迷宮学園へようこそ!
ンムッハハハハハハ! ようこそ、迷宮学園へ!
ワシの名はアルベルト・ラダマンテュス。ここの学園長をしておる。
この迷宮学園は知ってのとおり、校舎全体がひとつの巨大な迷宮となった学園だ。冒険者を志す、キミのような熱意ある若者に、いつでも門戸を開いておる。
……む? ダンジョンマスターは誰であるかだと?
ンムッハハハハハハ! それは当然、ワシである。
このダンジョンは、かれこれ700年前にワシが作ったものである。最下層にたどり着いた者には、望む報酬をなんでも与えると看板を出し、挑戦者を募っだのだが、いやぁ、ンムッハハハ、ちいっとばかし難易度が高すぎたようでのう! これではイカンということで、400年前に迷宮学園へと改装したのだ。
なぁに、心配するな。改装といっても、仕掛けやモンスターはほとんど変わっておらん! 難易度は当時のままよ! それに、ここ100年ばかりで、ようやく到達者も出てきたところだ。まぁ、それでもほんのひと握りであるがのう!
おお、そうだ。君の名前を聞いておらんかったな!
……ふむふむ。良い名前だ。
それで? 君はこの迷宮学園に何を望むのかね?
冒険者になるための一流の指導? もちろん叶うぞ。このダンジョンに過去挑んだ、一流の冒険者を、指導者として取り揃えておる。
それとも、一生食い扶持を稼げるだけの富? それも叶うぞ。ダンジョンの中に眠っている宝は、すべて見つけた者の財産となる。欲張りすぎて命だけは落とさんようにな。
あるいは、生と死の間をくぐり抜けるような、スリリングな冒険かね? それだって叶う。
あるいは………、
……ふむ? ほう、ホッホウ!
ンムッハハハハハ! ンムッハハハハハハハハハハ!!
いやいや!
いやいやいや、失礼! 決して嘲笑したわけではないのだよ!
なるほど、それが君の望みか。もちろん叶うぞ! この迷宮学園は欲望の坩堝! 君が望み、手を伸ばし、そしてそれに見合うだけの実力を持っているならば、君はあらゆる願いを叶えることができる! ンムッハハハハ、もちろん、そのためにいくつの命を落とすことになるかは知らんがね!
しかし気に入った! 気に入ったよ、君!
ついてきたまえ、君にこの学園を少し案内しよう! それに、少しばかりクセのある教員たちもな!
<地下1階 南広間>
ベルナディート 種族:人間
担当教科:【戦闘学】
ここは地下1階の南広間だ。元々はエントランスとして作ったのだがね。今は、ベルナディートが戦闘学を教えておる。
戦闘学は、ダンジョン内でのあらゆるサバイバルの通じる基礎学問のひとつだ。ダンジョンの中には、手ごわいモンスターがウヨウヨいるからのう。武器を使い、あるいは使わずとも、そうした恐るべき魔物から身を守り、対抗手段を押してくれるのが、あのベルナディートというわけだな。
……なに? 傷だらけではないかと?
ンムッハハハハハハ! そうだのう。奴は少しばかり危なっかしいところがある。呼んでみるか。
おおい、ベルナディート!!
「ハッ、この声は学園長殿!!」
ベルナディート、こっちだ!!
「おお、学園長殿! このベルナディートをお呼びでございますか! ―――よし、お前たち! しばし自習! 今教えたことを、2人1組で試してみろ! なに、人数が余る? 知らぬ! 余ったなら力ずくだ! 吾輩の教えた通りにしろ!」
……まぁ、ベルナディートはこんな奴でのう。んむ? ンムッハハ、そんな顔をするでない。
確かに顔はおっかないが、まあなかなか、気のいいやつなのだ。
「学園長殿、そちらの若者は?」
おお、ベルナディート。こちらは、これから学園に入学しようという、前途有望な若者だよ。
「ほう! そうか! 良い目をしているな! 吾輩はベルナディート! 【戦闘学】の担当教官にして、初めてこの学園迷宮を単独制覇した男だ! 貴様も入学したら、必ず俺の【戦闘学】を受講しろ! ダンジョンとは戦いだ! 戦いこそが全てだ! 戦闘こそが全てに通ずる道なのだ! 並み居る魔物たちを、ちぎっては投げ、ちぎっては……む? なんだと? 魔法や罠探知は要らないのかだと? バカモン! そんなもの、鍛えられた肉体の前では、すべてが無意味だ! 良いか! ハック! アンド! スラッシュ! ダンジョンの基本はそれだ! 覚えておけ!!」
聞いての通りだ。ベルナディートは、戦いしかできん男でのう。
……なに? それでこの学園迷宮を制覇できたのか? いやあ、それができてしまったのだなあ。ワシにも驚くべきことではあったが。この男は、身体ひとつと、自慢の両手剣ですべての階層を踏破したのだ。後にもさきにも、こいつだけよ。
「どのような罠であろうとも、鍛え抜かれた肉体の前では無意味!」
まあ、あまり真似せんほうがいいぞ。だが、武器の扱いや、戦いの知識に関してはこの男の右に出るものはおらん。それにこれでいて、案外面倒見が良いというか、けっこう教えるのが上手いでな。
では、次に行こうか。
<地下1階 東広間>
シルファミア 種族:エルフ
担当教科:【魔法学基礎】【迷宮医学】【魔法学応用Ⅲ】
ここは東広間だ。エルフのシルファミアが、魔法学の基礎を教えておる。シルファミアは迷宮医学の担当教官も兼任しておってな。ちょっとばかりおっとりしすぎたところもあるが、それでも、ベルナディートほどの変人では……、
「zzzz……」
……む、寝ておるな。こののんきに寝息をたてているエルフがシルファミアだ。
こら、シルファミア。昼間から惰眠をむさぼるでない。シルファミア……。
………。
シルファミア!!
「ひゃあ!!」
起きたかこのねぼすけめ。だいたい、もうすぐ魔法学の講義ではないのか?
「ふぁ……んん……。ああ、確かにそうです……。ごめんなさい、がくえんちょ……ふわあ……」
君の講義は休講が多いと、生徒から苦情がきておるぞ。
まあ良い。シルファミア、こちらは、この学園への入学を希望している、前途有望な若者だ。
「ふわあ……。ああ、んん……。おはようございます……。はじめまして、シルファミアです……。魔法学のぉ……基礎とぉ……えっと、迷宮医学を……担当してますぅ……」
こんな様子だが、実力のある魔法使いだ。魔法を習うのであれば、もっとほかの行くべきところもあるだろうが、シルファミアの講義はこの迷宮で必要な魔法を、基礎から優しく教えてくれる。
「はあい……。ダンジョンではぁ……必要な魔法がぁ……地上と違ったりするのでぇ……。火を起こす、水の上を歩く、不意な突風から身を守る……。明かりをつけたり、他にもいろいろ……。道具で代用すれば楽ですけどぉ……。かさばって持ち歩けなかったり、道具が切れてしまったり……。そういう時はぁ、クレバーな、魔法使いの出番なんですよぉ……。魔法使いのお仕事はぁ……。2種類あってぇ、他の人の仕事や、道具を使った作業の負担軽減とぉ……。あと、攻撃魔法で、どかーんってやる……。ふわ……。まあ、これは【魔法学応用Ⅰ】の……アベルさんが詳しいです……」
シルファミアが担当するもうひとつの教科についてだが、これはその名のとおり、ダンジョン内で発生しうる負傷などへの対応を教えておる。【迷宮医学】を学んでいる者の有無は、探索において生死を分ける分水嶺となることもしばしばだ。こっちの方向を詳しく学ぶのであれば、最終的にはやはりシルファミアが担当する【魔法学応用Ⅲ】を受講することになるであろうな。
見ての通り、すぐ寝てしまうのだがな。ほら見たまえ。もう船を漕いでおる。まあ良い。あとで減給しておこう。
では、次に行こうかね。
<地下1階 北広間>
フーピン 種族:ピグミー
担当教科:【罠対処学基礎】【罠対処学応用】【暗号解読学】【フィールドワーク】
ふむ、少し疲れてきたかな? まあ立て続けに癖の強い教官とあたってきたから仕方がない。
次の広間にいるフーピンは、この学園の中でももっとも良識をわきまえた男であるから、安心したまえ。
フーピンは、迷宮探索の基本である【罠対処学】の担当教官だ。
ダンジョンに潜るのであれば、フーピンの教えるこれらの学問は必修と言える。ベルナディートのことは、今は忘れておきなさい。もちろん、専門的に学んでいくのであれば、基礎だけでなく応用も学ぶ必要があるが、その応用についても、このフーピンが教えてくれる。
まあ、詳しいことは本人から聞くと良い。
「おや、学園長。こんなところまで珍しい。久しぶりに、掘り出し物の新入生ですか?」
うむ。なかなか見所のありそうな逸材である。
「ようこそ、新入生。俺はフーピン。こんなナリだけど、【罠対処学】の担当教官でね。今年で32だ。人間で言うと65歳くらいかな。そろそろ引退したいんだけど、学園長がなかなか許してくれなくってねぇ……。あ、この眼鏡は伊達だよ。君は、トラップってどんなものがあるか知ってる? ……ふむふむ。うん。そうだね。間違ったタイルを踏んだら槍が出てくるとか、大きな岩がゴロゴロ転がってくるとか! そう。そういったトラップを未然に発見し、回避したり、解除したりするのが、迷宮探索では肝要なんだ。余計な消耗はしたくないしね。長生きできない。難しいもんじゃないよ。慣れてくるとカンタンさ。それに……こう、ドキドキしてくる。この部屋にはどんな仕掛けがあるんだろう!? ってね! トラップっていうのは、そのダンジョンを作った人が、一番丹精を込めて作る部分なんだ。広い意味で見れば、モンスターや、ダンジョンの迷宮構造そのものが、大規模なトラップと言えるよね! それでいて、非常にシステマチックにできている! トラップっていうのは芸術なんだ! ダンジョンマスターとの、知恵を凝らした白熱のバトル! こちらの武器は、積み重ねてきた知識と経験だけってわけ! 燃えるよね! 俺がいままでに発見してきたこの迷宮のトラップは、1億3820万4921個なんだけど、その……」
フーピン。
「はい。……ああ、えぇっと、そうだ。【暗号解読学】の担当も兼任しているよ。トラップを解除するのに、暗号解読が必要になることも多いからね。君も是非、この学園で、いろんなトラップを体験してみてほしい。オススメは地下4階の金ダライかな。けっこう、奥が深いんだ。あと、地下5階の甲冑外しのところに女の子を連れて行くのも楽しいよ」
こんな男だ。この迷宮学園のトラップについて、ワシの次に詳しい男だよ。いや、ワシより詳しいかもしれんな。ワシも仕掛けたトラップのうち、1億個くらいしか覚えておらぬ。即死級のものから笑えるものまで、いろいろ取り揃えたからのう。
【罠対処学応用】では、罠を使ったイタズラなんかも教えているらしいぞ。おおっぴらには言えんことだがな。
<地下1階 西広間>
ゴルゾロ 種族:ドワーフ
担当教科:【鑑定学】【素材応用学】【錬金学】
今まで会ってきた教官たちは、すべて基礎学問の担当でな。最終的には、そのいずれかの学問をひとつかふたつに絞り、エキスパートになっていくのが、理想の冒険者の姿ではある。
この西広間でゴルゾロが教えている【鑑定学】も、基礎学問のひとつだ。
あそこで仏頂面をしてアイテムをいじくっている、無愛想な男がゴルゾロである。
「………」
まあ、偏屈なのでな、あまり気を悪くせんようにな。
おおい、ゴルゾロ。こちらに挨拶をしてくれんか。
「……ゴルゾロだ。……アイテム関係の学問を教えている」
ワシが代わりに説明しよう。【鑑定学】は、まあ言うまでもないな。迷宮で見つけたアイテムがどういったものか、それを判別するための学問だ。サバイバルをする上で、現地調達は基礎中の基礎。そういった意味では非常に重要な学問と言える。食えるキノコと食えないキノコを見分けられるだけで、だいぶ違う。
……ふむ? ベルナディート? あいつのことは、今は忘れておけ。
そうして、見つけたアイテムを上手く活用するために【素材応用学】があるわけである。魔物から剥ぎ取った素材を調合して薬を作ったり、簡単な武器にしたりだな。こういった学問に面白みを覚えるなら、【錬金学】まで受講してしまうと良い。最終的には、ダンジョンの中にある素材だけで、自給自足の生活ができるようになるぞ。ゴルゾロの受講生の中には、その生活が楽しすぎて迷宮の下層部から戻ってこない生徒が何人もおる。一応、在籍扱いにはしておるがな。困ったものだ。ンムハハハハハ!!
ゴルゾロ、君から何か言うことはあるかね?
「……持っていけ」
ほう! 珍しいこともあるものだ! ゴルゾロが誰かに自分の鑑定した品を手渡すとはな! さてはゴルゾロ、こちらのことをだいぶ気に入ったな!
「………」
ンムッハハハハ! 素直ではないやつだ!
さて、これで基礎学問の教官は紹介し終えたな! 彼らはみな、四つの寮の寮監督でもある! この迷宮学園に入学するのなら、もっとも顔を合わせる機会が多くなることだろう! いや、4人とも君のことを気に入ったようで何よりだな!
むろん、これ以外にも様々な教官がおる! 【魔法学応用Ⅰ】のアベル、【魔法学応用Ⅱ】のアリアシエル。ダンジョン深くに潜るならば、魔物の生態を知る【迷宮動物学】は必須であろうな! これを担当しているミルマッセは、【迷宮における泉のエンジョイ学】も担当しておる。一流を目指すなら、やはりレベッカとレオンの【討竜学】も、一度は受講しておくべきだな!
まだまだある! まだまだあるが、今日はここまでにしておこう!
君がどのような冒険者になり、そしてこのダンジョンを制覇するのか!? あるいは志半ばに力尽きるのか!? それすらも、ワシにとっては楽しみで仕方がない! 是非とも当学園に入学し、君だけの迷宮ライフを見つけてくれたまえ!
ンムッハハハハハ! それでは、また会おう!!