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支援系JKと征く、VRMMO遊行譚  作者: 柊 紗那
第一章 有給編
3/9

キャラクタークリエイト

 気がつくと俺は白い空間にいた。

 地に足がついているようでついていない。

 そんな不思議な感覚を味わいながら、辺りを見回す。


『〈Arts Magic Online〉の世界へようこそ。名前を入力してください』


 一通り見回し終え不思議な感覚にも慣れ始めた頃、どこからともなく無機質な女性の声が聞こえてきた。


 そういえば聞いたことがある。デスゲームを起こしたVRMMOは、全て完全自立型AI、通称アリスによって管理されていたということを。まあ、全てAIに管理させていたから暴走してデスゲームが起こったんだろうけど。

 プロト社のシステムをそのまま受け継いでいるのならば、アリスを使っているのも納得できる。前回のことがあったから今回はデスゲームが起きないようになんらかの対策が練られているのだろう。詳しくは知らない。


 そんなことを考えながら、キーボードを打つ。


『司 様ですね。では、キャラの設定へ移ります』


 目の前に自分と同じ姿のホログラムが映し出される。これからこれをいじるのか。そういえば、佐藤課長からあまりいじりすぎないようにと言われていたな。いじりすぎて自分の姿と隔絶すると、どこか違和感が発生するとも言われていた。

 いじるの面倒くさいし、このままでいっか。


『現実の姿と全く同じ姿に設定しました。次に、スキルの選択に移ります』


「うわ……これはまた」


 思わずそう言ってしまうほど、無数のスキルが目の前に映し出された。

 事前に調べた情報によると、スキル選択も他のゲームとは違っているらしい。例えば、【盾】スキルを取得したとする。スキルLVが上昇すれば大盾を装備できる他のゲームに対し、このゲームは【盾】とは別に【大盾】を取得しなければ大盾を装備することができない。両手剣も同じように【片手剣】とは別に【両手剣】を取得しなければ装備することはできないのだ。

 

 


 予め決めてあったからいいものの、決めてなければ多大な時間を使わなければいけなかったんだろうな。

 そう思いながら、俺はウィンドウを操作して【アクティブスキル】に【大盾】【片手剣】。【パッシヴスキル】に【筋力上昇】【装備重量軽減】を選択する。そして、所持スキルポイント50を【筋力上昇】に30、【装備重量軽減】に5振り分け、【大盾】に5振り分けた。そして、万が一失敗したときのために10残す。

 ちなみに【スキル】は【アクティブスキル】と【パッシヴスキル】合わせて10個取得できる。



【プレイヤー名】司

【種族】ヒューマン

【LV】1

【スキルEXPゲージ】0/10

【所持スキルポイント】50>10

【HP】215/215

【MP】0/0

【AP】60/60


【アクティブスキル】

【片手剣】LV1

【大盾】LV1>LV5


【バッシヴスキル】

【筋力上昇】LV1>LV30

【装備重量軽減】LV1>LV4


【装備】

頭:無し

胴:冒険者の服

脚:冒険者のズボン

足:冒険者の靴

籠手:冒険者の手袋

右手:石の剣

左手:木の大盾


 うんまあ、初期としてはこんなものか。ステータスにもまた他のゲームとは違った点があり、【魔法】を使うと【MP】を消費し、<アーツ>を使うと【AP】を消費する。そういった風に分けられているため、わかりやすい。

 ちなみになぜ【アクティブスキル】にあまり振らなかったというと、他のプレイヤーとは違ったプレイをしてみたかったからだ。

 何か不備がないか確認し、適用する。


『それでは、〈Arts Magic Online〉の世界をお楽しみください』


 そう声が聞こえ、徐々に意識が薄れていった。


 薄れていた意識が徐々に戻ってくる。爽やかな風が頬を撫で、そして、俺は目を開けた。


「お、おおっ、おおお!」


 目を開けた瞬間、自然と口から感嘆の声が零れた。眼前には中世時代の街並みが広がっていた。後ろを振り返ると、巨大な噴水が。 噴水からは水が高々と噴き出し、そして降り注ぐ。水の雫が太陽の光に反射してキラキラと輝いていた。しばらく見とれていたが、ハッとして辺りを見回す。どうやら俺は円形の噴水広場の噴水の前に立っていたらしい。

 目の前には他のプレイヤー達がパーティを募集していたり、露店を開いて高らかと声を張り上げていたりしていた。

 その賑やかさに少し圧倒されながら、一際大きな通りに目を向ける。


『始まりの街〈ルッセンベルク〉へようこそ!』


 大通りと見られるその通りには、そう書かれたアーチが端から端まで掛けられていた。

 メニューを開いて持ち物を確認する。

 インベントリには、初級HPポーションと初級MPと初級SPポーションがそれぞれ10個ずつ入っていた。始めにポーションを買わなくて済むのは大きい。ついでに所持金も確認する。3000Gか。よく考えて使わないとな。


「キャーッ!」


 メニューを開いて所持金などを確認していると、横から少女の叫び声が聞こえた。顔を向けて瞠目する。


「やめてください!」


「うるせえよ! てめえがいなくなったらうちのパーティはどうなるんだよ!」


 女子高校生と思われる少女が四人の男に取り囲まれ、そのうちの一人に腕を掴まれていたのだ。


「いたらいたで難癖ばかり付けるじゃないですか! だったら私は抜けます!」


「それはてめえがなにもしなかったからだろうが!」


「今のスキルレベルでは一度に回復できる人数は二人が限界なんですよ! 三人は無理なんです!」


「ごちゃごちゃ言ってねぇでやればいいんだよ! 俺が死に戻りしちまったじゃねえか! どうしてくれんだよ今で溜めたスキルEXPをよ! いいから来い!」


「いやぁ!」


 ふむ……つまり少女と四人の男はパーティを組んでいて、少女は回復役。そして、少女のスキルレベルでは一度に回復できる人数は二人が限界なのにも関わらず、三人目まで手が回らず死に戻りした男が無理を言って難癖を付けている。ということか。

 周りを見てみると、あれだけ騒がしかったのが一気に静まり返り、プレイヤー達が少女と男達を中心に円形状に集まっていた。

 しかし、誰一人として助けようと動くプレイヤーはおらず、ただ見ているだけだった。


「…………」


 少しの思案のあと、俺は輪へと歩き出す。別に誰も助けないなら自分が、と思ったわけでもないし、少女を助けるようと動くわけでもない。 

 正直そういう青臭いのは子供に任せておけばいい。

 俺はただ無理を言って難癖を付けている男達にムカついただけだ。


 輪を掻き分けて中心へとたどり着くと、その頃には男達の視線が俺に集まっていた。野郎の視線を集めても嬉しくもなんともないがな。


「なんだよおっさん」


「お前ら、自分で言ってて恥ずかしくないか? 聞いてる方としては恥ずかしいんだが」


「あぁあ!? おっさんには関係ないだろ!」


「はぁ…………」


 これだからこういうタイプの人間は。やれ関係ないだの、やれうるさいだのばかり。関係ないからといって口出ししてはいけないなんて決められてないだろうに。確かに状況も分からずただ感情だけで口出しするのは、余計に場をややこしくするだけだから慎んだ方がいいと思うがな。


「聞いている限りじゃ少女の方に正当性があると思うが?」


「さっきから大人しく聞いてれば初心者が調子に乗りやがって! そこまで言うんだったら<決闘>で話をつけようじゃねえか!」


<決闘>。確か街の中やセーフティエリアで戦いを起こすために作られたシステム、だったか?モードは<一撃決着>と<HP全損>の二つがあったはずだ。

 <決闘>で白黒つけようとか、そんな単純な話じゃないだろうに。まあ、こういう輩は1回黙らせるに限るな。


『プレイヤー<山田>から<決闘>・モード<HP全損>が申し込まれています。受けますか? y/n』


 寄りにもよって<HP全損>とか、馬鹿にもほどがある。まあ、その方が言い訳の仕様も無いか。


「まあ待てよ」


 yを押そうとした瞬間、その声と共に手を誰かに掴まれた。顔を向けてギョッとする。ゆうに2mはあるかという巨体に、隆起した筋肉と浅黒い肌。身に纏っているのは軽鎧だが、背中には背丈ほどもある大斧を背負っていた。

 ここまで筋肉と身長があり、それでも違和感がないということは、恐らくいじっていない。それに加えて浅黒い肌。

 そう、外国人である。


「<豪鬼>ガンツ……なんでここに」


 少女の手を掴んでいた男は、手を離し、ガンツと呼ばれた男を呆然と見つめる。

 大男は、そんな男を冷たい目で見下ろした。


「で? まだ何か言いたいことでもあるのか?」


 「「「ひ、ひぃぃぃ」」」


 地の底から聞こえてきたかのような低く冷たい声。少女を取り囲んでいた男達は這い這いの態勢で逃げ出していった。


「おうお前、なかなか肝が据わってんじゃねえか」


 男達が逃げ出していった姿をひとしきり笑った大男は、俺に顔を向けてそう言った。自分の中で素から敬語へと切り替える。


「助けていただいてありがとうございました。私だけでは危うかったので安心しました」


「そうか? 全然そんな風には見えなかったけどな。遅くなったが俺はガンツだ。よろしくな」


 そう言ってガンツさんは俺に手を差し出す。


「私は司といいます。改めてありがとうございます」


 俺はそう言って手を握った。


「あんちゃん初心者だな? 良ければ俺がいろいろとレクチャーしてやろうか? こう見えても俺は中堅だし、教えられると思うぜ」


 ガンツさんの言葉に俺は少し考え込む。このゲームのことについて調べたとはいえ、まだわからないことの方が多い。しかも、このゲームは超シビアなゲームらしいし、一人でやるよりも誰かに教えてもらったほうがいいか。


「お願いします」


 そう判断し、俺は短く答えた。


「おう、任せとけ」


 同じく短く答えたガンツさんは、俺に待ち合わせの時間と場所だけ伝え、去っていった。その頃には、辺りも騒がしさを取り戻していた。


「あ、あの、助けていただいてありがとうございます」


 ぼんやりと空を眺めている俺に、少女はおずおずと声を掛けてきた。


「ああいえ、実際助けたのはガンツさんですし、厳密にいえば私も助けられた側ですから。お気になさらず」


 自己満足は終わったからそう言って立ち去ろうと一番大きな通りに足を向ける。


「あ、あの! 私はハーティアと言います! 良ければお礼をさせてください!」


 二歩ほど歩き出した時に後ろから少女の声が聞こえ、足を止めて振り返る。

 ハーティアと名乗った少女は、日本人らしい艶やかな黒髪を腰まで伸ばし、魔術師らしいローブを身に纏っていた。


「私は司といいます。お礼なんていいですよ。先程も言いましたが私も助けられた側ですしね」


「それでも、お礼をしたいんです」


 尚も食い下がるハーティアに、俺は内心困っていた。お礼をしてもらって悪い気はしないけど、俺も助けられた側だしなぁ。まあ、無下するわけにもいかないし、もらえるものはもらっておくか。


「待ち合わせがあるのでそんなに長くは

付き合えないですが、よろしいですか?」


「あ、はい!」


 そう言ってハーティアは満面の笑みを浮かべた。


「こっちです」


「え、ええ」


 そのままハーティアは俺の手を引いて歩き出す。足の向ける先は俺が行こうとしてた大通り。ハーティアは先程とは別の意味で周りの視線を集めていることに気づいていないようだった。

 もし気づいていたなら顔を赤くしていたことだろう。


「ここです」


 ハーティアが立ち止まったのは、大通りに面したとあるカフェだった。窓から中の様子が伺える。店の中に設置されているテーブルや椅子はほぼ埋まっており、中のプレイヤー達も楽しく談笑していた。

 街の外ではあんなに激しい戦闘が繰り広げられているのに、ここのカフェではみんな和んでいるんだな。それもそうか……いくら超シビアなゲームと言っても、いつも殺伐としていたんじゃ神経が擦り切れるか。


「司さん?」


「え? ああ、すみません」


 窓からハーティアに視線を移すと、心配そうに俺を見ていた。どうやらハーティアをそっちのけにしていたらしい。謝罪をし、カフェへと入っていくハーティアの後に続いた。


「いらっしゃいませ。二名様ですか? 御案内致します」


 カフェの中に入ると制服を着たNPCが出迎えた。人数を確認し、NPCはハーティアと俺を連れて空いている席へと案内する。

 案内された席に座った瞬間、目の前にホログラムウィンドウが表示された。

 ホログラムウィンドウには様々な料理や飲み物が載っていた。

 

「それでは、ご注文がお決まりになりましたら、そちらのベルを鳴らしてお呼びください」


 NPCはそれだけ言うと一礼し、定位置である隅に戻っていった。

 それを見届けて、向かいに座っているハーティアに視線を向ける。


「ああ、大丈夫ですよ。ここは私が持ちますからっ」


 どうやら支払いのことを気にしていると思われたらしい。苦笑しながら礼を言った。

 それから、目の前に表示されているホログラムウィンドウに目を向ける。

 あまり高いのを頼むのも悪いし、コーヒーでいいか。


「決まりましたか?」


「ええ。コーヒーにしました」


 視線を感じてふと顔を上げると、ハーティアがこちらを見ていた。


「遠慮しなくてもいいんですよ? こう見えても少しはお金に余裕がありますから」


 そうは言うものの、あのパーティじゃそこまで稼げていないだろう。やはりコーヒーにして正解だったようだ。


「いえ、遠慮とかではなく、コーヒーが好きなんですよ。特にブラックのね」


「ほへぇ、大人なんですね。私はブラックがどうしても苦手で」


 本音が混じった社交辞令を言うと、ハーティアはブラックを飲んだ時のことを思い浮かべているのか、苦々しい表情を浮かべた。


「ああ、私には敬語入りませんよっ。年上の方から敬語を使われるとなんかむず痒くて」


「……ああ、わかった」


 少しの思案の後、俺は敬語を取り払い、素の口調でそう返す。ハーティアはどこか照れたような笑みを浮かべた。

 その後ハーティアは手を伸ばしてベルを押し、やってきたNPCに注文する。

 数分後、再び姿を見せたNPCは、テーブルの上に二つのソーサラーを音もなく置いた。

 ハーティアは慣れた手つきてソーサラーからティーカップを持ち上げて口元まて運んでいき、紅茶を飲み下した。

 同じように俺もコーヒーを一口嚥下し、テーブルの上に置く。


「改めてお礼を言わさせてください。助けていただいてありがとうございました」


 ティーカップをテーブルに置いたハーティアは俺の目を見つめ、そう言った。

 正直、助けようと思ったわけではなく、自己満足のために動いたため、ハーティアに対しての罪悪感が少しある。


「まあ、あまり気にしない方がいいよ」


 俺は、本心をひた隠して、困ったように笑いながらそう返した。








 ふと時間を見ると、待ち合わせの十分前だった。だいぶ話し込んでいたようだ。そろそろ時間だということをハーティアに伝え、支払いを済ませて店の外で別れる。

 そして、俺は待ち合わせの場所である門へと足を向けた。


「お待たせしてしまってすみません」


「おう」


 ガンツさんは既に門の前で待っていた。頭を下げ、謝罪の意を示す。ガンツさんは軽く腕を上げて応えた。


「まあ、長ったらしく話すのもあれだし、ちゃっちゃと行こうぜ」


「はい」


 そう言ってガンツさんは巨大な石レンガ造りの門を潜り抜けて街の外へ出る。俺も続いて街の外に出ると、そこには雄大な草原が広がっていた。街を出る際に、ガンツさんは門番のNPCから挨拶されていた。NPCにはパラメーターというものが設置されており、親密になればなるほどパラメーターが上がり、仲が悪くなるほどパラメーターが下がる。そして、ある親密度が一定値に達すると、特殊なイベントが発生したりするのだ。


「さて、司。見えるな? あれが初心者がまず狩るモンスター。〈ラビットラット〉だ」


「〈ラビットラット〉?」


 指を刺された方向を見ると、確かに少し大きなウサギが草を貪り食っていた。目を凝らして見ると、〈ラビットラット〉LV1という表記とHPバーが頭上に現れる。


「もう既に気づいているようだが、レクチャーその1だ。モンスターを少し注視すると、そのモンスターの名前、状態、HPバーが表示される」


 ガンツさんは満足気に頷きながら、そう俺に説明した。そして、しゃがんで小石を拾うと、構えて少し溜めを作る。


「んで、レクチャーその2だ。こうして少し溜めを作ると、〈アシスト〉が発動する。こんな風にな」


 すると、握られた小石が茶色の光を放ち始めた。


「この光が発生したら、正常に〈アシスト〉が発動した証だ。光の色は千差万別。俺のは茶色だが、他の人は赤だったりする。そして、〈アシスト〉が発動すれば、目の前に障害物があったり、防がれない限り必ず命中する」


 そう言って、ガンツさんは軽く小石を〈ラビットラット〉に向かって投げた。軽く投げたとは思えないほどの速度で、茶色の軌跡を空中に描きながら〈ラビットラット〉のお尻に命中した。

 パァンッと乾いた音を響かせて小石は砕け、

〈ラビットラット〉はキュィッと小さく鳴いて、こちらへ体を向けて走り出す。


「ちょ、来てますよ!?」


「大丈夫だ大丈夫。レクチャーその3。スキルLVが一定値に達すると、〈アーツ〉を習得することができる。この〈アーツ〉は〈アシスト〉を発動させた状態で、〈アーツ〉の名前を呟くか、念じると使うことができるんだ」


 そう言い終えた時には、もう既に〈ラビットラット〉は眼前まで迫ってきていた。ガンツさんは背中の大斧を抜くと、〈ラビットラット〉へ走り出す。いやいや大丈夫か!?このウサギ結構な速度あるぞ!?


「こんな、風になァッ!」


────ARTS 《轟旋斧》────


「んなっ!?」


 ガンツさんが〈アシスト〉を発動させたと思った瞬間、物凄い勢いで大斧が振るわれた。大斧が振り抜かれた頃には、ガンツさんを中心として辺りに暴風が吹き荒れた。草花が薙ぎ倒れ、砂埃が巻き上がる。

 暴風の勢いに思わず数歩後退してしまう。目も開けるのもやっとの中、辛うじて見えたのは、〈ラビットラット〉が真一文字に切り裂かれ、ポリゴン片となって砕け散る姿だった。


「で、出鱈目な威力だ」


「はっはっはっはっ!  ちとやり過ぎたな!」


 薙ぎ倒れた草花の中心で豪快に笑うガンツさんに、俺はそう言うのがやっとだった。


「次はお前の番だ、司」


「ええっ!?  私ですか!?」


 いやいや無理無理!  あんなのできないって!


「いや、できるできる。司、お前何か【アクティブスキル】を<アーツ>が覚えるところまでLV上げたりしてるか?」


「えぇ、まあ、上げてますけど」


 嫌そうな声を漏らしながらも、言われた通りスキル欄を確認する。そこには、《シールドバッシュ》が存在していた。


「《シールドバッシュ》がありました」


「てことはあんちゃん、【大盾】を取得したのか。そうか、じゃあ教えとくか。レクチャーその4だ。他人にスキルは教えない、そして聞かない。なぜかわかるか?」


 公式サイトやスレを確認した記憶を頼りに、聞かれた答えを探す。


「完全スキル制であるこのゲームでは、スキルを教えてしまうと、PKのいい鴨になるから。そして、スキル構成を聞いた時点で、PKと間違われて襲われても文句を言えないから、ですか?」


「よく調べてあるんだな。その通りだ」


 PK。プレイヤーキル、又はプレイヤーキラーの略称だ。街の中及びフィールドに設置されているセーフティエリア以外では、他のプレイヤーに攻撃を加えることができるようになっている。無論、パーティを組んでいるプレイヤーには危害を加えることができない。そのシステムを利用して、プレイヤーを攻撃してキルする行為をプレイヤーキル。そして、それを行うプレイヤーのことをプレイヤーキラーと呼んでいるらしい。


「だから、このことはよく覚えておけよ?そして、初心者だからといって街の外に出たときは油断しないことだ。いいな?」


「はい」


 肝に銘じながら、俺はガンツさんの言葉に頷いた。


「よしよし、じゃあやってみろ」


 あ、やっぱりやらなきゃダメなのか。

仕方がない。そう思いながら、小石を拾い、見様見真似で構えて溜めを作る。


「蒼白い。ほお、綺麗だな」


 俺の〈アシスト〉が発動した時の光の色は、蒼白かった。そのことに気がつけぬまま、〈ラビットラット〉に向かって小石を投げる。

 ガンツさんの時と同じようにお尻に命中し、こちらに走ってきた。


 かなりの速度で接近する〈ラビットラット〉を冷静に見つめ、思案する。ゲームすらまともにやったことがない俺が、ガンツさんのように〈アーツ〉を〈ラビットラット〉にぶち込むのは難しいだろう。左手には体が半分くらい隠れるほどの〈木の大盾〉がある。まずはそれで〈ラビットラット〉の突進を受け止めてから〈アーツ〉をぶち込もう。


「キュィィ!」


 〈ラビットラット〉が可愛い叫び声をあげながら、俺に向かって跳躍した。その速度は油断出来ないほど速い。

 俺は慌てることなく〈ラビットラット〉の突進を〈木の大盾〉で受け止めた。

 ガツンッ! という鈍い音と共に衝撃が腕に伝わってくる。

  〈木の大盾〉で受け止めたのにも関わらず、HPが1割ほど削られた。


 しかしダメージを受けたのはこちらだけではなかったようで、<ラビットラット>のHPバーを確認すると、二割ほど削られていた。そりゃそうだよな。<ラビットラット>からしてみれば壁にぶつかったようなものだもんな。


 そんなことを考えながら、少し<木の大盾>を引いて、<アシスト>を発動させる。そして、<アーツ>の名前を念じた。


────ARTS 《シールドバッシュ》────


 自分の体が誰かに操られるような奇妙な感覚。どうやら正常に<アーツ>が発動したらしい。

 蒼白い光を纏った<木の大盾>が<ラビットラット>を殴り飛ばした。


「キュィィッ」


 可愛らしい悲鳴を上げながら<ラビットラット>か宙を舞い、地面に落ちる瞬間にポリゴン片となって砕け散った。

 
































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