はじめてのパーティ
<ラビットラット>が俺を見つけ、早速突進を仕掛けてくる。それを見つめ、【青銅の大盾】を構えた。
ガツンッという重低音を響かせて【青銅の大盾】に激突した<ラビットラット>が地に落ちる。すぐに起き上がると思いきや、動かなかった。
「……もしかして、ピヨってる?」
疑問に思い<ラビットラット>に目を凝らす。
ああうん、これはピヨってるわ。状態の欄に星マークついてるし。……どうしようか。いくら敵とはいえ、無抵抗な状態の時に痛ぶるのは流石に抵抗が……いや、それは甘えか。サクッと殺ってしまおう。
「せーのっ!」
「ギュッ」
【青銅の片手剣】を<ラビットラット>の首に突き立てる。肉を断つ感触が手に伝わり、突き立てられた<ラビットラット>は変な声を漏らしながら一度大きく体を跳ねさせて、そして砕け散った。
……うわー、なんというか、うわー。
肉を断つ感触までは再現しなくてもいいんじゃないか?
ぐにゃってなったぞぐにゃって。
「お、LVアップ?」
【青銅の片手剣】をインベントリにしまって手を握ったり開いたりしていると、ファンファーレが頭の中に響いた。
早速メニューを開いて確認してみる。
【プレイヤー名】司
【種族】ヒューマン
【LV】2
【スキルEXPゲージ】0/20
【所持スキルポイント】11
【HP】215/215
【MP】0/0
【AP】60/60
【アクティブスキル】
【片手剣】LV1
【大盾】LV5
【バッシヴスキル】
【筋力上昇】LV30
【装備重量軽減】LV5
おお、ちゃんとLV2になってるし、スキルポイントも1増えてるし。なんか感激だ。
11か……ぶっちゃけ今はそんなに苦労してないし、今の【パッシヴスキル】を強化する必要もないし、新しいスキルを持った取得するか。
メニューからスキル取得の欄を開き、膨大な数のスキルが載ったホログラムウィンドウを表示させる。
「あ、司さん!」
「うおっ!?」
スクロールさせているところに、誰かから声をかけられた。驚いて飛び上がってしまう。その時に指がなにかに触れ、ピッ、ピッ、という不吉な音が聞こえた。聞こえてしまった。
やばい。やばいやばい。とてつもなく嫌な予感がするっ。確認したくない。でもしないわけには行かないっ。
「司さん?」
誰かが近くに寄り、再度声かけてくるが無視。それどころじゃない。急いでメニューを開く。
【プレイヤー名】司
【種族】ヒューマン
【LV】2
【スキルEXPゲージ】0/20
【所持スキルポイント】11>0
【HP】215/215
【MP】0/0
【AP】60/60
【アクティブスキル】
【片手剣】LV1
【大盾】LV5
【透視】LV10
【バッシヴスキル】
【筋力上昇】LV30
【装備重量軽減】LV5
あああああああああっ!! やっちまった!! 全部振り分けちまった!! しかも振り分けたのって不遇スキルの中でも上から数えた方が早い【透視】かよ!!
そんなのに10も割り振って…………どうすんだよ、これ。
「司さん?」
「あぁ?」
「ひっ!」
自分でも驚くほどの低い声が出た。
呼びかけていたプレイヤーに目を向けてギョッとする。ハーティア!?
なんでここに? っていやいや、その前に完全に怯えてらっしゃるじゃないですかやだー。
「あ、ああごめん。ちょっとスキル取得でミスってさ」
「そ、そうだったんですか。ち、ちなみに何を取得したか聞いてもいいですか?」
……………………どうしよう。いや、まあ正直に答えるしか選択肢はないんだけど。
口ごもる俺を心配そうに見るハーティアに負け、起こった悲劇を話した。
「……本当、ですか?」
「ああ。ハーティアのせいにするつもりは毛頭ないけど、なんだ、ハーティアに声をかけられて驚いて【透視】に全部振り分けたことは事実だ」
話を聞いたハーティアさん顔面蒼白。いやほんと、どうしようか。
あれから宥めること早五分。ようやくハーティアを落ち着かせることができた。
「すみませんでした」
「いやいや、気にしなくていいよ。そういえば、ハーティアはなにしにここへ?」
ハーティアは男達のパーティから抜け、ソロになったはずだ。草原にくるってことはやることはレベリングなんだろうけど、俺みたいに【パッシヴスキル】に振り分けているなら別だけど、<ラビットラット>はソロで狩れる相手じゃない。
「あの、その、れ、レベリングに」
ハーティアの消え入りそうな声を耳に、片手で頭を抱えた。
「わかってると思うけど、ソロじゃ無理だ。パーティを組むなりなんなりしないと────」
「もう嫌なんです。あんな思いをするのは」
俺は静かに空を仰いだ。
確かにそうだ。女の子が大人の男にあんな風に恫喝されていたら、他の人とパーティを組もうとは思わないだろう。かと言ってソロでやって行けるほどこのゲームは甘くない。何度も言うが、【パッシヴスキル】に振り分けていたら別の話だ。
正直に言って、ハーティアの今の状況は八方塞がりだ。
────俺がいなければ、の話だが。
自分の甘さにうんざりする。正直他人の面倒まで見れるほど手は空いてないだろうに。
「ハーティア。スキル構成を見せてくれるか?」
「え? ……わかりました。司さんになら、見せます」
少しの逡巡の後、ハーティアはステータスを俺の前に表示させる。
【プレイヤー名】ハーティア
【種族】ヒューマン
【LV】1
【スキルEXPゲージ】8/10
【所持スキルポイント】0
【HP】215/215
【MP】550/550
【AP】60/60
【アクティブスキル】
【杖】LV1
L【回復魔法】LV15
【パッシヴスキル】
【知性上昇】LV11
【精神力上昇】LV11
【自動MP回復】LV11
…………これは、見捨てられないな。
ハーティアのスキル構成を見て、そう決意が決まった。というか、このステータスを見て見捨てられるやつは鬼だろ。
「なあ、ハーティア。しばらく俺とパーティ組んでみないか?」
まあ、見捨てられないとか言っておきながら、ハーティアがパーティを組むことに承諾してくれたなら、の話だがな。
少し不安を覚えながら、話を持ちかける。
「え?」
「はっきりと言わせてもらうが、このスキル構成じゃソロは無理だ」
断言すると、ハーティアの肩が跳ねた。恐る恐ると言う感じで俺の顔を見上げる。
「私に、『寄生』しろというんですか?」
『寄生』。ネトゲ用語で、おんぶに抱っこでレベルをあげてもらう等、PTにいるだけで役立たずのプレイヤーを指す言葉だ。
「いや、そうとは言わんさ。<ラビットラット>をソロで狩れるとはいえ、少しきつくてね。ダメージを受けたりするんだ」
嘘だ。きつくなんてないし、直接ダメージを受けたこともない。
嘘を優しいというのなら、現実は非情なのだろう。
まだ幼い少女に、厳しい現実を突きつけるのは些か躊躇われた。
「俺は回復してもらって、ハーティアはレベルをあげてもらう。ほら、winwinの関係だろ?」
内心をひた隠して、微笑みかけながらそう話す。
「わかりました。お願いいたします」
そう言って頭を下げるハーティアに、チクリと胸が痛んだ。