はじめての対人戦
「はっ!」
────ARTS 《シールドバッシュ》────
鋭く吐き出した息と共に踏み込み、蒼白く輝いた大盾で向かい来る<ラビットラット>をぶん殴る。
ガゴッと鈍い衝撃が腕に伝わり、<ラビットラット>は弧を描きながら宙を舞って地面に叩きつけられ砕け散った。
「まあ、及第点」
突き出した腕を元に戻し、そう評価する。現在俺は、敵の攻撃に合わせて<アーツ>をぶち込む練習をしていた。後ろでは、今さっきパーティを組んだばかりのハーティアが唖然として俺を見ていた。
「え、えっと、本当に私が必要なんですか?」
「一対一じゃ負けることはないけど、流石に2体とか複数対相手じゃ流石にダメージを負うからね。しかも、俺は【筋力上昇】に大半を割り振っているから攻撃力はあるものの、防御力はあまりないからね」
うん、嘘はいっていない。2体になると流石にアーツ硬直中に突進を喰らうだろうが、まあだとしても食らったとしても普通に倒せる。嘘に本当のことを混ぜると現実味が増すというし、さっきついた嘘はこれで信じやすくなっただろ。
「あ、レベルアップしました!」
「おっ、おめでとう」
パーティを組んだことでスキルEXPが分配されるため効率は少し落ちたが、まあ、まだ許容範囲。ガッチガチに攻略を目指すというわけでもないしな。
「んー、スキルポイントはどうしましょう」
「1ポイントくらいなら溜めといた方がいいんじゃないか?」
初期のスキルポイントは全て割り振っていたみたいだから、そう提案する。溜めていた方が不測の事態に対応できるだろうしな。
「さて、そろそろ帰るか?」
「え、でも、司さんがまだ……」
まあ、確かに俺のレベル上げはまだできてない。でも、正直【透視】事件でそんな気分にはなれないんだよなぁ。
「というわけで、街に帰ろうか」
「どういうわけなんですか……」
ハーティアはそう言って肩を落とすも、笑いながら街へと歩く俺の後に続いた。
「おい! さっきはよくもやってくれたな!」
門をくぐり、大通りを抜けて広場に出たあたりで、後ろからそう怒声が聞こえた。
振り向いて確認してみると、先ほどハーティアに難癖つけていた男達が立っていた。ため息をつきつつも男達に向かって肩を竦める。
「なんのようだ?」
「決まってるだろ! そいつを返せ!」
返せ、ね。肩越しにハーティアを盗み見ると、俺の背中で震えていた。
「返せとは横暴だな。こいつはお前らの所有物じゃない。誰と組もうとお前らにとやかく言える筋合いはないと思うんだが?」
「うるせえよ!」
正論をぶつけると、返答として<決闘>の申請が返ってきた。しかも<HP全損>。男に気づかれないように周囲に目を配らせるが、ガンツさんはいない。…………仕方がない。
「覚悟はいいな!」
仕方がなくyを押し、承諾する。すると、空中に数字が表示された。その数は30。どうやら<決闘>が始まるまでのカウントダウンらしく、一秒経つごとに数字が減っていく。
それとなく俺達を囲む野次馬達に目を向けると、どことなく高揚した雰囲気が伝わってきた。
やれやれ……見世物じゃないってのに。
肩を竦めながら大盾と片手剣を構えると、男は盾も持たず右手に片手剣を握ったままステップを踏んでいた。
3……2……1……0!
「しねぇ!」
カウントがゼロになり、ブザーが鳴り響くと男が突っ込んでくる。片手剣を振り上げるのが見え、大盾を構えた。
────ARTS 《ステップ》────
が、来るべき衝撃は来ず、変わりに視界の隅に高速で俺の背後に移動する男が映った。
「あぶなっ」
「ちぃっ」
慌てて振り向いて振るわれる片手剣に片手剣をぶつけ、男を弾き飛ばす。
……なるほど。大盾を構えて視界が塞がったところに、<アーツ>を使って背後に回ったのか。やるな。
「ふっ」
振りかぶられた片手剣を確認すると、大盾を構える。そして、再び背後に回った男を弾き飛ばす。
────マズイ。
大盾を構えると前が見えなくなるのは当たり前で、構えた一瞬は前方が把握出来なくなる。そこを突かれるのは痛い。男の速度自体は大して早くないから大丈夫だが、このままじゃいずれ攻撃を受ける。かと言ってこればかりはどうしようも────まてよ? 確かさっき【透視】を取得したよな。【透視】は、少し割り振っただけじゃなにも透視できないから不遇スキルと言われていたが、10割り振った場合はどうだ?
「終わりだ!」
叫び声と共に振りかぶられた片手剣を目視すると同時に大盾を構える。視界が大盾で塞がった瞬間、【透視】を発動させた。
────ARTS 《ステップ》────
大盾の先が透けて見え、掻き消える男の姿を捉えた。
────右回り。
────ARTS 《スラッシュ》────
蒼白い光を纏った片手剣を薙ぐように右回りに振るう。
「ぐおぁっ」
結果、背後に回った男の腹を深く切り、吹き飛ばした。
男は地面を転がり、砕け散る。
『WIN 司』
その瞬間、空中にホログラムウィンドウが現れ、勝者を告げた。
「さて、まだやるか?」
一息ついて武装を解くと、残りの男はブンブンと勢いよく首を横に振り否定する。
俺はそれを見て、再びため息を吐くのだった。