らしい。


 そして、ホワイトデー、私の誕生日、クリスマスとそういうイベント時には変わらず私を口説きに来る。


「もう…… 良い人は居ないの?」

「目の前に居るけど」

「はぁ、こんなおばさんのどこが良いのよ」

「どこって、全部以外の答えは見つからないけど、どうしよう?」

「……もう……」

 ここまで言われて流石に悪い気はしない。

 だから顔も赤らんでしまうのも仕方が無い……

 そんな私を見てニコニコしている彼が憎たらしいったら。


「うん、ちょっと嬉しい反応だな。来年は十八歳で、加奈子さんと結婚できる年齢になるし、もっと意識して欲しいな」

「待って、そんな事より考えるべきは受験でしょ?」

「え? 俺、受験しないよ?」

「はい? どういう事?」

「早く就職して、自分の力で加奈子さんを支えたいんだ」

 ……駄目……この台詞は流石に聞き逃せない。


「正樹君……」

「なに?」

 声を固くした私に彼がきょとんとして反応する。


「何考えてるの。私の為に就職? 進学できる力もそれを支えてくれるだけの親も居て私の為に就職?」

「どうしたの?」

「全然嬉しくない。そんなのは真っ平ご免だわ。進学したくても色んな理由で進学できない人も居るのよ? なのにそうしない理由が私? そんな理由なんて冗談じゃないわ」

 彼はもっともっと大きく羽ばたけるだけの力を持っている。

 進学したからと言って必ずしも成功するわけじゃない。

 それでも選択肢を増やすという意味において、進学する事は重要な事だと私は思う。

 それを私の為に捨てる? 冗談じゃないわ。


「加奈子さん……」

「私を幸せにしたい? そんなのは少しも幸せに思えない。私とそういう話がしたいならせめて進学しなさい。それがスタートラインなの。大学に行ってもっと沢山の人と知り合って、沢山の可能性を掴み取ってきなさい。そして大事な人が誰かもう一度考え直しなさい」


 それが私ではない誰かであればいい……

 そして普通の幸せを掴んで欲しい。


「……わかったよ加奈子さん。俺、進学するよ。そこできちんと自分を見つめてくる」

「うん、頑張って。正樹君」

「ありがとう、加奈子さん」


 そして彼は県外の有名大学へと進学し、家を出た。

 月に一度はこちらに帰ってきて近況を教えてくれるけれど、私を特定の相手と見なしたアプローチは無くなった。

 これでいい……

 これでいいの……

 本当はあんなに真っ直ぐ私に愛を向けて貰えたことはずっと嬉しかったわ、正樹君。

 ありがとう…… 幸せになってね。



 そして暁美も県外にある女子大へを進学したが、それはたまたま正樹君の行く大学の近くだった。

 だったらこれ以上安心出来る場所も無いという事で同じアパートの隣同士の部屋へと入居させた。


「暁美、チャンスよ。ここで正樹君を落としちゃいなさい」

「え? あ、うん…… そう……だね」

「暁美、どうしたの?」

「ううん、なんでもない。正樹に見て貰えるように頑張るよ」


 私にとってもう一つの懸念。

 それが暁美の事だった。

 出会いから正樹君に助けられて、以来、ずっと暁美は正樹君にべったりだった。

 中学に入ってからは流石にそこまでくっついていることはなかったけれど、学校の友達に公認夫婦と言われ続けて育ってきた二人だ。

 確かに正樹君の目は私に向いていたけど、暁美は……


 二人は今でも微笑ましいくらいに仲が良い。

 私の友人達にも、ご近所様方にも、将来は二人が結婚するのは間違いないと思われている。

 正樹君さえ私から目が覚めればきっと……


 そして私自身、暁美なら…… と思える。

 自分自身の心の整理の為に暁美を利用しているようで心苦しい面はあるけれど、暁美が正樹君を好きなら何も問題は無い。

 そうして、心の底から祝える日を願って二人を送り出した。

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