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支援系JKと征く、VRMMO遊行譚  作者: 柊 紗那
第一章 有給編
8/9

ログアウト

「これからどうします?」


 男達が逃げていったあと、ハーティアの言葉に時計を確認する。時刻は11:30。なかなかいい時間だ。


「俺はこれでログアウトするよ。少し疲れたからね」


「司さんが落ちるなら私も落ちます。どうせ一人じゃ何もできませんから」


「そうか。それじゃまた明日」


「はい。また明日」


 メニューを操作し、ログアウトを選択する。

 視界が薄れ、徐々に意識が遠くなっていった。






「…………はぁ」


 遠くなっていた意識が明瞭になり、目を開けると見覚えのある天井が映った。ハードを頭から外し、枕の横に置いて起き上がる。

 すると、狙ったようなタイミングで携帯の着信音が鳴った。画面には佐藤課長の文字が。


「もしもし、佐藤課長どうしました?」


 まだぼんやりする頭を押さえながら携帯を耳に当て、そう聞いた。


『お、電話に出るってことはログアウトしたってことか。どうだった? 初のVRMMOは』


 佐藤課長の問いに、少し考え込む。

 <Arts Magic Online>は序盤の敵すら一人じゃまともに倒せないような超シビアゲームらしいが、特に俺はそんなことはなく、少しトラブルがあったものの楽しめた。年甲斐もなくはしゃいでしまった部分も少しあったくらいだ。


「楽しかったですよ。いい歳した私が童心に帰るくらいには」


『そうかそうか。なら勧めた甲斐があったものだ』


 思ったことを率直に伝えると、佐藤課長は嬉しそうな声色でそう言った。


「……佐藤課長。やはりどのゲームにもマナーのない子供はいるんですね」


『そうだな。ここまで技術が進歩しても、人はそう簡単には変わらないということなんだろう。だが、一体どうした?』


 少し哲学的な佐藤課長の言葉を聞かながら、事のあらましを話す。


「……」


 話を聞いた佐藤課長はしばらくのあいだ口を閉ざしていた。


『お前は無責任な奴じゃない。言った言葉には責任を取るし、言い切ったことはやり遂げる。俺はそこを高く評価しているし、だからこそ近くに置いた』


 佐藤課長は滅多に人を褒めない。確かに褒めるときは褒めるのだが、その大半が、人を戒める時だ。佐藤課長の言わんとしてることがひしひしと伝わってきた。


『だがな、ゲームすらまともにやっておらず、自分のことで手いっぱいのお前が、お荷物抱えてやって行けると思ってるのか? たとえやっていけたとしても、その少女のことを気にかけて楽しめるのか?』


 確かに、ゲームは楽しむ物。プレイする本人が楽しめなければ本末転倒だ。だが、一概に楽しむと言っても、プレイヤーによって楽しみ方は千差万別。弱いプレイヤーを援助──というのかどうかわからないが──して自己満足に浸るのも一種の楽しみ方だと思うのだ。


『お前がそこまできにかけるのか』


「……私が言おうとしたことがわかるのですか?」


 考えたことを伝えようと口を開いた瞬間、佐藤課長が俺が言おうとしたことをわかっているような口ぶりで言葉を紡ぐ。思いや考えは言葉にしなければ伝わらない。そう思っていたため少し驚いた。


『「確かに楽しめなければ本末転倒。だけど楽しみ方はプレイヤーによって変わり、自己満足に浸るためのプレイをしてもいいのではないか」だろ?』


「なぜわかったのです?」


「なぜって言われてもな。何年一緒に仕事したと思う? 全て、とは言わんが、お前の考えてることは大抵わかるさ」


 言葉を失い、天井を仰ぐ。思いや考えは言葉にしなければ伝わらない。

 それは今でもそう思っているし、確かに出会ったばかりの人にはそうしなければ伝わらないのかもしれない。だけど、自分の事をよく理解してくれている人には大抵のことは伝わるらしい。


「ありがとうございます」


『いいってことよ』


 じんわりと胸が温まり、佐藤課長に礼を言う。佐藤課長は照れたように笑った。


『それにしても、<豪鬼>に目をつけられたか。いいことなのか悪いことなのか、判断に迷うな』


「ガンツさんはそこまで有名なのですか?」


 男達が一目見て這い這いで逃げてったのを見て、そこそこ名前の売れているプレイヤーだとは思うが、正確のところまでは把握していない。


『まあ、アイツは一応トッププレイヤーだからな。草原のボスを初めて倒したのはアイツらしいって噂だ』


 佐藤課長は親しそうにアイツと呼んだ。少なからずトッププレイヤーであるガンツさんと関わりがあるらしい。


「そこまで凄い人だったんですね」


 凄い人とは思っていたが、そこまでとは思ってなかった。

 だが、そうなると、どうして俺に声をかけたのか疑問になってくる。本人は肝が据わってるから、と言っていたが。


『おっと、もうこんな時間か。すまんな、こっちからかけておいて。仕事が残ってるから切るわ』


 電話の向こうから誰かから催促するような声が聞こえ、佐藤課長は慌てたような口調で言った。


「いえ、お仕事頑張ってくださいね」


 そう挨拶を交わし電話を切る。耳から携帯を離し、枕元へ置いた。

 目を瞑ると、今日あったことが鮮明に浮かび上がってくる。楽しいことも少し辟易することもあったが、佐藤課長から言われたことは自重しなければならないだろう。

 そのことを胸に刻み、ベッドに横になった。


こうして、俺のVRMMO一日目は終わったのだった。
















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